ちよど
2026-03-27 07:51:23
7461文字
Public 以蔵さんとカルデアの日々
 

坂本龍馬の冒険~消えた以蔵ヘッドを追え~

以蔵さんとカルデアの日々シリーズ。タイトル通りの内容ですがタイトル詐欺。坂本さんが複数いる。なぜか『英霊剣豪七番勝負:下総国』のネタバレが少しあります。pixivより再掲


「ここに集められたのは容疑者です」
 特異点SAITAMAでの事件が終わってから数日後。岡田以蔵の部屋に集められた面々はマスターの少年の言葉にお互いの顔を見合わせた。
 この部屋にいるのは藤丸立香、坂本龍馬(騎)、坂本龍馬(槍)、メディア、そして岡田以蔵の首から下だけである。
「私じゃないわよ」
 岡田以蔵の首に魔術文様を刻んでいつでも切り落とせる状態にしていた魔女が首を振る。
「万が一、私が犯人だったとして以蔵の首を隠す動機がないわ」
 朝に事件が発覚して数時間経過している。カルデア中で探されている岡田以蔵の首は未だ見つかっていない。
「僕達にも動機はないと思うよ」
 坂本龍馬(騎)が主張する横で、2臨姿の坂本龍馬(槍)がベッドに寝かされている1臨姿の岡田以蔵(首から下)の側に膝をつき、そっと以蔵の手をとった。
 先日の織田信長と違い岡田以蔵は首なし状態では動くことが出来ないのだろう。いつも騒がしい暗殺者は幼馴染の王子様のような仕草になんの反応も返さなかった。
 ふたりの坂本龍馬の顔色が明らかに陰る。
 今度はダーオカの首が落ちたのか、と茶化す面々もいる中。一番ショックを受けている様子なのが坂本龍馬のふたりである。だが
「坂本さんに関しては証言があったんです。そこの床にあるお盆をみてください」
 三人分の視線が床に置かれたままだったお盆に向けられる。そこには食べかけの煮物が一皿、とっくりがひとつ、そして盃がふたつあった。
「昨日の夜遅く、以蔵さんが食堂でわけてもらったものです。調理当番の者が『また坂本龍馬と呑むのか』と聞くと以蔵さんは『そうじゃ』と答えたそうです」
「僕は知らない!」
「僕でもないよ!」
「いやだわ。痴情のもつれかしら」
「ちがいます!」
 メディアがからかう程に、最近の岡田以蔵は恋人である坂本龍馬(騎)ではなく坂本龍馬(槍)とよく酒を飲んでいた。特異点でのあれこれで霊基が増えた恋人に『まあ、キアラも増えたしのう』と若干遠い目をしながら受け入れていた岡田以蔵は、わだかまりが消えた坂本龍馬(槍)の方とよく親しげにしていたのだ。
「以蔵さんの恋人は僕なのに」
「まあ、僕は以蔵さんを食べたけどね」
「えっ!」
 浮気かと青い顔をして振り返る坂本龍馬(騎)にマスターは大声を上げた。
「霊基の話です!! 槍本さんが来たときに余った以蔵さんで霊基を強化したんですよ!!」
 坂本龍馬(槍)の召喚の副産物として岡田以蔵の霊基が大量に手に入ったマスターは種火の節約も兼ねてそれを強化に使ったのだ。決して霊衣代300万QPと希少素材のツケを払って怒っていたわけではない。怒ってないよ。
 理性的なマスターにより痴情のもつれは回避されたが、当の発言者は寝かされた以蔵の首元を緩めていた。
 メディアの細い指が甘い気配など微塵もなく以蔵の首元をなぞる。そこには生身の人間ではない証につるりとした肌色の断面が覗いていた。
「マスター。以蔵の首の在り処。私なら分かるわよ」
 以蔵の首の切断箇所は彼女の魔術文様より下。つまり行方不明になっている以蔵の首には彼女の魔術文様が刻まれたままなのである。神代の魔女メディアに自分の魔術が追跡出来ないはずはなかった。



