ポほ
2026-03-28 05:54:06
7892文字
Public 跡取り息子、やめました!?
 

かぜひいてねんね

りやめ二学期編第9話
ミニストップのフローズンヨーグルト美味しいですよ
といいつつ、一人暮らししてた頃は牧場の朝を冷凍庫で冷やして食べていました…

 十一月。宗真の学校では、風邪が流行っていた。
「なんか、休んでるやつ多いなー」
 宗真が教室を見回すと、
「ちょっと寂しい感じだよね」
 ゆきが小さく頷く。
「部活の子に聞いたけど、他のクラスもそんな感じっぽいよー」
 ちなつが言う。……忘れがちだが、ちなつはバスケ部に所属している。
「へー。もし学級とか学年閉鎖になったら、いっぱい遊べるな!」
 宗真は能天気に笑う。
「自分が健康でいる自信がすごいね……
 ゆきは少し呆れ気味だ。
「次の授業なんだっけ?」
 ちなつが話題を変える。
「社会だよ〜」
 ゆきが答える。
「あ、また資料集忘れたかも! 一組に借りてこないと」
 宗真が慌てて立ち上がる。
「江沼くんかな?」
 ちなつがにやりとする。
「私は吉田くんに借りる方にジュース一本」
 ゆきがさらりと賭けを持ちかける。
「そんな賭けすんなよ……
 そう言いながらも、宗真は一組へ向かった。

「はい、資料集。お前さあ、いい加減忘れ物すんなよな……
 ヨツダが呆れ顔で差し出す。
……といいつつ、頼まれると断れない男、吉田樹なのだった」
……地の文みたいに言うな」
「とにかくありがとな! あれ、そういえば海成いなくね?」
「ああ、今日は風邪で休みなんだって」
「そっか……じゃ、放課後あいつん家にお見舞い行くかな」
「へ?」
「だって海成の家って行ったことないし、せっかくだしさ?確かご両親共働きだし、家で一人で寝てるとかヒマじゃね?」
「いや、治すために寝るんだからヒマとかじゃねえだろ。お前じゃないんだから」
(こいつが行ったら、あいつの場合逆に熱が上がりそうな気も……
「てか風邪ひいてたらアイスとか食べたくなるじゃん! ……ていうかオレも食べたくなってきた!オレの分のアイスも買って海成んちで食べさせてもらおっ」
……趣旨が変わってんじゃん」
「いいだろ別に、オレが勝手に行くだけなんだから……って、お前も行きたかったのか?なんだよ、素直じゃないなぁ?」
(最初から誘われてんのかと思ってた、とは言いづらいけど……海成とこいつを二人きりにさせとくのは、なんか色んな意味で怖いな)
「まあ、クラスでの配布物とか届けてやれるし、今日は部活もないし……俺も行くよ」
「じゃ、決まりだな!」
 海成の家は、学校を挟んで宗真やヨツダの家とは反対側にあった。二人が校門を出たところで、案の定――会いたくない人物と鉢合わせる。
「お、吉田くんに宗真くん。帰る方向逆やんか。これからデートでも行くん?方向的にラウワンか、水族館か……
 嵐士がにやにやと笑う。
「うっせえなぁ!そーだよ!だからオレらの邪魔すんなよな!」
 宗真が即答する。
「おい、んな堂々と……
 ヨツダは小声で制止しかけるが、「嘘をつくな」とまでは言えない。
「面倒臭いからいいんだよ」
 宗真は悪びれもせず言い放つ。
「はいはい、お幸せに〜。あ、これも『かあさん』に報告した方がええ?」
「オレに聞くなよ!」
 ひらひらと手を振り、嵐士は二人とは反対の、いつもの通学路へと消えていった。

……風が冷たい。
 事前に連絡をして、海成の家の住所は教えてもらっている。だが彼の家は学区の隅の方にあり、学校からは徒歩三十分ほどの距離だった。
「さみーな……
 宗真は寒がりで、すでにコートを羽織っている。それでも指先の冷たさまではどうにもならない。
 次の瞬間。いきなり、ヨツダの手をぎゅっと握った。
「ちょ、いきなり何すんだよ!?」
 露骨に動揺するヨツダ。
「いや、あったかいかなって思って……手が冷たい人は心があったかいっていうから。でもお前、手があったかいから心が冷たいんだ」
「それ、言われる側は反応に困るだけだからな?」
 ヨツダは顔をしかめる。
(ていうか、いきなり手握んじゃねえよ。お前、今の見た目考えろよ。男女のカップルにしか見えないだろ……

