ぬす
2026-03-21 12:55:49
8481文字
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酸性の熱に溶ける

夢の中の巨大化サンポに食べられる夢です。説明の通りです。

ユメユメユメユメユメユメ「楽しんでいますか?宴の星、ピノコニーは」
 映画を観て、スロットを回して、クロックピザを食べて!
この夢境でやることは尽きない。いつまで経っても遊んでいられる!
 ピノコニーに訪れたのは昨日のこと。
観光旅行がしたいとぼやいた私に恋人のサンポが提案したのがこの星だった。
随分と大胆な提案だとは思ったものの、それが可能なら行けるうちに行くべきだ。
そう思い立って私達はベロブルグから飛び出した。
「楽しんでいただけているようで、何よりです」
 子供のようにはしゃぐ私の隣でスラーダを手にサンポが笑う。
彼はここにもうすっかり慣れているらしく、私を見ている方が楽しいなんて言うのだから勿体無い。
興味本位で買ったスパークスラーダを一口飲んで、その刺激に激しく咳き込んだ私を見てまた彼がもうひとつ笑顔になる。
背中をさすってもらって、もう一口。
その泡の奔流を楽しんで、ごくりとそれを飲み込む。
「サンポのスラーダ、色が違うね」
「え?ああ、僕のはクールスラーダです。
 冷たくてすっきりしますよ。足まで凍りそうなほどにね。
 飲んでみますか?」
「えっ?う、ううん、大丈夫」
 彼が口をつけたもの、というだけで意識してしまう。
私達は確かに恋人だ。付き合って何ヶ月も経っている。
だけど私はそういった恋人同士の触れ合いに耐性がなく、キスをすることもないまま彼をずっと待たせていた。
手を繋げるようになったのもほんの少し前。
ハグをしようとした時は恥ずかしさから走って逃げ出してしまった。
申し訳ないとは思いながらも、大好きな彼に触れると思うとどうしても心臓がもたない。
純情なのだと彼はいう。そんな可愛らしいものではなく、邪な欲求が加速するが故のものかもしれないのに。
「見せたいものがあるんです。
 飲み終わったら、僕についてきてくれませんか?」
「見せたいもの?」
「ええ。せっかくピノコニーに来たんですから、夢を見てもらわなければ!」
 案内されたのはぎょろぎょろと動く大きな目玉の前。
何かと思えば彼はそれ――Dr.エドワードに話しかけて、何やら手続きを済ませている。
話を聞いてみれば、どうやら彼が体験した夢の世界を楽しむことができるらしい。
「これは僕のお気に入りの夢なんです。
 是非、あなたにも見ていただきたくて」
「サンポの?」
サンポはどんな夢を見るのだろうか、それにどんな夢を私に共有したいのだろうか。
断る理由はない。なんなら私の知らない彼も知ることができる気がして、私は二つ返事で彼の夢の中に飛び込んだ。



……ここって……
 夢の中と聞いて奇妙な空間を想像していたが、そこは意外にも見知ったところ。
ベロブルグ行政区の、私の家の中だ。
一度だけ彼を招いたことがある。体験した夢、ということはその時のことを覚えていてくれたのだろうか。
少し嬉しくなってしばらく部屋の中の様子を見る。
彼の意識の中だというのに小物類までよく再現されていて、思ったよりも見られているものだと感心する。
彼を家に招く際は徹底的に掃除をした方がよさそうだ、なんてことを考えながらお気に入りのソファに座って何が起きるのかと待っていると、突如外から轟音が鳴り響いた。
まるで岩石がいくつも落とされたかのような音だ。
「はぁ……またやってしまいました」
 続いて聞こえてきたのは恋人の溜め息。
だけど、それも何かおかしい。
文字通り街全体に響くような大きな大きな溜め息だ。
恐る恐るカーテンを開けると、外は行政区の見慣れた風景ではなく赤と黒に覆われていた。
混乱したまま突っ立っていると外のそれが動きを見せて、巨大な緑色の目が部屋の中を覗き込む。
怪物の夢でも見たのだろうか。
窓を開けて身を乗り出して、その緑色にぐっと近付く。
……はっ」
