匣舟
2026-03-22 08:58:26
3558文字
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セレナーデを待ち侘びている

冬リクで頂きました防寒具せずに雪遊びをしている相手に防寒具を着けてあげる数乱を書かせて頂きました。
リクエストありがとうございました〜🩵ྀི

 朝日が昇りつめ、忍術学園中を照らしていた太陽の光は時間が経つことにだんだんと鳴りを潜め、代わりに雲が空を覆い始めて雨ではなく大粒の雪が忍術学園に降り注いでいた。
 雪がちらちらと積もり始めると、いつも騒がしい一年は組の教室は団蔵の口から発した雪だ!と教室外にも聞こえるような声を出したことで、いつも騒がしい教室がもっと騒がしくなり、最早雪に視線を奪われて、窓のほうに一斉に集まって放課後の話をするは組のよい子たちを見た一年は組教科担当である土井半助は、キリキリと痛む胃を抑えながら、授業を進めさせてくれ、お願いだから!と嘆いたそうである。
 そのあとなんとか窓に目線を映してしまうよい子たちがいたものの、授業が終わる鐘を聞いたよい子たちは礼をし終えた後、一斉に雪が積もる庭へと飛び出した。担任である半助のその熱量でいつも授業を受けてくれればいいんだがなあ。という泣き言を聞くことなく
「乱太郎、くらえ!」
うわっ、きり丸やったな~!待て~っ!」
「待てって言われて待つバカがどこにいんだよ!」
 現在、雪がどんどんと降り積もる庭には一年は組の生徒だけではなく、たくさんの忍たまたちで溢れかえっていた。雪だるまを作る忍たまもいれば、かまくらを作っている忍たまもいるし、庭には下りずに縁側ではしゃいでいる忍たまをみている忍たまや先生たちもいた。
 乱太郎やきり丸を含めた一年は組のよい子たちは庭全体を使った雪合戦をしていて、二チームに分かれてどれだけ雪玉を当てられて服が湿ったり、鼻や耳が赤いかでチームの勝敗を決めているらしく、乱太郎は今、敵チームであるきり丸に雪玉を当てられそうになったところを交わして反撃している最中である。
 ちなみにチーム分けは、同室でじゃんけんをしあって勝ったほうと負けたほうでチーム分けがされている。乱太郎たちは三人であるけれど、しんべヱがこの頃風邪気味であるということで保健委員の乱太郎からゴーサインが出ず、仕方なく縁側から審判として勝ち負けの判定を行う係に任命されたのであった。
 そして決まったチーム分けは、勝ったほうが、伊助・団蔵・喜三太・兵大夫・きり丸に決まり、負けたほうが、庄左エ門・虎若・金吾・三治郎・乱太郎に決まったわけである。
 そんなわけで乱太郎はチームメイトであるみんなと声を掛け合いながら、敵チームに雪玉を投げたり避けたりをしている最中なのである。乱太郎は雪玉を作って、きり丸に向かって投げるがきり丸は軽々と交わしてしまう。次こそは……!と意気込んで雪玉を構える乱太郎に、雪玉を投げようとするきり丸。二人はニヤリと笑い合いながら、一気に距離を詰めて互いに雪玉をぶつけようとした瞬間だった。
「「うわあっ!!」」
 同じタイミングで声を上げて、乱太郎ときり丸は雪の中に倒れた。二人はしばらく何が起こったのか理解できず、目を見開いて沈黙してしまったが、すぐに自分たちが仲良くすっころんでしまったということに気がついて、恥ずかしさやら悔しさやらで、顔を見合わせて笑ってしまったのであった。
 二人が笑っていると、乱太郎のチームである三治郎が近づいてきた。三治郎は二人が雪に埋もれているのを見て、思わず吹き出してしまう。
「ぷふっ、乱太郎ときり丸ってば仲良くこけてるなんて、さすが、ずっと一緒にいるだけあるね。」
 三治郎は二人の様子をみて、雪の中でもお構いなしにくすくすと笑い続けた。乱太郎ときり丸は、少し気まずそうな顔になりつつも三治郎につられて笑うと立ち上がって、パタパタと雪を払ってから再び走り出すのであった。
 きり丸と別れて、三治郎と挟み撃ち作戦を立ててからまずは団蔵を狙おうか。と決まったので三治郎と別れてからみんなで作った雪の壁に隠れながら低姿勢で進んでいると、縁側のほうから乱太郎。と自分のことを呼ぶ声がかかった。声がかかったほうに振り向くと、乱太郎と同じ保健委員会の三反田数馬が手を振っていた。
 乱太郎は立ち上がり、数馬の方へ近づいていく。数馬は乱太郎に駆け寄ってきたのを見て、優しく微笑んで彼の頭の上に乗っていた雪を軽く払った。
