かたかご
2026-03-21 14:46:45
4111文字
Public FA・SS・二次創作
 

SS『夢見』

同じ空には昇れない。のネタバレを挟みます
ifの話

※もしセッション始まる前、太陽の家族が殺されない未来があって幼い頃に会っていたら?のやつ。



「つづ〜?そろそろ帰ろうか」

こくり、と無言で頷く妹の手を引き、公園の出口を抜けた。年の離れた妹はうるさくはないけれど素直で、少し名残惜しそうな表情をしながらも兄である自分の元へ駆け寄ってきて嬉しそうに手を繋いでくれた。公園では離しても良いけれど、道を歩く時は誰かと手を繋ぐこと__飛び出し防止の為の約束を、彼女はきちんと守っている。まだまだ幼いのに聡明な、でもちょっぴり元気過ぎる自慢のかわいい妹だった。
現在16時半を少し過ぎた頃……冬だからか、最近は日が落ちるのが早い。家からそう遠くない公園とはいえ、暗くなる前に帰らないと両親を心配させてしまうだろう。


ふと、視線を感じる。
道路の向こう側。色素の薄い髪をした長身の男が立っていた。髪を結い上げているらしく、背はかなり高い……外国の人だろうか。立ち止まっている様子から道に迷ったのか?とそちらを見れば、彼はその瞳を大きく見開いて妹を見ていた。なんだかひどく動揺したような表情で、けれどこちらには見覚えがない。

「君たち、」

思わず見つめていたら、声をかけられてしまった。知り合いではないのは確かなので、警戒はしてしまう。なんだか、胸の奥がざわついた。剣舞をしていると人の気配に少し敏感になるけれど、なんだか出会ったことのない不思議な気配。
妹もきっと同じだろうとぎゅっと手を握ろうとして__そこにふくふくの小さな手がないことに気が付いて飛び上がった。慌てて周囲を見渡せば、うちのお姫様がその男の前に立ってその小さな首を目一杯反らせながら傾けてその顔を見上げている。その見上げた妹の横顔に、俺は見覚えがあった。こういうときの彼女の行動力は、俺でも止められない。

…………えるさ?」

確かに髪色は薄いし見た感じ美人さんだけど!どう見ても男だろ!……とは言えず、俺は慌てて鼓の手を取って自分の側へと引こうとする。

「す、すいません!この子、外人さんに会ったことあんまりないから……髪色とかで知ってるディズニーのキャラクターと間違えたっぽくて……その……

ぺこ、と鼓の代わりに謝りながら彼女を自分の側に戻そうと手を引くが、しかして最近剣舞を習い始めて成長してきた鼓の体幹はそれじゃあ全然揺らがないらしい。興味津々で男の顔を覗きこんだまま、「ちがう……?」とこてんと首を傾げていた。

そんな様子に目の前の美丈夫は、格好を崩すようにして声を上げて笑った。上を見上げて目を覆い、そのまま5秒ほど。それから鼓に視線を合わせるようにしゃがみ込むと、目尻を下げて微笑み口をひらく。

「ごめんね、エルサじゃないんだ」
「けど、君に会えて嬉しいよ。初めまして」

少し声が震えていたのは、笑いを抑えていたからだろうか。夕陽の赤い光が彼の髪に映り込んで、キラキラと輝いているのが分かる。鼓がプリンセス呼ばわりしたのも分からなくはないが、昨今の鼓が見たもの的にはプリンス扱いしてもおかしくない系統の男を目の前にしているというのによりにもよって「エルサ」を選択するとは、なかなか肝が据わっているなと我が妹ながら思う。
そんなことを思っていれば、いつの間にか男に対する違和感は少しだけ落ち着いていた。

「綺麗なお目々だね」

顔が近付いたことで口から出てくる一声目がそれなのが末恐ろしい。ご近所のおばさま方にもこの調子なので、鼓はこの辺のアイドルである。
とはいえ言われてみれば確かに目の前の男の瞳は少し変わった色をしていて、よく見ているなとそんなことを思った。

「そう?君に褒められるのは照れるなあ。ありがとう」
「ん〜……お月さまの目だから?」
「理由を聞いたんじゃないけど、ええと……気に入って貰えたのは嬉しいよ」
「かぐや姫みたいだなって、思った」
「君って、僕をプリンセスにしようとしてる?……こんな夕方に、誰かに攫われないよう気を付けなきゃいけないのは君たちなのに。月からの使者に連れ帰られないように、早くお帰り」

こともあろうに、次はかぐや姫に例えたらしい。色んな絵本を読んでくれと母に強請る鼓だけれど、その母もまさか街中で出会った外国籍の男を2連続でプリンセスにしようとするだなんて欠片も思っていなかっただろう。
確かに時間も時間だから、いい加減家に向かって歩き出さないと日が沈んでしまう。鼓を抱き上げて軽く彼に会釈をした。その様子を目を細めてにこにこと微笑んで見ていた男は、「気を付けてね」と口にして手を振ってくれた。

