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山茶花
2026-03-19 16:20:37
6261文字
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[シルデュ]吸血鬼怪盗パロディ
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月灯かりの狂詩曲【207OP016】
演じ切りたい話/吸血鬼+怪盗⚔×探偵助手♠パロ/5900字程度
*こちらは吸血鬼+怪盗シルバー×探偵助手デュースのパロディ作品です
*このため、口調が呼びタメになっています
*やりたい放題です。なんでも許せる人向け。
以上大丈夫な方はスクロール↓
――
満月の夜。しんと静謐な夜を守る美術館の屋根の上、コウモリのシルエットと共に月夜を赤く染め。銀色に輝くシルクハットに燕尾服を身に纏い、ソイツは現れた。
「おやおや、これはこれは
……
、こんばんは。警察、探偵、見習いさんもお揃いで
……
。不肖『ヴァンルージュ』、今宵、名画『星月夜』
……
頂きに参りました」
その人影は恭しく一礼をして、屋根の向こうへと飛び降りる。奴の頭から離れたシルクハットが風に飛んでいく中、僕たちは口々に叫んだ。
「出たぞ、怪盗『ヴァンルージュ』だ!! なんとしてでも捕まえろ!!」
一斉に光り、一瞬前まで暗かった夜空を逃げ場なく照らすサーチライトの群れの中、僕も美術館の外から中へ、走る。
怪盗団『メヌリス』に所属する(らしい)、怪盗『ヴァンルージュ』を追いかけて。
何故って? 僕は、奴、吸血鬼怪盗『ヴァンルージュ』を追っている名探偵
……
の、助手、だからだ。
名探偵は僕じゃなくて、ローズハート探偵事務所長の方。でもあの人、安楽椅子探偵ってやつなのかな。
僕とか他の助手に追いかけっこは任せて、頭脳戦や指揮で頑張るタイプの人だ。
だから、こうして『ヴァンルージュ』と追いかけっこをするのは、僕の仕事になっている。
まあ、足が速いってそれくらいしか特技ないしな、僕。探偵助手とはいえ、頭使うの、苦手だし。だから、いいんだ。
これは適材適所ってやつなんだ、きっと。
……
たぶん。
美術館の中を走り、やがて『星月夜』の展示スペースに辿り着くと、ヴァンルージュはもう既に美術品の額を外した後だった。
額縁には星月夜の絵があるように見えるが、あれはレプリカだ。ヴァンルージュが美術品を盗んだあとにはいつも、精巧なレプリカが残されているから。
「いやがったなヴァンルージュ!! 観念しろ、今日こそは大人しくお縄につけよ!!」
「ふっ、断る」
ガラスの天井から、月灯かりが差し込み、ヴァンルージュの銀髪を照らす。
それからヴァンルージュは一度コウモリになって僕の目の前に突如として現れると、告げた。
「フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホの名画「星月夜」、今は亡き彼に敬意を表し、此処に頂戴する」
そうして、ヴァンルージュは僕の頬にキスをする。僕は思わず赤くなって、取り乱した。
「なっ、何するんだ! こいつ!」
「では、さらばだ。また会おう、見習い探偵さん!」
僕はとにかくヴァンルージュを捕まえようと、彼の身体に組み付こうとした。けども、すぐにヴァンルージュはコウモリに身体を変化させて、捕まえようとした腕はするりとすり抜けられてしまった。
「この野郎
……
っ、僕をからかうな!!」
どこからか、くつくつと笑い声が響き。そして僕は悟る。今日も負けた、逃げられた!
