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ポほ
2026-03-28 05:48:08
3472文字
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跡取り息子、やめました!?
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オレ、男の子…なの?
りやめ二学期編第8.5話。
性別逆転パラレル回。日常のおかしさに気づくようで、結局今の日々を受け入れてしまう怖さ。
吉田♀や海成♀はそのうち描きたいと思いつつ描けてない。
嵐士がいないのは宗真がまだ彼に心を開いてないから。
朝。目覚ましが鳴るよりも先に、宗真はぱちりと目を開けた。
――
妙な胸騒ぎがあった。
「
……
は?」
視界に映るのは、見慣れた自室の天井。だが、身体の感覚が
――
違う。布団の中で自分の腕を見下ろす。
「新月でもないのに
……
男かよ!?」
慌てて起き上がり、姿見を確認する。そこに映っているのは、紛れもなく“男の自分”。
「てか静姉! なんで起こしてくれなかったんだよー!?」
廊下に飛び出す。すると、ダイニングの方から低い声が返ってきた。
「わざわざバカな弟のこと、毎朝起こすわけないだろ」
「
……
え?」
振り向いた先に立っていたのは
――
長身。整った顔立ち。だが、あの女性的な身体のラインはなく、背中まであった艶やかな黒髪も、すっきりと短く整えられている。
ブレザー姿の、男子高校生。
「は、はあ!? 静姉
……
じゃなくて静兄!? いつの間に男に
……
てかオレもなんか男に戻ってるし!」
「何言ってんだ。頭でも打ったか? うちは最初から三兄弟だろ」
「
……
え?」
世界が、ぐらりと揺れる。
「そ、そしたら跡継ぎは?」
「響だよ。ほんとに大丈夫か? 一人くらいは女の子が欲しかったらしいけど」
淡々とした口調。そこに違和感は一切ない。“こちらが異常だ”とでも言いたげな、自然さ。宗真の喉がひくりと鳴る。
「
……
オレ、朝ごはんいいや。もう出る!」
「慌ただしいな
……
」
背後から呆れ声が飛ぶが、振り返る余裕はなかった。玄関を飛び出し、冷たい朝の空気を吸い込む。
心臓が早鐘を打つ。
(
……
おかしい。絶対、おかしい)
通学路も、見慣れたはずの街並みも、どこか色合いが違って見える。
そして
――
校門。宗真は、そこで足を止めた。
制服が、違う。学ランを着ているのは女子生徒たち。セーラー服を着ているのは男子生徒たち。当たり前のように談笑し、当たり前のようにすれ違う。
誰一人、違和感を抱いていない。
(
……
そしたら)
胸の奥が、ひやりと冷える。
(ヨツダは?海成は?ちなゆきも
……
?)
自分だけが“元の世界”を覚えているのか。それとも、これはただの夢なのか。ざわめく校舎の中へ足を踏み入れる。
宗真はまだ、答えを知らない。
胸のざわつきを抱えたまま、宗真は一年三組の教室の前で立ち止まる。
深呼吸をひとつ。引き戸に手をかける。がらり、と音を立てて開いた教室は
――
見慣れているはずなのに、どこか決定的に違っていた。
(
……
てことは)
足を踏み入れながら、喉がごくりと鳴る。
(もしかして、新倉さんも
……
?)
「あ、宗真。おはよ」
「はよ」
振り向いた二人は、顔立ちこそ見慣れているが、制服はセーラー服ではなく学ラン。声も少し低い。
「お、おはよ
……
やっぱ、そうだよな
……
」
「何言ってんの、お前?」
「変なのー」
軽い調子も、距離感も、確かに“ちなつとゆき”のそれだ。
(あ
……
なんか二人ともそれっぽい感じ
……
)
性別が変わっても、空気は変わらない。そこに、妙な安心を覚えてしまう自分がいる。
だが
――
(で、新倉さんは!?)
心臓が一段と強く鳴る。ほどなくして、教室の扉が再び開いた。新倉が入ってくる。切り揃えられた前髪はそのまま。やわらかな目元も、穏やかな雰囲気も変わらない。ただ
――
制服は、学ラン。
(
……
新倉さん、やっぱいいな)
思わず見とれる。
(しかも男の子になってたら、付き合え
――
)
そこで、はっとする。
(って、今はオレも男なんだった。なんでそこ噛み合わねえんだよ)
頭が追いつかない。そもそも、仮に自分が女の子の身体だったとしても、付き合える保証なんてどこにもないのに。ひとりで勝手に可能性を計算して、勝手に撃沈しかける。
そんなことを考えているうちに、チャイムが鳴る。机に鞄を置き
――
そこで凍りつく。
(
……
やば)
数学の教科書が、ない。
(忘れた
……
!)
