Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ぬす
2026-03-25 13:31:32
4570文字
Public
Clear cache
ラ・ヴィ
お題箱でいただいたネタで書いたもの。一応トリップ夢主です。
好きな人に会う時は一番可愛いファッションで!
髪に青色のリボンを編み込んで、ネイルも赤と青でキメて。
服も彼の好みに合わせて赤と黒でコーディネートする。
その人のことが好きだと周りから見てもわかるように、かつその人に恥をかかせないように。
そう、推しコーデとは最高に可愛い私でないといけないのだ!
ベロブルグにトリップしたのは数ヶ月前のこと。
帰りたい、帰りたいと泣き喚く私に声をかけてくれたのがサンポさんだった。
残念ながら彼は私が帰る方法を知らないと言っていたし、今でもそれは見つかっていないのだが、今となってはもうどうでもいい。
――
撃ち抜かれた!
それ以外にどう表現しようもないほど、彼の容姿がドストライクだったのだ。
青い髪に時折隠れる左目がとてもセクシーで、蛇のように曲線を描く口元がとってもキュート!
すらりと長い脚も、顔に似合わず逞しい腕も、全て全てが素敵な人!
異性として、というよりは偶像に一目惚れするようなもの。
その日から彼は私の生き甲斐となった。
「お嬢さん!今日も可愛らしい格好で来てくれたんですねぇ」
「はい!サンポさんとツーショットを撮りたくて」
「ふふ、お安い御用です。はい、チーズ!ですよ」
「チーズ?ってなんですか?」
「えっ
……
?」
たまにおじさんのようなことを言うギャップが良い。
距離が近くても嫌な顔をしないところが良い。
何よりファンサが多いところが良い!
好きになればなるほど彼は私に優しくしてくれて、すっかり彼にハマってしまっていた。
働いて得た金を美容とファッション、そしてサンポさんにつぎ込んで私のベロブルグでの暮らしは完結。
推し活は人生を救う。
それが私のこの世界に突き返した答えだった。
「ところでお嬢さん、写真を撮るだけなんて寂しいことは言いませんよね?」
「何ですか?あ、グッズですか?」
「グッズ
……
ああいえ、商品の話ではなく。
たまには僕と二人でお出かけなんてどうです?」
「えっ私もう百万近く使ってるんですか?
同伴デートってことですよね?」
「ええ
……
と、まあ、そうですね!
デートです。はい、デートをしましょう!」
夢のようだ!サンポさんとデートなんて!
おそらく私が彼に使った金額が一定のラインを越えたのだろう。
推しコーデにしてきてよかった!なんて考えながら、迷わずサンポさんについていく。
行き先はお洒落で少しお高めのカフェだ。
大丈夫。サンポさんに会うときはいつも財布に余裕を持たせている。
「ここのケーキセットでしたら、あなたも気にいるかと思いまして」
「私も?というと、どういうことですか?」
「ええ。濃すぎたり、甘すぎたりするケーキは苦手だと仰っていたでしょう?
ここのケーキはあっさりしていますから」
ああ、そんな話まで覚えていてくれたなんて!
そんなことを言われたら一番お高いケーキセットでも注文するしかない。
そんな誘導をするなんてサンポさんが経営に携わっていたりするのだろうか。
追加で良い紅茶も頼んでしまおう。
「それでは、いちごとレアチーズのケーキを二つ。それとオリジナルブレンドの紅茶を」
「サンポさんもケーキ食べるんですね」
「ええ、あなたの食べたいものだと思うと僕も気になってしまって」
またそんなことを!
他に彼のファンを見たことはないが、彼は本当にファンサービス慣れしているのか私のような人間の扱いが本当に上手い。
こちらが喜ぶ言葉ひとつひとつを知り尽くしている。
「お待たせいたしました」
運ばれてきたケーキは値段に相応しい立派なもので、たっぷりのイチゴが敷き詰められていてまるでフリルのようにクリームが飾り付けられていた。
見るからに美味しそうだ。しかし、食べる前に撮影をしておきたい。
「あの!サンポさんと来た!てお写真撮りたいです。いいですか?」
「勿論ですよ!ええ、好きに撮影してください。ポーズも取りましょうか?」
まずケーキと紅茶のセットの写真を撮って、正面にサンポさんの一部だけが写るような写真も一枚。次にサンポさんをメインにケーキセットを写したものも撮って、最後に私の顔も入れた自撮りを撮影する。
「ふふ、よく撮れていますね。僕もあなたを撮っていいですか?」
「えっ?私だけ、ですか?何に使うんですか」
「ええ?悪用なんてしませんよ!
ただ今日のデートを形に残しておきたい、だけではいけませんか?」
これもデートらしさを演出するためのサービスなのだろうか?
ファンを撮影しても意味がないのでは、なんて思いながらも好意に甘えて写真を撮ってもらう。
サンポさんは女の子の扱いもよくわかっているようだ。
一番可愛く見える角度で撮られた写真をこちらに見せてくれた。
「後で送りますね。さぁ、早速いただきましょうか」
「はい、ありがとうございます!」
サンポさんが考えてくれた通りこの店のケーキは絶品で、いちごはちょうどよく熟したものが使われており、ヨーグルトとレモンでさっぱりとしたクリームチーズがいちごの甘さを引き立てている。
紅茶は香りが良く少し強めの渋みがあり、こちらはミルクと少量の砂糖を足して飲むのがおすすめらしい。
言われた通りそれらを足して飲むと、優しくまろやかな味わいになったそれが舌を楽しませてくれる。
「とっても美味しいです!」
「それは良かった。あなたの喜ぶ顔が見たかったんです」
「あはは!もう、サンポさん大好き!」
「ふふ、僕もですよぉ」
息をするようにサービスを振り撒くこの人にハマるのは本当に健康に良い。
ベロブルグに一人落とされた時には絶望していたが、今は彼が人生の希望だ。
この地に来て本当によかったと思える。
「ああ、幸せ!サンポさんがいるなら彼氏なんていらない!」
「えっ?どういうことですか?」
「言葉通りの意味ですよ!