……
と。
悔しい気持ちのまま、叫んだ拍子に咽せ込んで、ゴホ、ゴホとつい咳をする。
すると後ろから僕らの様子を見ていたらしいローズハート所長が言った。
「大丈夫かい、デュース。無理をするのは良くないよ」
「いえ。
……
僕に残された時間は、少ない。やれるだけのことは、やっておきたいんです」
「
……
そうか。キミの悲願が、叶うといいのだけれど」
――
吸血鬼怪盗『ヴァンルージュ』を追いかけ、この手で捕まえる。これが今の僕の仕事であり、なんとしても達成したい悲願だ。
とは言っても、怪盗が予告状を出していない日にも、僕たちの生活、暮らしはある。
そういうわけで探偵事務所の食糧や備品なんかを買い出しに出た帰り、僕は、うずくまるように座り込む人を見つけた。
「大丈夫ですか? 具合とか悪かったりするなら、僕、手伝いましょうか
……
」
「その、声は
……
」
そう声をかけたとき、顔を上げたその人を見て、僕は驚いた。
「お前っ、ヴァンルージュ
……
ッ!!」
「
……
ふっ。まさかこんなところで君に会うとは、な
……
」
その人は間違いなく、僕が長年追ってきた怪盗、ヴァンルージュそのものだったからだ。
「
……
っ、ふ。は
……
っ」
ヴァンルージュの口から、苦しそうな呼吸が、漏れる。
とりあえずどこかに連れて行くにしても、このままじゃ困る、と。
ヴァンルージュに肩を貸し、日差しの当たる日なたから、木陰へと連れて行った。
こいつは吸血鬼だ。コウモリへの変化を使って、一番からかわれる僕はよく知ってる。
だから、たぶん太陽の光か何かに当てられて弱ってるんだろうとアタリをつけ、介抱をする。
すると少し驚いた顔で、ヴァンルージュは僕にお礼を言った。
「
……
ありがとう」
「
……
どういたしまして」
それからヴァンルージュは、僕に尋ねる。
「俺を捕まえるチャンスだぞ、いいのか」
「
……
」
意外と、素直なんだな。確かに、ここで捕まえるのは、簡単だ。
でもその前にひとつ、僕は彼に、聞いてみたいことがあった。だから、尋ねてみることにした。
「なあ。アンタはどうして、怪盗なんてやっているんだ?」
するとヴァンルージュは意外なことに、あっさりと答えを教えてくれた。
「そう、だな。君は、呪いというものを信じるか?」
「呪い? 吸血鬼がいるのはアンタのせいで知ってたけど、呪いもあるのか?」
「
……
ああ。呪いは、実在する」
そうしてヴァンルージュは僕に一通りのことを説明した。
「見習い探偵さんに言って、信じてもらえるかは分からないが。
……
俺たちが盗むものには、どれも呪いがかかっているんだ。いずれも放っておくと、人類すべてを巻き込むような呪いが。それを、害のない精巧なレプリカとすり替えている」
「だったら、それ、正直に言えばいいんじゃ
……
?」
そんな危ないことがあるなら、怪盗なんてやらず、正直に本当のこと言って、みんなで協力して対策した方が絶対いいはずだ。
するとヴァンルージュは首を振った。
「皆が皆、君のように純粋じゃない。怪盗である俺の口からこんなことを言っても、まず言い逃れの嘘を疑われ、本気で訴えれば心の病だと思われて、終いだ。
……
しかも、それで終われば、良い方で。呪いのかかった美術品が持つ強い力は、悪しき考えを持つ者の手に渡れば、正しく使われることはないだろう。だから、俺たちは
……
、俺は、この手を汚している。皆を、そして愛しいこの世界を、守るために」
吸血鬼でも人間でも、変わらない。この世界を愛し、守りたいという気持ちは。
そう告げるヴァンルージュに、僕は何も言えなくなった。
……
ずっと追っていた怪盗に、そんな事情があったなんて。
「それで、君はどうして俺を捕まえないんだ? ほら、今がチャンスだぞ?」
ヴァンルージュは片目を閉じながらおどけて、手を広げてみせる。
僕はそれでも、ちゃんとヴァンルージュの質問に答えたくなった。向こうはちゃんと答えてくれたのに、僕が誤魔化すのは、失礼だし、フェアじゃないって思ったから。
