山茶花
2026-03-24 12:56:36
5508文字
Public [シルデュ]吸血鬼怪盗パロディ
 

クレアデルネ【213KAI001】

想いを自覚する話/続編(吸血鬼怪盗⚔×探偵助手♠パロ)/5100字程度

*こちらは吸血鬼+怪盗シルバー×探偵助手デュースのパロディ作品です。
*このため、口調が呼びタメになっています
*「月光トータルイクリプス 」の続編です。
*相変わらずやりたい放題です。なんでも許せる人向け。


以上すべて大丈夫な方はスクロール↓








 ――銀色に輝く満月の、月灯かりの下。
 ひとりの怪盗が、僕の顎を指先で引き、唇を寄せる。
『君のことが好きだからだ、見習い探偵さん』
 そうして、ふたりの唇はだんだんと近づいて、重なろうとして――

……うわわっ!?」
 そんなところで、真っ赤になって目が覚めた。僕が飛び起きると、エースとローズハート所長が目を丸くしてこっちを見ていた。
「起きたね、デュース。もう夕方だよ」
「おはようございます……
「吸血鬼ってホントに昼間は寝てること多いんだね~」
 ふたりは、探偵事務所の営業時間中にソファで寝ていた僕のことをあっさりと受け入れる。
 それもこれも、僕の体質ゆえだ。少し前に、吸血鬼怪盗ヴァンルージュの手によって、僕が吸血鬼にされたがゆえ、の。
 それでも今の身体なりに出来ることはあるだろうと、日が沈み始めた時間から、僕は本格的な活動を開始するようになった。
「まあ、体質の変化も悪いことばかりじゃない。デュース、今のキミにとって、得意な依頼が入ったよ。猫探しだ、よろしくね」
「はい! 分かりました! 猫の写真とか、手がかりになりそうなものください!!」
「ああ、依頼人から首輪や写真を預かっているよ。こちらをどうぞ」
 そうして僕は差し出されたアイテムをじっと見たり、くんくんと嗅いで、猫の居場所にアタリをつける。
「あ! ……すぐ近くにいるな、コイツ!」
「マジ? じゃあ一緒に見に行こうぜ!」
 そうしてエースと一緒に、事務所の近所にある公園へと向かう。その公園の茂みの中に、猫はいた。
「おお、模様も特徴も完全一致! へー、便利になったじゃん、デュースの嗅覚!」
「はは、その分不便になったことも多いけどな……。お医者さんから、定期的に血を処方してもらわなきゃいけない、とか。まあ、でも、なっちまったもんは仕方ねえし。役立つことを増やしていかなきゃな!」
 そうして僕たちは依頼人の猫を捕まえ、引き渡し、解散となった。
 ローズハート所長と僕は探偵事務所で暮らしてるけど、エースは通いだから、仕事が終わると自分の家に帰っていく。
「ボクは、今日はもう寝るよ。キミもまあ、夜をゆっくり過ごすことだね」
「はいっ、おやすみなさい、ローズハート所長!」
 自室に帰り、睡眠を取るローズハート所長を後にして、僕は夜、事務所のちょっとした片付けや書類整理など、家事や雑用をこなす。
 それでもまだ慣れない深い夜の時間は、僕には余って、面白いテレビ番組もやっていなくて、ほんの少し退屈で。
……
 なんとなく窓を開けて、星空を眺めながら肘をついて、ちょっとヒマだな、なんて溜め息を吐いたりして。
 そんなことをしていたら。目の前に、ソイツは現れた。
「こんばんは、見習い探偵さん」
「お前っ……ヴァンルージュ!?」
「ご名答」
 僕はちらりとローズハート所長の自室のドアの方を見る。この騒ぎで起きて来やしないだろうか、と。
「今日は何しに来たんだよ!?」
 窓の外、ヘリの部分へ腰かけるように空を飛ぶヴァンルージュに、僕は叫ぶ。するとヴァンルージュは僕にウィンクした。
 ……相変わらずキザなんだからな、ったくもう!
「今日は怪盗として、君に会いに来たんだ。君の退屈な時間、退屈な夜を、盗みに来た」
 さあ、刺激のない夜が退屈なら、今から俺の手を取って、とヴァンルージュは僕に手を差し出す。
 僕が迷いながらもコイツをどうにかしないとと思って、ヴァンルージュの手に手のひらを乗せると、ヴァンルージュは僕の身体をぐいと引き寄せ、ふたりの身体を空へと浮かばせた。
「君とのデート、とても楽しかった。また俺と遊びに行こう、見習い探偵さん!」
 この間は偶然だったが、今日は君のためにデートコースを考えてきた、と勝手なことばかり喋って、ヴァンルージュはまた僕を抱えたままどこかへ連れていく。
 トン、とヴァンルージュは軽快にビルの間を飛び越えすり抜けて、この辺りでいいだろうと僕を降ろした。
「この鍵を君にもあげよう。これは魔法の鍵なんだ」
「魔法の鍵?」
「ああ。人ならざるものなら誰でも持っている、招待状のようなものだ。ただの人間はけして入れない、夜の街への招待状」
 回してごらん、そこら辺のドアの鍵穴でかまわない、とヴァンルージュが告げる。
 渡された鍵を、どこかもわからないビルの屋上にあった鍵穴に刺し込み、回すと。
 ドアがギィ、とひとりでに開いて。その向こうの目の前には、見たこともないような景色が広がった。
 魚人の演奏会、人魚の水中レストラン、バーのテラス席で樽のビールを飲む狼男、獣人たち。間違いなく、僕が今まで知ることはなかった世界だ。
「うわあ……!」
「さ、行こうか」
 ヴァンルージュが僕の背中を押しながら、進む。
 そうして僕はまた、あれよという間に流されて、怪盗との夜のデートが始まってしまったのだった。
 
