おひつじ
2026-03-21 18:42:39
3469文字
Public 【創作】小説
 

七竈慈苑と呪われたリッケンバッカー

寺の息子、七竈慈苑(ナナカマドジエン)視点のお話。CLUB PinQ Noizスピンオフストーリーです。ep12に出ていたツギハギリッケンバッカーとの経緯エピソード。
とりあえず起承転結の起承まで。また変わるかも。更新できたらまた続きをお知らせします。(3/21時点)

目が覚めたら、隣に爆美女が眠っていた。
おいおい嘘だろ、慌てて起き上がる。時計は6時と45分、朝の読経開始15分前を指していた。
えー嘘でしょ、俺そんな……不純異性交遊?
親父に知られたら殺される、仮にも寺の息子。武士は食わねど高楊枝、ならぬ仏門の五戒律のうち少なくとも三つくらいは自ずと守ってきたはずだ。ウソはつかない、盗みはしない、殺生はしない。ただ、酒と性的なことは……いや、まだ若者だから許してほしい、でもせめて誠実な行いは……ましてバンドマン下半身緩し、と言えど、俺に限っては硬派を貫き異性を一晩部屋に連れ込んだ、などと眉を顰められることはこれまで一度も……
「ね〜え おにいさん。お名前なんてゆうの?」
同時くらいに目を覚ましたのか、気怠そうに爆美女は俺に尋ねる。いやいや、君こそなんでここに。
とりあえず毛布をめくる。何事もない、はずもなく。一矢纏わぬ露わなお互いの裸体に「わー!?」と慌てて相手には毛布を投げつけ、己は側に落ちていた下着を手繰り寄せる。

「慈苑〜!!いつまで寝てるんだ!!!」
階下から親父の怒号。やばい、今日は檀家も来るから掃除をする約束だった。

「そっか〜、おにいさん、慈苑くんって言うのね〜」
うふふ、と美女は笑う。真っ白な肌と艶々の黒髪が眩しすぎて、いやちょっとこの四畳半の部屋には場違い過ぎます、なんかの間違いです。
「え、ごめん確認するけど俺、君に何もしてないよね?してないはずだけど??」
なんで尋ねてしまったのか。
「え〜ひどおい。あんなこともこんなこともしておいて?」
と、よよ、と泣くフリをしなから爆美女はそのたわわな胸を震わせ胸元に毛布を引っ張り上げる。
「ええ……マジで……
「そうよ〜、もう離れられない♡お前しか考えられない♡ってずっと首締めて激しくストロークして」
「わー!なんてことを!やめてやめて」
「しかも明け方まで何回も♡」
「神よ……
いやここは神ではなく仏だろうが。場違いのセルフツッコミをしつつこれが真実なら仏様に合わせる顔、1ミリもなく。

「慈苑ーーーッ」
足音をドスドスと響かせて階段を上がる音がする。
やばい、親父が部屋に入ってくる。
「はいはいはいはいはいはいおりますおりますおります!」
大声を出しながら、俺は慌てふためいて袈裟を身にまといつつ「とりあえず話はあとで、お願いなんだけど部屋から出ないで隠れてて、後で出すから……」と言いながら振り返ると、そこにいたはずの爆美女は忽然と姿を消し、代わりに古びた黒いリッケンバッカーがひとつ。

…………え?」

パコン、と上がってきた親父に後頭部をはたかれる。目をぱちくりさせる俺を一瞥すると、
……お前。昨晩『何か』連れ込んできたな」
親父は勘が鋭い。
「とりあえず、掃除」
「ハイ」
「水撒き」
「ハイ」
「読経」
「ハイ」
「後で話だ」
「ハイ」
その後は剣呑とした空気の中でそれらを淡々とこなすしかない。
最悪の日曜日の始まりだった──。


……
「いやー、本当に困る」
バンドのメンバーからのグループLINEが忙しなく動いているのを、線香の後始末をしながらようやく気づく。
「俺……昨晩の記憶が無いな」
記憶が無いから親父に何を尋ねられても要領を得ない。親父は俺が嘘をついていると思ったのか、はぐらかしていると思ったのか、ふと問い詰めることをやめ、「ちょっと気がかりだな」と言いながら翌日の挨拶回りと講和の準備に入ってしまった。
昨晩の記憶は消え去っていたが、幸いにしてこれまでの檀家さんのことや日々のお勤めの内容は身体が覚えていてくれたらしく、どうにかこなして冷や汗をかかずに済む。それよりあの布団にいた爆美女はなんだったんだ。今鎮座しているこの黒いリッケンバッカーは誰のギター?全く思い出せなくて、はてさて、そんなに酒でも飲んでいたか?