「
……
えっと。なんて、いうか。僕は、まず、事情を聞きたくて。僕は昔、悪いことしてた。そのとき、悪いこととはいえ、そういうことをしたがる事情は確かにあった。だから、悪いことしてる奴にも、良くも悪くもそいつなりの理由はあるって思ってて。まずは話を聞いてみるのが良い、って。
……
で、それを聞いた今、どうするのが正解か、分からなくなったんだ」
「そうか」
そう言って、ヴァンルージュは肩をすくめた。
……
僕はなんとなく、挨拶をしておきたくなった。
この、二度と会えないかもしれない好敵手に。
「でも、たぶんアンタを捕まえるのは、僕じゃないと思う」
「なんだ、急にずいぶん弱気なんだな。いつもの威勢はどうした?」
僕は、その言葉に頷かなかった。今度は僕が、首を振る番だった。
「僕、実は。少し前に、別の事件で、大怪我をして。それで、かなり身体がやられちゃって、もう、永くないんだ。だから、もう。次のアンタの登場に、立ち会えるかどうかも分からない」
「
……
そう、なのか」
「ああ。だから、なのかな。アンタもその仕事に、命を賭けてるんだって、分かるから。だから
……
この一度だけ、見逃す、ことにする。今際の際に、それを後悔するとしても」
ヴァンルージュは、何かを考え、答えない。僕は冷たい水を差し出し、受け取ったヴァンルージュの頭から、僕が羽織っていたフード付きのパーカーをかけ、告げる。
「それに、完全体のアンタを捕まえたんじゃなきゃ、意味がないからな!」と。
するとヴァンルージュは、パーカーの下から、表情を見せず言った。
「
……
君を失うのは、惜しいな。君との追いかけっこは、楽しいんだ」
「はは、物好きだな」
「ああ
……
俺は、物好きなんだ」
パーカー、今度会ったら返してくれよ、それお気に入りなんだと告げて、僕はその場を立ち去る。
――
それからすぐの翌々日に、事件は起こった。
それは、ローズハート探偵事務所に届いた2通の予告状。
「ふうん。『親愛なるデュース・スペード様 今宵、貴方の人生を頂きます 怪盗ヴァンルージュ』
……
ね」
キミ、ヴァンルージュに狙われるような美術品だったっけとローズハート所長は言う。
僕は、ちょっと覚えがないですと誤魔化して、自分宛ての予告状をローズハート所長には見せず、ポケットに隠していた。
……
だって、そこには。ローズハート所長というか、事務所宛ての予告状と違って、書いてあったからだ。
『シルバー・ヴァンルージュ』と。彼の、本名らしきものが。
……
本当はこれも、事務所長に差し出すべきだと分かっていたけれど、何故か、僕は今、そうする気にはなれなかった。
それが僕にだけ本名を明かしてくれた彼の礼儀に対する、公平な礼儀な気がして。
「ともかく、今夜は張り込みだね。行けそうかい?」
「はいっ、大丈夫です。今夜は身体の調子も悪くないし、やれます、頑張れます!」
「分かった。
……
でも、無理はしないようにね」
そうして、夜。僕たちは事務所の外で包囲網を作り、ヴァンルージュが現れるのを待つ。
すると、1匹のコウモリが群れを成す僕たちの間をすり抜けて、僕の目の前に現れ。
気が付いたら僕は、瞬きの間の一瞬で。事務所があるビルの天辺に連れていかれていた。
「え、あれ、なんで!?」
「不思議だろ? まるで魔法みたいだ」
目を白黒させて驚いていたら、いつもの怪盗衣装を身に着けたヴァンルージュが、目の前に立った。
「出たな、ヴァンルージュ! 僕の人生を貰うって、どういう意味だ!」
僕はびしっ、とヴァンルージュを指差す。ヴァンルージュは笑って、僕に近づいた。
「どうも何も、そのままの意味だ。
……
な、見習い探偵さん」
そうしてヴァンルージュは、僕の前にひざまずき、僕が指さした手首をとって、くちづける。
カンカンと誰かが非常階段を駆け上がる音、階下の喧騒を差し置いて、月灯かりだけがただ静かに、僕たちを照らしていた。
「こんなところで、君を失いたくないんだ。ずっと、俺を追いかけてきてくれ。そのまっすぐな、瞳と心で」
