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jerry-fish
2025-10-01 16:28:01
4247文字
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きみは本当に可愛いから
モグ真木(♀)。本当は可愛いきみのこと(
https://privatter.me/page/69c4c8ddccb66)の続き。
八重ちゃんと真木ちゃん。
「あの、八重ちゃん、相談があるんだけど」
そんな真木の言葉に八重子がどうしたのと言えば、一緒に服を見に行ってほしいということだった。
「いいよいいよ! 一緒に行こうよ! 楽しみだなぁ」
八重子がニコニコと言えば真木はホッとしたように胸をなでおろした。
「いつまでもこういう格好じゃダメかなってさ」
「そんなことないよ。そういうボーイッシュな感じも似合うよ。でも、私は真木ちゃんがチャレンジしようって思って声かけてくれてすごく嬉しいよ」
「そう、かな? ありがとう」
はにかむ真木に八重子はこちらこそと返した。
それから数日。今日は真木も八重子もバイトのない日だった。午後の講義も休校になってしまったので、そのまま今日行ってしまおうという話になった。
「どういう系統とかある?」
「う、正直今まで触れてこなかった分野だから何もわからない
……
。でも、できればあんまり思い切った路線変更はしたくないかな」
「あー。似合うよーって言われて買ってもそのあとなかなか勇気が出なくて肥やしになっちゃうパターンあるよねぇ。うーん、とりあえずファストファッションのお店でも冷やかしに行こうよ」
「そうだね。うん、そうしようか」
国内で知らない者はいないという定番のファストファッションのお店でお互いに、あれはどうだこれはどうだと当てて楽しむものの、なかなかこれというものが見つからない。一度喫茶店で休憩をして、別の店舗へと向かう。
「あ、こういうのどうかなぁ。真木ちゃんスタイルいいから似合うと思うよ」
八重子が手に取ったのは、いわゆるビスチェだ。
「これは
……
だいぶ思い切った路線変更にならない?」
「うーん、言われてみれば
……
。真木ちゃんは黒スキニー持ってる?」
八重子は少し考えてからそう質問した。
「うん、一応。あんまり穿かないけど、あると便利って聞いて」
「白の半袖シャツもあったよね?」
「うん、今中に着てる」
「そしたら、これ買い足すだけでいい感じになりそうな気がするんだよね。試着してみようよ」
「え、そんな、こういう女の子らしいの似合わないよ」
真木が一歩引けば、その分八重子は前に出る。
「似合わなかったら買わなければいいんだから、試してみようよ。というかね、私が見てみたいなって」
可愛らしい年下の女の子のお願いと、自分が協力を申し出たという申し訳なさで真木は小さく首肯した。
試着室でパーカーを脱いでビスチェを着てみる。幸いフロントボタンなので着脱は簡単だ。ボタンを全部留めて鏡を見れば、シルエットがぐっと女らしくなった自分がいる。真木は違和感に思わず眉をひそめた。自分では似合っているとは思えないが、せっかく八重子が薦めてくれたのだからと一応見せることにする。八重子は穏やかだが割としっかりと線引きをして、言うべきことは言えるタイプの子だ。だから、ダメだったら何かしら言ってくれるだろうと思い、そのまま静かに試着室のカーテンを開けた。
「あの、八重ちゃん、着てみたけど」
「わぁ! いいね、可愛いよ真木ちゃん! すっごく似合うよ! やっぱり真木ちゃんはスタイルがいいね。
……
本当に素敵な富士山をお持ちだねぇ」
ぱぁっと笑みを浮かべて褒めた後に、うぇっへっへと卑屈モードに入る八重子に真木は戸惑いの笑みを浮かべる。
「あとはねぇ、パーカーはパーカーでも前開きのやつを羽織るとか、ノースリーブのシャツワンピースを羽織るとかどうかな? ビスチェ薦めといてなんだけど、たぶん真木ちゃんはしっかりシルエットが出るよりもそういうぼかした感じのが好きかなって思ったんだけど」
「ああ、うん。確かに体のラインが出ない服は好きだよ」
「じゃあ、次はこれ試してみてくれる? さっき店員さんに取ってきてもらったんだ」
八重子は濃い灰色の膝上丈のシャツワンピースを真木に渡した。
「行動が早いね、八重ちゃん」
「えへへ、ごめんね。真木ちゃんが可愛いからいろいろ着せてみたくて」
「いや、いいんだけど。まあ、可愛くはないけど付き合ってもらってる分、試せるだけ試してみるよ」
「わぁい、ありがとう真木ちゃん。あ、スカート! スカートはどうですか?」
「それはまた今度にしてください
……
」
「うん、わかった!」
真木は試着室のカーテンを閉めるとビスチェを脱いだ。そのまま、先ほど渡されたワンピースを羽織る。これはビスチェよりは試しやすいかもしれない。カーディガンを羽織るのと同じ感覚だ。
「どうかな?」
「いいよ! かわいい! うんうん、真木ちゃんはそういう系の似合うよね! いいと思う!」
「あ、ありがとう」
そのままハイテンションの八重子にあれもこれもと渡されたが、結局購入したのはビスチェとワンピースだった。
「ありがとう八重ちゃん。助かったよ」
「気にしないで真木ちゃん。私も役得だったから! 可愛い真木ちゃんたくさん見れて満足だよ」
にこにこの八重子に本当にこの子はなんて人が良いのかと噛み締める。
