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山茶花
2026-03-28 12:41:33
4586文字
Public
[シルデュ]サイト限定(健全)
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庇護【220SK048】
何故か守りたい話/重め/4300字程度
※展開の一部に、フォロワーさんのポストされていたアイディアをお借りしています。ありがとうございます。
廊下を歩いてると、突然、上級生に声をかけられた。
「よぉ、問題児コンビの片割れくん。優等生目指してんだって?」
ニヤニヤとした笑いを浮かべながら声をかけてくるソイツに、ああ、またこの手合いか、と適当に流し、相手をしないことにする。
「そうですね。先輩も、僕に絡んでないで勉強した方がいいですよ」
そう言って立ち去ろうとすると、どうやら3年生は僕の態度が癪に障ったようで、いろいろ文句を言い始めた。
「テメェ、調子乗ってんじゃねえぞ! センパイに歯向かうたぁ、どういう躾されてんだ、あ゛あ゛!? ったく、親の顔が見てみたいぜ! きっとろくでもねえんだろうな!!」
皺だらけの枯れたブサイクなオバサンに違いないぜ、と下品な声でギャハハハと笑い立てる上級生に、僕は拳を握りしめる。
「テメェら、今なんつった!?」
大きく拳を振りかぶる。上級生の胸倉を掴み、今にも殴りかかろうとした、その瞬間。
廊下の向こうで、シルバー先輩がこっちを見ているのが見えた。驚いて目を丸くしたその表情に、僕は、気を取られ。
『喧嘩は良くない』
前に言われたその言葉が、頭をよぎるのを感じた。
そうして動きが止まった僕の隙を突き、上級生は僕に殴りかかる。
僕は。
(やべ、避けて
――
……
あ、駄目だ。間に合わねえ)
世界がスローモーションになったような感覚のまま、真正面からその一撃を受け止めた。
「なんだ、もうおしまいかよ! 口ほどにもねえなぁ!」
そんな言葉が、ぐらついて目の回る視界の中、聞こえるような気がした。
*
「デュース!!」
上級生に殴りかかられ、ふらついて倒れ込んだ下級生の元へ急ぐ。駆けつけてすぐに抱き上げようとしたが、その前に、邪魔なものを片付けなくてはならない。
「お、お友達かぁ!?」
ニヤニヤと、下品な笑みを浮かべる上級生に向けて、チッと舌打ちをし。そして。俺にもまとめて殴りかかってこようとする腕を止め、そのまま彼の手首をギリ、と力を込めて握りしめた。
「下賤な真似はやめろ、下衆め。今すぐに此処を立ち去れ。それとも、このまま手首を使えなくなりたいか?」
本気で折ってやろうかと思うほど力を込めると、上級生はそれを振り払おうと手を振る。だが、そう簡単には俺の手は離れない。
……
自分でも、怒りが制御できていないようだ。
「テメッ、調子に
……
ん? お前どっかで、それにその寮章
……
まさかお前、ドラコニアの
……
!!」
「
……
」
黙って睨みつけ、締め付けた痣を残した手首を離してやる。すると、彼は「ふん、構ってられるか!
