「ライノーさんって人類に奉仕とかオレたちに媚びてるとかってたまに言いますけど、ほんとに頼んだらなんでもしてくれるんスか? シモの世話とかも?」
「え?」
「ちょ……ちょっと、ツァーヴ!」
ツァーヴがそんなことを言い出したのは、夕飯時のことだった。今日も部隊に渡されたのは粗末な糧食で、ライノーから見るとやや栄養面が心許ない。ドッタが調達してきた干し肉がありがたいな、と思っていた。さきほどもその感謝を伝えたばかりで、こんな話になるとは想定もしていなかった。
「ええと、シモ? というのはなんのことかな? 霜? なにか特殊な符丁かな?」
「チンコのことっスよ! ほらぁオレたちって女の子のお店とか行かせてもらえないでしょ? そのくせどこに行っても看守看守で禁欲生活、かわいそうだと思いません? ライノーさんのお慈悲を賜りたいなーって」
「なるほど?」
「ツァ、ツァーヴ。急すぎるよ! もっとこういうのは段階を踏んでさ」
「なにビビってるんスか! ドッタさんだってライノーさんならやらせてくれないかなとか言ってたでしょ? この人ちょっと抜けてるんだから、これくらい直接言わないと伝わらないですって」
「ツァーヴ! 声大きいって! 聞こえるよ!」
ライノーは眼前の仲間二人を観察した。男性器の世話という依頼とドッタの珍しく動揺したような反応を見るに、おそらく生殖行為の誘いを受けているのだろう……とライノーは推測する。こういう誘いは勇者になる前にも受けたことがある──自分はどうも、性的魅力が高い外見をしているらしい。こればかりはライノーに獲得できる感覚ではないので、あくまで推測だが。
ううん、とライノーは小さくうなった。ドッタの肩が跳ねる。彼は自分に対して比較的あたりの柔らかい方だ。あまり目線が合わないのだけ気になるが、彼が胸部ばかり見てくるのは身長差の問題だろうと推測している。ライノーは成人女性としてはかなりの長身で、ドッタは成人男性としてはかなりの短身だ。
「や、やっぱキモいよね? ごめん忘れて!」
「いや、そういうわけではないんだけど……。これって生殖行為を行いたいって話だよね? 悪いけど、僕は月経を止めているから妊娠できないんだよ。それだと意味がないだろう? 子孫を残したいからそういう行為をするんだよね?」
ライノーの発言を聞いたドッタとツァーヴは顔を見合わせた。
「え? むしろありがたいけど」
「ライノーさんマジで抜けてるなぁ。勇者が子供作ってどうするんスか! シンプルに気持ちいいからしたいんスよこういうのは」
「あ、そういうものなんだね。なるほど。であれば構わないよ! やり方を教えてもらえるかな?」
ライノーが朗らかに笑いかけると、二人はもう一度顔を見合わせたようだった。
「うそ。こんなにうまくいっていいのかな?」
「オレのお手柄でしょ。兄貴って来月には帰ってきますよね? それまでには済ませときたいなァ。あ、オレ教団で一通り仕込まれたんで、そこらへんの子よりよっぽどテクいこと教えられる自信ありますよ」
「なんでそれ言うの!? ツァーヴの顔浮かんじゃうじゃん! やめてよ!」
このあとこういう感じのやりとりが発生する濡れ場がある。最後早めに帰ってきたザイロと遭遇しツァドタが殺される。
「……ラ、ライノー。なんか君の体めちゃくちゃ冷たくない? 大丈夫?」
「うん? あぁ、そうだね……。たしかに少しだけ冷たかったかもしれない。もうちょっと暖かい方がいいね」
「えっなんか急にあったかくなってきた。なにこれ? どういうこと?」
「ウケる。ライノーさんってトカゲかなんかです?」
「いや、れっきとした人間だよ。恒温動物だよ。当然じゃないか。それより、始めなくていいのかい?」
「釈然としないな……」
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