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ポほ
2026-03-28 06:04:39
9003文字
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跡取り息子、やめました!?
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デート…の練習!(後編)
りやめ二学期編第11話。
「ドラえもんの映画」は大魔境ではなくワンニャン時空伝を想定して書いてます。
昼食を済ませた二人は、園内をのんびりと歩いて回っていた。
「夏休みに静姉と上野動物園に行ったけど、八木山は上野より人少ねえな。
……
こういう時、オレらの地元って田舎なんだなって思うわ」
「まあ、東京と比べたらそうだろ」
「でもオレはこっちの方がいいな。東京は人多すぎて、歩くだけでも大変だし。オレみたいな背の低い女狙って、ぶつかってくるような輩もいるし」
「え!? 大丈夫だったのか
……
?」
珍しく、真剣な声だった。
「うん。その時は静姉が手を引いてくれたから」
(こいつ小柄だし、今は女だし、ボーッと歩いてそうだし
……
。やり返してこないって思われて、そういう奴らに狙われるのか?)
ヨツダは少し考えてから口を開いた。
「もし、これからもそういうとこに行くんだったらさ
……
絶対一人では行くなよ?」
宗真は思わず笑ってしまう。
「はは、ヨツダが姉ちゃんズみたいなこと言ってて、なんかおかしいな!」
「なんなら、俺でよかったら、どこでも付き合
――
」
「あーあ、もっと背伸びねえかな〜! ついでにムネも大きくなってさ、静姉みたいなモデル体型になりてえな〜」
(
……
聞いてないし)
言いかけた言葉は、すっかりかき消されてしまった。ヨツダは小さくため息をつき、話題を変える。
「
……
じゃ、ホッキョクグマの方行くか。最近生まれたばかりで人気らしいけど、今昼時だから意外と空いてるかも」
「うんっ!」
ホッキョクグマの列は、少し伸びている程度だった。ちょうど昼食を終えた家族連れなどが「穴場かも」と気づき、ちらほら並び始めている頃だった。
「おーい、こっちこっち!」
宗真は無意識のうちに、ヨツダの手を引いた。
「ちょ
……
!?」
(急に手繋いでくるんじゃねえよ)
「ほら、まだそんな混まないうちに並べたろ?オレのお陰!」
ドヤ顔で胸を張る。
「はいはい、ありがとうありがとう」
「な、流すなよ〜!」
やがて二人はホッキョクグマの展示の前にたどり着いた。最近双子の赤ちゃんが生まれたばかりで、今の園内では一番の人気スポットになっている。
「おーっ! シロクマかわいいなっ! ぬいぐるみみたいでさ!」
(動物園なんて久々に来たけど
……
やっぱいいもんだな)
「なあ、シロクマってかわいいよな?」
「ああ
……
」
「ペンギンもかわいいよな〜」
「うん」
「じゃあオレもかわいいよな?」
「ああ、かわ
――
って流れで言わせようとするなよ」
「ちっ、バレた
……
」
「
……
なんでそんな言わせようとすんだよ」
宗真は少しだけ視線を逸らした。
「
……
だってお前だけ、オレのことあんまり褒めてくんないんだもん。海成はいっつも可愛いって言ってくれるし、嵐士ですらオレが可愛いことは認めてるっぽいし?まあ、お前にとっては昔のオレなんだろうけどさ
……
」
「か
……
可愛くないとも言ってないだろ」
そう返すのが精一杯だった。
「へ? じゃあ多少は認めてるってこと?」
(やめろよ。それを認めたら
……
なんかもう、戻れない気がするんだよ)
「まあ、オレ相手に可愛いって言えないようじゃ、この堅物野郎が本命ちゃんを落とせるわけ
――
」
「
……
お前“だから”簡単に言えないんだよ」
