匣舟
2026-03-19 22:09:12
5232文字
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奥の奥、骨の髄まで俺のもの

SSの予定だった成長if(5〜6年設定)の団乱です。
ぬるく恋人設定。あまり活かせていません。

「あのさぁ、」
すんません。」
 現在、忍術学園の医務室では女物の着物を着た乱太郎が鬼の形相をしながら、忍装束がボロボロであちこちに切り傷や怪我をしている団蔵のことを救急セットを用いて治療していた。二人に漂う雰囲気は室内に吹雪いているんじゃないかというほど冷たい雰囲気で覆われており、そんな医務室には誰も好んで近づこうとはしないため、今医務室にいるのは乱太郎と団蔵の二人だけだった。
 乱太郎も団蔵ほどでは無いが顔に煤や切り傷があり、服も所々破れている。乱太郎がどうして女装しているのか、そして団蔵が忍装束を着ていてふたりともボロボロなのか。それは、今日決行された忍務が影響している。
 本日、よいこのは組たちに課せられた忍務はとある城を落とすという忍務だった。その‎城の城主は戦好きで有名であり、ところ構わず戦を仕掛け、そして戦が始まればその戦が終わるまでは民の暮らしなどお構い無しに、村を焼き、町を壊し、女子どもを攫い、売り捌くという悪逆非道なことをしていた。
 しかも城主は年若い女子を好んでおり、その城では攫ってきた年若い女を側室や女中と城内に留まらせておき、そして囲い、飼い殺していた。
 そんな城主に困り果てていた者たちはどうにかその城を落として欲しいと忍術学園に依頼され、は組のよい子たちがその依頼を受け持ったわけだ。
 乱太郎に与えられた役割は村から攫われた娘に扮装し、側室として城主の懐に潜り込むこと。そして、団蔵に与えられた役割は忍務決行日に城主の元にいる乱太郎を護衛しながら城から共に退却すること。その役割を担って二人は忍務に臨んだのだが……
 結果的に言えば、忍務自体は成功した。村娘に扮装した乱太郎は上手い具合に城主に気に入られ、瞬く間に側室になり、夜伽に呼ばれることになった。その夜伽の日に団蔵が二人のいる部屋に乗り込み、城主を捕縛、そのまま乱太郎を助け出し、城から脱出……。というのが二人の動きだった。団蔵が城主の部屋に乗り込むのには難なく成功したが、団蔵が部屋に入った瞬間の光景がいけなかったのだ。
 団蔵が部屋に入ったとき、目の前に飛び込んできたのは、乱太郎に覆いかぶさっている城主の姿だった。乱太郎は顔を青ざめさせながら城主の下から抜け出そうと必死にもがいている。城主はそんな乱太郎の抵抗などものともせず、乱太郎の足を自身の体で押さえつけながら、乱太郎の寝巻の帯を解こうと躍起になっていたのだ。
「だ、だんぞ……っ、」
 団蔵が部屋に入ってきた時に、乱太郎がこちらを確認して自分の名前を呼んでいるのを見てしまったら、もう団蔵は冷静じゃいられなかった。自分の何より大切な恋人である彼に不埒なことをする男を一刻でも早く、乱太郎から引き剥がしたくて、思いっきり脚に力を込めて一気に城主との距離を詰めた団蔵は、力任せに城主の腹部に渾身の一発を叩き込んで吹っ飛ばしたのだ。
 不意打ちも相まってかなり深く食い込んだ一撃を受けた城主は部屋の壁に激突しそのまま気絶してしまう。そして城主が意識を飛ばしている間にそのまま捕縛をし、終えるとすぐに団蔵は乱太郎の元へ駆け寄って、乱太郎を抱き上げて走った。
 だが、問題はその後だった。恋人である乱太郎が他の男に襲われていた場面を目撃した団蔵が、ブチ切れて我慢が効かなくなりド派手に音を立てて城主を吹っ飛ばしたことによって音の発生地である天守閣に城の者が集まり始めた。つまり団蔵が暴れたことによって、城内の人間にバレてしまい、大人数に追われる羽目になったのである。
 二人は城内を逃げ回った。追いかけっこのように追ってくる人間を撒きつつ、たまに襲いかかる追跡者を蹴散らしつつ城からの脱出を試みた。けれど、その城は戦好きと言うだけあって城兵の質が高い上に加えて忍者の数も多く、そして二人のうちの一人が忍装束ではなく着物を着ながらの戦闘だったので二人は少々苦戦を強いられたのだが、なんとか城から逃げ出して、森で待機していた仲間と合流し、そして依頼主と事前に取り決めしていた拠点地まで城主を引き渡し、忍務は完全に完了させ、依頼主と別れ、忍術学園に帰還した、というのがことの顛末である。
