みずあめ
2026-03-23 19:02:23
1951文字
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ゆづあい

ゆづるとこうくんで誕生日の話(あいさんはいません)

「てかさ、今日誘っちゃってよかったの?」
「?」
いつも行くラーメン屋ではなく、軽くお酒も飲めるオシャレなごはん屋さんで、俺の向かいに座ってピザを食べていた恋くんがちょっと心配そうな顔をしてそう言った。フォークに巻いたパスタを口に運びながら「なんで?」と言うように首を傾げれば、苦笑した恋くんはふと視線を逸らし、うーんと曖昧に笑ってもう一度俺を見る。
「だって今日、由鶴の誕生日じゃん」
「うん?」
「だから、へーか、由鶴のこと予約してると思ってダメ元で誘ったんだけど」
突然出てきた逢さんの名前に、俺は咀嚼していたものを慌てて飲み込んだ。俺と逢さんが付き合っていることを恋くんは知っていて、だけど踏み込まないように気をつけているのか直接そういう話をしたことはほとんどなかった。きっと今日は気を使ってくれているからこそ逢さんのことを言い出したんだろうけど、仕事と関係のない流れで恋くんから逢さんの名前が出てくると焦る。わざと切り替えているつもりはないけど、友達と恋人に見せる顔はたぶん違うから。
俺は一瞬で逢さんのことでいっぱいになってしまった頭を左右に揺らして振り払い、いつも通りを意識して恋くんに視線を返した。
……えっと、逢さんは今日、仕事があって」
「あ、もしかして残業して待ってた?」
「ううん、遅くなるから先に帰れって言われたんだ。だから今日は会う約束してないよ」
「えー、誕生日なのに?」
「今度予定が合う時にごはんに連れて行ってくれるって。それに、……ナイショだよ、昨日、ちゃんとお祝いしてもらったから」
……なるほどね。ふーん。でもやっぱり今日も陛下は由鶴との時間欲しかったと思うけどな〜。てか、あれだよね、由鶴も終電逃すつもりで残業してたか。俺、空気読めてなかった?」
「ちがうちがう! 全然そんな、……いや、その、たしかに残業してたのはわざとなんだけど、それは帰って一人になるよりはと思って残ってただけで、だから恋くんが声かけてくれて嬉しかったよ、本当に」
もにょもにょと煮え切らない口調で言い訳を紡ぎ、数時間前の自分の邪な考えを誤魔化す。
だって恋くんが言ったことは全部そのまま、正解で。人からハッキリと言われるとあまりに自分勝手で恥ずかしくなる。逢さんは遅くまで仕事をしているのに、俺はあわよくば泊めてもらおうだなんて下心でぐだぐだと残業をしていたなんて。
「そ? ならいいけど。あ、じゃあさ、二軒目、もっと飲めるとこ行っていい?」
「飲めるとこ?」
「由鶴酔っちゃったからお迎え来てくださーいって陛下に連絡してあげるよ」
「え!? そんなのダメだよ、逢さん仕事で疲れてるだろうし、俺なんかが面倒かけちゃ」
「大丈夫大丈夫、あの人由鶴のこと好きすぎだから全然面倒だなんて思わないって。誕生日に恋人と過ごせなくてヤケ酒してましたよーって言ってあげるから」
「恋くん……!」
俺をからかっているだけだと分かっても、思わず動揺して椅子から腰を浮かせると、恋くんは焦る俺を見て楽しそうに笑い声を上げた。
「あははっ、それは冗談として。適当に飲んでさ、ちょっと勇気出たら迎えにきてって連絡してみなよ。会いたいでしょ、由鶴」
……それは、でも」
「会いたい時に会いたいって言っていいんじゃない? 誕生日くらいワガママ言ってもバチ当たらないでしょ」
……、無理だって言われたら、本当にヤケ酒に付き合ってくれる?」
「朝までだって付き合いますよ」
茶化すように言うけれど恋くんは本当に朝まで付き合ってくれる人だって知っているから、俺はすとんと椅子に座り直して息を吐いた。
誕生日なんてただ一つ年齢を重ねるだけで、今さら特別な何かを求めてなんかいなかったのに、Aporiaに来てから毎年これでもかってくらいたくさん祝われて自分の誕生日も少しだけ大切に思えるようになっていた。誕生日だからってワガママを言っていいとは思わないけど、いつもよりちょっと勇気を出すにはぴったりの日かもしれない。
……俺、恋くんと出会えてよかったなあ」
「おっと、そういうのは逢さんにどうぞ。俺はあの人のヤキモチまで面倒見るのごめんだよ」
「あはは、了解。ありがとう」
「誕生日だから、特別ね」
ふふっと笑う恋くんにもう一度ありがとうと伝え、鞄の中にしまっていたスマホを取り出した。約束をしていないのだからもちろん逢さんからは何も連絡はない。そろそろ逢さんも仕事を終わらせているだろうか。簡単には酔わないタイプだけど、お酒を飲んだ勢いで連絡をするくらいはできるかもしれない。
俺の誕生日が終わるまで、あと数時間。好きな人に一秒でもいいから会いたいなんてワガママな心を、今日だけは認めてあげてもいいのかな。