roku
2026-04-10 21:00:00
2160文字
Public 松エジ
 

煙草味のキス【松エジ】

・いつも通り社プ
・松本が喫煙者
・ククvol.3開催に合わせて書いた松エジ

ベランダで紫煙を燻らせた松本の隣にやってきた沢北が問いかける。「松本さんタバコやめないんすか?」と。それはもう大きく不満を滲ませた表情で。
「まぁな」
「オレが嫌だって言ってんのに
手すりに置いた腕に、ぶすっと頬を膨らませた顔を埋め、恨めしそうに視線だけを送っている。
「そんなこと言ってもなぁ」
大学卒業と同時にバスケを辞めた松本は一般企業に就職し、酒と煙草を嗜むようになった。
酒は比較的強く、酔って記憶を失くしたことも、目覚めた隣に知らない女が寝ていたなんてこともない。美味い酒に出会えば恋人である沢北と一緒に飲むこともしばしば。酔った沢北を最後まで美味しく食べたことは数え切れない。
そんな酒とは相反して煙草を美味しいと感じたことはないが、日々業務に忙殺されストレスの多い環境の中でひと息つけるのが煙草を吸っている時間だった。もはや習慣化しているこれを今さらやめることができるとは思わなかった。
「だってキスまずいんだもん……
腕の中に埋まったままボソボソと不満を漏らす沢北に、「そうか。わかった」と煙草を灰皿に押し付けた。
「わかってくれたんすか?」
形のいいアーモンドアイをキラキラさせて表情を輝かせたのも束の間、松本から紡がれた言葉に思考が停止した。
「わかったからもうお前とはキスしない」
………は?え?ちょえ??」
部屋に入りソファに腰を下ろした松本は「そういうことだ」と目を細めた。
「はぁ?そんなこと言ってないじゃん!何でそんな極端なんすか!?」
騒ぐ沢北に松本は「キスしなくてもセックスはできるだろ」と口角を上げる。沢北はソファに置いてあるクッションを手に取り投げつけた。
「最低!!キスしないんならえっちもするわけないじゃん!!松本さんのばかっ!」
ドスドスと大きな足音を立ててリビングを出て行った沢北の背を眺めていた松本の口からフッと笑みがこぼれると同時に寝室のドアが勢いよく閉まった。
しばらく放っておくか。そのうち痺れを切らせた沢北から行動を起こしてくるだろ。
沢北のことをよく理解している松本は冷蔵庫からビールを取り出しテレビを観ながら缶を空にした。

信じらんない!!可愛い恋人が嫌がってんだからやめてくれたっていいじゃん!!
ベッドにうつ伏せた沢北は腹立たしい気持ちでいっぱいだった。憤りの行き場がなくて足をバタバタさせる。「もお!松本さんのばかっ!!!」と叫んだ声は枕に吸い込まれた。

◇◇◇

それから2日、3日と時は過ぎ、何もないまま1週間が経とうとしていた。ただ共に暮らしているのだ。もちろん普通に会話もすれば、軽いスキンシップもある。〝何もない〟というのはキスとそれ以上のことをしていないということだ。
キッチンに立つ松本の後ろからぎゅうっと抱きついた沢北。肩に顎を乗せ、含んだように恋人の名前を呼んだ。
「ねぇ、稔さん
「あ?」
沢北が松本のことを下の名前で呼ぶ時は、決まって甘えたい時だ。それに気づいていながら知らないふりをする松本は随分意地悪になった。
「こっち向いて」
「今コーヒー淹れてる」
「そんなのわかってますよ!そうじゃなくて!」
松本の手からケトルを取り上げコンロに置いた沢北は、松本の肩を掴んで身体ごと自分の方を向かせた。
「強引だな」
「無視するからじゃん!」
「無視はしてねぇよ」
「あ〜〜!もう!すぐああ言ったらこう言うんだから!」
ははっと笑う松本の頬を両手で挟んだ沢北はその唇をめがけて勢いよく顔を近づけた。
カンッと歯がぶつかったがそんなことお構いなしにキスを続ける沢北。どこか必死なその姿は松本の欲を掻き立てた。張りのある尻たぶを鷲掴みにし、沢北を引き寄せる。1週間分溜め込まれた熱量で大きく膨れ上がっている下半身をわざとらしく擦り付けた。
「ん、……
沢北から甘い声が漏れる。くちゅくちゅと舌が絡み合う音が互いから理性を奪っていく。松本が沢北のスウェットパンツの腰に手をかけたところで待ったがかかる。
「ちょっと待ってください!」
……なんだよ?」
ここまできておあずけを食らうのは拷問である。松本は怪訝な表情を浮かべ恨めしそうに沢北を見た。
「タバコやめたんすか?」
「嫌なんだろ?」
「えぇ、まぁ……
この1週間、沢北の願いを聞き入れ松本は煙草を口にしなかった。にも関わらず当の沢北はどこか納得のいかない表情を浮かべている。
「キスが不味いって言われちゃな」と呆れて笑う松本。
「言いましたし、健康面でも本気でやめてほしいって思ってました。だから嬉しいですけどけど
「けど?」
「こんなの松本さんとのキスじゃない!」
「あ?」
「松本さんとのキスは、タバコの味がしてまずいなーって思うけど、そこに大人の松本さんがいて、こう胸がきゅうってなるんすよ!」
「お前はオレにどうしてほしいんだよ!?」
そう言った沢北はサイドボードにしまわれている煙草を取り出し「今まで通りでいいって言ってんの!」と松本へ押し付けた。
「お前なぁわがまますぎんだろ
「知ってるでしょ!」
呆れる松本に悪びれることもなく言い放った沢北が煙草の味がしないキスに蕩けさせられるまで、あと数十秒――