望月 鏡翠
2026-03-27 14:22:40
900文字
Public 日課
 

#2038 THE MEME! その8

#毎日最低800文字のSSを書く/ダーリンランデヴー!


 テーマパークの中にあるショッピングエリアは、基本的に楽しい気持ちで買い物をする人間しかいない。生活必需品や命に関わるものではなく、人生を楽しむためのものだ。
 綺麗なドレスももちろんある。
 笑顔の人々に混ざる、仏頂面のスーツの人間は同僚だろう。
 ラダは買い物を楽しむ人たちを、じっと見つめている。しかし彼女が覗き込んでいる店で何か買いたいものがあるのかと言っても、首を横に振った。
「俺に欲しいものはないです」
「お前じゃなかったら? 俺にってことは、他にはあるのか」
「うまい聞き方を覚えましたね」
「俺を試すようなことをするな。こう見えて、お前の生命線なんだぞ」
 一度契約したダーリンはファタールを失うと、一気に精神の均衡を失う。狂い死にするほどに苦痛が増すのだという。だからこそ、ダーリンはファタールを無条件で守る。現場に連れて行って壁にすることができる。
「で、どうなんだよ」
「俺が魅力的だと思うものはありません。ただ、ラダやイオが欲しがるものがあるのかもしれないと、想像していました」
 イオという名前は初めて聞いた。それが生前に、彼女にいた息子なのだろう。
「買ってみてもいいんじゃないか。一応給料は出ているだろう」
「何を買ったらいいのか、わからないんです。俺たちの生活は実に狭い場所で完結していました。農園と、小さな家です。この時代にあるような娯楽も世界のどこかにはあったのかもしれませんが、少なくとも俺のそばにはなかった。だから、連れてきてやりたいと思いますが、連れてきたときに彼女やあの子が、どう思うのか想像もできません」
 ラダは両親に手を繋いでもらいながら歩く子供を、遠い目で見ている。
「断絶、というのでしょうか。あの子たちは罪人ではないので、生き返ってくることもないでしょう。この世でも地獄でも、俺は家族の痕跡を辿ることはありません」
 表情は変わらない。しかし、彼女が悲しんでいるということくらいは、イライジャにも理解できた。そして、その悲しみを和らげる方法は知らなかった。
 イライジャにも家族はいない。死別の苦しみなど、感じたことはなかったからだ。