 ーーーこれは事件の前夜の出来事である。

 夜も遅いのだろう。ここはとても静かだ。
 ぼんやりと座り込んでいたら約束通りに彼が戻ってきた。
「龍馬! 遅うなってすまざった。食堂がしもうちょってこれだけしかわけてもらえざったき」
 盆を片手に彼は自分の前に座る。持っていたお盆を床に下ろした。とっくりがひとつと煮物が乗せられた皿。そして盃がふたつ。彼はそのひとつを自分の前に置く。
「まずは酒じゃ、酒」
 自分の前の盃に酒を注いだ彼は屈託なく笑う。
「エミヤの煮物は絶品やきおんしも食べてみろや」
 箸でつまんだ人参が自分に差し出される。ややあって、それは彼の口に放り込まれた。
「うまい! まあ、そのなりでしょうがないんか。不便やのう」
 本当に美味しいのか、しばらく煮物をつついていた彼は思い出したように盃を手にとった。
「肝心な事を忘れちょった」
 盃が掲げられる。
「坂本龍馬に乾杯じゃあ!」
 その時ーーー



 さてその後、坂本龍馬(騎)と坂本龍馬(槍)は何故か下総国にいた。日差しは真上に近く、ごつごつとした山道に宙を巡るお竜さん二人の影が流れている。遠くには士気城が見えていた。
 ピピッ、と電子音がして、ホログラフが投影される。いつもはダ・ヴィンチちゃんが現れるそこにはメディアが立っていた。
『無事にレイシフト出来たようね。以蔵の首は城の近くにあるわ』
「犯人はこんなところに以蔵さんの首を持ち込んでどうするつもりなんだ」
 坂本達にだって分かっている。先日の織田信長の首とは異なり岡田以蔵の首には特殊能力などない。あの剣の腕ならともかく首だけをレイシフトしてまで運ぶ意味はないのだ。
「レイシフトといえば、機器の使用履歴から犯人を特定出来ないのかな」
 坂本龍馬(槍)の言葉にダ・ヴィンチちゃんが顔を出した。
『それがね。メディアの指示でレイシフト機器の使用者を洗ったら、昨日の夜中に岡田以蔵の霊基がレイシフトを利用している事が分かった。ちなみに同伴者の霊基は残っていない』
「つまり、以蔵さんは首だけでレイシフトしたと?」
『記録上はそうなるね』
 もちろんそんな事は不可能である。
 考え込んだ二人にダ・ヴィンチちゃんが唐突にウィンクする。
『話の途中だが! ワイバーンだ!!』
 好き好きに宙を泳いでいたお竜さんがそれぞれの龍馬の傍らに戻る。ガサガサを木々の今から出てきたのは黒武者の群れだった。
「ワイバーンじゃない!!」
「セイバー!!」
 最初が坂本龍馬(騎)で次が坂本龍馬(槍)である。彼らがいる名もなき霊峰(裏)はセイバーとバーサーカーのエネミーの巣だった。坂本龍馬(槍)はとっさに武器の槍を出したがランサーはセイバーに対して弱体化する。
「乗れ、龍馬!」
 ふたりのお竜さんの声に龍馬が大蛇に飛び乗る。彼らはそのまま士気城に向かった。


「この士気城ではキャスター・リンボと戦ったなぁ。宮本武蔵と編成を組んだので以蔵さんが悔しがったのなんのって」
「僕も知ってるよ。この前まで君と同じ霊基だったんだから。お土産に持ち帰った勾玉で以蔵さんのスキル上げをしてようやく機嫌を直してくれたよね」
 天守閣から城に忍び込んだ坂本龍馬ふたりはそんなことを話ながらあたりを見てまわる。
 英霊剣豪を巡る一連の事件には当時強化途中だった岡田以蔵も参加し活躍したのだ。憧れの宮本武蔵と共に戦ったのがよほど嬉しかったのか、いつも以蔵は酒が入るとこの特異点の話をする。
 城を天守閣から下の階へと降りながら首が収まりそうな所を見てまわっていた坂本龍馬ふたりの耳にまたピピッという電子音が届いた。カルデアからの通信だ。
『待たせたわね。』
 立体映像に出てきたメディアは憂鬱そうに髪をかき上げた。
『詳細な場所を特定しようと思って再探査したところ、以蔵の首が移動しているのが分かったわ。次はーーーオケアノスよ」