 しかし、ここで一つ問題が残った。そう。それが今、目の前にいる団蔵へ怒りを爆発させている乱太郎をどうするかという問題である。
「あの、ほんとにごめんって、」
自分がどれで謝ってるか分かって言ってるの?ごめんって。」
「わ、分かりません。」
「じゃあ、謝んないで。」
ハイ……。」
 流れるような会話からわかる通り、乱太郎は怒っている。それはもう、物凄く。先程から怒りを抑え込むように拳を震わせる乱太郎に対して、団蔵はただひたすら申し訳なさそうに頭を下げ続けている。
 乱太郎がこんなにも怒っているのは、団蔵が騒ぎを起こしたことでは無い。自分が自ら囮役として夜伽を受け入れたのに、結局恐怖に陥り、あの城主を前に何も出来なかったこと、そしてその場面を団蔵に見られてしまい、無意識のうちにのうのうと助けを乞うてしまった事だった。
 あのとき、自分が城主を自ら捕縛していれば、自分の目の前にいる団蔵はこんなにも傷だらけにならなかったのである。それなのに自分は愛する人に助けを求めてしまって、あげくの果てには、そのせいであんなに敵に追われる事になってしまった。
 何が囮役を買って出るだ。情けなくて泣けてくる。団蔵を危険に晒してしまったのも、団蔵に迷惑をかけたのも全部自分が弱いせいだ。頭の中でぐるぐると色々考えてしまう。俯きながら治療が終わり、黙って救急箱を片付ける乱太郎に団蔵は不安になって思わず口を開いた。
……ごめん。俺が、あの時部屋に入って早々に暴れたりしなければ、乱太郎がこんなに怒ることはなかったんだよな…………本当にごめん。」
……ッ、違う!!!」
 突然大きな声を出して立ち上がった乱太郎に驚いた団蔵はびくりと肩を揺らす。目をまん丸にして固まる団蔵を乱太郎はキッと睨みつけた。
「団蔵は何も悪くない!悪いのは私の方だ!私が自分の役割をちゃんと果たせなかったせいで団蔵がこうなってるのに挙句の果てには団蔵に怒ってっ、本当に自分が不甲斐ないよ……。」
 そこまで言った途端に今まで堪えてきた感情が堰を切ったように溢れ出てきた。乱太郎の瞳には涙が浮かび上がってきて、いつの間にか頬には涙の筋が出来ていた。
 嗚咽が喉から漏れてきて、言葉がうまく続かない。そして、耐えきれなくなってぽろりと一粒の涙が零れ落ち、そのまま次から次へと溢れ出していった。泣き出した乱太郎を見て呆然としていた団蔵だったが、すぐに正気に戻って慌てて乱太郎の背中を摩り始めた。
「乱太郎、落ち着けって。まず、落ち着け?」
……
「乱太郎、一旦、座ろう。な?」
 優しく促されて乱太郎は小さく頷くと、ゆっくりと腰を下ろした。目の前に正座をして向き合うような体制になり、乱太郎は一度深呼吸をする。すると、心が少し落ち着いてきて涙も止まったようだ。団蔵は乱太郎の顔を覗き込みながら恐る恐る尋ねてきた。
「なぁ、なんで泣いてんの?」
ぅ、だ、だって、私のせいで団蔵がこんな目にあって……それに私は何も出来なかった……。それどころか、団蔵に助けてもらっちゃったし……。」
 乱太郎の言葉を聞いた瞬間、団蔵は盛大にため息をつくとガシガシと頭を掻いた。その行動にびっくりして肩を揺らす乱太郎に向かって真剣な眼差しを向けると、乱太郎の両手を握り締める。俯いていた顔を上げて目の前の団蔵を見た乱太郎は彼の瞳を見て思わず息を飲んだ。瞳の中に燃える炎が宿っているようなそんな瞳が乱太郎のことを見つめている。乱太郎の様子を知ってか知らずか、団蔵は静かに話し出した。
あのな?乱太郎、よく聞けよ。……俺は別にお前に謝られる筋合いはないし、それにこの怪我は俺の油断が招いた結果だから自業自得だ。」
「で、でも……!」
いいから最後まで聞け。」
 鋭い声色に思わず言葉を詰まらせてしまった乱太郎を見て、ごめんな、怖がらせたいわけじゃないから。とふっと表情を和らげた団蔵は再び口を開く。