「え
……
?」
思わず本音がこぼれかけたが、ヨツダはすぐに言葉を引き戻した。
「
……
って言ったら、どうする?」
「い、いきなりどうしたんだよ? 杏奈さんのドッキリの真似かよ?吉田家ってドッキリ大好き一族なのか?」
「そ、そうかもな? 杏奈ちゃんの影響かもな」
珍しく少し慌てた様子でそう言うと、ヨツダはとりあえずその場を離れ、近くの別の展示へと移動した。
ホッキョクグマの展示のそばにある、フクロウのコーナー。静かな檻の中で、フクロウが羽を広げては短い距離を飛び移っている。ヨツダはそれを眺めながら、ぼんやりと考え事をしていた。
(
……
こいつが最初から女子だったら、もっと素直に褒められんのにな)
しかし、すぐにその考えを自分で打ち消す。
(でも最初から女だったら、そもそもここまで仲良くなってないだろうし。逆に、ずっと男のままだったとしたら
……
そもそも「可愛い」だのって話にもなってないわけで。まあ、今さら呪いが解けて男に戻ったとしても、こいつ相手にソワソワすることには変わらないんだろうけど
……
)
その時、フクロウが羽ばたいて別の止まり木へ飛び移った。子どもたちが「わあっ!」と声を上げる。その中に混ざって、宗真の声も聞こえる。
「おー! 今の見た!? すげえ!」
はしゃぐ声を聞きながら、ヨツダはふっと息をついた。
(俺って
……
こいつとどうなりたいんだろう
……
)
「
……
なあ。今日のデートって、お前の中で何点ぐらい?」
「そうだなー。ケンカしたけど仲直りしたから
……
間を取って50点って感じか?」
(案外低いな
……
)
「あ! でもピザ美味かったし、シロクマも可愛かったから
……
95点ぐらいかな」
(
……
急に跳ね上がった)
「あと5点はなんだよ」
「あとはアイスとか
……
なんか甘い物食べたら満点!」
屈託のない笑顔でそう言う。
「そういえば、さっきピザ食べたとこのメニューにパフェあったけど
……
それでもいいか?」
「え、マジ?」
「まあ、カップル限定の立派なやつじゃないとは思うけど」
「いい、いい! 腹に入れば同じだしっ! てか、あそこにパフェあったなんて気づかなかったなー。よく見てたな! さすがカレシになろうとしてる奴は違うなぁ」
「そ、そう
……
だな
……
」
……
宗真の口から「彼氏」という言葉が出るたびに、心臓が跳ねるのを止められない。
(でも
……
女の時のこいつと付き合いたいかって言われると、なんかそういうんじゃない気もするし
……
海成は本気でそう思ってそうだけど)
それでも。
宗真の隣に、他の誰かがいるところは想像できない。そして、自分の隣に、別の女の子がいるところも。
(
……
今はまだ、そうとしか言えない)
ヨツダは小さく息をつき、宗真の方を見た。
「よーし、じゃあパフェ食いに戻るぞ!」
そう言って、宗真はまた元気よく歩き出した。
そう考えていると、ヨツダはふと宗真の気持ちを確かめたくなった。
「お前はさ
……
好きなヤツ、いる?」
「い
……
いる、けど
……
」
(新倉さん
……
)
「その人って、女子
……
だよな?」
「うん。他の奴には言うなよ!」
(まあ、そうだよな
……
)
「言わねえよ。櫻井とか、藤枝あたり?」
「ま、まさか!あいつらは友達だし、そんな目で見たことねぇよ!お前にとってのオレみたいなもんじゃん?」
「
……
そう、だな」
(なんでここで否定できないんだ、俺は
……
)
「オレのこと助けてくれる、あったかい子なんだ。
……
でも多分、脈なしだろうなぁ」
「なんで?」
「だってオレが男に戻るのって、基本的に新月の時だけだろ?新月って月に一回だから、年に十二回しか戻ることないじゃん?だからさ、男として話すチャンスなんて全然ないんだよ」
宗真は肩をすくめて笑った。
