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ながひさありか
2026-03-24 07:15:11
3670文字
Public
STR-Phaidei
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光より速く、できれば百年以内に
1ページ後。めちゃくちゃ捏造がある。
後で清書します。
今、物凄く焦っている。
どのくらい焦っているのかといえば、卒業論文の締切時間を一時針勘違いしていて、アナイクス先生に鬼コールをして自動返信がくるたびに「先生助けて!」と返したあの時くらい焦っていた。何しろ先生は自分は突然講義を放棄して失踪してしまうくせに、生徒の提出物の締め切りには信じられないくらい厳しいからだ。
あの日、なんとか論文をまとめて猛ダッシュで研究室に向かい、扉の前で先生の石板に論文データの入ったファイルを転送したのは締切三秒前だった。樹庭の回線はオクヘイマと違って物凄く脆弱だから、論文データを送るには先生の石板の半径三メートル以内で転送ボタンを押す必要があった。アグライアと仲良くして回線強化をして欲しいよ、と零した僕に、「ディアディクティオで時間を浪費する暇を与えるわけにはいきません」と先生は冷たく口にした。別にアナイクス先生は樹庭のインフラ担当ではないですけどね。そうヒアンシーが呆れながら呟くのを聞いた。
ちなみに論文は無事に提出できたのだが、「内容に粗がありすぎます」と無慈悲に言われ、僕は三度目の留年が確定した。
——
その時と同じくらい、焦っているし、絶望的な気分になっている。
*
相棒をはじめとしたナナシビトのみんな、天外の天才たちやさまざまな組織の人々の助けを経て、オンパロスが平和になってから暫くの後、相棒が久しぶりにオンパロスを訪れた。
『この間まで絵の中にある世界
——
厳密には絵の中にあった世界だけど
——
に行ってたんだけど、そこで神になったんだよね』
普通の人生を歩んでいれば、彼女の言葉はあまりに唐突で突拍子もなく、狂人の戯言のように聞こえただろう。しかし、三千万を越える輪廻を通し、神と呼ばれるような超越した力を散々身をもって体感した僕には、唐突ではあったが、突拍子のない言葉だとは感じなかった。
『一分以内だったらアッハが何しても責任取ってくれるって言うから、「銀河に新生したオンパロスに、一ページのあんたたちがそっくりそのまま上書きされますように」って祈ってみた』
彼女がそう口にした瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ気がし、体に妙な重さを感じた。
『あ、本当に上手くいった。ほらファイノン、これ、あんたたちの位置』
石板を操作していた相棒は僕の方に画面を向けると、チカチカと七色に光る♾️のマークを指差した。そばに🚂のアイコンがあるので、彼女たちは今ここにいる、と言うことなのかもしれない。
『よし、一分終わり! 神様廃業! これよりナナシビトに復帰!』
大声で空に向かって叫んだかと思うと、
『そう言うわけでオンパロスは暫く忙しいと思うけど、責任は全てアッハにあるから!』
両手で僕に向かってサムズアップをした相棒は、なんとも怪しい言葉を笑顔で口にした。
それからオンパロスには銀河の巨大商人組織であるスターピース・カンパニーとやらが押しかけてきてカイザーが「ボクが存命なのがわかっていていい度胸だ! 侵略には侵略を返す!」なんて言い出して一触即発の場面を「ちょっと、この本の作者は私だよ! オンパロスの著作権はナナシビトにあるんだから、商売をしたいならまずマージンについて話し合ってから!」と相棒とナナシビトのみんながカンパニーとの間を取り持ってくれて戦争を回避したりと、まあ色々あった。ありすぎるのでここでは割愛する。
ともかくとして、オンパロスは開かれた銀河の一員となったらしく、今では天外の情報が以前よりもさらに簡単に手に入らようになった。
天外旅行
——
彼らの言葉では星間飛行だか跳躍だか言うらしい
——
はまだ民間人には提供されていないのだが、将来的には恐らく可能になるらしい。
「そーゆーわけで、列車に乗って一緒に開拓の旅に出ようよって前に言ったの覚えてる?」
僕の故郷のエリュシオンに丹恒と共にやってきた相棒は、なんとなく僕が断るのをわかっているような顔で口にした。そういえば、新生する直前、そんなやりとりをしていた。僕の望みはそれかもしれない、とその場しのぎの都合のいいことを言ったのを覚えている。
そういえば、と今になって思い出すくらいだから、本心でなかったのは明白だ。少し申し訳ないことを口にしたな、と考えていると、「ファイノンは開拓の運命は歩まないだろうなって思ったよ」と懐からなにかのチケットを取り出して言う。