 冷たい風の中、二人の距離だけが妙に近かった。……が、数歩歩いた後に気恥ずかしくなったのか、どちらともなくすぐに手を離してしまった。
 二人は海成の家の最寄りにあるミニストップへ入った。
「冬はチョコとかバニラ系がいいよなー」
 宗真は真っ先にアイスケースをのぞき込む。
「お前の買い物は後だろ。海成に持ってくものから考えないと」
 ヨツダが冷静にツッコミを入れる。
「つってもオレ、お見舞いって行ったことないしなー。あんま風邪ひいたことないし」
(なんとかは風邪ひかないって……いや、言うのはやめとこう)
 ヨツダは心の中でだけ呟いた。
「食欲あるか分からないから、お粥とか、ゼリーとかがいいんじゃないか?」
「お、この桃のゼリー美味そー!美味しかったらオレも今度買お」
「また自分の買い物になりかけてるし……
「いや、『今度』だって! 今日は海成に持ってくやつだけ……アイスはさ、フローズンヨーグルトとかよくね? なんか健康に良さそう」
……そうか?」
 半信半疑ながらも、梅粥、桃のゼリー飲料、フローズンヨーグルトをカゴに入れていく。
「じゃ、オレの食べるやつも買おうかな〜。やっぱチョコソフトかなっ」
「好きにすればいいけど、ゴミは持ち帰れよ?」
「わかってるって」
 軽口を叩き合いながら店を出ると、空気はさらに冷たくなっていた。

 やがて、海成の家が見えてくる。……イメージと違った。
 昔ながらの団地のような建物。厳密には社宅らしいが、年季の入った外観であることには変わりない。
 二人は思わず足を止める。
(海成って、なんとなくお坊ちゃまのイメージがあったけど……
 ヨツダは意外そうに見上げた。宗真もまた、黙って建物を見つめている。冷たい風が、古びたベランダの物干し竿をきしませていた。

 指定された部屋の前でインターホンを押すと、すぐに海成からメッセージが届いた。
「寒い中ありがとう。鍵開いてるから入っていいよ。僕の部屋は入ってすぐ左」
 二人は顔を見合わせ、そっと玄関を開ける。間取りはそれほど広くはないが、室内はきちんと整えられていた。靴も揃えられ、廊下にも余計なものは置いていない。
(こういう家、初めて来たかも……
 宗真は小さく辺りを見回す。部屋に入ると、海成はちょうど布団から体を起こしたところだった。
「悪い、起こしちゃったか?」
 ヨツダが少し気まずそうに言う。
「いや、宗真くんと樹くんが来てくれるなんて嬉しいよ。むしろ元気が出たぐらいさ」
 顔色は悪いが、笑顔を作る海成。
「これ、お粥とゼリーとアイス。アイスは冷凍庫入れといた方がいいかな」
……うん、入れてくるね」
 海成が立ち上がろうとする。
「おい、立ち上がって大丈夫か?」
「この位大丈夫だよ」
 そう言って一歩踏み出した瞬間、足元がふらついた。立ちくらみらしい。ヨツダがすぐにその細い身体を支える。
(わ……
 宗真は思わず目を見張る。
「やっぱ駄目だろ。しまう場所教えてくれよ」
……ありがとう、樹くん」
 風邪で弱っているせいか、宗真の前にもかかわらず、海成はヨツダに対して意地を張らなかった。
(自分から言い出したとはいえ、よその家の冷蔵庫開けるのって気が引けるよな……
 ヨツダはできるだけ中身を見ないようにしながら、フローズンヨーグルトを冷凍庫にしまう。