歩き出した俺の肩から後ろを向いてバイバイ、と手を振る鼓を視界の片隅に入れながら、そういえば、さっきの人は帰らないのだろうかと思い振り返る。

「あの、」

だが、確かに先程までそこにいた男は振り向いた先から忽然と消えていた。あれ?と周りを見渡すが、しかしどこにもあの姿はない。

「鼓、さっきの人どこいったか分かる?」
「ん……ほら、あそこ。猫さんだよ」

妹が真っ直ぐに指を指す。そちらを見れば、毛並みの良い猫が足元に擦り寄っていた。確かに瞳の色は彼に似ているけれど、猫には偶にある目の色だしそもそも人は猫には化けないし。
しかし妹は嬉しそうに猫に手を伸ばして、抱き上げた。……拾ってしまった。毛並みの良さから見て飼い猫なのだろう、現に抱き上げられても大人しくその腕に抱えられているだけだ。

「いっしょに、かえる?」
「にゃあ」
「ええっと……

人様の猫を連れ帰るのは……と声をかけようとするが、帰りたければどこかのタイミングでするりと抜け出して帰るのが猫だとも思う。
取り敢えず暗くなってきている現状、早く家に帰るのが優先事項だ。

手を繋いで並んで帰る。鼓の腕のなかの猫は、興味深そうに周囲をキョロキョロ見回していた。よく目が合うので、子どもが珍しいのかもしれない。ようやく自分たちの家にたどり着いたというところで、先程まで大人しくしていた猫はぴょんと妹の腕から飛び降りた。

「あ、」

と思わず声をあげるが、1度俺の足にも擦り寄ったあと、タタタッと猫は元来た道へ戻っていく。
その途中で足を止め、こちらを見たのが分かった。なんだか無事家に辿り着くまでを見守っていたようにも感じて、また軽く会釈を返す。

「またね」

と手を振る妹は、また会う前提のようなそんな物言いをしていた。そうしていれば、家の扉が開いて母が出てくる。中からは、父親の「おかえり〜」というのんびりとした声も母を追い掛けて聞こえてくる。

「おかえり〜!ちゃんと伊吹と帰ってきたのね、えらいえらい」

猫さんともだよ、と鼓が言葉を添える。「お月さまと帰ってきたんだ」と笑う鼓の言葉は、静かに昇り始めた月以外のことも指しているのだろう。

不思議な出会いだったな、とぼんやりと振り返る。まさかこれきりではない付き合いが待っているとは露知らず、俺は鼓が彼を形容した細い月を見上げていた。


ーーーーーーーーー

撞雲の魂だ、間違いない。
変身を解いても尚バクバクとうるさい拍動を落ち着かせようと試みる。吸血鬼の脈は人間と比べて遅いはずなのに、今ばかりは人間に引けを取らない速さに違いなかった。

あの子は撞雲の生まれ変わりだ。一目見ただけで分かった。自分がひとつの生命体として初めて興味を持った、もう一度会いたいと夢見た魂が確かにそこにあった。

嬉しい、嬉しいが、同時に悲しみも襲い来る。もう、自分の死はすぐそこまできていた。あと10年後ぐらいにはこきっと、この身は塵となるだろう。200年をかけた自殺が、ようやっと身を結ぼうとしているのだから。

「ああ、でも、」

良かった、と思う。

「今世では、家族がいるんだね」
「奥さんとお子さんを亡くした君は、もういない」

……かつて自身が拾われたあとの2人きりの家族ではなく。今の彼女には自分以外の家族がいて、幸せそうに笑っている。嬉しいはずなのに、胸が何故かぎゅうと締め付けられるような気がした。

「幸せに、生きてくれるといいな」

側にいた少年は、きっと兄だろう。最初は警戒していた彼の様子に、しかし確かに彼の顔の造形にもあの人の面影を感じてなんだか泣きそうな気持ちになる。それでも確かに、あの人の魂を受け継いだのがあの女の子なのは間違いなかった。もし女なら祝言をあげられたかもな、と笑った彼は、どうやら言っていた通りに生まれ変わったらしい。まさか、こんなタイミングで。

……ずるいよ」

泣きそうな気持ちになるのが、どんな気持ちから来るものなのか自分でも分からない。
ぐるぐると色んな感情が渦巻いて、けれど心が熱を持っているのは間違いなかった。

「名前だけでも、知れたら良いな」

血塗れの彼の最後を思い出してしまって、つい不安に思って猫になって家まで着いていってしまったけれど、怪しかっただろうか。表札には「鹿子木」とあったから、名字は分かれど名前は分からない。今後何事もないようにこっそり見守るくらいならバレないだろうかとそんなことを考えながら帰路につく。
どこか夢見心地なその歩みを、細く輝く月だけが見守っていた。






自分が回した陣の会話を見ていて触発されたのでダダダと妄想を打ち込んで書きました。
多分このあとちゃんと鼓と再会するし、恐らくそうなると原作より早く血は提供され始めるし、しかし恐らくそれでも死ぬこと自体を止められるほどの回復はできない(ニーオスコルガイ入りの血で無い限り生を取り戻せないレベルになるたった10年程前の段階なので。だた延命くらいならできそうかなと思う)のでこの時代の鼓と共に眠るようにルキウスさんは死ぬことになるんじゃないか?でもそれは、彼にとっては幸せな最期かもしれません。

なんか最初から最後までプリンセス扱いされてるだろうなという漠然とした確信があります‼️‼️‼️(エルサとかぐや姫の例えを見ながら)

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