ちよど
2026-03-27 07:36:22
3058文字
Public 以蔵さんとカルデアの日々
 

【番外編】エア強化クエスト

pixivより再掲。以蔵さんとカルデアの日々シリーズの番外編。酒呑童子(殺)強化クエストネタ。坂本さんには以蔵さんの心がわからない

 談話室でくつろいでいたライダー金時が見知らぬ美女二人に連れ去れたのを思わず見送った以蔵達3人を呼び出したのは、空っぽになった段ボールを抱えてうつろな目をしているマスターだった。
 段ボールには【聖晶石】と貼ってある。
 召喚陣を見つめて以蔵達は全てを悟った。あの見知らぬ美女二人のために、またカルデアの石は尽きたのだ。
「種火もつきました」
 マスターの少年が呻くように言う。
 いつものことである。
 以蔵がこのカルデアに来た時から種火は常に不足していた。なぜなら、聖杯マックスになった以蔵が食べ尽くしたからである。
 後ろめたくて目をそらせた以蔵の横でキアラが頬に手を当てた。
「それで、私たちに何をしろと? 種火狩りでしょうか?」
「そっちは今、茶々さんとバニヤンちゃんにお願いしているので。―――皆さんには新入りさんの強化クエストに行ってもらいます」
 マスターの要請に以蔵は第三再臨の姿を第一再臨のコート姿に戻した。帰る気満々である。
「そがなん本人に行かせればええ」
「逃げられました」
 がっくりとマスターがうなだれる。
 先程、ライダー金時を連れ去った二人の様子が思い出される。人の話を聞かないサーヴァントは多いがあのふたりは特にそんな感じがした。いつもはかっこいいお兄さんの金時があの時は子ウサギのようだった。
 その金時が今どのような目に遭っているか想像して、龍馬は中折れ帽を深く被り直した。黙祷。
 マスターは龍馬の様子には気づかず話を続ける。
「バーサーカーが出るらしいのでマイルームにいたメディアさんにも声を掛けたんだけど。事前情報を見た途端に「痴話喧嘩に巻き込まれるのはごめんだわ」と逃げてしまいまして」
「逃げられてばかりですわね」
 呆れたように言うキアラにマスターは顔を上げた。ぎらり、とその目が光る。
「なので、皆さんには強制的に行ってもらいます。ではレイシフトスタート!」
 ぱっちん、とマスターがへたくそに指を慣らすと、カルデアスがレイシフトのカウントを開始する。拒否するまもなく彼らは特異点へと放り出された。



 山である。
 赤茶けた岩盤も露わな荒れた山を三人は登っていた。
 時折現れるエネミーを薙ぎ払いながらキアラが首を傾げた。
「おかしいですわね。なぜあなたがいるのかしら?」
 出てくる敵はバーサーカーとライダーばかり。ライダーの坂本龍馬が編成された意味があまりなさそうに思えた。
 それは本人も考えていたのか、龍馬はいつもと同じ笑みを浮かべる。
「もしかして、最後にキャスターが出てくるのかもしれないね」
 笑顔としか表情が読めない龍馬の後ろで相棒のお竜さんが不意に顔を上げた。
「リョーマ、変な気配がする」

「変とはひどいな」

 その声は坂本龍馬のものではあったが、以蔵の隣を歩いていた龍馬が発したものではなかった。
 いつの間に現れたのだろうか、白い軍服に白い中折れ帽、癖のある髪に甘い垂れ目、以蔵達が見慣れた容姿の男がひとり山の中腹に立っていた。

 同一サーヴァントが喚ばれる事は多々ある。しかし抑止力と契約した坂本龍馬は今まで観測されていなかったのだ。
 それがシャドウサーヴァントですらなく、いきなり本人そのものとして現れるのは予想外だった。
 驚く以蔵と、あまり興味なさそうなキアラと違い、カルデアの坂本龍馬は予想していたように微笑んだ。

