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ポほ
2026-03-27 23:41:18
5283文字
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跡取り息子、やめました!?
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宿泊学習のあれこれ決め!
りやめ二学期編第2話。
十月。ようやく残暑も落ち着き、仙台でも朝晩は「涼しい」を通り越して、少し肌寒さを感じるようになってきた頃。
宗真のクラスの朝のホームルーム。
「来月、宿泊学習として山奥にある青少年センターで、一泊二日を過ごします。現地ではいくつか課外活動を行いますが、それぞれ定員があるので、第五希望まで書いて提出してください」
担任の言葉に教室がざわりと色めき立つ。
「それから、部屋割りは男女別です。こちらは皆さんで話し合って決めてくださいね」
その一言で、ざわめきはさらに大きくなった。
「あたしたち、同じ部屋だよねっ」
「うん
……
!」
(ちなっちゃんとお泊まり
……
!?学校行事、万歳
……
!)
「宗真も一緒の部屋で寝ようねっ」
「あー
……
うん
……
」
(なんかもう、当たり前みたいに女部屋に入れられる流れになってるけど
……
いいのか?いや、それより
――
風呂!風呂、どうすんだオレ!?)
一限目は、そのままホームルームになった。
「じゃあ、部屋割りだけこの場で決めてしまいましょうか。男女別で、四〜五人ずつの三班を作ります。基本的には、ちゃんと話し合って好きに組んで構いませんよ」
(えーと
……
日程的には新月と
……
よし、被ってないな)
内心でほっとしつつ、宗真はおずおずと手を挙げた。
「あのー
……
オレ
……
、いや、私の部屋って
……
」
担任は少しだけ考えるように視線を上に向けてから、あっさりと言った。
「女子、でいいと先生は思いますけどね。
あとは、ほかの女子のみなさんがどう思うか、です」
「えー、別によくなーい?」
あっけらかんとした声に、教室の空気が一瞬ゆるむ。
「一緒に寝るのはいいけど
……
着替えのときとかは、ちょっと気まずいかも
……
」
ある女子のその一言をきっかけに、女子の間でも賛成と躊躇いが、ゆるやかに分かれ始める。
(うう
……
オレのせいで、女子がなんとなく対立してるみたいになってる
……
)
居心地の悪さを感じながら、宗真は小さく肩をすくめた。
「先生、私たちが寝る部屋って、どんな感じの部屋なんですか?和室ですか、洋室ですか?」
ゆきが質問する。
「普通の和室ですね。シーツは班員それぞれがリネン室から持ってきて、布団は押し入れから出す形になります」
それを聞いたちなつが、ぱっと手を叩いた。
「じゃあさ、押し入れで着替えてもらえばよくない?
それなら文句ないっしょ」
「
……
まあ、そうね」
他の女子たちも顔を見合わせ、特に反対の声は上がらなかった。
(押し入れで、って。オレはドラえもんか)
「ちなみに、男子のみなさんも異論はありませんね?」
担任の視線が向けられると、男子側は一斉に即答した。
「異議なーし!」
(逆にこっちに来られても、お互い気まずいだろ
……
)
こうして話はあっさりとまとまり、宗真は
――
ゆきとちなつ、そしてほかの女子二人と同室になることが決まった。めでたく
……
なのかどうかは、本人にしかわからないが。
「先生
……
あと、お風呂って
……
?正直、着替えとかよりも抵抗あると思うし
……
っていうかオレ
……
いや、私のほうも、いろいろもたないっていうか
……
」
しどろもどろになりながらも、宗真は必死に言葉をつなぐ。
実際、宗真は“呪い”をかけられて以降、銭湯や大浴場の類に一度も行っていなかった。新月以外の日であっても、何が起きるかわからないという不安があったし、それ以上に、女性の裸を見ることそのものに強い抵抗感があったからだ。
宿泊学習での入浴方法は、事前に決められていた。大浴場を男女別に使用し、一組 → 二組 → 三組という順番で、各組三十分ずつ入る。宗真のクラスは三組。つまり、最後だ。
「うーん
……
大浴場は入れる時間が限られてるからね。それに、部屋にお風呂もないし
……
」
少し考え込んだあと、担任は折衷案を口にした。
「幸いうちは三組で最後だから
……
“先に三組の月城さん以外の女子が入って、そのあと月城さんに急いで入ってもらう”っていうのはどうかな?」
「そ、それなら
……
なんとか
……
!」
思わず、ぱっと表情が明るくなる。
(さすがに
……
五分で出ろ、とかは言われないよな
……
?)