 見上げれば青色の森、見下ろせば赤い大地。
目の前に巨大なサンポが生えている。
行政区のど真ん中、広場の彫像前。
その石畳を突き破って、建物よりもさらに大きい巨人のサンポが生えている。
見えているのは上半身だけ。下半身はどうなっているのだろう、まさかあの長い脚が下層部まで届いているのだろうか。
「は……あはははは!何それ、こんな夢見たの!?」
「ああ、ユメさん。見てください、肘が当たって博物館を破壊してしまいました」
「あはは!怒られちゃうね、あはははは!」
 おかしくて笑いが止まらない。彼がこんな夢を見るなんて。
まるで子供の見た夢だ。
私のことをいつも子供のようだと笑っておきながら、自分が巨人になって街を破壊している夢なんて。
ユメさん、ほら見てください」
「今度はなぁに?」
「ほら、僕のお腹でベロブルグ市電が事故を起こしています」
「あはははは!」
 下を見れば確かに彼の脇腹に路面電車がぶつかって煙をあげている。
現実ならば大惨事で笑うどころの騒ぎではないが、ここは夢の中の夢だ。
行政区の人達は逃げ出してしまったのか私以外に人の姿はない。
誰も怪我人はいない、ただ巨大なサンポが街に突き刺さっている面白おかしいだけの景色だ。
「どうしてそんなに大きくなっちゃったの?」
「うーん、真面目にやってきたからですかねぇ」
「自分で言うんだ、あはは!」
 笑いすぎですよ、と彼が拗ねたように呟いてこちらに手を差し伸べる。
手と言っても小さな部屋ぐらいの大きさがある。
落ちないようにそっと窓から足を伸ばしてそこに乗れば、確かに繋いだ時と同じ彼の手の固さで。
だけどこんな非日常的な光景の中だからか、いつものような恥ずかしさはない。
彼の手の上にいることがなんだかとても心地よく感じる。
「もう、そんなに安心しちゃって。
 僕がぎゅっとしたら死んじゃうんですよ?」
「サンポはそんなことしないもん」
 えへへと笑って彼の掌の上に腰を下ろす。
手袋の感触がまるで革のソファのようだ。ここは私の特等席と言っても過言ではない。
物語で見た魔法の絨毯のように彼の手が動いて、私を行政区の様々な場所へ連れて行ってくれる。
いつも見ているその景色も上空からだと新鮮なものだ。
「あれがセーバルさんの工房、こっちはゲーテホテル……あ、あれ私の職場だ」
「本当ですね。爆破しますか?」
「今のサンポだと洒落にならないよ」
 なんせ今の彼は指先一つで容易に建物を破壊できるのだから。
街からしてみれば大災害だ。彼が楽しく暴れてしまえば行政区は壊滅してしまう。
それはそれで見てみたい気もするが、そうしないということは夢のメインディッシュは破壊ではないのだろう。
一通り街を見て回って、彼が広場に肘をつく。
止まったその大きな手に寝そべって、重ね合わせるようにそこを撫でた。
「くすぐったいですよ」
「えへへ。サンポ、大きくても優しいね。
 ずっと私が落ちないように気を付けてくれてたでしょ」
「当然です!恋人を落とすなんてとんでもない!」
 すり、とその掌に額を寄せる。
普段の彼にそんなことはできないが、夢の中の現実離れした巨大な彼には甘えてしまってもいい気がした。
「ああ、本当にそんなことをするなんて。
 僕が見た夢でもそうだったんです。あなたが可愛らしく甘えてくれて……
 もう片方の手が近付いて、指先で優しく私の髪を撫でる。
その巨体からは想像できないほどの力で、器用に。
気持ち良く撫でられていると今度はその指が頬まで降りてくる。
固い爪に頬擦りをして、力一杯その指に腕を回す。ぐっと伸ばしても一周はできない。
抱きしめているのが指先だからだろうか?ハグをしようとした時のような恥ずかしさがあまり湧いてこない。
「不思議。この姿のサンポにならこんなこともできちゃう」
ユメさんったら。現実の僕が嫉妬してしまいます」
「ふふ。むしろ、現実だと難しいんだから夢の中でぐらい……だめ?」
「勿論構いませんよ。もっと可愛らしい姿を見せてください」
 優しい緑の目が私をじっと見下ろして、次はどうするのかと期待している。
思い切って、その爪にちゅっとキスをしてみた。