これはメディアさんが嫌がるわけだ。ライダー相手だからね。でも、痴話喧嘩と言ってくれたのは嬉しいな」

 聖杯の恩恵を受けたサーヴァントの一人であるメディアはバーサーカー狩りにも連れて行かれる事が多いが、ライダーのボスはさすがに荷が重いと。のんきに言う龍馬の目は以蔵を見ていた。
 彼らのカルデアはアサシンが少ない。ライダー相手ならば必ず以蔵が駆り出される。
 エネミーとして現れた龍馬と以蔵の戦いをメディアが『痴話喧嘩』と呼ぶならば、彼らは彼女からはそう見えているのだろう。

 カルデアに来てすぐにアサシンの主力となった以蔵は、戸惑ったように二人の龍馬を交互に見ている。
 その向こうでキアラがうっとしそうにヴェールを払った。
「別に誰が相手でも構いませんわ。わたくし、早く帰って子供達に折り紙の続きを教えないといけませんの」

「ひどいな、僕は折り紙以下?」

 困ったように眉尻を下げるエネミーにキアラは鼻で笑う。
 以蔵が口を開いた。

「おんし、お竜はどうした?」

 その質問にエネミーの口の端を吊り上げた。ざわりと風が山頂から吹き降りてくる。一瞬の風が収まった後、エネミーの背後に赤黒い大蛇が体をくねらしていた。
 明らかに国津の大蛇ではない。

「聞く必要はないよ。以蔵さん。―――どんな理由があったとしても、彼らはマスターの敵だ」

 断言して坂本龍馬は腰の陸奥守吉行を抜き放つ。
「さて、それじゃ行くよ。お竜さん」
「どーんと任しとけ」
 いつもと同じ龍馬に相棒が答える。戦いが始まった。



お初にお目にかかります」

 以蔵の言葉にエネミーは顔を歪めた。
 それは『坂本龍馬』にしては珍しい表情で宝具を発動させた以蔵は目を見張る。
 だけど所詮はライダーの人型。彼は従えていた大蛇よりも早く人斬りの宝具によって消滅した。
 主を失った大蛇が以蔵へと襲いかかろうとする。その脇腹を龍馬の宝具が発動し大蛇となったお竜さんが食いちぎった。
 引き裂くような咆哮をあげて体を翻した赤い大蛇を、漆黒の大蛇が大きな口をあけて丸呑みした。

「食べちゃだめだって、言ったのに」

 苦笑した龍馬に人型に戻ったお竜さんは膨れてもいない腹を撫でた。
「食べてやった方が親切だ。―――なぁ、リョーマ。違う霊基というのは悲しいな。一緒に消えることも出来ない」
 だけど、お竜さんとリョーマなら生きる時も死ぬ時も一緒だ。
 そう笑う人外の女は、相棒の幼なじみに視線を向ける。
 エネミーを斬り捨てた以蔵は強ばった顔で血振りした刀を鞘に納めていた。

「おい、雑魚ナメクジ。リョーマを切った感想はどうだ? あんなに斬りたがってただろ?」
 
 血だまりのひとつも残さず消えたエネミーの居た場所を見据えて、以蔵は吐き捨てる。


「最悪じゃ」


 そんな以蔵に龍馬はへらりと笑いかけた。
「以蔵さん。あまり気にしないでいいよ。―――よくあることだから」
 飴色の瞳が龍馬を射貫く。その瞳の奥にぐるぐると渦巻く感情を読み取れなくて龍馬は首を傾げた。
 だって、本当によくあることだ。
 帝都でも龍馬は以蔵を2度殺したのだから。
 一度目は炎の中で見送った。二度目はカルデアのサーヴァントと共に消滅させた。
 以蔵だって。彼の横で呆れたように大仰に額に手を当てて空を仰いでいる殺生院キアラを倒したはずだ。
 
 だから。以蔵が龍馬だけにこだわる理由が分からない。
 
おんし、」

 以蔵が言いかけた内容を龍馬は知ることは出来なかった。クエストをクリアしたためカルデアへの帰還が開始されたからだ。



 その後坂本龍馬は岡田以蔵に数日避けられていたが、みかねたマスターの取りなしで解決した。

「以蔵さん。坂本さんが人の心が分からないのは今に始まったことじゃないでしょう?」

昔はあんな奴ではなかったんや」
 以蔵の嘆きは龍馬には届かないだろう。マスターはそう思った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

読んでくださってありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

Waveboxはこちら
BlueskySNSはこちら

無断転載、無断使用はしないでください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー