2026-03-21 21:49:11
1786文字
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危なっかしい

吹き飛ばされがちなファイさんとその対処法、および予想外からの攻撃

「また変なところに落としやがって……
「モコナのせいじゃないもん!」
「ええと、周囲を見渡しやすくはある……と思う」
「すごい風だねぇ」
 いつも通りの会話だが、風の音にかき消されないよう普段より互いの声が大きい。世界を移動した先で今回降り立ったのは、反り立った崖の先端とも呼べるような場所だった。幸い足場はさほど狭くなく崩落の心配もなさそうだが、とにかく吹きつける風が強い。目を開けているのも一苦労だ。風の音だけでなく、それぞれの衣服がはためく音で騒がしかった。
「やーっ」
 モコナも例外ではなく強風に煽られている。特徴的な大きな耳が、いいように空ではためいた。
「かわいいモコナが飛ばされちゃうーっ」
「うーん、確かにモコナはかわいいから風に連れてかれちゃうかも。オレのコートの下に入っておこうかー」
「うんっ」
 肩にしがみついていたモコナに指を添えようとした瞬間、横から現れた大きな手が無造作に小さな身体を掴んだ。
「きゃっ」
「さっさと入ってろ」
 そのままファイのコートの合わせに腕ごと突っ込まれる。モコナはしばらくもごもごと中で身動きをしたあと、ぴょこんと顔を出した。
「黒鋼ってば乱暴!」
「黒様ってば乱暴ー、デリカシーがないー」
「うるせぇ!」
 常より大声の文句を聞き流しながら胸元のぬくもりを感じていると、ふと違和感を覚えた。モコナが収まったからではなく、服が引っかかったような感覚がある。咄嗟に振り返ると、黒鋼の手がまたも無造作にファイの襟首を掴んでいた。
……黒むー、ちょっと苦しいから離してくれる?」
 見上げてそう伝えるも、相手は目を眇めただけで動かない。
「見てくれ、あのあたりに人里がありそうだ」
 更に言葉を続けようとしたところで、真剣に崖下の景色を見ていた小狼が声を上げた。ひとまず彼の元へ近づくが、その間も首元の拘束は緩まない。
「んー……? ほんとだ、屋根が見えるねぇ」
「直接飛ぶこともできるが……
「まだ魔法がある世界かわからないもんね。一応気配消しの魔法もかけて、近くまで飛んでから歩いて行こうかー」
「うん、それがいいと思う」
「はーい、任せて」
 ファイは空中に呪文を描いた。三人と一匹の気配を薄め、身体を浮かし、ついでに大気の影響を受けないよう周囲を覆う。いち早く変化に気づいたモコナが、小さな身を乗り出した。
「びゅーびゅーしなくなった!」
「これが普通のはずなのに、急に静かな感じがして慣れないな」
「あっという間に髪も服もめちゃくちゃになっちゃったねー。……あと黒たんはいい加減オレのこと離してくれるかなぁ」
 背後を睨むとやっと手が離された。首元の解放感にほっと息を吐く。
「しょっちゅう吹っ飛ばされてるおまえが悪い」
「モコナはともかく、さすがにこれくらいでオレが飛ばされるわけないでしょう」
「そうか、そりゃ知らなかった」
「いやーオレも黒ぴっぴがこんなに心配性だったなんて知らなかったなぁ」
……猫ってのは首根っこ掴まれると静かになるんだったか? ならずっと掴んでた方が良さそうだな」
 ゆっくりと地面に向かって降下しながらこちらに伸びてきた手を避けていると、隣から小さな笑い声が聞こえた。見れば小狼が年相応の可愛らしさで表情を緩めている。
……すまない、仲がいいなと思って」
「ファイと黒鋼はー、とーっても仲良しだもんね!」
 無邪気としか表現しようがない曇りなき眼に見守られ、ファイは硬直した。率直に言って大変居た堪れない。
「待って、ものすごく恥ずかしい。黒様たすけて」
「無理だ、諦めろ」
 妙に諦観した様子の黒鋼が早々に匙を投げる。そういえば彼は以前訪れた温泉地で、小狼による混じり気のないフォローに打ちのめされていた。経験に基づく反応なのだろう。とはいえ頭で納得しようとも、表現しがたい羞恥が消えるわけではない。
 道中子どもたちの微笑ましい会話を聞きながら、ファイは粛々と魔法による移動を続けた。なぜか途中で再び黒鋼にやんわりと襟元を掴まれたが、もはや抵抗する気力も残っていなかった。

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優しいし強いし器用だし頼りになるけどそれはそれとして危なっかしいところがあるなと黒様だけでなく子どもたちにもうっすら思われているファイさん