「これは?」
「銀河旅行のチケット。アスター
……
ヘルタのパトロンにおねだりして小型宇宙船をレンタルしたの。パイロットもいるよ。お喋りなオムニックでちょっとうるさいけど、プログラムは確かみたい。それから船にはあんたたちオンパロス人のデータをコンバータする? 機械? ロジック? が搭載されてて
……
、丹恒、なんだっけ?」
ぼんやり麦畑を眺めていた丹恒に話を振った相棒の言葉を呆れ顔で引き継ぎ、丹恒が簡単に言えば、と口を開いた。
「お前たちデータ生命体のオンパロス人が銀河で侵食や汚染の危険に晒されず、どの星でも問題なく旅をできるような仕組みが搭載されている。そう理解してもらって構わない」
「えーと
……
、つまり僕に、天外旅行に行ってきたらって言ってる?」
「そう。オンパロスを救った英雄のみんなに、何かプレゼントがしたいと思って。と言ってもまだファイノンにしか思いついてないから、他のみんなは追々」
チケットを受け取り、展開についていけない、と混乱していた。
オンパロスが平和になった今、僕は年に数ヶ月ほど村を空けて、オンパロスのどこかを旅してから帰郷し、村の子どもたちに旅の間に手に入れた品を見せたり、冒険話を聞かせたりしている。週末にはそんな品々や骨董品を村の人たちに説明して商売をしたり、海路でオクヘイマに向かい、シタロース先生に買い取ってもらったりと平和で充実した日々を送っていた。その旅先の候補に、どうやら天外が含まれたらしい。
「そういえばエリュシオンに来る前にクレムノスに行ってきたんだ。モーディスは王様だから、ファイノンと違って簡単に旅行に行けないかなと思って。案の定『誘いは嬉しいが忙しくて無理だ』って断られちゃった」
クレムノス、と言う単語に、心臓が大きく跳ねた。話題にならないよう、余計なことを口にしないと意識していたせいかもしれない。
「へえ、まああいつはいつも忙しそうにするのが得意なんだよ。僕と顔を見合わせるたびにそんなことを言ってくるからね」
相棒は僕の反応に「ふーん」と悪い顔をして腕を組む。その様子に、隣の丹恒が溜め息をついた。
「ファイノン、まだモーディスに告白してないんだって?」
「
………………
」
何を言ってるんだ? と反射で返せなかったのは、まさか相棒の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったからだ。そもそも彼女にはモーディスとのことをそれほど話した覚えがない、
……
筈だ。多分。
「もしかしたら隠してるつもりだったかもしれないけど、そもそもキュレネが残してくれたエピソードを補完したのが私だから、全部知っちゃってるんだよね」
そう言って相棒は分厚い本を取り出し、「えーと、栞を挟んだ筈なんだけど」と本をめくっている。内容は物凄く気になるが、読んだら死にたくなるような予感がした。
丁重に確認を辞退すると、相棒は残念そうに本を閉じる。
「ともかく、これはペアチケットだから、誘うだけ誘ってみたら? ファイノンが誘ったらついてきてくれるかもしれないし」
「相棒、これは純粋な疑問なんだけど
……
」
「なに?」
「僕へのプレゼントって言ってたのに、どうしてペアなんだい?」
僕の疑問に、相棒も丹恒も同じように口を開けて呆れた顔をした。
「なのがここにいなくてよかったね
……
、いたら絶対ぎゃあぎゃあ言われてたよ。
——
そんなの決まってるじゃん。だってファイノン、モーディスがいないと幸せじゃなさそうだし」
そう言えば今まであいつと碌に通話をしたことはなかったな、と妙な緊張をしながらアドレス帳からモーディスを検索し、コールボタンを押す直前で悩む。そもそもどう誘えばいいって言うんだ?
やぁモーディス、元気してるかい。まあ君は元気がなくても元気だって言うだろうけどね。実は相棒から天外旅行に行かないかって誘われたんだけど、君も来ないか? 王様業は本当はご両親に任せられるんだろ? 君も羽を伸ばしたっていいんじゃないか。
——
微妙。
石板を卓上に放り出し、あー、と無意味な声を上げる。自分の意気地なしにちょっと嫌気がさしたからだ。
一年程前、僕はあいつのご両親に手土産を持って挨拶にまで行ったって言うのに、それ以上本当に何も進展していない。モーディスはクレムノスを去る僕に何か言いたそうな視線を向けていたが、「じゃあなファイノン」とあっさり僕に背を向けた。
多分、僕はそこで選択を間違えたんだろう。僕たちが変わるチャンスは恐らく、あの時にしかなかった。
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