 第三特異点オケアノス。それは海賊達の世界だ。
 海賊船の甲板上に降り立った坂本龍馬達はさっそく海賊たちに囲まれていた。
「僕達はちょっと探しものに来ただけなんだけど」
「ま、こうなるよね」
 襲いかかってくる海賊のカトラスをくぐり抜けて坂本龍馬(槍)はリーチが長い槍で切り返す。アーチャーの中にセイバーが混ざっているがこのくらいの錬度差があれば不利属性など問題にならない。
 お竜さんの助けもあってあっという間に海賊たちを無力化した坂本龍馬ふたりは目的である岡田以蔵の首を探し始める。
「うわっ、この大砲。先込め式だ」
「え、ちょっと見せてよ」
 物珍しさに手が止まった船乗りふたりに大蛇ふたりはため息をついた。
「お竜さんはいいけど、イゾーの首を探してるんじゃないのか?」
「なめくじが首なしのままだと、もう酒に誘ってもらえないぞ」
 正気に戻って甲板から客室までくまなく探したふたりにまたメディアからの通信が入った。
『次は秦よ! それとーーー』
 


 人智統合真国シン。そこは人であることを捨てた始皇帝が支配する永劫の国。
「高杉さんにみせてあげたいよね」
 と坂本龍馬(槍)が呟くと、あのSAITAMA特異点でのあれこれの途中で気がついたらカルデアに戻っていた坂本龍馬(騎)が頷く。
「面白いものが好きな人だから」

「「絶対がっかりしたと思う」」

 そう笑い合う坂本龍馬ふたりにその頭上をくるくるまわっていたお竜さんたちがぴたりと動きを止めた。キュルキュルとキャタピラの音が聞こえる。エネミーだ。
 坂本龍馬(槍)が宝具の槍を実体化させる。坂本龍馬(騎)も腰の陸奥守吉行に手をかけた。そして、出てきた敵を見てくるりと踵を返す。
「ちょっと、僕!」
「君はアーチャー相手だからいいけど、僕にこのレベルのアサシン相手は無理だよ!」
 エネミーはアーチャーの多多益善号とアサシンの近衛兵の混合だった。ほぼ毎ターンクリティカルで殴ってくる素敵なアサシンである。ライダーの坂本龍馬が逃げるのも無理はなかった。
「それに彼らと戦う理由は僕らにはないだろう。きっともうすぐ」
 ライダーの言葉に被さるように電子音が鳴る。表示された立体映像ではダ・ヴィンチちゃんが親指を立てていた。
『作戦成功! 無事捕獲したのでカルデアに戻っておいで』
『言うまでもないけど、出来るだけ早く戻ってこないと取り返しがつかなくなるわよ』
 メディアの声をかき消すように砲弾が打ち込まれる。ふたりの坂本龍馬は同時に叫んだ。
「「撤退するよ、お竜さん!」」
「「まかせとけ」」
 黒い大蛇の体がうねる。坂本龍馬を乗せた彼女に追いつけるものなど英雄揃いのカルデアでもほとんどいないのだった。