正直言って、恋人にというよりかは柱にキスをしたような感覚だ。だからこそこうして積極的になれるのだろうが。
さて、彼の反応はどうだろう。
ちらりと彼の顔を見て、ぎょっとする。
先程まで優しかった目が急激にギラギラと熱を持ちはじめているではないか。
ユメさん。本当に、可愛いことをするんですね」
 抱きしめていた指が遠のいて、両親指でそれぞれ腕を押さえ込まれる。
何をするつもりかと抗議する間もないまま、顔が近付いて私の胸から太腿を覆うように唇が触れた。
衣服越しに、そして素肌に彼の熱が伝わって、体温が急上昇する。
体の主要な部分を柔らかな唇に包まれて意識がどこかへ飛んでいってしまいそうだ。
お返しです、と笑う彼の耳にこの動悸は届いていないのだろう。
あの児戯のような触れ合いに対してこれはやりすぎではないだろうか。
全身を赤く染めた私を見て、彼がにたりと笑う。
「おや、キスは刺激が強かったようですね」
「う、うん。だめ……
「ふふ、大丈夫ですよ。順番、ですね」
 彼の顔が離れて腕が解放され、再び指先が頬に触れる。
先程のキスのせいかそれすらも恥ずかしいことのような気がして、逃れようと顔を背ける。
しかしここは文字通り彼の掌の上だ。ころんと転がされてしまえばその指先に縋るしかない。
「逃げられませんねぇ」
 遊園地のアトラクションのように安心して楽しんでいたはずのその場所にじわりと不安が滲む。
全ては彼の思い通り。
私の脇腹を二本の指でつまんで、ぶらんと垂れた身体にふう、と息がかかる。
彼にとっては優しい吐息でも私からすれば突風だ。
ひやりとしたミントの香りが私の身体を揺らして、また彼の顔が近くなる。
「だ、だめ!待って!」
 私の制止に動きを止めることもなく、彼の鼻が私の胸に触れてすんすんと音を立てる。
嗅がれている。まるで私ごとを吸うように匂いを吸い込んで、それはもう幸せそうな表情で。
「そ、それ、恥ずかしいから!やめて!」
 鼻を押しても当然ながらびくともしない。私の抵抗なんて蚊が止まったようなものだろう。
羞恥に震える私を追い詰めるように鼻を押し付けて、最後にすぅーっと大きく息を吸って。
身体が強く引っ張られる。彼が持っていなければそのまま彼の中に吸い込まれていたかもしれない。
「私で遊ばないで……
 顔を隠した私を優しく掌の上に置いて、また指先で撫で回す。頭から頬、肩や背中、お腹や足まで。
まるで身体の形を確かめるかのような動きで這い回るそれから逃げて、また掌の上で転がされて。
逃げ場をなくして座り込んだ私を優しく宥めて、そしてまた彼の唇が近付く。
蹲った背中からはじまり、器用に手先や足先にも触れて、そしてまた胴を柔らかく包み込む。
 頭がどうにかなりそうだった。
非現実的な光景とはいえ、相手は恋人のサンポだ。
彼に全身にキスをされて平気でいられるわけがない。
私たちはまだ抱きしめ合うこともできていない、良く言えば清らかな交際をしていたのに、こんな。
「ふふ、やっぱりウブですね」
「違う、そんなんじゃないの。はなして」
「では、どう違うというんですか?」
「い、言えない」
 彼の中での私はきっと純情で照れ屋なだけ。
だけど違う。こんなにも、こんなにも恥ずかしいと思うのには理由がある。
私はどうしようもなく彼が好きなのだ。それ故に、人並みに――いやそれ以上かもしれない。
彼に触れられるだけで、よからぬ事を考えてしまうのだ。
あのキスで意識させられた今だってそう。
この非現実的な大きな手の中で、卑しい欲望を抱えている。
「教えてくださいよ。
 僕はずっと待っているんですよ?理由ぐらい聞いたってバチは当たらないと思いませんか?」
 ほらほら、とくすぐっているつもりなのか、軽く握られて脇腹を撫でられる。
ただの戯れなのだろう、私の気も知らないで。
巨人の手の中で好き放題されているのに、私は彼の体温に溶かされてまともな思考をしていないのだ。
知られたらきっと幻滅される。
それなのに心臓が限界を迎えてしまって。
「わかった、わかった!言うから!言う……!」
 ぴたりと彼の手が止まる。
