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のたり
2026-03-23 08:47:07
805文字
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hrsz
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心拍音
桐谷さんのある意味特別な時間
「遥ちゃん、おまたせ」
とん、と小さな音を立てて、マグカップが私の右側に置かれた。たとえばここが教室や普段のモアモアハウスだったら聞こえなかったような小さな音。
「
……
うん」
そのマグカップを手元に引き寄せる。ーーあたたかい。それはただ事実として私の中にあった。
「ありがとう、雫」
自然に出た私の言葉に雫は微笑む。
マグカップを持ち上げる。口元にあたる湯気の温度はちょうどよくて、安心してそのまま口に運んだ。自分の体温より少し熱くて、でも身体が歓迎して取り入れていく温度。
雫も自分の分のマグカップを置いて、私の隣に座る。下に垂れた横髪を後ろに流して、雫が顔を上げて一息つく。
静かだな、と思った。今日は風もなくて、風鈴の音も葉擦れの音もしない。
マグカップを少し離して置いて、そのまま後ろに倒れるように寝転がった。丸まっていた背中が伸びて、視界が木の天井で埋まる。
「
……
やっぱり好きだな、ここ」
ぽつりと無意識に呟いた独り言に、雫が目を細めた。
「遥ちゃんのおうちにも縁側があったらいいのにね」
そうしたらいつでも縁側で寝転がれるわ、と雫が続ける。
「
……
うん
……
」
そうだね、と言いかけて、そうじゃないな、と否定の言葉が浮かんだ。そっと目を閉じる。静かで、時折おこる小さな音が特別なもののように耳に届いて、私を包むすべてが優しくて、触れていないのに隣に感じる気配と体温。
「
……
雫がいないとだめだから、家にはいらないかな」
雫が少し、息を呑んだ気がした。目を開いたら、私を覗き込む雫が見えた。
「
……
」
無意識に両手を広げて伸ばしていた。雫を抱きしめたい。雫に抱きしめてほしい。そう思っていたことがわかったのは、雫が私に覆い被さるように身体重ねてくれた後だった。
とくん、とくん、と小さな音が響いてくる。
雫、と心の中で囁く、それすら雑音に聞こえるくらい、雫の心拍音が心地よくて、また目を閉じた。
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