「それに宿泊学習の時、その子に『月城って昔飼ってたネコに似てる』って言われてさ。もう男として見られてないの確定っていうか
……
切ない片思いだよ、ほんと」
「なあ」
少し間を置いてから、ヨツダが口を開く。
「その人に近づくのって、男の時じゃないとダメなのか?」
「え?」
思いがけない言葉に、宗真は目を丸くした。
「いや
……
だってさ。お前、女の時にもその人と普通に話せてるんだろ?宿泊学習の時は風呂の時に戻ったって言ってたけど、それ以外はずっと女だったろ」
「うん
……
」
「じゃあ別に、男の時にこだわらなくてもいいんじゃねえの?」
「いやいやいや、よくないだろ!」
宗真は慌てて手を振った。
「だって今のオレ、どう見ても女子じゃん!女友達として仲良くなったのに、そこから男に戻って『実は異性として惚れてましたー』とか言ったら絶対引かれるだろ!?こういうの、ぬいぐるみなんとか現象って聞いたことあるし
……
」
「
……
そうか?」
「そうだよ。オレだって逆の立場だったらビビるし」
「ふーん
……
」
(俺は別にビビってないけどな)
「それにさ。こんなんでも男のプライドがあるっていうか
……
あの子にはちゃんと男として好きになってほしいんだよ。女子のオレじゃなくて、月城宗真っていう“男”をさ」
少し照れくさそうに笑う。
「まあ、可能性低いけどな!」
「
……
」
(こいつは、あくまでも“男として”好きになってほしいのか)
胸の奥が、少しだけ重くなる。
「
……
じゃあさ」
「ん?」
「もし、その人が
……
いや、誰かがさ」
一瞬、言葉を選ぶように間が空く。
「男のお前だけじゃなくて、今のお前も含めて好きだって言ったら
……
どうする?」
「え?」
宗真は一瞬きょとんとして、それからケラケラ笑った。
「そんな奴いねーって!」
「
……
」
「だって変だろ?男のオレと、女のオレ、両方好きとか。女の方だったらまあ分かるけど?かわいーし!」
(いるんだよな、それが)
「まあ、でもさ」
宗真は少し空を見上げて言った。
「もしそう思っててくれるなら
……
めちゃくちゃ嬉しいかもな」
「
……
」
(やめろよ。そんなこと言われたら、余計に
——
)
「
……
ん? ヨツダ?」
「いや、なんでもねえ」
ヨツダはふいっと視線を逸らした。
「ほら、パフェ食いに戻るんだろ」
「あ、そうだった!」
宗真はさっきまでの空気など忘れたように、ぱっと表情を明るくする。
「よし、急ごうぜ! 売り切れたら困るし!」
「はいはい
……
」
その後ろ姿を見ながら、ヨツダは小さく息をついた。
(この流れで言えるわけねえだろ。今のお前も、男の時のお前も。今更分けて考えられない
……
なんてさ)
そして二人は先程のレストランに戻ってきた。ピークタイムを過ぎていたため、二人は余裕で空いている席に座ることができた。
しばらくして、注文した「ウサギのパフェ」が運ばれてくる。イチゴとバニラソフトの上にラズベリー風味のソースがかかり、さらにてっぺんにはウサギの形のクッキーがちょこんと乗っている。
「おーっ!美味そうっ!」
さっそく食べようとしたが、宗真はふと思い出したようにスマホを取り出して構えた。
「食い意地張ってるお前にしては珍しいな。食う前に写真撮るなんて」
「映えがどうとか言って、女子ってこういうの好きだからな。姉ちゃんズとかちなゆき辺りに教えたら喜ぶかなって」
(長いこと女でいるからなのか
……
感性もちょっと女っぽくなってるとこ、あるよな)
それが喜ばしいことなのか、そうでないのかは、ヨツダ自身にもよく分からなかった。
「一口いる?」
「いや、別にいいけど
……
」
「いいじゃん、まだスプーン使ってないんだし。こんな美少女から『あーん』してもらえるなんて滅多にねえだろ?ほら、あーん♡」
(おい、何してきてんだよ
……
!)