 そして部屋に戻ると――宗真はすでにチョコソフトを食べていた。
 海成は再び布団に横になっている。
……お前、くつろぎすぎだろ」
「これ食べたら帰るってー」
「いいんだよ。二人の元気な顔見てたら、僕もちょっと元気出た気がするし」
 海成は穏やかに笑う。その笑顔は少し弱々しくて、部屋の空気が、ほんの少しだけ静かになった。
 
 すると、玄関の方から物音がした。
「ただいまー……あれ、誰か来てるの?」
 海成の母親だった。今日は出張先から直帰させてもらったらしく、普段よりも早い帰宅できたようだ。やがて、海成の部屋の襖がこんこんとノックされる。
「入るわよー」
 襖が開き、母親が顔をのぞかせた。
「あら、海成のお友達?」
 ヨツダがすっと立ち上がり、頭を下げる。ついでに宗真の頭も軽く押さえて下げさせた。
「はい。海成くんと同じクラスの吉田です」
「その友達で、海成……くんとも友達の、三組の月城です!」
 やや言い直しながら宗真も名乗る。
「まあ。海成が学校のお友達をうちに連れてくるなんて……!いつ以来かしら?」
「お、お母さん、やめてよ、友達の前で」
 布団の中から海成が抗議する。
「しかもこんなに可愛い女の子も来てくれるなんてね〜」
「あ、あはは……
(「女の子」か……呪いとか説明するのはやめとこ)
 宗真は曖昧に笑ってやり過ごす。
「そこにいると風邪をうつしちゃうかもしれないから、ちょっとこっちでお茶でも飲んでいかない?外、寒かったでしょう」
 そう言って、母親はにこやかに二人を居間へ案内した。
(ちょ、僕へのお見舞いなのに、お母さん酷い……
 取り残された海成は、布団の中でひそかに肩を落とすのだった。

 古き良き団地の間取り、といった趣の居間。小ぶりなテーブルを囲んで、二人は並んで座っていた。
(前テレビで見た映画の、主人公の家がこんなんだったような……
 宗真の頭に浮かんでいるのは、おそらく「耳をすませば」だろう。
 来客用らしい上品なカップに注がれたアールグレイの紅茶。皿には、近所の洋菓子店のマドレーヌが添えられている。
「ごめんね、手狭で……
 海成の母が少し申し訳なさそうに言う。
「いえ、そんな……
 ヨツダが遠慮がちに答える横で、
「このマドレーヌ美味しいですね!」
 宗真はすでに一口かじっていた。
(手つけるの早ぇな……
 ヨツダは心の中で呟く。
「ふふ、ありがとう。……二人とも、学校から遠いだろうに、わざわざありがとね」
「いえ……
「それに、海成とも仲良くしてくれてありがとう」
 一瞬、母親の声の調子がやわらかく変わった。
……うち、昔から転勤が多くてね。友達ができても、すぐ離ればなれになっちゃって。仙台に来たのも、今年の春だったの」
「そ、そうだったんですか?てっきりずっとこの辺の人なのかと……
 宗真が目を丸くする。
「じゃあ、あの子はあなた達には言ってないのね」
(それで同情されるのが嫌だった……とかか?)
 ヨツダは静かに考える。
「そのうちに、仲良くなってもどうせすぐに離れちゃうからって……自分から友達を作るのも、やめちゃったのか、できなくなっちゃったのか。……きっと両方ね。いつの間にか、本の世界に夢中になっていてね」
 宗真とヨツダは、何も言わずに聞いていた。
「それでも、また吉田くんや月城さんみたいな子と仲良くなれたのは、それだけあの子にとって、あなた達が大切なんでしょうね」
 宗真は少し照れくさくなり、頬をかく。
「あの子、ちょっと人との距離感が難しいところもあるかもしれないけど……良かったら、これからも仲良くしてあげてくれないかな?」
 一瞬、空気が止まる。
「は……はいっ!」
 二人の声が、思ったよりも大きく重なった。紅茶の湯気が、静かに立ちのぼっていた。

 そして、最後に海成に声をかけてから帰ろうと、二人は部屋をのぞいたのだが――海成はすでに眠っていた。
 静かな寝息。額にはまだうっすらと汗がにじんでいる。
……おやすみ。早く学校来いよな」
 宗真は布団のそばにしゃがみ、小さな声でそう告げる。
――返事はない。けれど、海成の表情は少しだけ穏やかに見えた。
 ヨツダがそっと襖を閉め、二人は静かに家を後にした。

