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tkhsaa
2020-06-15 23:53:13
1386文字
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いかがわしくないもの
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カントリーロード
モブの視点でお猿の短文
* * *
「なつかしいな」
不意に歌がとぎれてそんな声が聞こえた。先まで隣に座って脚をぶらぶらさせていた幼女の声であると私は気づいた。列車を待つ間歌っているのにも飽きたのだろう。彼女はちょうどふたつ前の街からの連れだ。
最初見たときに、私は彼女を迷子か家出だと思った。まだ十にも満たぬ幼い外見は、頬をいっぱいに膨らましてそれに抗議し、ちょっとごたごたあってしばらく行動をともにすることになったのだった。
いまもって、家出少女の口車に載せられてまんまと遠くまで運んできてしまったようで気が気じゃないというのが本音である。とはいえ。あの街からはもう街ひとつぶんも離れてしまった。ここから先は、廃れた田舎道。廃墟が身を寄せ合う死んだ村や街を抜ける列車は、日に三度あれば良いほうだ。そんなわけで、私たちはこうして徐々に冷たさをおびる夜風に身をさらし、深夜につく貨物列車を待っている。なんでも、この路線はルーティンだからと運転すらロボットにやらせているのだという。
初夏といえど、湿気った空気を北からの風がやんわり拭っていく感触にはそわそわと鳥肌が立つ。
「なつかしいって?」
聞き返してみれば、それに合わせるようにどこからか蛙が鳴く。遮られたみたいに思った私がむっと顔をしかめたのに気づいて、彼女は歯をみせて笑う。
「むかし、寝れなくってずーっと起きてたことあるんだ。家でさ、父さ
……
パパ、と、ママ、はもう寝ちゃってて、怒られたらやだから部屋からも出なかった」
なんで言い直したのか、聴いてみてもよかった。発音から察するに、わざわざ言い慣れないであろう表現に。やめたのは、なにか痛いとこに触ったような顔を見たからだった。お粗末な屋根に切り取られた月明かりは、私の隣をよく照らしている。
「んっと。そうだ。歌がきこえたの」
「今歌ってたみたいな?」
「そう!」
小さな手をぱちんと打ち鳴らし、彼女はベンチの上でぴょこぴょこ跳ねてみせた。
「さっき歌ったの、あれがさ、我慢できなくって部屋から出たら聞こえてきた」
曰く。遠くから聞こえてくるようなかすかな声。
それなのに、それは、長くもない廊下の闇の向こうから聞こえてくると直感した。彼女は、そこにしばらく立ち尽くし、それに聴き入り、にわかに怖くなって部屋へ逃げ戻ったという。
「怪談だったのか?」
「ん?」
んーん、とこども特有のやる気のない否認が返ってくる。
「今思い出したんだ。あの歌」
口元はまだ動いている。空気が大きく揺れたのは、そこに走り込んできた貨物車の仕事であった。
「
――
だ」
「あ?」
目を見開いて、貨物車を眺めて口をあけっぱなしにしていた彼女は、列車が止まると我に返った様子でベンチから飛び降りた。
「乗るんだろ?」
「あ、ああ」
慌てて荷物を取り上げると、彼女はまたにっと笑って私の前を駆け出した。昼の明かりが戻ってきたようだった。
* * *
森を抜けた先で商人と別れ、その背中を見送ると、彼女は踵をかえして線路のわきを歩き出した。もと来たほう、列車の停まらなかったところ、かれこれ百年も前に食い尽くされた廃村へ。
突然芽生えた里心のままに、その道を行くためにここまで来た。あの日廊下の奥から聞こえた歌を道連れに。
「あの歌は
――
」
こうして歌っていたんだな。
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