あおき
2026-03-27 13:01:57
Public
 

時間旅行

未飯トラ
※未トラが初めて過去へ行く、少し前の話


ある日トランクスが母から頼まれたのは、地下に避難させてあった荷物の整理だった。タイムマシンの調整が終わるまでの時間を持て余していたトランクスに、それを断る理由はなかった。むしろこれから過去へ行ってやらなければならないことを思うと、今は何かしている方が気が紛れるぐらいだ。

長い間放置された段ボールはすっかり埃をかぶっていて、手を伸ばしたトランクスはまずその洗礼を受けて咳き込んだ。当時は何が必要なものかを選別するような暇はなく、とりあえず、せめて、何か少しでも残せれば、という状態だったのだろう。放り込まれたものの雑多さがそれを教えてくれた。だが多くのものが失われたこの世界では、どんなものであろうと無駄には出来ない。

トランクスはその場に腰を下ろして、ひとつひとつを丁寧に確認していった。だがその手がふと止まった。トランクスが手にしていたのは、一通の封筒だった。その封筒は祖父の研究資料――これも今となってはとても貴重なものだ――の合間に挟まっていたので、祖父宛かと思ったが、よく見ればその表に書かれている名はトランクスのものだった。はて、何の手紙だろうとトランクスが裏返して、トランクスは大きく目を見開いた。

「悟飯、さん……?」

表書きも綺麗な字だったが、裏面に記されたその字も整っていた。トランクスは慌ててもう一度表を見返すと、隅に押された消印に目を向けた。押印されたのは今からずっと前、トランクスがまだ本当に幼い頃の日付だった。まあ、郵便がまだまともに機能していた頃だというだけで、最近ではないということは明らかだ。だがトランクスにはこの手紙についての記憶が全くなかった。こうして届いていたのなら、読んでいないはずがないのだが――。首を傾げつつ、トランクスは封筒を開いた。


『トランクスくん、こんにちは。』

まず目に飛び込んで来たその一行目で、トランクスの顔はもう綻んでいた。ああ、そういえば小さい頃はまだ「くん」付けで呼ばれていたっけ。今となってはその響きがくすぐったく思える。

『このあいだは おてがみ ありがとう。
 おたんじょうびの おいわいカード とても うれしかったです。』

当時の自分が読めるようにと手紙は平仮名ばかりだった。だが一文字一文字をゆっくりと目で辿るトランクスは、それを読みにくいとは感じなかった。どうやら悟飯の誕生日に、当時の自分はお祝いのカードを贈ったらしい。その記憶は全くなかったが、簡単には行けなかったパオズ山の遠さを考えればありそうなことだ。

『トランクスくん もうそらを とべるようになったんだね! すごい!
 でも あんまりとおくへは あぶないから ひとりでいかないでね。
 こんど いっしょに そらの おさんぽにいこうね。
                          そん ごはん』

短い文面はすぐに読み終わってしまったが、トランクスはしばらくその手紙から目を離せなかった。この手紙のことは覚えていないのに、それでも懐かしいと感じる。この時のことかはわからないが、舞空術を覚えたての頃、悟飯と一緒に空を飛んだことは覚えている。ただ遊んでいるつもりだったが、悟飯は飛び方を教えてくれていたのだろう。すれ違った大きな鳥に気を取られて、うっかり落下しかけた時も、悟飯がすぐにキャッチしてくれた。そんな思い出がどんどん溢れてくる。

………っ、」

溢れたものが手紙に零れ落ちてしまう前に、トランクスは手紙を封筒へと戻した。そして先程見つけた祖父の研究資料とともに抱えて立ち上がった。母にもぜひこれらを見せてあげたかった。タイムマシンの要らない、小さな時間旅行の切符を。