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葵
2026-03-22 20:28:50
1892文字
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りゅうみこ
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君の夢路よどうか穏やかであれ/頼灯
夢見が悪い灯を癒してあげたい頼朝の話です。ちょっとシリアス寄りかも。
夜は一日で最も無防備になる時間帯だ。寝首をかくということわざのとおり、敵の命を奪うにはうってつけの頃合いだろう。
桜霞の世界で生き延びるため、私
――
俺は、いつ何時敵襲に遭っても迎え撃てるよう、枕元に太刀を置いて眠ることが常になった。また、必然的に眠りも浅くなり、些細な物音でも目が覚めるようになっていた。
龍神の庇護下にある龍宮の、殊更に安全を担保されている休み処であってもそれは相変わらずで、手の届く場所に太刀を置き褥に横になった。
今宵は大切な想い人の眠りを守る役を仰せつかったため、より気が抜けない。浅瀬で揺蕩うように微睡んでいたその時、不意に衣擦れの音が耳に届き、たちまち意識が覚醒する。
弾かれたように目を開くと、苦しげに眉根を寄せる灯の顔が視界に飛びこんできて、俺は息を呑んだ。
「いや
…………
に、しな
……
で
……
」
「灯
……
灯!」
消え入りそうな、悲痛な声音が耳朶に触れる。
何かを耐えるように胸元でぎゅっと握り込まれた拳を手のひらで包み込み、堪らず灯の名を呼ぶ。
そうすれば俺の呼びかけに応えるかのごとく、灯の睫毛が微かに震えた。
「
――
っ!? ゆう、まさん
……
?」
「ああ、俺だ」
見開かれた瞳が、俺を認めるなり安堵したかのように細められる。
焦りが浮かぶ俺の顔を映す透き通った双眸は涙で濡れていて、彼女が夢の中で余程恐ろしい目に遭ったのだと思うと胸が痛んだ。
「すまない。うなされていたようだったから起こしてしまった」
「いえ、私のほうこそすみません」
気が咎めたように、灯が眉を下げる。俺の眠りを妨げてしまったと、己を責めているのだろう。
彼女のせいではないのだと伝えるべく、固く握ったままの拳を解かせ、絡めた指先は長いこと水に浸した後のように冷えていた。
悪夢を見た直後は、心への負担が大きい。それでも気丈に振る舞おうとする灯の姿が痛ましく、俺は思わず繋いだ手に力をこめてしまう。
「お前が謝る必要はない。
……
悪い夢でも見ていたのか?」
言葉と仕草で胸のうちを告げれば、強張っていた灯の表情が緩む。だがそれも束の間、続けて投げかけた問いに、途端に彼女の視線が泳いだ。
「え
……
っと、よく覚えてないんですけど多分、怖い夢だったんだと思います」
(
……
やはり、まだ言えないのか)
喉元まで出かかった言葉を呑み込み、俺は目を伏せた灯の顔にそっと視線を送る。
――
灯はきっと、彼女自身の過去にまつわる何らかの秘密を抱えている。
想いが通じ合って以来、互いの考えや思い出を分かち合ってはきたが、灯がそれに触れたことはない。そして、俺以外の者が彼女の
誰にも打ち明けられないということはすなわち、相当根が深い要因
――
例えば悲しい記憶
――
が紐づいている可能性が高い。だから、無理やり口を割らせるような真似はしたくない。
(だが
……
お前が夢に怯えている時に、俺は隣にいることしかできない)
悪夢を見る原因を知っていれば、灯のために他にできることもあっただろうに。歯がゆさで、胸が苦しい。
灯は俺がこれまで押し殺してきた感情を丁寧に拾い上げ、嫉妬といった決して褒められるものではない気持ちすら大切に慈しんでくれる。そして
――
俺の秘密を共に背負い、『本当の俺』が帰る場所を与えてくれるのだ。
俺が灯に返せるものは、まだ少ない。だとしても今この瞬間、俺にできること
――
最愛の人から悪夢を遠ざける手助けを、したかった。
衝動的に込み上げてきた思いのまま、俺は繋いだ手とは反対のそれを灯の背に回し、ぐっと抱き寄せる。すると、突然のことに驚いたように目を瞬かせる彼女と間近で視線が重なった。
「悠真さん!?」
「灯、どうかお前の眠りを俺に守らせてくれ。
――
もう怖い夢など見せたくないのだ」
美しい両の瞳をじっと見つめ、繋いだままの指先に希うように口づけを落とす。
祈りか、あるいは誓いか。真情を載せたまなざしを注いで灯の答えを待っていると、泣き笑いのような表情を浮かべた彼女が、縋りつくように俺の肩に頭をすり寄せた。
「ありがとうございます
……
っ」
くぐもって聞こえた声は、微かに震えている。それに気づかないふりをして、俺は労わるように灯の柔らかな髪を梳く。
そうしているうちに、腕の中にすっぽりと収まっている灯の身体からふっと力が抜けた。ほどなくして耳に届いた規則正しい寝息に、俺は胸を撫で下ろす。
「
……
おやすみ、灯。良い夢を」
次に彼女が見る夢は、どうか幸せなものでありますように。切に願いながら、俺は再びまぶたを下ろした。
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