「まずは音楽でも聴いてみようか? あそこに、魚の音楽隊がいるだろう。彼らのジャズは楽しいぞ」
 噴水の前で自由にサックスやクラリネットを身体を揺らし演奏する魚人たち。
 観客は軽快に流れるメロディに合わせて、身体を揺らしたり、口笛を吹いたり、手拍子をしたりと思い思いに彼らなりの音楽を楽しんでいる。
「ほら、君も手拍子!」
 ヴァンルージュは、タン、タン、と手を叩いて鳴らすと、僕にも同じようにするよう促した。
 僕も手拍子をしていると、なんだかだんだん楽しくなってきて。ヴァンルージュも、楽しくなってきたみたいで。
 足でもトントンとリズムを取るままに、身体を動かして。いつの間にか、ヴァンルージュに手を引かれ、一緒に踊らされていた。
「わ、くるくるってなる……!」
「はは、目が回るな。でも楽しいだろ!?」
……ははっ、確かにな!」
 そうして一通り音楽を楽しんだあと、僕らは帽子を胸に当てて一礼する演奏家たちにぽいとおひねりを投げて、次の場所へ向かう。

「たくさん動いて、喉が渇かなかったか? 乾杯しよう!」
 そうして近くのレストランのテラス席についたヴァンルージュは、ワインの血液割りとかいうよくわかんない飲み物を店員に注文する。
「かしこまりました、すぐにお持ちいたします」
 メガネをかけた銀髪の店員さんがにこやかに挨拶をして、僕らへと注文した飲み物を持ってきた。
「こちら、『ブルゴーニュワインの血液割り』となります。どうぞご賞味ください」
「いつもありがとう、アズール。贔屓にしている」
「いえいえ、こちらこそ。では本日も、素敵な夜をお楽しみくださいね」
 店員さんと顔馴染みなのか、ヴァンルージュはにこやかに挨拶を交わした。……普段、コイツはどんな暮らしをしているんだろう、って思ってたけど。こんな風に暮らしてたんだな。猫を追っかけて退屈している僕とは、全然違うや。
「それじゃあ、ほら。グラスを持って。乾杯、見習い探偵さん」
「か、乾杯……
 グラスを持ち上げ、寄せて。乾杯をする。こくりとひとくち飲むと、僕はその甘やかさに口の中がとろけるような気がした。
……甘い! うまい!」
「そうだろう? 君はこれが初めての血か?」
「うっ……。た、確かに。まだ『血を吸わせてくれ』って頼みにくくて、探偵事務所の人たちにも言ってないし、お医者さんから処方された血も飲んでなかったけど……!」
「我慢できなくなる前に、適度に飲むのが大事だ。それが人間の仲間を守る秘訣でもある」
 ワイングラスをゆらゆらと揺らしながら、ヴァンルージュはガラス越しに僕を見つめる。
『君のことが好きだからだ、見習い探偵さん』
 ついこの間言われたような、そんなセリフが思い浮かんで、ぱっと僕は目を逸らした。

 それから僕はまたヴァンルージュに手を引かれ、人外の歩く街中を見て回った。
 本は好きか、と尋ねられ、あんまり、と答えると、俺もだ、とヴァンルージュは答えた。
 意外だ、キザな小説とか劇の脚本なんかを読んでいそうだと思っていたのに、と僕が呟くと、そういう演出は俺の仲間たちの方が得意なんだと言った。
「仲間たちって何人いるんだ? どんな人が?」
「おっと、俺たち怪盗団の実情を探ろうとしているな? 優秀な見習い探偵さん。それは企業秘密だ」
 なんだよ、と僕が頬を膨らませていると、お詫びにひとつ教えてあげよう、とヴァンルージュは僕の前に人差し指を出した。
「見てごらん。使い魔ショップだ。人間界でいうところのペットショップに近い」
「おお……。コウモリとかフクロウとか、ネズミなんかもいるんだな」
「俺たち吸血鬼はやっぱりコウモリだな。わざわざ店で買わなくても、自分の魔力から生み出すこともできるぞ。君の魔力なら、そうだな。小さなコウモリを1匹くらいは作れるんじゃないか?」
 今度やってみるといい、きっと探偵の仕事にも役立つ優秀な相棒になるぞ、とヴァンルージュは言った。
 