……海成の夢の中。
 高熱があると、人は妙に現実味のある、けれどどこか歪んだ夢を見るものだ。
 夢の中では、宗真が――巨大だった。その肩には、吉田樹がちょこんと乗っている。
(いいなぁ、樹くんは特等席で)
 海成は、なぜかそれを少し羨ましく思う。巨大な宗真がしゃがみ込むと、団地の外壁がきしみ、風で窓がカタカタと揺れた。
 宗真は指先で、海成の部屋の窓をトントンと叩く。だが、その拍子にガラスが少しひび割れてしまう。
……あ、わりぃ。力加減ムズいな……
 ぼそっと呟く声さえ、地鳴りのように大きい。海成が恐る恐る窓から顔を出すと――団地は、宗真の巨大なスカートの影にすっぽりと覆われ、昼間なのに夕暮れのように暗くなっていた。
 目の前には、黒いタイツを履いた、すらりと伸びた脚が二本。巨大な柱のように、どっしりと地面に立っている。
……なんだこれ……
 夢のはずなのに、妙に現実味がある。見上げるだけで首が痛くなりそうなほどの距離感。
その圧倒的な存在感に、海成はただ立ち尽くすしかなかった。
 そして、空を覆うほどの大きな手が、海成のいる窓へとゆっくり伸びてきた。
「ほら、学校行こうぜ」
 宗真の声は優しいのに、抗えないほど大きくて――海成は、なぜか胸の奥がぎゅっとなるのを感じた。
 
 宗真は、ゆっくりと立ち上がった。
その動きだけで地面が低く唸り、団地の屋根が一瞬影に沈む。
 身長は、数十メートルをゆうに超えている。
「わっ、高……!?」
 海成は思わず声を上げる。
「はは、ちっちゃいお前らにとっては、景色いいだろ?」
 宗真は得意げに笑う。肩の上でヨツダが、なぜかバランスよく腕を組んで座っている。
 「ふー、にしてもこの辺、道狭いよなあ」
 ぶつぶつ文句を言いながら、宗真は歩き出す。車二台分はありそうな大きな靴が、アスファルトに落ちるたび、街路樹が揺れ、電線がびりびりと震える。
 団地も、コンビニも、公園も、すべてがミニチュアのように足元へと流れていく。
 海成は巨大な手のひらに乗せられたまま、ぐらりと揺れる視界の中で思う。
……宗真くんの手、落ち着くな)
 そして、なぜか胸の奥が、少しだけ熱かった。

 そして、夢の中で、ふっと場面が切り替わる。次の瞬間――海成の布団の中に、もぞもぞと入り込んでくる何かの気配。
……!?」
 慌てて布団をめくると、そこにいたのは――普段の十分の一ほどに小さくなった、制服姿の宗真だった。
「そ、宗真くん? なんでそんなに小さくなって……?」
 問いかけると、宗真は明らかに動揺した様子でこちらを見上げる。
「お、オレにも分かんねえよ……!お前こそ、なんでそんなにでっかくなってんだ!?」
(多分、さっきと逆に、宗真くんが小さくなってるんだと思うけど……
 海成はそう思いながらも、怖がらせないよう、そっと顔を近づけた。自分では控えめにしたつもりでも、宗真からすれば巨大な影が落ちる形になる。
……何か食べる?アイスでいい?」
 宗真は、文字通り“ちいさく”頷いた。ミニ宗真は木製のスプーンを握る。それは彼にとって、ほとんどスコップほどの大きさだ。
 カップアイスを一生懸命すくおうとするが、表面は固く、なかなか歯が立たないらしい。ぐっと力を込めて、体ごと押し込むようにしている。
「食べさせてあげるね」
 海成は自分用のスプーンで、ひと口分をすくう。人間にとってのひと口は、宗真にとってはバケツ一杯分くらいあるかもしれない。
 そっと、口元へ。宗真は少し躊躇したあと、舌でアイスを口に運ぶ。
 その仕草は、どこか小動物のようで――状況はまったく意味が分からないのに、その光景だけが、やけに愛らしかった。
 海成は、そっと指先を伸ばし、ミニ宗真の頭を撫でる。やわらかい髪の感触。
 宗真は一瞬だけ顔を上げ、むっとしたように海成を見た。けれど何も言わず、またアイスを食べ始める。その小さな意地と素直さの混じった仕草が可笑しくて、
 海成は夢の中で、ほんの少しだけ笑った。