冷や汗が背中を伝う。
(でも、ヨツダか海成に借りれば
――
)
思考が止まる。
(
……
よく考えたら、二人とも女の子か
……
?)
いや、それよりも。
(今は教科書借りるのが最優先だろ!)
世界の法則がひっくり返っていようが、数学の授業は待ってくれない。宗真は慌てて廊下を出た。
この世界での“ヨツダ”と“海成”を探すために。
向かう先は、一年一組。足取りはどこかぎこちない。
(
……
いるよな。さすがに存在ごと消えてるとかはないよな)
教室の前で一瞬ためらい、そっと顔をのぞかせる。
「よ、吉田
……
さん
……
いる?」
自分の口から出た呼び方に、内心で引っかかる。
(
……
なんか、“ヨツダ”って呼びづらい
……
)
教室の奥から、ひとりの女子生徒が振り向く。
「
……
なに? また忘れ物?」
低めでぶっきらぼうな口調。けれど、制服はセーラー服。肩までの髪がさらりと揺れる。
「う
……
うん
……
数学の、さ」
「
……
ちょっと待ってて」
椅子を引く音。宗真は、なるべく一点を凝視しないように気をつけながら、そっと視線を泳がせる。
(
……
こいつ、意外と、女のオレより若干スタイル良いし
……
なんかムカつく)
無意識に比較してしまう自分が悔しい。脚も長い。姿勢もいい。やけに様になっている。
「はい」
差し出された数学の教科書。
「そのうち、借りは返してね」
(
……
しかも、男のオレより背高いんだな
……
)
視線が自然と合う。見下ろされている。
「わ、わかったよ
……
ありがと」
ぎこちなく受け取った、そのとき。
「また吉田さん、宗真くんに貸してあげてるの? 言ってくれたら、私も貸したのに
……
」
振り向けば、もうひとり。柔らかな笑みを浮かべた海成。だが制服はセーラー服で、髪も少し長め。
背は、やはり高い。
(うわ、こいつまで来んのか
……
ていうか、やっぱ背高ぇ
……
)
自然と目線が上下する。
(
……
あ、でもムネは女のオレと同じくらいか?海成って細っこいからな
……
)
自分でも何を観察しているのか分からなくなり、慌てて視線をそらす。世界がひっくり返っても、この二人の距離感は、やっぱり変わらない。
ただ
――
自分だけが、どう接していいのか分からなくなっている。
廊下に流れるざわめきの中、宗真は借りた教科書をぎゅっと抱え直した。
宗真は、廊下のざわめきの中で立ち尽くしていた。目の前には、教科書を差し出したままの吉田と、それを横から覗き込むように立つ海成。二人とも自然体で、どこか当たり前の顔をしている。
(
……
てか、二人とも女なのに距離近くね?)
肩が触れそうなほどの間隔。だが周囲の誰も気にしていない。視線を向ける生徒はいても、それは単なる好奇や日常の一コマを見る目でしかない。
(なんでそんな受け入れてんだよ?オレがおかしいのか
……
?)
胸の奥がざわつく。違和感の正体が掴めないまま、思考だけが空回りする。
(
……
あ。よく考えたら、最初は逆だったんだよな)
たった一人だけ、性別が入れ替わった自分がいて。 自分はそれを、戸惑いながらも受け入れて。 周囲もまた、それを当然のように扱っていた。
(この夢がヘンに感じるなら、普段のオレだって相当ヘンってことで
……
?)
価値観が、足元からぐらりと揺れる。 何が「普通」で、何が「おかしい」のか。 それは立場が変わっただけで、簡単に反転してしまうのかもしれない。
海成?が小さく眉をひそめる。
「宗真くん?どうかした?」
その声に、はっと我に返る。 けれど、言葉が出てこない。
廊下の光が、やけに白く感じられた。 耳鳴りのようなざわめきが遠のき、代わりに自分の鼓動だけが大きく響く。
思考が、ぐるぐると渦を巻く。
(オレは
……
)
その瞬間、世界がふっと暗転した。
――
目を開けると、自室の天井があった。見慣れた染み。 聞き慣れた朝の物音。 廊下から漂う味噌汁の匂い。体を起こす。長い髪が肩に落ちる感触に、ほっとする。
「
……
夢、か」
呟いた声は、聞き慣れた自分のものだった。胸に手を当てる。鼓動はまだ少し速い。 だが、確かにここは現実だ。
さっきまでの世界が、妙に鮮明だったことだけが引っかかる。もし、立場が逆だったら。 自分はどんな顔で、どんな距離感で、誰かと向き合っていたのだろう。答えは出ない。
ただ一つだけ確かなのは
――
「
……
変なの」
苦笑しながら、宗真はベッドから立ち上がった。
――
今日もまた、いつもの一日が始まる。
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