二つの目を私に集めて、じっと答えを待っている。
「サンポに触られるとだめなの。
 えっちなこと、考えちゃう、から……
 絞り出した声は自分のものとは思えないほどに弱々しくて。
顔を隠した手をさらに閉じて暗闇の中に閉じこもる。
彼はどう思うだろう。はしたない、だとか言われてしまったら生きていけない。
彼の顔を見るのが怖い。指の間から覗き見ることすらできない。
そんな私の腕が彼によって払われて、光が差し込む。
――笑っている。
 頬を赤く上気させて、私よりもずっと恐ろしい欲望に塗れた目でこちらを見つめている。
「あは……あはははは!」
 広い行政区に彼の高笑いが響く。
その姿はまるで悪魔だ。
彼のことを恐ろしいと思ったのははじめてだ。
いつだって楽しそうで優しい人だと、そう思っていたのに――彼はずっと私への欲を隠していたのだ。
それを理解して、ぞっとさせられる。
ああ、目は何よりも雄弁だ。私の妄想なんかよりもっと歪んだ欲望を、彼はその内に隠している。
「心配してたんです。
 あなたは本当に無邪気で、子供のようでしたから。
 キスの先を知らないのではないかと」
 ぐっと力がこもって、握り拳の中に閉じ込められる。
胸から下が彼の手の中に埋まって全く身動きが取れない。
彼にしては随分乱暴なその手つきに怯えていると、べろりと長い舌が私の頬を舐め上げた。
……えっ?」
「本当に可愛いですね。……食べてしまいたいです」
 べっとりとした唾液が私の肌を濡らす。
ぬるりとした感触に神経が鋭敏になって、恍惚にも戦慄にも似た感覚がぞわぞわと背筋を駆けていく。
舐められたところがひどく熱くて火傷してしまったかのようだ。
食べてしまいたい、その言葉に身体を引き攣らせる。
文字通りの意味だろうか、それとも。
今の彼なら本当に私を食べてしまうのではないだろうか?
その大きな口で私をばりばりと噛み砕いて、ごくんと飲み下してしまうのではないだろうか?
そうでなかったとしても――どの道、私に勝ち目はない。
ひ、と強張った声が漏れる。それがますます彼を昂らせているのだとその緑の目が語っている。
「ああ、怖がらないでください。可愛い可愛いユメさん……
 その言葉がよりその感情を認識させるのだと理解しているのだろう。
彼の指が開かれて、身体が解放される。
しかし逃げることはできない。夢の中だからと飛び降りようとしても、彼がそうさせてくれない。
掌の上で縮こまることしかできない私にまた彼の手が伸びる。
脇に指を通して、またぶらんと足を垂らした体勢で今度は彼の顔の上まで運ばれて――足元で、その口が開く。
「あ……だめ、だめ!食べちゃだめ……!」
 ずるり、とぬめった熱いものが私の脚に絡みつく。
粘性の液体が滑りを良くして靴の裏を、脹脛を、太腿をずるずる、ぬるぬると刺激される。
服にまで彼の唾液がぐっしょりと染み込んで、肌に張り付いてひどく不快だ。
それなのにこの脚は彼の舌の上で踊ることを楽しむかのように、確かに気持ちよさを感じている。
「サンポ、これだめ!変、変だから!」
 気づいてはいけないことに無理矢理気付かされるような、脳をこじ開けられるような感覚だった。
巨大なサンポに食べられて、夢の中とはいえ命が危険にさらされているような状況なのに確かにこの惨状に悦びを覚えている自分がいて、元の自分に戻れなくなりそうだ。
そんな私の反応を愉しむように舌はさらに腹部へ、胸へと伸びて、私の身体をべとべとに濡らしていく。
舌だけではない。私の脚はいつの間にか彼の口内にまで入り込んでいて、まるで暖かい海に浸かっているかのよう。
「待って、食べないで!お願い、お願い……!」
 少しずつ、少しずつ。
私に見せつけるように身体が呑み込まれていく。
その舌は嚥下を目的として私の身体を持ち上げていて、だけどまだ外に残された頭が引っかかっていて。
なんとか抜け出そうとその歯を掴んで外へと這えば、上からギロチンのように白い歯が降ってきて。
「あ」
 死ぬのだ、と思った。
首を噛みちぎられてこの夢は終わるのだと。