胸の奥に小さな不安を残しつつも、宗真はひとまず安堵の息をついた。
「じゃああたし、ほかの人がうっかり入ってこないように見張ってるね〜」
「あ、それなら私も
……
!」
「櫻井さん、藤枝さん、よろしくね」
話がまとまりかけたその直後。
「ていうかさー、宗真が寂しかったら、あたしも宗真と一緒に入ろっかな〜」
「えっ、ちなっちゃん!?」「いや、それはちょっと!?」
即座に否定の声が重なる。
(ちなつって、ほんと心臓に悪いことサラッと言うとこあるよな
……
)
一方で、ゆきは内心で別のため息をついていた。
(ちなっちゃん
……
宗真とはまた別ベクトルでタチ悪いよなー
……
そういうところも、嫌いじゃないけどさ)
軽口ひとつで場の空気をかき回しつつも、結局は宗真の立場を一番さりげなく守っている
――
そんなちなつらしさが、妙に際立つ一幕だった。
担任は改めて、宿泊学習の日程について説明を始めた。
到着後は、それぞれが選択した課外活動。夜はキャンプファイヤー。
そして二日目のメインは、飯盒炊爨
――
という流れだ。説明が終わるやいなや、あちこちで小声の相談が始まる。
「ちなっちゃん、染物とか楽しそうじゃない?」
「うん!ていうか、ゆきと一緒だったらなんでもいいかなー。宗真はなにするの?」
「オレはうどん作り!これ一択だな!」
「あはは、食べ物か〜。宗真らしいね!」
「なんだよ〜。こういうのは本当にやりたいやつから選ぶべきだろ!」
「うーん
……
でも、どうだろう
……
?」
そのとき、宗真はふと気づいた。周囲を見渡すと、食い意地の張った食べ盛りの男子たちが、「うどん作り」にしようという話でやけに盛り上がっている。
「げ
……
うどん作りって、意外と競争率高いのか
……
?」
「じゃあ、私たちと一緒に染物やらない?」
「染物は
……
食えないしな
……
」
(そこが基準なんだ
……
)
「あ、じゃあさ。吉田くんとか江沼くんと同じのにしたら?」
「またあの二人かよ
……
。オレだって、あいつらより大事なことがあるのに」
「え!?そうなの?」
「うどん作り
……
」
「あー
……
はいはい
……
」
あきれ半分、納得半分の声が返ってきて、宗真はどこか満足そうに胸を張った。
課外活動の希望は、一週間以内に提出すればよいとのことだった。そのため、ホームルームが終わっても、宗真の悩みはまだ続いていた。
一方、ほぼ同じ頃
――
一組では。
「
……
よろしくね、吉田くん」
形式的に頭を下げる海成の隣で、ヨツダは小さく息をついた。
(江沼と同じ部屋か
……
。他のやつもいるし、まあ、別にいいけど)
「吉田ってさ、江沼と意外と仲いいし、いいよな?」
同室の男子の一人が声をかけてくる。
「俺、別に向こうからそこまで好かれてるとは思わないけどな
……
」
そう答えながらも、胸の奥では別の感情が渦巻いていた。
(宗真の家に、俺抜きで泊まったりしてるしな
……
あいつ。宗真が絡まなければ、別に悪いやつじゃないのに)
ヨツダにとって、それは「宗真を取られた」という感覚とは少し違っていた。誰かに負けたというより、気づかないうちに輪の外に置かれていた
――
そんな感覚。
その事実が、じわじわと胸に刺さっていた。
(
……
吉田くんと同じ部屋、か。二日間のどこかで、彼が宗真くんに好かれる“秘密”みたいなものが分かるといいんだけど)
――
どうやら、海成は海成で独自の思惑を抱えているらしい。
そして、ホームルーム後の休み時間。
「おーい!」
廊下に、聞き慣れた声が響く。
(
……
やっぱり来た)
呼び止められたのは、ヨツダと海成だった。
「二人はさ、課外活動なににするか決めた?オレ、うどん作り!」
「あ?俺はまだ何も決めてないけど
……
アウトドア系かな。山歩きとか」
「僕は、七宝焼とか勾玉作りに興味あるかな。普段なかなかできないだろうしね」
「へー。二人とも、それぞれアウトドア系とインドア系って感じか?」
「お前は、食い意地張ってる系だな」
「だって、うどん美味しいじゃんっ!」
「でも、うちのクラスでも結構うどん作り人気ありそうだったから
……
もしかしたら、できないかもしれないね」
「えっ、一組もか?人数多すぎて抽選とかにならないといいけど。でも、他にやりたいことないんだよな
……
」
「最初から、人気なさそうなやつにしとけばいいだろ」
「いや、うどんは外せないだろ!」
(
