AmexAmexxx
2026-03-19 22:28:26
1369文字
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Sous la Lune 序

まだ習作扱い(続いたらいいな!)

 ――なんて美しい人。

 ラディナ=リセラーサが、ヴィオ=ノクスレイに抱いた印象はそれが全てだった。
 漆黒のゆるくウェーブのかかった艶のある髪に、深い紫の瞳。その白い肌は、余計な装飾のないタイトな黒のロングドレスに覆い隠されている。冷たい表情で、冷たい瞳で、ただ悠然とその場に佇む彼女に近づく人影は、誰一人いない。

……あれが噂の、ノクスレイ家の御令嬢……
「異端児の魔女だ……
「美しすぎて、やはり不気味ね」

 ひそひそと周囲の貴族たちが、彼女の話をしているのが聞こえる。
 ラディナ自身、ヴィオ=ノクスレイという人物の噂は何度も耳にしたことがあった。夜な夜な悪魔たちと茶会を開いている。禁忌の魔術を使って美しさを保っている。黒い飲み物しか飲まない。人喰いの趣味がある。どれもこれも、良い噂ではない。
 だが、ノクスレイ家は代々この国の王族に重用されている家系だ。事実、彼女の父は魔術兵団総帥、兄はまだ一兵卒ながら第二王女殿下の婚約者。
 ヴィオ=ノクスレイ――彼女だけが、滅多に人前に現れない。そして、常に悪い噂が付きまとう。

……否定されないということは、事実だ、なんて言われてたけれど……

 彼女から目を離せないまま、ラディナは一人呟く。こういった夜会の場にヴィオが現れたのは、ラディナが知る限り初めてのことだ。噂ばかりで、果たしてどんな人物なのかと不思議に思ってはいたのだが。
 これほど美しい令嬢であれば、引く手あまただろう。だが、彼女に付きまとう噂のせいなのか、そういった話を聞いたことはない。ノクスレイ家としても、彼女の婚約等は考えていないのだろうか。娘に付きまとう噂話を知らないとは思えないが、しかしノクスレイ家として何か対策を打っているといった様子は窺えない。或いは彼女の噂を否定するために、ようやくこうして社交の場に出したのかもしれないが、付き人すら見当たらない。
 自然と足が動いた。
 せっかくヴィオがこういった場に現れたのだ。誰も近寄らず、話しかけない、その意味が分からない。こんなにも美しい人に、噂に惑わされて近づかないなど、そんな勿体ないことはできなかった。そもそも真偽の分からない噂話を信じる前に、彼女の人となりを知りたい。ただ、触れてみたい。

「初めまして、ノクスレイ様」

 ラディナが声を掛けた瞬間、周囲がざわめいた。知ったことではない。今ラディナが話したいと思ったのは、そしてこの場で時間を共にしたいと感じたのは、目の前のこの美しい令嬢ただ一人。
 自分が声を掛けられるなど、考えてもいなかったのだろう。ヴィオの肩がぴくりと跳ねたのが見えた。しかしその動揺が表情に現れることもなく、ただ氷のような冷たい瞳が、静かにラディナを捉える。

……ああ、これは。リセラーサ様」
「あら、私のことをご存知なのね! 光栄です」
……ラディナ=リセラーサ様、貴女を知らない方がこの場にいるとは思えませんけれど。貴女のような御方が、私に何の御用です?」

 淡々と紡がれる、少し低い声。そこから感じ取れるのは、確かな拒絶。
 だが、ラディナは微笑んだ――にこやかに。

「お友達になっていただきたくて!」
……は?」

 無邪気なラディナの言葉に、その無表情が一瞬、揺らいだ。