明らかに悪ノリだとは分かっている。だが
――
ここで口を開いてしまえば、何かが決定的に変わってしまうような気がした。
(た、食べるしかないのか
……
?)
ヨツダは少し躊躇ったあと、観念したように口を開けた。
「
……
あー」
「はいどーぞ!」
差し出されたスプーンを、ヨツダは渋々口に運ぶ。
「
……
」
「どう?美味い?」
「
……
普通に美味い」
「そっか!」
満足そうに笑いながら、自分でも一口すくって食べる。
「ん〜、やっぱ甘いもん最高だな!」
(なんで俺、普通に食ってんだ
……
)
周りには家族連れやカップルもちらほらいる。その中で、さっきの光景はどう見えていたのか。ヨツダは、なんとなく周囲を見回した。
(
……
どう見てもカップルだろ、今の)
「なーにキョロキョロしてんだ?」
「
……
いや、別に」
「変なやつ」
宗真は呑気に笑いながら、楽しそうにパフェを食べ続けていた。
(
……
こいつ。本当に、何も分かってないんだろうな)
そう思いながらも、ヨツダの胸の鼓動は、さっきからずっと落ち着く気配がなかった。
(ていうか、俺が使ったスプーン、そのまま使ってんじゃねえよ。そういうのって、間接
……
)
そこまで考えて、ヨツダは慌てて思考を止めた。
「ん?どうしたんだよ、そんな顔して」
「
……
なんでもない」
「変なやつだな」
宗真は気にする様子もなく、さっきヨツダに差し出したのと同じスプーンでパフェをすくい、そのまま口に運び、もぐもぐと幸せそうに食べ続けている。
「やっぱ甘いもんって正義だよなー。今日ここ来てよかったわ」
「
……
そうか」
「ピザもうまかったし、シロクマも見れたし、パフェも食えて5点プラスでさ。結果的には満点デートじゃね?」
そう言って笑う宗真を見て、ヨツダは小さく息をついた。
(
……
ほんと、ずるいよな)
こいつは何も考えていない。少なくとも、自分がこんなふうに振り回されていることなんて、きっと気づいていない。
それなのに
――
(なんで俺ばっか、こんな
……
)
そう思うと、自分ばかり意識しているのもどこか馬鹿らしくなってきて。
「ん?ヨツダ、もっと食いたかった?」
「
……
少しもらう」
「ふーん、珍しいじゃん。甘いの普段あんま食わないくせに」
宗真はあっさりとパフェのグラスをヨツダの方へ寄せた。ヨツダはスプーンを手に取り、一口だけすくう。
「
……
甘いな」
「パフェだからな、当然だろっ」
「
……
それだけじゃねえよ」
「?」
二人の間に、さっきまでのぎこちなさとは違う、どこか落ち着いた空気が流れていた。
(
……
まあ。こういうのも、悪くないか)
「ま、とりあえず今日みたいなデートしたらさ、まあまあいい線いくんじゃね? 女歴8ヶ月ぐらいのオレが保証する!」
「なんか信用していいのか悪いのか微妙な肩書きだな
……
」
「にしても、ヨツダに好きな女子か〜。オレも新倉さんと動物園デートとか憧れるな
……
」
「えっ、『新倉さん』?」
(確か宗真と同じ三組の女子
……
だよな)
「し、しまっ
……
!?」
うっかり口を滑らせてしまったが、もう今さら止められなかった。さっきまでの余裕はどこへやら、宗真は一気に慌てだす。
「ぜ、絶対ほかのヤツには言うなよ! 特に嵐士とか。な!」
「
……
ああ、言わねえよ」
(じゃあ俺が仮に、本気でこいつのこと好きだって今伝えたとしても
……
)
「
……
な、なんだよ。変な顔して」
「別に」
「疑ってるだろ? オレの恋バナなんて嘘だって思ってるだろ?」