私、サンポさんの推し活していられるなら彼氏ができなくても結婚できなくても良いです。一生推します!」
「えっ?えっ??
……
えっ
……
???」
何を戸惑っているのだろうか。
ああ、推される側の立場だから推す側の気持ちだとか、そういった考え方に慣れていないのかもしれない。
どう説明するか考えていると、みるみるうちに悲しそうな顔になって、しまいにはこんなことを言い出した。
「サンポのことは遊びだったんですか!?」
「ええ!?ち、違います!本気です、本気で好きですよ!?」
まるで修羅場のようになったその場を何度も愛を語って収める努力をする。
どうしたらいいんだろう。サンポさんは何か誤解しているのかもしれない。
困り果てていると、ポン、と肩に誰かの手が触れた。
「お困りのようだね。うちの弟を呼ぼうか?」
見上げれば、そこには鮮やかにグラデーションのかかった金髪の女性
――
セーバルさんが立っていた。
偶然カフェの前を通って、私がサンポさん相手に懸命に話しているのを見て気にかけてくれたらしい。
サンポさんはというと彼女を見てから「ヒィッ!」と悲鳴をあげて、逃げ出そうとしたところで襟を掴まれて無理矢理座らされている。可哀想に。
「あの、サンポさんが悪いことをしたとか、そんな話ではないんです!
ただ誤解があったかもしれなくて」
「なになに?私に話してみなよ」
私達の関係と先程のやりとりをざっくりと話して、うんうんとそれを聞いていたセーバルさんがやがて溜め息をつく。
時折挟まれるサンポさんの弁解も聞いて、やがて彼女はひとつの結論を出した。
「つまり、あんたはファンの女の子に手をつけようとしたってことだ」
そう。私たちの関係と、サンポさんの意見。そしてセーバルさんの反応を見ていて理解した。
私はサンポさんをアイドルのように推しとして見ていたが、サンポさんの中では私との関係はまさに恋人だったのだ。
当然、彼氏がいらないなんて言えば自認が彼氏のサンポさんの中では矛盾が発生する。
サンポさんは本業が商人ということで、贔屓にしてくれる顧客はいてもセーバルさんのように自分にファンがつくなんて思わなかったのだろう。
「まさかそんな、全部ファンサービスだと思われていたなんて!
僕はこぉんなに可愛らしい恋人ができて幸せでしたのに」
「ごめんなさい!えっと
……
サンポさんは恋人とかではなくて!推しなんです!」
「ああ!何度も振らないでください!傷付きます!」
わぁっ、と泣き出すようにサンポさんが顔を隠す。
どう宥めようかとおろおろする私の肩を持って、セーバルさんが首を横に振る。
泣かせておけ、ということらしい。
しばらく様子を見ていると、彼が諦めたように顔を上げた。
「わかりました。僕の勘違いだったようです」
「は、はぁ。そうですね。私も何か、すみません」
「いえ、お嬢さんは何も悪くありませんよ。
思わせぶりな態度だなんて、ええ、そんなこと考えたこともありません」
「すごいネチネチ言うじゃん」
いまいち納得はいっていないようにも見えるが、彼も理解してくれたらしい。
セーバルさんという「推し」という概念への理解ある人が来てくれて助かった。
彼女にお礼を言うと、いいって、と優しく手を振ってくれる。
さて、問題は彼だ。
これからどうしよう。こんなことになってしまうと私自身今まで通りの感情を貫けるか、と言われれば難しいだろう。
彼の顔も言動も好きだ。だけど推しという聖域ではなく、彼も一人の男性なのだと知ってしまった。
思い悩む私を追い詰めるように彼が口を開く。
「ああでも、お嬢さん。
サンポを一生推すと仰いましたよね」
「え?ええと
……
」
「僕はこれからもあなたの素敵なサンポで在り続けましょう。
ですから、これからもご贔屓に」
私の手を取って、真っ直ぐに見つめて。
ああ、そうだこの人はファンサが
――
いや、あの時はきっと恋人同士の触れ合いとしての行動だったのだろうけど、今のはきっとファンサービスだ。
返事をしようとした私の口にセーバルさんが指を当てて、サンポさんの首根っこを掴み上げる。
「ちなみに、サンポは詐欺師だからね。
騙されちゃいけないよ」
その瞬間、がらがらと私の中で理想のサンポさん像が崩壊する。
――
詐欺師?そんな。
同じ次元に生きる推しは清いものであってほしいのだ。
例えばアイドルが犯罪者だと推す気も失せてしまうのではないだろうか?
そう、まさに今その感情を味わっている。
泣き喚く私に声をかけてくれた優しいサンポさん。
それもきっと、カモを見つけて引っ掛けようとしただけなのだろう。
ショックで泣きそうな私の目に頼り甲斐ある女性が映る。
セーバルさん。困っていた私を助けてくれた、素敵なお姉さん。
「セーバルさんに推し変しちゃいそう
……
」
「お、いいね!大歓迎だよ」
「ハァ〜〜〜!?」
叫び声を上げたサンポさんがセーバルさんに掴まれたまま店外へと連行されていく。
ご丁寧にサンポさんのポケットからお札の束を取って、テーブルの上に置いて。
このまま彼はシルバーメイン行きだろうか、それとも逃げ出すのだろうか。
そんなことを考えながら、残りのケーキを一口頬張った。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内