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usagipai
2026-03-23 22:50:56
1345文字
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「あと何百年、ここにいるつもりだ。
もうここの核は壊した
――
用はないだろう」
低く吐き捨てるような声にも、スフィリアは振り向きもしなかった。
ただ、にこりと微笑んだまま、眼下の街を見下ろしている。
かつては穏やかな営みが息づいていたその場所は、今や見る影もない。
瓦礫に埋もれ、血が飛び散り、腐臭が風に乗って漂っていた。
命の気配はどこにもなく、ただ“終わり”だけが静かに横たわっている。
――
それを染め上げたのは、他でもないスフィリア自身だ。
それでも彼女は、まるで宝石でも眺めるかのように、その光景を愛おしげに見つめていた。
数十年。飽きることもなく、ずっと。
「
……
まったく」
サタンは肩をすくめ、小さく息を吐いた。
呆れとも、諦めともつかない声音だった。
だが次の瞬間、ふと気づく。
ああ、そういうことか
――
と。
この壊れ具合。
この完成度。
きっと、あの男に見せたくて仕方がないのだろう。
脳裏に浮かぶのは、ジュピターの顔。
視線を戻せば、スフィリアは相変わらず、少女のように目を輝かせていた。
無垢ですらあるその表情に、先ほどまでの怒りは、すっかり霧散してしまう。
「
……
好きにしろ」
投げやりにそう言って、サタンは背を向けた。
どうせ止めたところで、聞きはしない。
風が吹く。
血の匂いを運びながら。
その中でスフィリアだけが、ひどく幸福そうに笑っていた。
――
その日の夜。
静まり返った空間に、かすかな息遣いだけが響いていた。
「
……
う、ぅ
……
ぁ
……
ラウル、さま
……
」
浅く、途切れがちな呼吸。
眉を寄せ、小さく震えるその姿は、昼間の彼女とはまるで別人だった。
また、見ているのだろう。
あの日の光景を。
何度も、何度も
――
まるで呪いのように繰り返される記憶を。
救えなかった過去を。
手を伸ばしても届かなかった、あの瞬間を。
「
……
ちっ」
小さく舌打ちをして、サタンは身を寄せた。
人の姿ではない。
巨大な蛇の体をゆっくりとしならせ、逃がさないように、壊さないように、慎重に。
冷えきった彼女の身体を、包み込む。
まるで外界から切り離すように。
悪夢ごと閉じ込めてしまうかのように。
ひやりとした指先が、わずかに震えていた。
「
……
相変わらず、器用に壊れてんな」
吐き捨てるような声は、どこか柔らかい。
ゆっくりと締める力を強め、体温を分け与える。
かつての自分を思い出す。
柔らかく、小さく、ただ寄り添うことしかできなかった姿を。
「俺はもう、あの頃みたいな
――
ふわふわのうさぎじゃねぇ」
低く、静かな声が落ちる。
「けどな」
ほんのわずか、間を置いて。
「こうやって、お前を守れる今の体は
……
嫌いじゃない」
スフィリアの呼吸が、ほんの少しだけ落ち着いていく。
それを確かめるように、サタンはさらに身体を寄せた。
「だから
――
」
逃げ場を与えないように、優しく閉じ込めながら。
「もう、一人で抱え込むな」
名前を呼ぶ声だけが、わずかに柔らいだ。
「
……
スフィー」
夜は深く、静かに沈んでいく。
悪夢の中でさえ。
彼女が完全に独りにならないようにと、守るものがそこにあった。
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