「いや、別に疑ってねえよ」
「ほんとかよ
……
」
宗真はまだ落ち着かない様子で、パフェのグラスをぐるぐるとかき回す。
「ていうかさ、オレこういう話するの初めてなんだよ。ちなつとかゆきにもまだ言ってないし」
「なんで俺には言ったんだよ」
「言ったんじゃねーよ、うっかり出たんだよ!」
「同じだろ」
「全然違う!」
宗真は頬を少し赤くしながら言い返した。
「
……
まあでも、ヨツダならいいかなって思ったのかもな」
「なんだそれ」
「お前、口堅いし。変にからかったりもしないし」
「
……
」
「だからさ、その
……
応援とかしてくれてもいいんだぜ?」
軽い調子で言ったつもりだったのだろう。だがその言葉を聞いた瞬間、ヨツダの胸の奥が小さく軋んだ。
(応援、ね
……
)
「
……
ああ」
少しだけ間を置いてから、そう答えた。
「まあ、うまくいくといいな」
「えー、なんか他人事っぽ!でもさー、まず男の時に話すチャンス作らなきゃだよなぁ
……
」
宗真は真剣に作戦を考え始めている。その様子を見ながら、ヨツダはぼんやりと思った。
(
……
俺、何やってんだろう)
……
一方その頃。
宗真とヨツダのデートは「見たいけど見たくない」と言い出した海成の希望を汲み、嵐士と海成は八木山ベニーランドへ移動していた。そして二人は、半ばヤケクソのようにアトラクションを楽しんで回っていた。
「この『エアロ5』って、日本一遅いジェットコースターなんやって。これなら絶叫系苦手な江沼くんでも楽しめるかもな?」
「じゃあそんなに怖くないのか、な
……
って、わああ!?」
……
「日本一遅い」とはいえ、決してのんびりしたアトラクションではない。それにコースにはカーブが多く、そのたびに遠心力で体が大きく振られる。
「うわああああっ!!」
(江沼くんにはまだ早かったか
……
)
レールに吊り下げられたゴンドラがガタンガタンと音を立てながら走り抜ける。
「ちょ、ちょっと待ってこれ思ったより怖いって!!」
「まだ半分も来てへんで?」
「うそでしょおおお!?」
ようやくゴンドラが二周して停止すると、海成はぐったりとシートに沈み込んだ。
「はあ
……
はあ
……
し、死ぬかと思った
……
」
「大げさやなあ」
係員に促されて降りながら、海成はまだ足元をふらつかせている。
「ほな次どうする? 観覧車でも乗る?」
「君と二人では乗りたくないよ
……
」
海成はそう言いながら、ふとスマホを取り出し、メッセージ画面を開く。
(
……
今ごろ、どうなってるんだろう)
宗真とヨツダのトーク画面が目に入る。
(仲直り、ちゃんとできたかな
……
)
「江沼くん?」
「あ、ごめん。なんでもない」
海成はスマホをしまい、少しだけ苦笑した。
「
……
まあ、あの二人なら大丈夫だよね」
「今日に関してはな」
嵐士はそう答えながら、どこか意味ありげに笑った。
「むしろ、問題はこれからかもしれんけど」
「え?」
「いや、なんでもないわ。ほな次、あっちのアトラクション行こか」
「今度は絶対怖くないやつにしてよ!?」
……
男二人ながらそこそこ楽しい時間を過ごしているのだった。
動物園から帰る電車の中。一日歩き回って疲れたのか、宗真は隣に座るヨツダの肩にもたれかかり、そのまま眠り始めてしまった。相変わらず、シャンプーのいい匂いがする。
(しょうがねえな
……
)
そういえば、宿泊学習のときも同じようなことがあった。あのときは海成が、こんなふうにもたれかかって眠っていた。
(
……
俺ってそういう星の下に生まれてんのか?)