……
なんだこの、謎の執念)
「じゃあ、第二希望は七宝焼にしない?僕と一緒にさ
……
」
「七宝焼かあ
……
」
(なんか器用さが要求されそうだし、俺には無理だな
……
)
(なんか名前的に食べ物っぽくね?お好み焼きとか、とんぺい焼き的な
…
)※違います
だがこの時、宗真も海成も
――
実は七宝焼も意外と人気を集めている、という事実には、まだ気づいていなかった。
ヨツダが控えめに声をかける。
「あのさ
……
ハイキングって、あんまり人気ないっぽいんだけど
……
もしよかったら
……
四番目とか、五番目でもいいから、希望出してほしい、んだけど
……
」
歯切れの悪い言い方だった。いつものぶっきらぼうさが、どこか影を潜めている。
(他に誰もいなくて、先生と俺ひとりで山歩きとか、さすがに寂しすぎるしな
……
)
一方、そのやり取りを横で聞いていた海成は、別のことを考えていた。
(「二人とも」
……
?僕も、含まれてるのか
……
。その点、僕はすぐに宗真くんと“二人きり”になろうとする。
……
そういうところが、吉田くんが好かれる理由なのかな)
「え〜、やだよ。山とか疲れるし遭難したら嫌だしさ。オレの綺麗な柔肌にマダニとかついたらどうすんだよっ」
「ぼ、僕
……
七宝焼の次に書くよ!実際どう決まるかは、わからないけど
……
」
「ほ、ほんとか!ありがとう。実は、俺ひとりだったらどうしようって思ってたんだ
……
」
(江沼に嫌われてるかと思ったけど
……
そんなことも、ないのか?)
「おい、この流れだとオレだけめちゃくちゃ自己中みたいじゃんか!」
「『みたい』っていうか、実際
……
」
「うっ
……
」
宗真は渋い顔をしつつ、用紙にペンを走らせる。
「ほら、書いてやったぞ!
……
まあ、第五希望だけどな!」
そう言って紙をひらひらさせる宗真に、ヨツダはほっとしたように、わずかに肩の力を抜いた。
そして翌週。課外活動のメンバー表が、ついに掲示された。三組では
――
。
「やったー! うどんだっ!」
思わず声を上げる宗真。
「宗真、なんか謎の強運を発揮してるね
……
」
ゆきが驚く。
「へへっ。オレってばラッキーボーイ☆
……
あ、ガールか? まあ、どっちでもいーやっ」
「あたし達も、一緒に染物作りだねっ!」
「うん、決まってよかったね」
そう言いながら、ゆきは掲示板にもう一度目を走らせる。そして、ふと宗真の袖を引いた。
「
……
って、ちょっと宗真。これ、見て?」
「へ?」
指差された先
――
ハイキングの欄に並ぶ名前。
「吉田」「江沼」
「吉田くんと江沼くんで、仲良くハイキングか〜!なんか意外性あっていいね!」
「
……
なんだか、嵐の予感がするよ?ね、宗真?」
「いやいや。あいつら普通に同じクラスで毎日顔合わせてるんだし、部屋も一緒みたいだし。別に何もないだろ」
そう言いながらも、宗真の視線は、その名前からしばらく離れなかった。
そして、一組では。
(うわ
……
こうなるのか
……
。ていうか宗真のやつ、あの競争率を勝ち取ったのかよ
……
妙なところで運いいよな。江沼も七宝焼、外れてるし
……
そっちも人気だったんだな)
掲示を見上げながら、ヨツダは内心でそんなことを考えていた。クラスのあちこちからは、第二希望以降の活動に振り分けられた、元・うどん作り体験希望者たちの嘆きの声が聞こえてくる。
「マジかよ、外れた
……
」
「うどん、食いたかったのに
……
」
そんなざわめきの中
――
ヨツダの席に、海成が近づいてきた。
「吉田くん
……
ハイキング、楽しもうね」
そう言って差し出された手。その声も、指先も、はっきりと震えていた。
「お前
……
声も手も震えてるけど、大丈夫か?」
「む、武者震いさ
……
」
無理のある言い訳に、ヨツダは思わず眉をひそめる。
(体力にも自信ないし、虫も苦手だし
……
宗真くんが一緒じゃなくて、正直かなり悲しいけど。でも、宗真くんがいない間に、吉田くんの“秘密”を探れるって考えたら
……
うん、前向きに捉えなきゃ。この際、吉田くんともっと仲良くなっておくのも、悪くないし
……
)
必死に自分を納得させるように、海成は小さく息を吸った。ヨツダはそんな海成の様子をどこか複雑な気持ちで眺めつつ、一応手を握り返した。
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