 僕は、ふと思った。なんで、ヴァンルージュはこんなに親切にしてくれるんだろう、って。
 僕のことが好きだからって言ってたけど、なんで僕のことが好きなんだろうって。
 ヴァンルージュのことを、……その奥にある、シルバーという男の心を、本心を、真意を。もっと、知りたくなった。
 「好奇心と探求欲は探偵に必須だよ」とローズハート所長は言っていたけど、僕にもそういうモノが生まれてきたってこと、なのかな。

「なあ、ヴァンルージュ」
「なんだ、よそよそしいな。君ならまた、シルバーと呼んでくれてもいいんだぞ?」
……シルバー。なんで、僕のこと好きなんだ?」
 からかってるだけじゃないよな、とそう尋ねると、ヴァンルージュはそうだな、なんと言えばいいだろうか、と珍しく言葉を濁した。
「君のまっすぐな目に惚れた、と言って、信じてもらえるかどうか」
「まっすぐな目?」
「ああ。……いつも俺のことを、本当の心まで見ようとしてくれる、純粋でまっすぐな、その孔雀色の目だ」
 それが俺にとっては、どんな宝石よりも煌めく宝物に見えるんだ。何百年と生きてきて、一番、君の瞳が綺麗に見えた。
 そんな口説き文句に、僕は呆れる。まともに答える気はなさそうだ、って。でも、それでもちょっとだけ嬉しかったりなんかして。
 嬉しくなって、しまっている僕を。僕は、自覚し始めていた。
 もう、この男に心を盗まれ始めているんだと、見ないふりしていた気持ちを、僕は自覚していた。
 それで、困っていた。僕は探偵の助手で、こいつは怪盗で。いつか捕まえなきゃならないのに、好きになったらダメなのに。って。
「どうした、見習い探偵さん。そんな曇った顔をして、俯かないでおくれ」
……別に。アンタはいいよな、自由で、我侭に振る舞えて!」
 僕にはいろいろ、考えなきゃいけないことも、抱えなきゃいけないこともたくさんあるんだ、とぷい、とそっぽを向く。
 でも。……それでも。
……だけど、その。今夜は楽しかった。ありがとう、シルバー」
 ヴァンルージュ、改めシルバーを、振り向いて笑う。吸血鬼怪盗ヴァンルージュ、こいつが僕の前にふと現れて、『シルバー』というひとりの男として接してくれるなら。僕も、『探偵助手デュース』の仮面を少しだけ脇に置いておいて。
 たったひとりの『吸血鬼デュース』として接する瞬間があるのも、悪くないのかなって、そう思ったから。
 僕たちは探偵と怪盗として、いつも表舞台に上がるけど。そんな幕間の舞台裏では、こうして手を繋ぎ合ってもいいんじゃないか、って。
 絶対にそんなの、良くないって分かるのに。たくさんの壁があるって分かるのに。
 今はこのまま、素敵な夜に時間が止まればいいのに、なんて思ってしまうのだった。

 だけど、本当に時間は止まってくれない。リーン、ゴーン、とどこからか鐘の音が鳴る。
「おや、夜明けの鐘の音だ。そろそろ君をあの探偵の元に帰してやらなくてはな」
 帰ろうか、デュース。初めて僕の名前を呼んだヴァンルージュの胸元に、僕はそっと頭を寄せた。
 そうしたら、今だけの本音が、こぼれた。こぼれて、しまった。
……ひとりに、しないで。もっと、傍にいてくれ」
 ヴァンルージュは少しだけ驚いた顔をして、そして、僕の身体をそっと優しく包み込んだ。
「いつだって、傍にいる。だけど、今はまだ……君を迎えには、行けないんだ」
 すまない、と一言残して、そして、ヴァンルージュがパチリと指を鳴らすと。
 僕は、探偵事務所の窓際に、また戻されていた。
 夜明けの光が、昇り出そうとしている。
 目の前には、優しく抱きしめてくれた腕はもう、いなくて。
 僕は、眩しい夜から、眠たい昼間の日常に、帰らなくちゃならなくて。
……迎えに来いよな、絶対、いつか」
 勝手に僕の心を盗んでおいて、責任持って取りに来ないなんて許さないからな、とひとり呟き。
 自覚してしまった、どうしようもない想いを、誰にも言わずにひとり隠して。
 また、『探偵助手のデュース』として、追いかけっこの仮面を被るのだった。

*おしまい