シャワーを浴びて着替えた後、グループLINEをのっそりと開く。ここでは自分が所属するバンド、「煩悩滅殺不可説点」のメンバー達がやり取りをしている。メンバーは六波羅ミツナリ(vo)、八角ユージ(dr)、九谷ケイト(ba)と俺の4人だ。
六波羅「あ!ジエンやっと来た!」
八角「おーおっつ〜おつとめ?」
九谷「ねえみっつんのデモ聞いた?俺手に負えないんだけどジエン編曲できそう?トンチキすぎる〜」
六波羅「おいdisんな」
口々に(?)飛び交うレスポンスの数々。俺はそこまで文字を打つのが早いわけじゃ無いから、ここまでの290件くらいのやり取りをざっと目を通しながら今の会話にどうにか追いつく。
「ごめん、その前に……。先に昨日の夜って俺どうしてた?」
え?」
「どうってお前」
「はあ?」
口々に困惑した様子のメンバー達。
「とりあえずお前通話繋ぐぞ」
「あ、うん」

携帯の通話をグループのFaceTimeに切り替え、慌てて髪を拭きスウェットに着替えながら応答する。
「で、覚えてないの慈苑」
開口一番、神妙な顔つきでケイトが尋ねる。編曲を手分けすることがあるので、ケイトとは1番よく会話をしているのだ。
「うん」
「えやば」
ミツナリはケラケラと笑い転げている。
「ウケる」
「昨日のライブは?」
神妙な顔でユージが尋ねてきた。
「え昨日ライブだったの」
「そこから〜?」
3人は呆れた顔をする。
ミツナリがペラペラとまくしたてる。
「えっと昨日はノイズでオールナイトのイベントだったよ!ロージーさんとこと一緒にお呼ばれで行ったから、対バンで0時くらいから三曲。メインはサブカルクライシス、あとサプライズで確か
「ヴァイオレットヴァイオレンス。オレあそこのベースのスラップめちゃくちゃ好きなんだよな」
へー。ケイトてよそのバンドのベーシストに興味あるんだ。と、頓珍漢な感想が浮かぶ。
……思い出した?」
「いやなんも」
うわ引くわ〜〜〜、とミツナリはケラケラと大したことねえよとでも笑い飛ばすように続ける。このバンドはミツナリの弾丸おしゃべりで7割のコミュニケーションが成り立っている。
「ほんで打ち上げに誘われたけどオレらコミュ障やん?だって基本的に仏法パンクスネタで最近走り抜けてっからさ」
「知らんがな」
俺が加入してからの方向性変換らしいので、元の方向性をよく知らない。
「で、夜中遅かったし挨拶もそこそこに、軽めにメシ食おうってなって近くのサイゼに行ったわけ。ほんでそこで
「同じくライブに来ていたファンの子3人組もそこで始発を待ってたんよ。みんな女子!アツくね??ファン、野郎率が高いのにさ。俺ら目当てで来てくれてたらしくて、嬉しくて握手とか写真とか応じてた」
淡々とユージが続ける。
「そうそう。ケイトが早速ラインとかどこ住み?とかやるから俺が引き剥がして〜〜」
「いやその話はいいだろ」
目に浮かぶようだ。
「ジエンのファンだったらしいぞ、マジで覚えてねえの?」
「え、」
「だから連絡先聞いとけって言ったのに〜」
「ケイト」
ユージが嗜めつつ、話を繋げる。
「ほんでそのうちの1人がさ、お前に渡してたじゃん。ギター」
「あっ」
ようやくそこで話が繋がるわけか。ここまで長かった。
「いやそれ、そのギターのことで聞きたくて」
「?」
「朝起きたら」爆美女が隣にいた、なんて言ったら大騒ぎになる。少なくとも今言う話じゃ無さそうだと咄嗟に判断し、
「俺起きた時にギターがどうして部屋にあることも全然わかってなくて、それで合点がいったわ」
すかさずミツナリに突っ込まれる。
「マジでウケるどんだけ忘却してんの」
「そんなに酒飲んでたの?俺」
「いやいやいや、お前断ってたじゃん」
冷静にユージが続ける。
「明日朝早くて実家の手伝いあるから今日はウーロン茶で〜て、ゆうてましたやん」
「ええ〜〜」
シラフ?シラフでファンの子からギター受け取ってたわけ?俺は……
「いやマジでごめん、わかった。じゃあこのギターは預かり物なんだな」
「は?」
ケイトが素っ頓狂な声をあげる。いい加減俺はどこまで記憶をなくしていたのか自分が怖くなってきた。
「そのギターの話結構怖くなかった?」
「うん俺も思った」
ユージとミツナリは顔を見合わせる。
「俺あんま聞いてなかったわ、ギャルかわい〜てなってたから」
「ケイトは黙ってて」
「あのな」
ミツナリは息を潜めて言う。
「そのギター、呪われてるらしいぜ」

(続く)