やがて手首にちくりと痛みが走り。気がついたら、かぷり、と手首に噛みつかれて、血を吸われていた。
身体が動かない、動けない。ヴァンルージュの瞳は妖しく光っている。ああ、僕は、きっと、魅了の魔法か何かにかけられているんだな、と悟った。
そうして、血を一通り飲み終えたヴァンルージュは、僕へとくちづけ、何かを飲み込ませた。
「んっ」
「飲み込め」
こくり、と僕がその何かを飲み込むと、ヴァンルージュは甘く切ない笑顔で僕にほほ笑む。
「
……
いつかすべての仕事を終えた日、君に捕まるのを、待っているから」
では、今宵はこれで、と、コウモリになって、月夜を羽ばたいていくヴァンルージュを捕まえようと、僕は手を伸ばす。
「あ
……
」
でも、だんだんと身体から力が抜けていってしまい、それは叶わなかった。
ぼやける視界の中、見えたものは。
ヴァンルージュの去ったあと、最後のコウモリたちが。倒れ伏す僕の身体に、パーカーをかけていく光景だった。
それからしばらくして、僕は目が覚めた。目が覚めた僕の身体からは、前の事件で受けた傷がなくなっていた。
ただその代わり、僕は太陽の下を歩けなくなった、らしい。鏡を見ると、牙もある。
……
まあ、つまるところ。
僕はあのときヴァンルージュに血を吸われて、そして、血を飲まされて。吸血鬼の仲間にされちまった、ってワケだ。
「で、どうするデュース。彼のこと、まだ追うかい?」
病室へ見舞いに来てくれたローズハート所長の言葉に、僕は答える。
「はい、もちろんです。僕が絶対、どれだけ時間がかかっても、捕まえてみせます」
「そう」
なら、今後も頼んだよ。そう言ってローズハート所長は病室を去る。僕は、手首に巻かれた包帯を見て、ひとり考えていた。
(僕は文句を言いたいんだ。あの人の我侭で勝手に吸血鬼にされたこと、そして、お礼も言わせずに消えたこと)
だから絶対、捕まえるんだ。あの人のことを。
もう一度会って、いつか絶対捕まえて。そして、もっとたくさん、いろんなことを話すんだ。
いろんなことを、たとえ何年かかってでも。だから、絶対に捕まえてやる。
他の誰でもない、僕のこの手で。あの人の仕事が終わるとき、僕が絶対に捕まえる。
ひとり病室の中、そんな決意を、僕は固めていた。
*
――
怪盗団『メヌリス』のアジトにて。使い魔のコウモリたちに食事をやりながら、俺は考える。
……
果たして、これで良かったろうか、と。その昔、と言っても記憶もないような赤子の頃のことだ。命を落としかけていた俺は、親父殿の手によって、吸血鬼にされた。だが、俺はそのことを感謝している。その恩返しのために、今もこうして表立って怪盗『ヴァンルージュ』をやっているのだ。
とはいえもちろん、此度同じ目に遭ったデュースも、俺と同じように考えるとは思ってはいない。親父殿の手に縋る他なく、またほとんどの生を吸血鬼として育った俺のときとは、状況も年齢も、何もかも違うからだ。
分かっている。頭では、分かっていたんだ。何もかも。俺のやっていることは、人の世の中で正しくはないということも。
それでも、失いたくなかった。
いつもまっすぐな目で、心で。一途に俺を追いかけてきてくれる彼のことを、好ましく思っていたから。
これは俺の我侭だ、そう、分かっている。だが、怪盗なんて、勝手気ままなものだろう?
いつか彼に捕まるその日が来たら、文句でもなんでも聞いてやるから、今はまだ、この追いかけっこを続けさせてほしいんだ。
そう、何故なら。このキネマの続きは、きっと、俺ひとりでは演じきれないから。
――
映画のフィルムを繋ぎ合わせるように、また会おう、見習い探偵さん。
そしてついに君が俺を捕まえたそのときには、伝えさせてほしい。この俺の、切なる想いを。
だが今はただ、俺と同じ世界で、傍にいてほしいと。青白く光る月灯かりの中、再会を願った。
*おしまい
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