匣舟
2026-03-21 00:56:39
2885文字
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たった一年の大きな差

SSじゃなくなったのでこっちに。成長ifろじ乱。
こちらも卒業式の日にろじが乱を迎えに行く話。

 桜が風に乗ってはらりと落ちる。手を広げると、その花びらは宙を舞って乱太郎の手のひらに乗った。本日をもって、乱太郎は忍術学園から卒業する。
 この六年間、いろいろなことがあったとひらひらと落ちる桜を見ながら思い出に耽っていると、乱太郎!おいてくぞ~?という同級生であるきり丸の声が遠くから聞こえた。乱太郎は手のひらに乗せていた桜の花びらをそっと地面に置いて、今行く〜!と言いながらきり丸たちの元へ駆けていった。
 卒業式が終わって、いつも待ち合わせ場所に使っていた一本松のところできり丸としんべヱの二人と落ち着いたら近々会おう。絶対にね!と約束して別れたあと、乱太郎は一人でとぼとぼと実家までの道のりを歩いていた。歩くスピードはいつもより遅く、心做しか肩も落ちているように見える。
 ずっと一緒にいたきり丸やしんべヱたちと離れるのももちろん寂しいのだが、乱太郎の肩が落ちているのは昨年乱太郎と同じく忍術学園を卒業した恋人である三郎次から何の音沙汰もないまま、こうして今日を迎えてしまったからだ。
 別に学園に来てくれとは一言も頼んでいないし、会いに来て欲しかったわけではない。でも、せめて卒業おめでとうの一言くらいは欲しかった。でも、一足先に忍者の世界に飛び込んでいる三郎次に迷惑はかけたくないし、きっと忙しいのだろうと思う。
 三郎次が卒業してからずっと、乱太郎は謎の焦燥感に駆られていた。早く、彼に追いつきたい、早く一人前になって彼と一緒に仕事がしたい、たった一年、されど一年の差を埋めるにはどうしたらいいのか。考えても、考えても答えは出ないまま時間だけが過ぎていって、気づけば卒業する日まであっという間に過ぎ去ってしまった。
 忍術学園を卒業してしまえば、もう学生ではない。これからの一年は、三郎次との差を縮めるための大事な一年なのだ。いつまでも引きずってはいられない。しっかりしなきゃ。弱気になってどうする!と自分を奮い立たせて立ち止まっていた足を動かそうと、足に力を込めたところで後ろからぽんっと優しく肩を叩かれた。
「めでたい日だっていうのになんでそんなシケた面してるんだ?」
 その声は、とてもよく聞き馴染みのあるもので、乱太郎は驚いてばっ、と振り向く。そこには一年前よりもたくましく、背丈も少しばかり伸びた三郎次の姿があった。
「さぶ、ろうじ……先輩?」
……なんだよ、幽霊でも見たみたいな顔しやがって。」
 三郎次は不機嫌そうな表情でそう言うが、目元はゆるゆると垂れ下がっていて唖然としている乱太郎を見て微笑んでいた。
 目の前にいるのは正真正銘、自分がずっと会いたいと焦がれて三郎次本人であるのに、どこか夢見心地になってしまって、三郎次が本当に目の前にいるんだと彼の目線が動くたび、彼が息を吐くたびに乱太郎の中からじわじわと実感が湧いてきた途端に涙腺が緩んでしまい、泣かないように唇をぐっと噛んだ。
 しかし、そんな乱太郎の努力も虚しく、涙がぽろぽろと零れて頬を濡らしていく。せっかくの約一年ぶりに恋人に会えた瞬間なのにみっともない、これではまるで泣き喚く子どもと一緒じゃないかと慌てて袖で拭い取り繕おうとしたが、三郎次はそんなことは気にも留めていないようで乱太郎の頭をくしゃくしゃと撫でて笑った。
