2026-03-21 22:00:48
1588文字
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umbrella

ヒュビビ17作品目
これよく考えたら、手をつないだ後どうやって傘を持ってるのか疑問なんですよね。
デッドエンドブッチャーよろしくヒューゴの背中からもう一本右手が生えてきたことにしておいてください。

「ん」
買い物帰り。帰路に着いていたビビアンは、頬につめたいものが触れて、おもわず足を止めた。頬をぬぐうと、指先に水滴がうつる。
「雨……
隣に立つヒューゴは、ショッパーをいくつか抱え、ぼんやりと頭上を見上げた。そうして立ち止まっている間にも、ぽつ、ぽつ、とコンクリートに小さなしみが出来ていく。
「今日は車じゃないんですから、急ぎますよ!」ビビアンが歩みを早めると、慌ててヒューゴはそれを追いかける。
「待て、君は傘があるんだからさせばいいだろう」
……。そうでした」
彼の手からショッパーをもぎ取って、代わりに傘の柄をさしだす。
「貴方が持ってください」
「仰せのままに」

***

粒の小さな、静かな雨が降り注いでいる。傘に跳ねる音が優しいが、陽が落ちたこともあって、冷え込んできた。ひとつの傘の下で、ふたつの頭が揺れる。
「今日は、ありがとうございました。ヒューゴ」
……なんだ、改まって」
「なんだも何も。お返しなのでは」
……
見上げると、本気で何のことを言っているのか見当がついていない様子だ。
「だって、貴方昨日は遅くに帰ってきて、すぐ寝てしまったでしょう?」
「ああ」
「そういう日は大抵次の日はなかなか起きてこないのに、ちゃんと私との約束を覚えていて、買い物に付き合って、食事をして……
「それがどうした」
「ホワイトデーなのでは、と」
……」彼の瞳が動揺で見開かれた、気がした。本当に今の今まで覚えていなかったらしい。じゃあ、今日やたらと優しかったのはなんだったのだろう。
まさか貴方、また変なこと企んでいて、その罪滅ぼしに……?」
「断じて違う。昨日が遅かったのも面倒な旧友に絡まれただけだ」
「はあそうですか。それは良かったですね」わざとらしく無感情に言う。
……すまない、必ず埋め合わせは……
する、と言い損ねて、ヒューゴはくしゃみをした。
「大丈夫ですか?」
……ん」ずず、と鼻をすする音。
「で、本当は何が目的だったんです?」
……そろそろ、君の誕生日が来る」
「まだ一か月ほど先ですが。それで、私の最近の好みをリサーチしようと?」
彼はうなずいた。誕生日は覚えていたのに、ホワイトデーは覚えていなかったらしい。
「まあ、そういうことなら。許すのです」
それを聞くと、彼は安心したように笑って、何か言いかけて、またくしゃみをした。
……ちょっと!左側、びしょ濡れじゃないですか」
怪訝に思ってよく見れば、傘に入っていない外側半分が思いきり濡れている。右側を歩くビビアンが濡れないように、左側はほとんど入らない状態で傘をさしていたらしい。
「そんな風にして、風邪を引かれたら余計に面倒なんですから!」
「そもそも、ふたりで入るには無理があるだろう、これは」
「そうかもしれません。でも
彼の手を引いて、ぎゅうと密着した。冷えた指先を温めるように、その間に自分の指をからませる。
「これなら少しマシでしょう」
……勘違いされるぞ」
「上手い返しが浮かばないなら黙って、もっと寄って歩いてください」
……」返事は無かったが、優しく手を握り返された。

「ヒューゴ、私が望むのは、高価なものでも特別なものでもなく
「貴方が元気で、私の隣にずっといてくれること、なのです」

簡単なことのはずです、ちゃんと守ってくださいね。そう言いながら見上げると、彼はさっと顔をそむけた。
「ちょっと、どこ見てるんです」
……」照れているのやら、かたくなに振り向かない。
「ヒューゴ」絡めていた指先をといて、もう一度握り直す。
「それはそうとして、何かしら用意はする。今日の埋め合わせもかねてな」
「今日はもう十分満足しましたって」ようやく振り向いたかと思えば、口早にそんなことを言うから、笑ってしまった。