
十一月の仙台。東北とはいえ太平洋側に位置するため、平野部の積雪はそこまで多くない。
……が、寒いものは寒い。
そんな日の朝。
「いい加減起きなさいっ!」
布団の中から、くぐもった声。
「
……学校行きたくねえよ。脚寒いもん。防寒の見せパン履いても、結局脚は寒くね?スカートってマジで防御力低すぎ」
「友達はどうしてるの?タイツとか履いてる子、いないの?」
「タイツ??」
静乃は自分用に買っていた新品の黒いタイツを持ってくる。
「まあ、小柄なあんたにはちょっと大きいかもだけど
……こういうやつ」
「あ、ゆきが履いてたかも!そっか、ああいうの履けばいいのか」
「あー、でもこれ40デニールくらいだから、防寒にしては気休めかもね。帰りに60デニール以上のやつ買ってきてあげる」
「でにー
……?ファミレス?」
「
……デニールね。デニーズじゃないから。簡単に言うと、その数字が大きいほど厚手になるの」
「つまりタイツの戦闘力ってこと?」
「まあ、間違ってはいないけど」
静乃は少し思い出したように言う。
「そういえば、あんたの学校ってスカートじゃなくてスラックスも選べるようになったんじゃなかった?確か、響が入学した頃からあったはずだけど。履いてる子いないの?」
「あー
……前に誰かが着てんの見たかもしんない。でもオレは、暖かくてもズボンは嫌なんだ」
「なんで?」
「だって、ズボンは男でも履けるけど、スカートは女しか履けねーじゃん!ジェンダーレスとか言うけどさ、男が履いてたら絶対変態扱いされるし!」
「
……まあ、一理あるけど」
「見せパンは履かなきゃだけどさ、セーラーに合わせるならスカートの方が可愛いし!せっかく女になってんだから」※個人の感想です
静乃は小さく息をつき、タイツを差し出す。
「じゃあ、とりあえずこのタイツあげるから履いてきな。黒なら私服にも合わせやすいし。ほら、さっさと学校行きなさい」
「はーい」
渋々布団から抜け出し、タイツを手に取る宗真。
(寒さガード装備、ってことだよな
……)
十一月の朝は寒い。けれど、少しだけ“女子としての装備欄”が増えた気がした。
そして黒タイツを、冬服の紺のセーラーに合わせてみる。鏡の前に立った宗真は、思わず瞬きをした。
中身はいつもの自分のはずなのに
――黒タイツのおかげか、脚の印象が引き締まり、全体が妙に落ち着いて見える。
「
……これにローファー合わせたら、黙ってれば“いいとこのお嬢さん”っぽく見えるかも」
「マジ!?オレ、お嬢様かあ
……ですわ!」
「なにその語尾」
「お嬢様感出してみた!」
「
……だから『黙ってれば』って言ったでしょ」
「う
……」
静乃は腕を組み、少し観察する。
「うーん。この格好なら、逆にヘアアレンジなしで下ろしておくのがいちばん可愛いかも」
「へー
……そういうもんなんだ」
(タイツ一枚でこんな変わるもん?防御力だけじゃなくて見た目補正も入ってんのか、これ)
ローファーを履き、学校指定のスクールバッグを“前に”提げてみる。なんとなく、その方が清楚な感じがするからだ。
背筋を伸ばし、歩幅を小さめにして、しゃなり、しゃなりと歩いてみる。
(
……よし。今日はお嬢様モード)
そんなふうに気分を作って登校していると
――
「おはよ」
後ろから声が飛んできた。
……ヨツダだった。宗真はゆっくり振り返り、気取った笑みを浮かべる。
「
……ごきげんよう」
「頭打った?
……病院行くか?」
「もーっ!タイツ履いてちょっとお嬢様風にしてたのに、お前のせいで台無し!」
「?????」
状況がまったく飲み込めないヨツダを残し、宗真はぷいっと前を向く。
「もういい!先行くからな!」
小走りで駆けていく黒タイツの背中を、ヨツダはしばらく呆然と見送った。
(
……タイツ履いただけで、そんな人格変わるもんなのか?)
十一月の冷たい朝風の中。防寒装備は、どうやら防御力だけでなく、テンションも上げるらしい。
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