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最果て(棚樫オーハ)
2026-03-23 13:23:22
3791文字
Public
類司
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ぴょいっとだきしめて
ショート動画撮影後の🎈🌟。
🐰衣装のままいちゃつくだけの話。
ぴょいっとだきしめて
動画を見て、司はニッと笑った。
「良い“出来”ではないか⁉ えむと寧々のダンスとはまた違った良さが出ている気がするぞ‼」
「そうだねえ。えむくん達は可愛らしさに溢れていたけれど、僕らのはダイナミックさもある。
二つの動画を比べる楽しみも味わって欲しいね」
「オレたちの“格好良いポーズ集”もキマってるしな」
衣装の着替えもせぬまま更衣室のベンチに並び、類のスマホを覗き込む。
画面の中の二人は、ピョコピョコ手を動かし、ピョンピョン跳ねている。この二人は楽しそうだな、一緒に踊りたいな、なんて思えてしまうくらい、弾むような楽しい仕上がりになったと思う。踊っているのは自分たちであると言うのに。
何度目かの再生。同時に手を出し合って、司が手を取るシーンを見て、そう言えば
……
と口を開く。
「まさか、お前まで手を差し出すとは思わんかった
……
」
「手を取ってくれてありがとう、司くん。
きっと応えてくれると信じていたよ」
「
……
まあ、お前の無茶振りには慣れているしな」
流れ続けていた動画は、再度そのシーンを映し出す。両手を上げて、くるりとターン。流れるようなダンスだ。差し出された手を躊躇いなく取ってしまうほど。
短い動画は何度も繰り返して流れるため、段々とそのリズムが中毒性すら生んできた。座ったまま、リズムに合わせて上半身をルンルン揺らし、時折二人で目を合わせて笑う。
「何だか、身体が自然とリズムを取ってしまうな」
「練習含めて何度も踊っていたしね」
微笑んだ類が、拳を握って胸の前へ。マラカスでも振るようにブンブン。司もそれにあわせて拳を握り、ポコポコと振る。それだけで、ハハハと笑ってしまう。
──コンコン。
ドアのノック音。しまった、そう思った時にはもう遅い。司は立ち上がって、急いでドアへと近付いた。
「司、類ー。随分遅いけど
……
」
「すまん‼」
急いでドアを開けると、きょとんとした寧々とえむの顔。
「あれ〜? 司くんも類くんも、まだウサギさんだね」
「もう
……
まだ着替えてなかったの?」
「う
……
。撮った動画を確認していたら楽しくなってしまってな
……
。
オレたちは着替えもまだだし、先に帰っていてもいいぞ?」
寧々とえむは顔を見合わせて、んーと考えるように唸った。
「まあ時間は
……
──」
言い掛けて顔を上げた寧々が、ハッとしたように一瞬目を開いた後、深くため息を吐く。司は違和感を覚えるも、寧々とえむはすでに背を向け始めていた。
「そうだね、えむと先に行ってる。行こ」
「司くんも類くん、またねー‼」
「気を付けて帰れよーー‼」
それぞれ別れの挨拶を言い合って別れて、ドアを閉めてから、さて、と向き直った。
「オレたちもそろそろ着替えなくてはな。いつまでもわんだぴょいしている訳にもいかんしな」
「そうかい? 僕はもう少し、わんだぴょいしていたいのだけれど
……
」
ドアを背にした司に、ほとんど覆い被さるように類が立っていた。
近い、近すぎる。鼻先が触れそうなほどの至近距離。上気した頬で、うっすら笑うような目が更に距離を詰める。
「おい
……
っ」
咎めるような言葉を出したいはずなのに、声にはどこか甘さが混じる。鼓動はリズムを速め、薄い手袋に覆われた指先が熱を持ち出し、宙を掻く。類の大きな手がそれを掴まえて握り、抵抗の間もなく唇が重なった。
「
……
ん──」
音もなく唇がずれて、また重なって。軽く食むように開いて、挟まれて。心地良さにうっとりと力が抜け、凭れたドアがガタンと鳴った。
そうだ、後ろはドアだ。更衣室でこんな事を
……
早く帰らなくては──脳の端はそう思っているはずなのに、唇を求める心が止まらない。
ゆっくり離れた薄い唇から「司くんの耳って、可愛いよね」そんな呑気な一言が出てきた。
「耳?」
その言葉は火照ったままの身体にぼうっと流れてきて、意味を認識しない。みみ
……
耳
……
頭の中で繰り返すものの、耳なんてあったか? などと意味不明な事を考えてしまった。もちろん左右に耳は付いている。
「耳だよ。僕の衣装は大きなウサギ耳。司くんのはリボンのような小さな耳だね」
類の手が頭に伸びてきて、司の頭に付いている飾りへちょいっと触れた。
「ああ
……
耳
……
。そうだな、類のは動物のような耳だもんな」