「あ! ついでにちょっとここ寄っていこうよ!」
八重子が指さしたのは雑貨屋だ。
「ここね、シンプルだけど可愛いものが多いんだ。動物系もあって、この間レッサーパンダ柄のスカーフが売ってたんだよ!」
「そ、そうなんだ。じゃぁ寄ってみようか」
扉を開ければカロンというベルが鳴る。ファンタジーに出てくるシンプルな雑貨屋といった様相だ。ネックレスや指輪などのアクセサリー、シュシュやバレッタ、ポニーフック、目を引くデザインの懐中時計なんかも置いてある。
「わー! 新しいレッサーグッズだぁ!」
見てみて真木ちゃんと持ってきたのは蓋と茶こし付きのマグカップだ。持ち手が尻尾、ふたには耳がついている。
「あのさ、八重ちゃんさえよければ今日のお礼にプレゼントしてもいい?」
「えぇ! そんな、悪いよ! 私だって楽しかったんだから」
「それでも、私はすごく助かったからお礼がしたいなって思うんだけど」
「えー、うーん
……
。じゃぁ、半分出してくれる? それ以上は受け取れないよ」
真木の提案に八重子は折衷案を出した。真木は良かったと笑っている。
そのまませっかくだからとヘアアクセサリーを見る。ふわふわと癖のある真木の髪は肩ほどの長さで、下のほうで一つ縛りにしている。新しく服も買ったことだし、髪型も今までと変えてみようかななんてヘアゴムやシュシュを眺める。けれど、今までがバイト先で買ったゴムで適当にまとめていただけに改めて何かと思うと首をかしげてしまう。
「あ、ねえねえ真木ちゃん。これどうかな? バレッタ。ハーフアップにして留めるだけでもだいぶ印象変わるんじゃないかな。やってみていい?」
八重子が手に持っていたのは深い青色のバレッタだ。シンプルで飾り気はないが、その分上品に見える。
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「任せてよ」
真木はヘアゴムを取って軽く指で梳く。それを八重子がハーフアップにしてバレッタで留めた。
「うん、可愛い! 似合うよ!」
「結構印象変わるけど、手軽でいいね。これ買ってみようかな」
「いいと思うよ」
にっこりと微笑む八重子に、真木も目を細める。
「じゃあ、これとこれ買ってくるから待ってて」
真木はそういうと八重子の手にあったマグカップをひょいと手に取った。
「あっ!」
「これはお礼だから。ね?」
「もー! 真木ちゃんたら。でも、ありがたくいただくよ」
「うん。そうしてもらえると私も嬉しいよ」
目を細める真木に、八重子は仕方がないなと笑った。
「大切に使うね! ありがとう真木ちゃん」
「こちらこそ。たくさんアドバイスしてくれてありがとう」
店を出てマグカップが入った袋を渡せば、八重子はそれをぎゅっと抱きしめた。朗らかに笑う彼女はとても愛らしい。少しだけ、ほんの欠片だけ胸が痛む。自分では、こうはなれない。わかってはいるけど、納得もしているけど、少しだけ悲しい。
「真木ちゃん? どうしたの?」
「あー、うん。せっかく選んでもらった服だけど、肥やしにせずに着られるかなぁって」
眉を下げて困ったように笑えば、八重子はきゅっと表情を引き締めた。
「あのね、真木ちゃん。私は割と言いたいことは言うほうだよ」
「え? うん、知ってるよ」
「だから、今日私の見立てがよくなかったら、私は絶対にそれを口に出すよ。別の服にしてみようかって。でもね、私は今日真木ちゃんが着た服は全部似合ってたって、可愛かったって断言できる。もし真木ちゃんが私の言うことを疑うならさ、詩魚ちゃんとか、森君とかアケさんとか、モグラさんにも見てもらったらいいと思う。みんな素直だから、きっと正直な感想を教えてくれるよ。かわいいって、似合うって。だから、そんな寂しそうな顔しないでよ。真木ちゃんは、ちゃんとかわいいよ」
言い終えて、八重子はくしゃりと顔を歪ませた。真木は慌てて手をばたつかせる。泣かせてしまったかもしれない。どうしよう。
「え、あの、ごめん。気を使わせて。うん、そうだよね、八重ちゃんが見立ててくれたんだもん、大丈夫だよね。あの、ごめんねホントに」
「私は、真木ちゃんが好きだよ。大切な友達だよ。だから嘘はつかないし、言い方は考えるけどダメなことはだめって言える。真木ちゃんはね、可愛い女の子だよ」
八重子は一つ大きく息を吐いてから、顔を上げた。良かった泣いていないとホッとしたのもつかの間、明日今日買った服を着てモグラさんのところに行くよと宣言した。目を丸くして慌てる真木に「もう決めたことだから! じゃあね、真木ちゃん! また明日!」そう言って去っていった。
「え、あ、うん。また、明日
……
」
困惑顔で手を振る真木に、八重子も振り返って手を振った。それから前を向いて、ぐっと奥歯をかむ。
あんな、まぶしいものを見る顔をしないでほしい。手の届かない、手に入らないものだと思って悲しげに微笑むのをやめてほしい。笑ってほしい。だって、真木は本当に優しくてかわいいのだ。本人はそんな事つゆほども思っていないのは知っている。わかっている。それでも。
「真木ちゃんは可愛いんだ。モグラさんにめちゃめちゃに褒めてもらっちゃえ」
自己肯定感の低い大切な友達が、少しでも自分を受け入れられるように。 明日の予定を伝えるべく、八重子はスマホを手に取った。
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