望月 鏡翠
2026-03-24 15:54:49
929文字
Public 日課
 

#2031 THE MEME!

#毎日最低800文字のSSを書く/ダーリンランデヴー!


 観測する限り、ラダという人物が喜びを露にしたことはない。任務であればやりますと同意を示す。食事を求める。睡眠を求める。清潔な衣服を求める。
 何かを拒否されたことも、今のところない。
 故に拒否をされることもないし、面白くもない冗談を言ったところで、疎まれることもないだろうと思っていた。
「喜べ、ラダ。遊園地にいけるぞ」
 任務の資料をテーブルの上に投げる。中身が滑り出たが、彼女はそれをまとめて、整えてから開き直した。
 くだらない任務だと思っていたが、彼女に態度を悪くするつもりはなかったので、すまんと素直に頭を下げておく。
「どうして、謝罪を」
 最初こそ彼女の態度には苛立ったが、そのうちに慣れた。嫌味だと思っていたのだが、本当にわからないから聞いているのだ。
 生前の人を絡めとることに長けた、というエピソードに警戒していたが、そぐわぬ人の情緒への鈍さがある。カリスマ性は他者への共感性とはセットではないが、目の前の人物からはその片鱗すらも感じなかった。
 彼女のする確認は、ただの確認だ。学習初期のAIを相手にしているような苛立たしさはあるが、それ以上のものはない。
「俺の態度が最悪だったからだ」
「俺は気にしません」
「お前が気にしないかどうかは関係ないんだよ。俺の気分の問題だ」
「なるほど」
 わかっているのかいないのかわからないが、それで会話は一時終わった。
 沈黙は、ラダが資料に目を通すために必要な時間だった。資料といっても任務の期間と場所、そして概要が書いてあるだけだ。
 今回は、単なる警備任務であり複雑な背景はそこには存在しない。
「それで、この遊園地というのは喜ばしい場所ですか?」
 そこに戻ってくるのか。
「一般的には嬉しいだろうな。普通は遊びにいく場所だ。休日で、家族や恋人と一緒って展開なら嬉しい。俺は仕事で朝からお前と一緒にそこに一日いなくちゃならんから、全く喜ばしくはない」
「なるほど。皮肉だったのですね」
 ラダは、唇の端を持ち上げて笑って見せた。本気かどうかはわからないが、彼女にはウケたらしい。これで、次から他人に皮肉をいうようになったら、俺が怒られるのだろうか。
 少しだけ、可能性はある。