ふと、もう一つの記憶が浮かぶ。小六の頃。お別れ遠足で遊園地に行った帰りのバスの中だった。車内では、自分たちが生まれるよりはるか前に公開されたドラえもんの映画のDVDが流されていた。
「絶対最後まで見る」と豪語していた宗真は
――
わずか十分ほどで、ヨツダの隣にもたれるようにして眠ってしまった。
何度引き離しても、不思議とまたこちらの肩へ倒れてくる。結局ヨツダは諦めて、宗真の分まで集中して映画を見ていた。
……
だが、映画が終わるよりも先に遠足バスが学校へ着いてしまい、結末がどうなったのかは分からないままだった。
宗真からも、寝てしまったせいか内容について聞かれることはなく。そのまま記憶の彼方に消えていった。
――
そんな、なんてことのない思い出。
肩にもたれた宗真の寝顔を、ちらりと横目で見る。
(昔から、変わってねえな
……
)
電車は静かな揺れを続けながら、夕方の街を走っていった。
「そろそろ駅、着くぞ」
そう言って、肩にもたれて眠っている宗真を軽く揺すった。
「ん、んー
……
ありがと
……
」
眠そうに目をこすりながら顔を上げる。その寝ぼけた表情は、去年の遠足のときに起こした時とまったく同じで
――
「
……
かわ、いいな
……
」
思わず、小声が漏れてしまった。
「仙台、仙台。お忘れ物、落とし物のないようご注意ください。出口は右側です」
(やば、声に出て
……
!?)
心臓が一気に跳ねる。だが、車内アナウンスの声にかき消されていた。それに宗真も、まだ寝ぼけているのか聞いていない様子だった。
「んー
……
乗り換えか
……
」
大きく欠伸をする。
……
どうやら、気づかれてはいないらしい。
(良かった
……
)
胸の奥で小さく安堵しながら、ヨツダは立ち上がる準備をした。
駅から出ると、夕方の空気は少しひんやりしていた。人の流れに紛れながら、二人はバス乗り場へ向かう。ちょうど来ていたバスに乗り込み、後ろの方の席に並んで座った。
発車のブザーが鳴り、バスはゆっくりと駅前を離れていく。窓の外では、街の灯りがぽつぽつと点き始めていた。
「
……
今日、楽しかったな」
ぽつりと、宗真が言う。
「急にどうした」
「いや、なんとなく。海成と嵐士とも遊べたし
……
ヨツダともケンカしたけど仲直りできたし、色々回れたし」
少しだけ照れくさそうに笑う。ヨツダは窓の外に視線を向けたまま、短く答えた。
「
……
そりゃよかったな」
バスがカーブを曲がる。その拍子に、宗真の肩がまた少しだけヨツダの方へ傾いた。
「
……
あ、やべ。まだちょっと眠いかも」
「お前、電車でも寝てただろ
……
」
「ほんとだ。去年の遠足の帰りみたいだな」
その言葉に、ヨツダは一瞬だけ目を見開く。
「ほら、帰りのバスでドラえもんの映画見てたじゃん」
「
……
ああ」
(こいつも覚えてたのか)
「途中で寝ちゃったんだよな、オレ」
「そうだな」
「結局あの映画、最後どうなったんだっけ?あのさ、なんか犬を拾う的な話だと思ったんだけど」
ヨツダは少しだけ間を置いてから、肩をすくめた。
「
……
知らねえよ。学校着く方が先だったからな」
「え、マジかよ」
宗真は少し笑った。
「じゃあ今度、一緒にちゃんと最後まで見ようぜ」
「
……
気が向いたらな」
宗真は「絶対だからな」と言いながら、スマホで映画のタイトルを調べ始める。
「なんていったっけ、サブスクにあるかなー。えーと、『ドラえもん 犬 映画』と
……
あれ、三本ある!?どれだっけなー
……
」
バスは住宅街へと入っていく。街灯がゆっくり後ろへ流れていった。隣では、宗真がまたうとうとし始めている。
(
……
ほんと、昔から変わんねえな)
小さく息をつきながら、ヨツダは窓の外を見た。今日という一日が、また一つ、なんでもない思い出になっていく。
バスは静かに夜の道を進んでいった。
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