冬国の地でフリンズさんにまた逢えた話

※境遇が特殊な夢主です。ご注意下さい。
※フリンズさんの貴族時代を捏造しています。
※冬国で生きていたら〜の続きとなります。

「今日着るのは、これって事……?」
 
 いつもの事だが、この煌びやかなドレスはどこから仕入れてくるのだろうか。真っ白で丈の長い、レースや刺繍が施された上等なドレスが準備され、私はため息をつく。
 
 幼い頃に取り替え子――チェンジリングで捉われ、人間の世界から長命種フェイの世界で過ごすことになった私だが、日常生活に支障がない程度には養ってもらっているため、貴族様の命令には従うようにしている。しかし、今夜は何をさせられるのだろうか。今日も屋敷内でお遊び会があるらしい。
 最近では給仕役をさせられてイタズラされたり、今回のように煌びやかに着飾られて、この辺りでは珍しい『人間』種族であるため見せ物にされるなど、まぁ……少し我慢すれば何とかなる程度のお遊びに、今後も付き合うしかないのだ。何をされても大体は諦めれば良い、お貴族様のご機嫌伺いをしてれば良い、と考えがちである。とはいえ、最近は楽しみなことも少しだけできた。
「今日の夜会には、あの方は来られるだろうか……?」
 
 先日、偶然にも私を助けてくれた、かの有名な貴族――キリル・チュードミロヴィッチ・フリンズ様が参加されるかどうかは、気になってしまう。元々夜会にあまり参加されない方だという噂を偶然聞いた。今夜もしお見かけしたら、お声をかけてみようかしら。

 
 ***

 
「この展開は、ちょっと予想外……だったね」

 ドレスを着た私は、外で待機していた指導役のフェイに声をかけると、あれよあれよと化粧などを施された。ここまで念入りなのは珍しい。何が始まるのかと思っていたけれど――
…………オークションだとは、思わないじゃない?」
 準備が終わった途端に、なぜか両手につけられる手枷。その時点で頭は疑問符だらけではあったが、そのまま夜会の会場まで連れられると、ステージ上に上げられ、ステージ中央の椅子に座るように――とのこと。椅子の横の台座には、なぜか宝石や美術品が並んでいる。この時点で嫌な予感しかしなかった。

「さて、今夜の最後の品は――当家で所持している、『人間』です!」
 オークショニアの大きな声が耳に響く。はぁ……、たまに屋敷内で会う彼は良いフェイなイメージがあったけど、職務に忠実な家来なだけだった。そんなものか。
 進行手伝いをしている別のフェイからは、小声で「ほら、いい顔をするんだよ」とか言われるけれど、そんなの真っ平ごめんだね。私なんて精々安値で買い叩かれれば良い。
 足を組んで座り、その膝に肘をついて不貞腐れながら会場を見渡す。さて、どこの貴族様が私なんかを買い取ってくれるんでしょうね……。そもそも人間を欲しがるフェイなんているのかな。そんなことを考えていたのだが……会場奥の壁際に、見つけてしまった。
 ――チュードミロヴィッチ様が、いる。
 前回お見かけした時と同じで不機嫌そうに壁の花となっていて、長身の美人が台無しである。思わず、ふふっと笑ってしまう。すると、偶然なのか分からないが、彼も同じタイミングで笑ったような気がした。

 
 私の値段が決まるオークションが開始された。意外にも入札が数件入ってて驚いた。次はどこの家にご厄介になるのだろうか……変な仕事を任されなければ、良いな……
「さぁ、これでラストコールですが……ええ⁈」
 会場がどよめく。私も驚いて息を呑む。――チュードミロヴィッチ様が、他の入札者よりも一桁高い金額を提示したのだ。
「おめでとうございます! こちら落札となります‼︎」
 呆然とする私の耳に、カーンっと叩かれ鳴り響いた鐘の音が聞こえる。そのまま控室まで連れ戻され、手枷は外されたあとは、そのまま待つように指示される。少しの間待っていると、案内役に連れられたチュードミロヴィッチ様が部屋に現れた。

…………どうして、でしょうか?」
「お前がずっと、つまらなそうにしていたからな。――暇つぶしだ」
 思わず漏れた私の問いに、静かにフッと笑いながら彼は答える。そうか、暇つぶしか。彼も他のフェイと変わらないのかもしれない。
「それでは、今日からチュードミロヴィッチ様の元はお邪魔して……えぇっと……何をしたら?」
――特にない」
「特に、ない?」
「私には従者も必要ない。気まぐれで落札したまでだ。金が余っていたからな」
 あ、余ってたから落札したし、要らないって言われている……?ど、どういうこと⁇
「そんな、私はこれから……どうしたら⁈」
「そんなこと、お前が考えれば良い」
……え?」
「お前もこの日常に、うんざりしているのだろう? さぁ、自由の身だ。お前はどうしたい?」
 両手を広げて堂々と自由だと語る彼に、私は思わず目を瞬かせる。
 自由……?今まで屋敷の外に出たことも片手で余るほどしかない……囚われの身の、私が……
 突然訪れた夢のような提案に、目を泳がせる。頭が混乱してきた。

「ところで、だ」
……はい」
「私は数日後に、このスネージナヤを発つ予定だ。この貴族社会に、お前と同じでうんざりしたからな。――その為に身辺の清算をしているところなのだ」
…………はい?」
 なんで身辺の清算をしている人が、私を落札してるの?……とは思ったが、なるほど。余っていた大金を使いたかった、ということか。いや、とは言っても、さぁ……
 
「行き先は決めていない。――お前も一緒に来るか?」

 そう言って彼は、私に手を差し出した。数瞬だけ迷ったが、今までの陰鬱とした日常に比べて、彼の提案は……とても魅力的に輝いていた。私は、この導きの灯火に従うしかなかった。
――よろしくお願いします‼︎」
 そうして私は差し出された彼の手を、突然現れた自由を、両手で掴んだ。



『世界を知る旅の始まりを、貴方と共に』