両手を伸ばして衣装のカチューシャに触れようとする。察した類が、触りやすいように膝を曲げたため、両方の指でちょいちょい触る。ふわふわの耳だ、外側はわたっぽく、内側はビロードを思わせるしっとりした心地だ。それが百八十cmオーバーの男の頭に付いていて、似合っているのだから驚きだ。
(まあ、類は可愛いからな
……
)
ベッドに二人で横たわる姿を思い浮かべる。愛おしむ目で司を見て、気恥ずかしそうに微笑む。撫でるとフフッと笑い、触れると嬉しそうに目を細める。それを可愛いと言わずして、何と言うか。
誇らしい気持ちになると同時に、浮かべたイメージが裸だった事に、急に焦りを覚えた。
そうじゃない。裸体を一度脳の引き出しにしまう。“可愛い瞬間”は他にもあるのだ。例えば出来上がった装置をニコニコと見せに来る時や、朝学校で司を見つけて駆け寄ってくる時。徹夜明けのポーッとした姿だって可愛い。無論徹夜での作業など推奨はしないが、とろんとした目で司に身体を預け、うとうと眠ってしまう姿は、やはり可愛いと言わざるを得ない。
「司くん、百面相をしてどうしたんだい」
ハッとしたり、頬を染めたり、にやけたり。自分でも気づかぬ内に顔に出ていたらしい。
「はっ
……
⁉ い、いや、何でもないぞ‼」
「ふぅん
……
?」
もにもにと耳を触っていた手を離して、急いで下ろした。
先ほど裸体など想像してしまったせいで、至近距離に迫る類の首が妙に艶かしく思えてくる。衣装のブラウスが襟高のため、然程見えていないのが幸いだ。肩のラインまで見えていたら、司の全身はもっと火照っていただろう。
「さ、着替えて帰るか」
誤魔化すように一言。類の横を抜けようと踏み出すが、目の前の男は退く様子が無い。
「耳を触らせたお礼、貰ってもいいかい?」
「
……
何を言ってるんだお前は」
それどころか、ずいっと更に迫ってくる。またキスだろうか、あまり何度もされるとこちらが保たないのだが
……
──それでも拒否をしたい訳ではない。瞼をきゅっと閉じて待つと、不意に耳元を空気が掠めた。
ぺろ
……
「ひ──⁉」
耳介に舌が這う感触。次いで耳を舌で塞がれ、閉塞的な水音が脳に響く。音に惑わされながらも、ぞわぞわした感覚が全身を撫でる。行き場を失った手は数度もがいて、類のロングジレを掴んだ。
類の手が司の腰に回り、ぐっと引き寄せられる。包まれた感覚が心地良く、うっとり身を任せそうになったが、流されまいと口を開いた。
「や
……
め
……
っ、るい‼」
「耳、可愛いね」
舌のぬるりとした刺激にも、切なさを含んだ声にも、ゾクゾクさせられる。痺れるような刺激は下腹部に熱を齎し、たまらなくなって下半身をもぞもぞ動かす。
──もう、無理だ──司はジレを掴んだ手を一度離し、類の腰へ腕を回してぎゅっと抱き着いた。勢いで耳への刺激が止んだが、耳朶はじんじんと快感の余韻を残す。
「たんまだ! 類っ‼」
纏わり付く甘さを振り払うように言ったが、思ったよりも大きな声だったらしい。類は薄い笑みのまま、くらっと足を一歩下げた。
「すまん」
「ふふ、司くんは元気だね」
類は、下げた足を戻しながら、司の身体を両腕で包んだ。司は胸の中に頭を埋めて、弱く擦り付け、上がってきた類の手が、埋まった頭を撫でた。
ドアを背に、大人しく撫でられていた。
手のぬくもりが気持ち良い、撫でる弱さが心地良い、類の胸板が満たされた気持ちにさせ、時折聞こえる呼吸が愛おしい。
「
……
大きいウサギ耳ではなくて良かった」
「司くんにも似合うと思うけれど」
「ん
……
そうでは無くて、だな」
顔を上げる。
見下ろす金色の瞳に胸の内を見透かされているような気がして、口を結んだ。このまま視線が合っているのも気恥ずかしい。ドアの外を気にする素振りをして、なんとか視線を逸らす事に成功した。
「こうして
……
その
……
あ、甘えるような事が、出来んだろう」
見えてはいないがたぶん、類は一瞬瞳を丸くしただろう。それからすぐ、口をもにょりと結んで笑う。きっと、そうしたのだ。
逸したはずの目に類の顔がフレームインしてきたと思うと、もう一度唇が重なった。
「
……
じゃあ、しばらくこうしていようか」
「うむ
……
」
自身の顔も火照って熱いが、響いてくる鼓動も心なしか速い。
ああ、そうか──蕩けていく思考の中、ダンスの途中に差し出された大きな手を想う。
類だからすんなりと手を取ってしまったのか、類だからあんなアドリブを入れてくるし、類だからそれに応えたいと思ってしまう
……
。
しばらく衣装を着替えられそうにないな──などと呑気に考えながら、リボンとフリルのついた可愛らしいブラウスに、もう一度頭を埋めた。
─END─
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