「数馬先輩!」
「いつ見ても元気いっぱいだねえ、乱太郎。」
 数馬は乱太郎が雪の中にいたからだろう、鼻の頭や耳がほんのり赤くなっているのを見て乱太郎の鼻をつついた。乱太郎は擽ったそうに身を捩らせながら、えへへ。と照れ臭そうに笑った。
 その様子を見た数馬は、乱太郎が可愛くてたまらないというように柔らかい表情を浮かべながら頭を撫でているが、乱太郎の濡れている忍装束を見た瞬間に、数馬は苦笑してしまった。
「それにしてもよく忍装束だけでやってるよね、寒くないの?」
「確かにちょっと冷たいけど、雪遊びに夢中になると寒く感じないんです!」
 乱太郎のあまりにも純粋すぎる返答に数馬は思わず吹き出してしまう。でも乱太郎のことを見ると、カタカタと体が震えているのが分かった。今はアドレナリンが出ているから寒くないと錯覚しているだけで、きっと体は寒いのだろうと思った数馬は苦笑しながら乱太郎を見つめて口を開いた。
「それならよかった、でも寒そうだから乱太郎にだけ特別。これ、貸してあげる。」
 そう言って数馬は自分が着ていた半纏を脱いで、そっと乱太郎の肩にかけてあげた。乱太郎は突然数馬の半纏を渡されて目を丸くしていると、数馬はその間に持っていた手袋も乱太郎にはめていた。
 乱太郎は数馬にされるがまま、あっという間に彼がさっきまで身に着けていた格好をもらってしまい、思わず少し暖かくなった自分の両手を見つめてから顔を上げて数馬のほうを見ると、数馬は微笑みながら乱太郎の手袋を付けた両手を取って、手袋で少し暖かくなった彼の手を包み込んだ。
 その行動に乱太郎は思わずドキッとしてしまい、慌てて手を引っ込めようとするが、数馬はぎゅっと握ってくる。
「か、数馬先輩……?!」
 乱太郎は思わず顔を真っ赤にさせながら困惑するが、数馬は楽しそうに微笑むばかりで一向に手を離してくれない。どうしよう……。と思っていると数馬が先に口を開いた。
……ちゃんとあったかい?」
「え?はい、あったかいですけど数馬先輩は寒いんじゃ?」
ふふ、僕は平気だよ、乱太郎が寒くなくなることが一番大事だし。」
 同じ保健委員として、風邪にはかかってほしくないからね。そう言って乱太郎の両手を握ったまま、自分の額に添えてから優しい声音で囁いた。すると数馬はそのままゆっくりと乱太郎の指先に触れるだけの口付けを落とす。
 その一連の流れを見て、乱太郎は思わずぼんっと音が出るくらい顔を真っ赤にさせてしまった。数馬はその様子を見ながらクスッと笑って乱太郎の手を離す。
「さて、乱太郎。きみは、そろそろ雪合戦に戻ったほうがいいんじゃないかな?」
 数馬は悪戯っぽく笑ってから、ぽんと乱太郎の頭に手を置いて立ち上がる。そして乱太郎から一歩離れると、縁側からまた楽しそうに遊んでいるは組の生徒たちのほうへ視線を向けた。
 乱太郎も釣られるように数馬の視線の先を見ると、そこでは金吾ときり丸がまた雪玉を投げ合っていて、金吾の顔面にクリーンヒットしたのかきり丸が腹を抱えて大笑いしていた。
 きり丸の笑い声に悔しくなったのか金吾がさらに投げた雪玉は見事にきり丸に直撃して、今度は金吾がやり返しだ~!と叫びながらと楽しそうに笑っていた。そんな光景を見ながら数馬は呟くように言った。
また、みんなと一緒に遊んでくるんでしょ?ほら、おもいっきり楽しんできなよ。」
「はいっ!これ、お借りします!数馬先輩!」
「返すのは終わってからでいいからね〜。」
「はいっ!」
 乱太郎は満面の笑みを浮かべて、ぺこりと数馬にお辞儀をする。お辞儀をしてもう一度顔を上げた乱太郎の瞳には先ほどまでの照れたような表情ではなく、キラキラとした嬉しさで満ち溢れていて、それに加えてはにかんで数馬に笑いかけた。
 そんな乱太郎の表情に数馬も釣られて微笑み返すと、乱太郎はもう一度会釈をしてから足早にみんなの元へ行くために数馬を見ながら大きく手を振りながらその場を去っていった。
 その様子を数馬は目を細めながら見つめていた。数馬の口角が自然と上がってしまうのは仕方がないだろう。なんせ可愛い後輩であり、恋人だからだ。
(さあ、僕はかわいい恋人が半纏を返しにくるまでに温かい生姜湯をおばちゃんに貰ってこようかな。)
 そう思いながら数馬は食堂へと向かって足を踏み出す。かわいい恋人が半纏を返しに来た時に嬉々揚々と雪合戦の結果を報告してくれるのを想像しながら。