「泣いたり驚いたり忙しいな、お前。」
……誰のせいだと、思ってるんですか。」
俺か?」
「他に誰がいるんですか。」
 乱太郎は、半分嬉し泣き、もう半分は怒りでごちゃ混ぜになった感情を抱えながら、すん、と鼻を鳴らす。言いたいことは山ほどあるはずなのに、自分の口からは情けないことに嗚咽しか出てこない。
 すると、三郎次は悪い悪い、と全く悪びれもなく言って今度は乱太郎を自分の懐に閉じ込めるように強く抱き締めた。乱太郎は一瞬驚きのあまり目を見開くが、すぐに三郎次に体重を預けて控えめに三郎次の背中に腕を回してぎゅっと抱きつく。
「卒業、おめでとう。」
……ありがとうございます。遅すぎますよ、」
「悪かったって。」
「ほんとに、おっそいです。」
 そうやって乱太郎が詰めるたび、三郎次は謝罪を述べながら彼の背中をさする。背中をさすられるたびに乱太郎が今まで心の中で抱えていた不安や焦燥感も少しずつ薄れてきて、代わりに三郎次への愛しさが溢れてくる。この人のことが好きだ。
 やっぱり、早く追い付きたい。そしていつか胸を張ってあなたの隣に立ってみたい。それが一番の目標なんです、だから、待っていて、三郎次先輩。きっと、追いついてみせるから。そう伝えたらあなたはどんな反応をしてくれるんだろうか。きっとあなたのことだから、恥ずかしそうに顔を逸らしてふうん。と言ってそっぽを向いて照れ隠しをするのだろうけれど。それでもいい。今は何よりも大切なあなたに、この想いを伝えたい。
「好きです、三郎次先輩。」
……そんなこと言われなくても知ってる。」
「ふふっ、私も知っています。」
……何がだよ。」
「先輩が私のことを大好きなのがです!」
 そう言い切った乱太郎に対し、三郎次はぐっと言葉を詰まらせる。やっぱり乱太郎がなんでも素直に口にするから照れているのだ。そういう素直じゃないところも全て含めてこの人が大好きなんだと再確認しながら乱太郎は笑って三郎次から一度離れようと、三郎次の背中に回していた腕を解くが、逆に三郎次の方から強く抱きしめ返されてしまって身動きができなくなった。
 これはまずい、と思った時にはもう遅く、気づいたときにはもう三郎次の顔が乱太郎の顔の目の前にあって、そのままキスをされた。一瞬驚いてしまったが、すぐに受け入れるように目を閉じる。
 しばらくして唇が離れていく気配を感じてゆっくりと目を開けると、すぐ近くに三郎次の整った顔があって心臓が跳ね上がるような感覚に襲われる。そんな乱太郎の様子を見てなのか、三郎次はふっと優しく微笑むと額に軽く口付けを落とした。
何見てるんだよ?」
……先輩の顔の照れてる顔、ひさしぶりに見てただけですよ。」
 そう返事をして、もう一度彼の胸元に顔を埋めると、三郎次は仕方がないなというふうにため息をつきながら頭を撫でてくれた。
 乱太郎より少し大きな手のひらから伝わってくるぬくもりが心地良い。もっと触れてほしいなと思って目線を上げると、三郎次はじっと乱太郎を見下ろしていてその熱の籠った瞳の奥にある強い感情に射抜かれてしまい、身体中が熱くなる。
「なんだ?もっとしてほしいのか?」
 そんなに穴が開くほど見つめなくとも、これからいくらでも時間はあるんだ、お前が焦ることなんて何一つないというのに。と三郎次は思ったが、しかし、そんなことを言ったらそろそろ乱太郎のことを怒らせてしまうかもしれないので、ここは黙っておくことにしよう。と口を紡ぐと、こくりと乱太郎が自分の問いに小さく首を縦に振って意思表示をしたのが見えて、三郎次は満足気に笑って再び乱太郎の唇を塞いだのだった。