 二人の坂本龍馬が駆けつけたのはカルデアの岡田以蔵の私室であった。
 そこにいるのは藤丸立香。坂本龍馬(槍)、坂本龍馬(騎)、メディア、岡田以蔵首から下と先程と同じメンバー。異なるのは部屋の真ん中で光の網に捉えられているゴーストと、そのゴーストが抱えている岡田以蔵の首が増えていることであった。
「やっと来たわね。本来なら罠を張ったレイシフトの機器の前でじっくり尋問すべきだったのだけどうるさくて」
「尋問ってなんじゃ! わしは悪いことしちょらんぞ!!」
「以蔵さん。レイシフトを勝手に使っちゃだめですよ」
 ゴーストに抱えられたままの生首の抗議にマスターがため息をつく。
 岡田以蔵(首)の元気な様子にふたりの坂本龍馬はそろって胸を撫で下ろした。
 レイシフトの機器はカルデアの重要施設のひとつだ。そこに記録だけしか残さず行き来するには気配遮断を持つアサシンである岡田以蔵本人の協力が必要である。気配は消しても記録だけ残っていた様子に彼らは岡田以蔵が主犯ではと推測していたのだ。
 それはそれとして、以蔵の首を抱えているゴーストの正体が問題だ。
 以蔵本人が進んであんなにいろいろとレイシフトする動機がない。それはこのゴーストが鍵を握っているはず。
 坂本龍馬(槍)がゴーストの前に歩み出た。
「久しぶりだね。僕。ーーー以蔵さんとの旅行は楽しかったかい?」
 その親しげな様子にゴーストは体を震わせた。
『AhA
「こいたぁは敵やない。おまんと同じ坂本龍馬じゃ」
 言い含める生首をゴーストはさらに強く抱きしめた。
「あまり動かないように言ってもらえるかしら。ただでさえ霊基がボロボロの状態なのだから壊さないように捕まえておくのが難しいのよ」
 このゴーストの霊基が崩壊寸前だったからこそ、岡田以蔵の首を無理に取り上げることができなかったのだろう。
「ありがとう、メディアさん。もう捕まえておかなくて大丈夫だよ。彼は逃げない」
「おん。わしが連れ出いたようなものやき」
「以蔵は反省しなさい」
 優しい魔女がマスターの前に移動するとゴーストを捉えていた網がとろりと溶けて消えた。
『a
 戸惑うようなゴーストは人型すらもおぼろげで、以蔵の首を持てているのが奇跡のような有様だった。
「彼はSAITAMAの特異点の僕、なのかい?」
 坂本龍馬(騎)の言葉に坂本龍馬(槍)は宝具の槍を取り出した。
「ああそうだよ。逆神に最後まで抵抗した、この宝具の本来の持ち主さ。僕がカルデアに召喚された時に一緒に来たんだろう」
 あの時。逆神から宝具を奪おうとした時。ライダーの坂本龍馬とランサーの坂本龍馬に分かれた分岐点。ずっと逆神に抗っていた彼の霊基はまだ僅かながら残っていた。
 ランサーの坂本龍馬は彼ごとその霊基を取り込み。通常の召喚も可能な英霊記録帯に登録された霊基となったが。
 ライダーの坂本龍馬はそれを阻む抑止力によってカルデアへと弾き飛ばされたのだ。



 事件の夜。岡田以蔵が自室で目を覚ますとベッドの脇にゴーストがぽつねんと立っていた。
「なんや、龍馬か」
 以蔵の恋人の坂本龍馬は先日ライダーとランサーに分かれていた。目の前の『坂本龍馬』はそのどちらでもないが、坂本龍馬には違いない。
「ちっくと待っちょっれ、酒もろうてくる」
 返事をするかのように龍馬がふらふら揺れたのを見て、以蔵は食堂に酒とつまみを貰いに行った。

 以蔵が食堂から戻ってくると龍馬はぼんやりと座り込んでいた。その前に座って盆を置くとゆらりと動く。盃に酒を注いで目の前に置いてやったが龍馬は取ろうとはしなかった。エミヤに煮物を差し出しても口を開けようとしない。まあ、そんなにボロボロなら仕方がないだろう。
 特異点のSAITAMAでこの龍馬はずっと一人で神相手に戦っていた。お竜という神が身近にいるだけに頭の良くない以蔵でも分かる。それはきっと文字通り魂を削る戦いだっただろう。その結果がこの状態だとしても、以蔵には龍馬を笑う気にはなれなかった。
「肝心な事を忘れちょった」
 盃を掲げる。
「坂本龍馬に乾杯じゃあ!」
 その時、ぐらりと視界がまわった。落下する感覚がぴたりと止まる。ぐるりとまわりを見回して以蔵は自分の首が落ちていることを認識した。
「こらめった」
 そして、床に落ちそうになったこの首を龍馬が受け止めていることを。
「おまん、わしなら触れるがか。ーーーそうやな」
 以蔵の中にふと思いつきが浮かぶ。自分の首と壊れかけの龍馬の霊基で一人分の霊基扱いにならないだろうか。それならこのずっとひとりぼっちで戦っていた龍馬にカルデアならではの面白いものや楽しいものを見せてやることができるのではないだろうか。
「龍馬、このままわしを抱えて部屋を出ることが出来るか」
 以蔵の言葉に龍馬はふらりと立ち上がった。