 帰り道。
 気づけば、空はすっかり墨を流したような闇に沈んでいた。街灯はあるものの、光は頼りなく、影ばかりが濃い。少なくとも、女子が一人で帰るには、どうにも心許ない。
……ちょっと怖えな。暗すぎて、変なやつがいても分かんねえし)
 そんなことを考えた瞬間だった。気づけば宗真は、隣を歩くヨツダの手を、ぎゅっと握っていた。
……だからお前、そうやってからかうの……
 呆れたような声。けれど振り払われはしない。
「ごめん。そういうんじゃなくて、ちょっと道暗くて、ほんとに怖かったからさ……ダメだった?」
 宗真は視線を逸らしたまま、小さく言う。そのまま数歩歩いたあと、はっとして手を離そうとする。
 が――今度は逆に、ヨツダが握り返した。一瞬だけ、宗真の胸が変に跳ねる。
……しかし、ヨツダはすぐに何事もなかったかのように話題を変えた。
……ここからだと、まだ四十五分はかかるぞ」
 このまま手を繋いで帰る、という選択肢を、あえて口に出さないまま、そっと消すように。少しの沈黙のあと、ヨツダが言った。
……寒いし、バス乗って帰るか」
 宗真は一瞬だけ、その手の温もりを惜しむように感じながら、頷く。
……だな」
 やがて二人は、並んでバス停へと歩き出す。暗い道は相変わらず不安を煽るけれど――さっきよりも、少しだけ、怖くなかった。

 18時。この時間帯、市街地から駅へ向かうバスは思いのほか空いていた。
 車内にはまばらに乗客がいるだけで、二人は自然と最後列に並んで腰を下ろす。エンジンの低い振動と、窓に映る夜の街。
 しばらく黙って外を眺めていた宗真が、ぽつりと言った。
……海成の母ちゃん、綺麗だったな」
「あ、ああ……
 ヨツダは小さく頷く。
「にしても、あいつんち転勤族だったんだな。お母さんは詳しく言ってなかったけど、そのうちまた仙台、出ていったりすんのかな……
 揺れる車内で、言葉だけがやけに静かに響く。
……分かんねえけどさ」
 宗真は背もたれに体重を預け、天井を見上げた。
「あいつとはずっと友達でいれたらいいよな。母ちゃんからも頼まれたし?」
「言われなくても、別に今まで通り仲良くするだけだろ?」
 ヨツダは肩をすくめる。
「お前はそういう奴だし」
「まーなっ。お前もだろ?」
 軽く肘でつつかれ、ヨツダは曖昧に笑う。
(俺たちは……友達だ)
 そうだ、と自分に言い聞かせる。
(でも海成……お前は、宗真のこと、男とか女とか関係なく、本気で好き……なんだよな)
 昼間の様子が脳裏をよぎる。
(お母さんは『距離感が難しい子』って言ってたけど……ほんとは、いつか離れ離れになるかもしれないって、焦ってるんじゃないか?)
 窓に映る分の顔は、思ったより真面目だった。
……なんだよ、急に黙ったりして?」
 宗真が覗き込んでくる。
「かわいいオレに見とれちゃってた?」
「あ、ごめん……ちょっとボーッとしてた」
 ヨツダは視線を戻し、小さく息をつく。
「ふーん?変なの……
……そうだよな。あいつは……友達、だよな」
(俺がちんたらしてたら、そのうちあいつが、宗真と……?)
 胸の奥に、わずかなざわめき。
……いや、今気にすることじゃないか)
 バスは一定のリズムで揺れながら、暗い道を進んでいく。窓の外の光が流れ、やがて住宅街の景色へと変わる。
 宗真たちの家へ向かって、静かに走り続けていた。