……
ドラコニアに告げ口すんじゃねえぞ!!」と捨て台詞を吐いて、去っていった。
……
馬鹿馬鹿しい。何故、お前ごときのことをマレウス様に報告する必要があるんだ。本当に愚かな生物め、と溜め息をつき。
それから、すぐに頭を切り替え、デュースの元へしゃがみこむ。
「デュース、大丈夫か?」
「あ、シルバーせんぱい
……
」
助けてくれたんですか? と、デュースはまだぽかんとした表情を浮かべたまま、事情が分からないでいる。
もう大丈夫だ、とデュースの頬に手を伸ばし、指先でそっと撫でた。無粋な輩に狙われた大切な宝物を、愛でるように、慈しむように。
「もう少し、早く気づくことが出来ていれば
……
。本当にすまない」
なんと詫びればいいか、と告げる俺に、デュースは先輩のせいじゃないですよ、むしろありがとうございますと笑った。
「さっき、思わず殴っちまいそうになったんです! 母さんのことまで悪く言われて、カッとなって。
……
でも、先輩のお陰で、手出さずに済みました!! また喧嘩したって知られたら、母さんも悲しんじまうと思ったから
……
。だから、止まれて良かったんです! それで、止まれたのは、前に先輩が『喧嘩は良くない』って教えてくれたときのお陰で! だから、気にしないでください! ありがとうございます!」
デュースは清々しい笑顔でそう告げるが、俺は、感謝の気持ちを述べられても、ちっとも喜べなかった。
……
俺の与えた言葉が原因で、デュースが傷ついてしまう結果になったのだから。
「保健室へ行こう。手当をしなくては」
「えっ、いいですよ! 僕大丈夫です!」
「
……
行くんだ、デュース」
お願いだ、と少し強引にデュースの手を引くと。分かりました、先輩がそこまで言うなら、とデュースは大人しくついてきてくれた。
それから、保健室で殴られた頬を手当し、沁みるなと痛そうに目を細めるデュースのことを、俺は悲しく見つめた。
……
何故、この子が優等生を目指し、一生懸命に頑張るだけで、傷つけられなくてはならない?
高尚とは程遠い、なんて低俗な精神なのだろうか。
デュースの手当てをしながらも、俺の心は、今や、怒りに満ちていた。
「先輩? どうしたんですか、顔怖いですよ?」
「あ、ああ
……
。大丈夫だ。デュース、今日は大変だったな。
……
無理はせず、しっかり休むんだぞ」
そうしてデュースの頬にガーゼを貼ってやり、その日は別れた。
それから。それから俺は、デュースのことを、無意識的にも、意識的にも。いつも、見守るようになった。
たとえば、デュースが教科書を見つめたまま歩いて、案の定、足元が疎かになり、池に落ちそうになっていたら。
すぐに駆け付けて、デュースの腕を引き助けた。
「よそ見するな、危ない!」
「うっ、すいません、気を付けます
……
」
「
……
すまない、声を荒げて。ただ、本当に、お前のことが心配なんだ。分かってくれると、嬉しい」
また、あのときのように、柄の悪い上級生に絡まれそうになっているデュースを廊下の先で見つけたときは、殺気を放ち、ソイツらを睨みつけた。
「お、オイ、もうコイツに構ってないで、行こうぜ! なんかヤベェ感じがする!」
「あ、おいお前ら、待て! どこ行くんだ!!
……
ったく、なんだったんだよアイツら
……
」
そうして、デュースを巻き込む嵐が去ったことを確認して、俺はその場を立ち去っていた。
そしてまた、デュースが陸上部の練習だ、廊下や外を走っていた、そのときにも足が縺れ、転んで怪我をしたのなら。
「また、転んだのか? 擦り傷が増えているな。
……
ほら、絆創膏だ。貼ってやるが、その前に。まずは水魔法で洗おう。沁みるのは我慢しろよ?」
「あ、ありがとうございます
……
。なんか最近、いつもシルバー先輩に貼ってもらっちゃってますね」
「
……
ああ、存分に使ってくれ。お前のために、いつも用意してるんだ。この絆創膏も、消毒液も」
包帯も救急セットもあるぞ。だが、そちらはあまり使わせないでくれよ、できるだけ。と、デュースに告げた。
もう、ここまで来れば俺の言葉に乗せられた真意を汲んでくれるだろうと、願いを込めて。
