サブ者さん
2026-03-23 16:01:49
1588文字
Public RhythmDoctor
 

幕間

※ネタバレ注意。本編クリア後の描写を含みます。
全てが終わった後のある日、珍しく弱気になったエデガと、偶然見舞いに来ていたマークさんの話。

昼下がりのミドルシー病院。
木の葉のそよぐ音と共に、陰になった廊下を歩く。

その向こうに、見知った姿が見える。
やや俯いた彼は僕に気付くと、一瞬立ち止まったあと足早に近付いてきた。

どこか曇った顔が映り、思わず息が詰まる。それでも、なんともないように振る舞って名前を呼んだ。
「やあ〜ガブリエル!貸した本、どうだっ──

言い終わらないうちに、彼は僕にぶつかる寸前まで歩いてきて、顔色ひとつ変えずに寄りかかってきた。

彼は一体何をしようとしているのだろうか。
頼んでもいないのに、動揺が隠せなくなってきたことを心臓が知らせてくる。

突然2倍になった体重を支えようと必死になりながら、ぎこちない笑顔で話しかけてみる。
「おお?どうしたんだ、仕事に疲れでもしたか?」
ガブリエルは僕の背に軽く片腕を回したまま、何も答えない。

少なくとも、自分が何か彼の機嫌を損ねるようなことをしたわけではないらしい。
心に構えた盾を降ろすと、その余白に心配が顔を出した。
気を落とすようなことでもあったのか?」
何かを言いかけた彼の呼吸が、徐々に乱れ始める。

。」

「どうして泣いてるんだ?」

彼は息を殺すばかりで何も答えない。
何があったのか知りたくても、他人の心を読むことなんてできない。それが彼のものとなればなおさらだ。

しかし、待つのを諦めようかと思うほど長い沈黙の後、震える声が呟いた。

………分からない。」

久しぶりに聞いた、不明瞭な言葉だった。
いつからか、君は完璧な人間になっていたから。
『分からない』だなんて、まるで

僕みたいだな、今日の君は。」
自嘲にも近い笑いがこぼれた。

昔の面影が覗いたガブリエルは、僕の肩に頭を乗せ、一言ずつ胸の内を晒し始めた。

「今日は起きてからずっと、耐えがたい不安を感じている。もし君が来なかったら私は病床の上で、延々と苦しんでいただろう。情けないことだ。」
雨に降られたように、肩が濡れていく。

君の前で言うことではなかったな。君は私よりもずっと長く苦しんできたというのに。」
「ははっどうすればいいかなんて、いくら苦しもうが分からないよ。」

それでも、冷えた心を温める方法だけは知っている。

「僕にできることはこれぐらいしかないけど。」
目を閉じて語りかける。どんなやり方でも、君が分かってくれるならそれでいい。

大丈夫だと自分に言い聞かせた後

沈む身体を、できる限りしっかりと抱きしめた。
君がしてくれたように。

返事の代わりに、僕は抱き寄せられた。

しゃくり上げる背中を優しく撫で続ける。
永遠にも思える時間が過ぎるごとに、涙を堪える声が小さくなっていった。

---

ガブリエルはほとんど落ち着いた様子で、安堵を含んだ溜息をつく。

肩を濡らしてしまったな。」
「構わないよ、そんなこと。君の好きに泣けばいいんだ。案外そのほうが楽になるだろ?」
僕を眺める眼差しに向かって、困り顔で笑ってみせた。

もう一度だけ抱擁を交わした後、互いに自分の足で立つ。

ありがとう。」
いつからか聞かなくなってしまった言葉が、ようやく返ってきた。

ガブリエルは穏やかな表情で、くるりと踵を返す。
僕はそこでやっと本題を思い出して、去ろうとする背中を慌てて呼び止めた。
「待った!まだ君から本の感想を聞いてない。折角貸してやったんだから、言わずに帰るなんてのは無しだぞ。」

足を止めて振り返ったガブリエルは、大げさに身振りをする僕を見たかと思うと、顔を綻ばせて楽しげに頷いた。
「ああ、そうだったな。ここだと邪魔になる。私の病室で話そう。」

涙を拭うように、窓からは心地よい風が吹く。
2人並んで歩く廊下は、かすかな陽光に彩られていた。