「確かに、俺は怒られて当然だと思う行動をした。お前があの城主に組み敷かれてた場面に遭遇したときに冷静でいなきゃいけなかったのに、俺は我慢できなくて城主を殴って、作戦と全く違う行動をした。もしかしたら忍務が失敗するかもしれないのに、俺は考えずにただ感情に任せて行動してしまったんだ。だけどな、俺は全然後悔なんてしていないし、何より俺が助けなきゃ、乱太郎はもっと酷い目に遭っていたかもしれなかった。そうなったら俺は一生後悔したと思う。だから、お前を助けに行ったことは何一つとして後悔していない。むしろ、あの状況でお前を助ける事が出来て良かったと思っているぐらいだ。」
 団蔵から来る真っ直ぐな視線と共に紡がれる言葉はとても温かかった。それが嬉しくて、また涙が出そうになるのを堪えるために唇を噛む。団蔵は乱太郎の手を更に強く握り締めて続けた。
「それに、お前だってよく頑張ってくれたよ。あの城に潜入して、見ず知らずの人間相手に夜伽の相手に選ばれたとはいえ行って組み敷かれるなんて、怖かっただろ?房中術を習ってるとはいえ、本当だったらすぐにでも逃げ出したかったはずだ。でもそれを我慢して、きちんとお前は自分の役割を果たしてくれたじゃないか。そんなお前のことを尊敬しているよ。本当にありがとう、よくやってくれたよ。乱太郎。」
 団蔵の言葉に胸がいっぱいになって、鼻の奥がツンとするのを感じながら乱太郎は精一杯首を横に振った。視界が滲んできて何も見えない。
ぅ、あ、」
 それでも何か言わなければと思えば思うほど上手く声が出なかった。そんな乱太郎を安心させるように微笑むと、団蔵はそっと彼のことを抱きしめた。
「でも、やっぱ乱太郎は顔立ちが良いから女装したらほんっとお前、可愛いし、ほんっと綺麗なんだもん。正直ちょっと妬けちゃったよ。あのクソ野郎に乱太郎のそんな姿見られたなんてさ。」
「な、何言って……。」
「いや、本気で思ってる。だって、あの城主に乱太郎が迫られているの見たとき、頭に血が登ってカッとなって……とにかくあいつを倒さないと。って事しか考えてなかった。……あんな奴なんかに乱太郎の事を穢されるのは嫌だったんだよ。お前は、俺のものなのにさ、って。」
……!」
 照れくさそうに頬を掻く団蔵を見て、乱太郎は顔を赤く染め上げた。まさかこんな事を言われるとは思っていなかったのだ。嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが入り交じってなんだか変な気分になる。何も言い返せずにいると、ふいに団蔵が真面目な顔つきになったので思わず身構える。
「乱太郎、」
?」
 少し躊躇いがちに口を開いて、乱太郎の名前を呼ぶ団蔵。その瞳にはどこか熱っぽいものが込められているような気がして、乱太郎は自然と鼓動が速くなっていくのを感じていた。そんな勝手に団蔵に対してドキドキしている乱太郎を見て微笑みながら、団蔵は意を決したように告げた。
これからもずっと、傍で守らせてくれ、な?」
 そう言うと同時に額に口付けられた感触が乱太郎の体全体を伝って、額にキスをされたんだと理解すると一気に全身が熱くなるのが分かった。それはもうやかんが一瞬で沸騰するかのような感覚。きっと、今の自分は顔だけでなく全身が真っ赤になっているに違いないと思った。
「っ!?ちょっ!団蔵!!」
「なんだよ。これぐらい良いだろ?忍務頑張ったご褒美ってことでさ!」
 ニヤリとした笑みを浮かべた団蔵に反論しようと開いた口は、しかし声にならずに閉じられる。気づいた時には団蔵にキスされていたからだ。突然の事に目を見開いて固まってしまっていると、やがてゆっくりと唇が離れていく感覚があり、そちらを見ると満足そうに目を細める団蔵の姿があった。
 その表情は今までに見たことがないほど艶やかなもので、それを見ただけで頭がクラクラとしてしまうほど色気のあるものであった。思わず見惚れてしまっていると、再び顔が近付いてきて、今度は耳元に囁きかけてきたのである。
……なぁ、乱太郎。今夜、予定空いてる?」
 あのクソ城主に触られたところさ、俺で上書きさせて?と吐息混じりの低い声が脳髄に響き渡り、身体の奥底からゾクリと痺れるような感覚が広がっていく。あまりにも甘美な誘惑に抗えるはずもなく、乱太郎はコクンと小さく頷いた。そしてそれを見届けると嬉しそうな笑みを浮かべながらじゃあ、後で俺の部屋来て。俺のもんだって分からせてやるから。と言いながら乱太郎の唇に再びキスを送るのだった。