肉体の損傷を恐れる反面、やっと終わるのだと安堵した。
ようやく彼の遊びが終わってまた楽しい世界に戻れるのだと、恐ろしい彼の姿は夢で現実の彼は優しいのだと――そう思ったのに、その刃は首に届く寸前で止まった。
「ひっ、あ、あ……
 殺されるのは怖いことのはずなのに、生きているのは彼の優しさのはずなのに。
頭がおかしくなりそうだった。
早く、早くこの夢から覚めて、彼の腕に抱かれて安心したいとまで思う。
あれほどまでに触れ合うことを躊躇っていたはずなのに、今となっては彼の肌が恋しい。この粘膜は私には熱すぎる。
「は、はぁっ、は……
 また歯が持ち上げられて、今度は一気に頭の先まで口の中に引き込まれる。
逃げ場はないとでもいうようにゆっくりと口が閉じて、外の光が見えなくなる。
このまま、噛み砕かれて死ぬこともないまま呑み込まれて胃酸の海で私は何を思うのだろうか。
私を愛撫するように舌が動いて、この体を食道へと送り込む。
ぬるぬるとした空間から圧迫感のある肉壁の通り道に押し込まれて、ゆっくり、ゆっくりと下に落ちていく。
彼の唾液を吸って重くなった身体が、下へ、下へと流れていく。
狭くて、苦しくて、それなのに何故か心地良くて。
まるで産道を通るかのよう。死へと向かうこの道があたたかいのはきっとそのせいだ。
そうして暗闇に包まれていると、ふと身体が自由になって――浮遊感と共に、ばしゃんと水面に打ち付けられる。
そこではっと脳が覚醒し、開けた視界には楽しそうに笑うサンポとDr.エドワードがいた。



「終わった…………?」
 そこは確かに夢境ショップの前。
酷く熱っぽくて、頭がふわふわする。身体は汗ばんで、あの刺激的な夢のせいで感覚が狂ったままだ。
どうぞ、と差し出されたスラーダを一口飲めば強烈な冷感が喉から爪先までを駆け抜けて、一気に私を黄金の刻に引き戻した。
「サンポ……
 目の前のサンポはいつも通りの大きさだ。私の夢への反応を終始見ていたのか瞳は爛々と輝いて、手をうずうずとさせているのが見て取れる。
ということはあのはしたない告白も情けない悲鳴も全て聞かれていたのだろう。
夢の中だから、という言い訳は通用しなさそうだ。
「どうでしたか?僕の夢は。
 ラストはなかなかスリリングだったのではないでしょうか」
「スリリングというか、なんというか……
 恋人に丸呑みにされる、という体験はここでしかできないだろう。
恐ろしい夢なら最初に言ってほしい。ホラーは苦手なのだ。
そう抗議しようとしたにも関わらず、頭の中はあの呑まれる感覚を思い出してまた熱を取り戻そうとしている。
「い、言えない」
「んもう、感想を楽しみにしていたのに!
 まあ、夢の中のあの言葉でよしとしましょう」
 おそらくあの、私の恥を詰めたあの言葉だ。
彼に触れられるといやらしいことを考えてしまって――だがしかし、私の妄想など優に上回る彼の欲望に呑まれた。
忘れてほしい、と言っても忘れられることはないだろう。
私の欲は憂慮よりもずっと彼を喜ばせてしまったらしい。
「ところで、気付いてますか?」
「え、何?まだ何かあるの?」
 へとへとに疲れ切って、またもや熱に侵されはじめた思考領域を取り戻そうとクールスラーダをもう一口。
強いミントの清涼感を楽しんで、しかしそこで違和感に気付く。
そういえば、私はスパークスラーダを買ったはずだ。
私が夢に入っている間に彼が新しく買ったものだろうか?それにしては量がおかしい。私が飲んだ以上に中身が減っている。
そこまで考えて、思い出した。サンポはクールスラーダを購入していた。
ということは、つまり。今飲んでいるこれは。
「ねぇ、今、何を考えてくれたんですか?」
 間接的な接触を恐れて断ったはずのそれが今、確かに私の中にある。
彼の唇に触れたそれが私の唇にも触れて、体内に染み込んで。
こうなってしまえばおしまいだ。
スラーダの泡のように脳内にいけない想像が溢れ出して、彼を見る目が潤んでしまう。
「教えてください、ユメさん」
 ああ、わかっているくせに。
屈んで耳を差し出した彼にそっと唇を添えて、小さな色情を吐き出した。