これほど長期間の外出は、ラダにとっても初めてだったのではないだろうか。都市生活を破壊し続けたダーリンということで、運用に関しては慎重にされているところがあった。復活したダーリンの性質として、生活に困らない程度には言語や現代の知識が与えられているが、実際に自分の目で見るのは初めてのことだろう。
はしゃぐ様子はなく、感動もない。
彼女の生前の様子からいえば、これほど発展した都市を見ること自体が初めてだろうに、それに対するコメントも特になかった。
少しだけ期待外れといえば期待外れだろう。
治安を維持するために尽力しているつもりだが、何を後ろめたいところがあるのか、公僕を毛嫌いする人間も一定数いる。善良なる市民の皆様の心を見出さぬように、警備の人員は一般の入場列とは別に行動をした。
スタッフの一部のような顔をして、人の流れを見物する。
ふと横にいる相棒の姿を見る。
いつも無表情の女の目が、柄になく感情的な湿り気を帯びていた。
決まったような瞬きの回数と、証明写真のカメラの前にいるようなつまらない表情がラダの常である。それが目を細め、視線を不必要に動かした。
だから、そう見えただけだ。
彼女の視線の先にあるのは、家族連れだった。
子供は風船を受け取ったのだが、まだその子が握りしめるには糸が細すぎた。手の間を抜けて離れて行ってしまう。
少年が「あ」と声を上げた。
「異能の」
ラダが呟く。
「使用許可を」
「理由は?」
いくら契約を結んで、従順だからといって、枷が外されたわけではない。何の許可もなく異能を使用させるわけでもなかった。
「……」
空に飛んでいった風船を見つめていたが、声をかけてややあってからイライジャの方に向き直った。
「いえ、必要なくなりました」
「まさか、子供の風船をとってやりたかった、とか言わないよな」
沈黙。
本気かと思ってその顔をまじまじと見つめるが、特に感情を読み取れたりはしなかった。
「かわいそうだったので」
「お前、案外子供に優しいんだな」
「俺にもいましたから」
「は?」
そういえば、そんな記録が残っていたような気がする。しかし、それは同化政策で無理やり結ばされた関係だったはずだ。
親愛の情がそこに残っている、というのがイライジャには意外な気がした。
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