そんなことをしているうちに、デュースの方も前よりもよく俺に懐いてくれるようになった。
友人のこと、勉強のこと、部活のこと。いろいろなことを話したり、相談してくれるようになった。
俺は、デュースのことを知らないままでいて、何も分からないよりも、たくさんのことを伝えてくれて、頼りにされている方が嬉しいと、それを余すことなく受け入れた。
そんなある日のことだ。デュースが、こんなことを言った。
「あの。今日の相談は、その。ちょっと、いつもとは違って。
……
なんていうか、恋愛相談みたいな、ものなんですけど」
実は僕、好きな人が、できて。と、照れくさそうに、恥ずかしそうに言うデュースに、俺は、嫌だ、という気持ちが湧いた。
そしてその衝動のままに、デュースの身体をぎゅっと抱きしめていた。
「嫌だ。いやだ、デュース。好きなやつなんて、作るな。ほかの人のものになんて、ならないでくれ」
ずっと俺に守られていてくれ、と。そんな我侭を告げると、デュースは、驚いた声で言った。
「えっと、シルバー先輩
……
?」
「
……
デュース」
縋るような俺の声に、デュースは、少しこわごわとささやく。
「
……
もしかして、シルバー先輩。僕のこと、好きでした
……
?」
俺はその言葉に、こう答える。
「そうだと頷けば、お前は、他のやつのものに、ならないでいてくれるのか。危ないことも、しないでくれるのか。怪我、しないでくれるのか。いつも笑顔で、健やかでいてくれるのか」
だったら言う、好きだという言葉を使うことでお前がそうしてくれるなら、何度だって言う、と告げると、デュースは少し、溜め息のような小さな息を吐いた。
「
……
ふはっ。先輩、まだ自分でも分かってないんですね」
「分かって、ない? 何を、だ?」
「ちゃんと、説明します。でも、その前に、まず僕から言わせてください」
デュースは俺の背中に腕を回し、抱きしめ返した俺に向けて言う。
「シルバー先輩。シルバー先輩が僕のこと好きだって言ってくれるなら、他の人のものにはなりませんよ。
……
僕の好きな人って、シルバー先輩のこと、ですから」
俺は、そんなデュースの身体を、さらにぎゅっと強く抱きしめる。縋るように、懇願するように。
「そう、なのか? だったら
……
だったら、デュース。大切にしてくれ、自分のことを。もっと。俺は、お前の無事を、いつでも願っているんだ、だから
……
」
すると、ようやくのことでデュースは俺の言葉に頷いてくれた。
「分かりました、
……
シルバー先輩がそう言うなら、僕も、普段からもっと気を付けることにします! だけど、先輩の方も、代わりにひとつ約束してくれますか?」
「ああ、なんだ? なんでも言ってくれ。俺にできることなら、なんでもする。なんだって叶える」
そう告げると、デュースはそんな大げさなことじゃないですよ、と笑った。そうして、俺に笑顔を向けた。
「先輩。シルバー先輩も、早く僕のこと好きなんだって、ちゃんと自分でも気づいてくださいねっ」
そう言って笑うデュースは、眩しくて。俺にとって、何よりも大切な、大事にすべき宝物のように思えて。
これからは恋人同士として、よろしくお願いします、と告げるデュースの言葉に。
ああ、とだけ頷いた。
デュースとの関係に、恋人同士という名前がついたが、俺は、正直、そんなことは今は別に良かった。
俺たちの関係にその名前がつくことで、デュースが他のやつにとられないでいてくれるなら、俺の想いをいつも忘れないでいてくれるなら、別にそれで良い、と思った。
何故なら、正直、まだ俺の持つこの保護欲のようなもの、これがデュースの言う、恋人や恋愛感情としての「好き」というものなのかは、よく分かっていなかったからだ。
だが、今はそれでもいいと思った。今この瞬間、デュースが笑顔で、無事ならそれでいい。だから今日も、俺は、デュースと己の気持ちに向き合って生きていこうと。今はそう決意を固め、またデュースを守るため、傷ついた身体や心を癒すため。言葉も行動も、心も。絆創膏も、包帯も、消毒液も。何もかもを、彼のために仕込んでいくのだった。
*おしまい
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