 ーーー僕はなにも覚えてはいない。
 今までなにをしていたのか。僕の名前はなんなのか。どうしてここにいるのか。
 ただ君が僕のことを『龍馬』と呼ぶとなんだか熱を思い出すような気がする。
 腕に抱いた君の首が笑う。君と一緒に世界を巡る。剣豪達の死合を聞き、大海原をゆく海賊たちの活躍に耳を傾ける、神の如き王の所業に感服する。ああ、楽しい、楽しいな。
 きっと僕はずっとこうしたかったんだ。
 だけど。

 炎の下、僕の足が踏みにじる少年が返せと叫ぶ。僕が奪った大切なものを返せと血を吐くように叫ぶ彼に僕の腕は宝具の槍を突き立てて。

 ーーーおまえも同じ目に合うがいい!!

 血の色をした記憶から顔をあげれば、どこか見覚えのある青年が僕の宝具を手に立っていた。



 ぼんやりとしか人の形をとれないゴーストは岡田以蔵の首を抱えたままゆらゆらとゆれている。その視線が自分の宝具に向いていると判断して坂本龍馬(槍)は片膝をついた。
「ありがとう。君がいなければ逆神を倒せなかったし、被害はもっと甚大なものになっていただろう」
『a
 揺れるゴーストに坂本龍馬(槍)は微笑みを浮かべた。
「君はこれからどうしたい? もし君がよければだけど僕の体に同居しようよ」
「坂本さん!?」
 思わず叫んだマスターに坂本龍馬(槍)は宝具の槍を揺らした。
「この宝具も、この霊基のほとんども、元の持ち主は彼だ。返すことは現状難しくてもこのくらいはね」
「確かに、そのゴーストのままだといずれ消滅してしまうわね」
「消滅するんか!」
 メディアの見解に声をあげた以蔵(首)は視線を上に向けた。
「わしが連れ回したからか
「彼は元から限界だったんだよ。以蔵さん」
 坂本龍馬(騎)がそう言いながらさり気なく手を伸ばす。恋人の首を返して欲しいというジェスチャーにゴーストは前へと足を踏み出した。
 坂本龍馬(槍)の前に立つ。
「いいんだね」
 念押しにゴーストは頷くような仕草を見せて、その体を重ならせた。
 一瞬後、そこには以蔵の首をもつ坂本龍馬(槍)だけが立っていた。ゴーストの姿はどこにもない。事態を把握して目を伏せた以蔵の首を坂本龍馬(槍)はメディアに渡す。
「以蔵。後で反省室3日だそうよ」
「なんでじゃー!」
 神代の魔術師の手がなめらかに首と胴をつなげる。ベッドから起き上がって頭を抱える以蔵の肩を、白い手袋が掴んだ。
「以蔵さん、なんで説明してくれなかったんだい?」
 恋人の坂本龍馬(騎)の質問に岡田以蔵は当たり前のように答えた。

「わしの首ぐらい落ちたところで大したことないやろ」

 ぴきり、と空気が凍った。
 察しのいい魔女はマスターを部屋の外へと連れ出し、坂本龍馬(槍)も苦笑を浮かべて部屋から出ていく。
 こわばった笑顔の坂本龍馬(騎)が岡田以蔵の服をそっと掴んだ。

「以蔵さん、ちっくとお話し合いをしようか」




 以蔵の私室から出て、カルデアの廊下を自分の私室へと向けて歩いていた坂本龍馬(槍)はふと微笑んだ。
「これでいいのかって? いいんだよ。恋人だけが全てじゃないからね。君も覚えているだろう。あの霊基の味を。ーーーおいしかったよね以蔵さん」



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