Meguri_sumi
2026-03-22 20:15:57
2389文字
Public
 

同棲おみたすが宅飲みしながらイチャイチャする話

フルブル37の無配

「つまみ、何か追加しますか?」

 ふと見たローテーブルの上、並んでいる皿がすっかり空になっていることに気づいて、臣は隣に座る丞に尋ねた。

「いや、もういいだろ。映画もそろそろ終わりそうだしな」

 丞も臣と同じように空の器が置いてあるテーブルに視線を落としたが、そう言うとすぐに視線を正面のテレビに戻した。画面に映っているのは、ちょうど一年ほど前に上映されて話題になっていた恋愛映画だ。

「わかりました。酒はまだ飲みますか?」
「そうだな……もう十分飲んだ気はするが。お前はまだ飲むのか?」
「俺はこれ飲んだら終わりにします」

 半分ほど中身が残った缶チューハイを手に臣が答えると、丞が「じゃあ俺もこれで終わりにする」と飲みかけの缶ビールを口にした。二人の前には、今飲んでいるもの以外にもすでに空になったビールやチューハイの空き缶がいくつか並んでいる。

「たまにはこうやって家でゆっくり飲むのもいいですよね」

 二人で酒を飲む機会はそれなりにあるが、いつもは居酒屋やバーなど、外に出て飲むことがほとんどだ。今日は、たまには宅飲みもいいかもしれないと思って近所のスーパーで酒やつまみの材料を買い込んできた。夕食の後、いつも食事をしているダイニングテーブルから場所を移して、テレビ前のソファで晩酌を始めたのがもう二時間ほど前になる。

「ああ、そうだな」

 丞の返事がどこか気のないもののように聞こえて、臣はちらりとその横顔を見た。丞の視線は放映中の映画に向けられている。晩酌を始めた時、テレビをつけたらちょうどその映画の放送が始まるところだった。二人とも見たことがない作品だからという理由でそのままなんとなく流し見し始めた映画だったが、思っていたよりも丞はそれに夢中になっているようだ。
 臣は何の気なしに、丞の横顔をそのまま眺めた。丞は臣に見られていることには一切気づかず、真剣な表情で映画を見続けていた。視線は正面のテレビに向けたまま、時々手元の缶ビールの中身を煽る。特別変わったことをしているわけではないのに、たったそれだけの仕草でもやけに様になって見えた。

「なあ、ラストのシーンどう思った?」
「え?」

 突然、ずっとテレビ画面を凝視していたはずの視線が、臣に向けられた。丞が何を言っていたのか、一瞬理解ができずに固まってしまう。テレビを見ると、すでに映画はエンディングを迎えていたようで、今はコマーシャルが流れているところだった。

「見てなかったのか?」
「あ~……丞さんに見惚れてて」
「はあ? お前、結構酔ってるのか?」

 適当に誤魔化せば良かったのだが、つい正直に答えると、丞は臣を見つめたままわかりやすく顔を顰めた。
 全く酔っていないと言えば嘘になるが、一応はセーブして飲んでいたつもりだ。自分の酒癖の悪さは自覚しているので、宅飲みで気が緩んで丞に迷惑を掛けないようにしようと気は遣っていた。

「くだらないこと言ってないで、飲み終わったならもう片付けるぞ」

 丞は呆れたように言うが、臣が見惚れていたのは事実だ。丞が言うほど酔っているつもりはないし本気でそう伝えたのだが、適当にあしらわれてしまって、少しは照れてくれてもよくないかと拗ねた気持ちになる。

「丞さん」
「あ、おい……!」

 臣はテーブルの上に散らかっている空き缶を片付けようとしていた丞の腕を捕まえると、その腕を引いて丞の身体を自分の方へと抱き寄せた。アルコールのせいで少し赤くなっている首筋に唇を押し当てると、丞が腕の中でぴくりと身体を跳ねさせた。可愛らしい反応に気を良くして、耳元に熱い息を吹きかける。

「っ、おい、やめろって」
「ん~?」

 丞は臣の肩を弱々しく押し返してくるが、聞こえていないふりをしてそのままもう一度その首筋にキスを落とした。酔っていると思われているなら、そのままそれを利用してしまえばいい。

「たまには、このまま夜更かししてもいいと思いませんか?」

 耳元で囁くと、臣の肩を押し返す丞の力が明らかに弱まった。思っていたよりもあっさりと止んだ抵抗に、臣は首を傾げて丞の顔を改めて見た。臣にまっすぐ見つめられた途端、丞はふいとその顔を背けた。

……それは別に、“たまに”でもないだろ」

 小さな声で呟いた丞の横顔は、真剣な眼差しで映画を見ていた時とは打って変わって、やけに可愛らしく見えた。
 気恥ずかしさを隠しきれていないが、その表情を見るにどうやら丞も満更でもなさそうだ。思ったよりも酔っているのは、丞の方だったのかもしれない。それとも、臣はあまり真面目に見ていなかったから内容がよくわからないが、さっきまで見ていた恋愛映画にでも感化されたのか。しかしどちらにせよ、臣にとって都合が良いことには変わりはなかった。

「ベッド行きます?」

 尋ねると、ようやく丞の視線がまっすぐ臣を捉えた。その目は迷うように少しだけ揺れたが、意を決したように一度まばたきをした後、今度は丞が臣の腕を引いた。

……ここでいい」

 静かに紡がれた言葉に、臣は微かに目を見開いた。聞き間違いかと思ったが、丞はしっかりと臣を見つめたまま、その場から動く気配がない。臣が黙ってその視線を受け止めると、もう一度、丞が口を開いた。

……たまには、な」

 少しだけ目を細めて微笑んだ丞の表情を見た瞬間、臣の中で小さく燻っていた熱が一気に弾けた。衝動のままに丞を押し倒すと、その身体はあっさりソファの上に沈む。結局、酔っていても素面でも、臣はいつも丞に夢中だった。
 唇を重ねると、甘さと苦さが混ざった濃いアルコールの味がした。たまには、こんなキスの味も悪くない。
 二人の夜は、寝室から少し離れたソファの上でだんだんと深くなっていった。