millet0824
2026-03-19 14:49:58
4707文字
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貧血

ジョゼ主♀(女の子自機、アルテア視点だよ)
⚠️自由探索の依頼を経る前に出したネタなので、(こんなこと絶対しないよね)思いながらも供養

水没都市にて探索を始めてからまもなく1週間が経とうとしていた。
変電所は奪還した、時折発生する襲撃も逐次処理している。住民が笑顔を見せる機会が増えた気がする。
目の前で「そろそろ水質問題にも着手できそうだな...」と地図を前に独り言つ彼女を眺めながら、
(笑顔か.......それは生活水準が少しずつ上がっているのと同じくらい、自分の信用が積み上がり始めているのかもしれない)と、アルテアはぼんやりと思案していた。
彼女、ジョゼ・アンジューと名を発する吸血鬼と行動を共にして、どうにか1週間に到達しようとしている。

なぜ『どうにか』と思うのか、それは全身の不調が物語っている。日に日に倦怠感が強くなり、ソファに座っている今もなお眩暈がする。
戦闘はジョゼも積極的に参加するし、自身の戦闘能力は術式にて補っているためどうにか保っている。
疲労なら食事、睡眠にてある程度は回復するはずだが、日々不調は悪化しているのだ。これ以上放置する訳にはいかない、パフォーマンスに関わる。
原因は分かっている、「ジョゼさん」、と彼女を呼び止めた。
「どうした、許婚どの?」と声と可愛らしくにこやかなお顔をこちらに向けてくる。独り言ちた時の落ち着いた少し低い声色と違い、明るく柔らかな声だ。
「ひとつ、お願いがありまして」
にこやかなお顔の彼女にこの話をするのは心苦しく、続けなくてはいけない言葉を選んでいるうちに詰まってしまうが、どうにか解決しないといけない問題だ。
言葉に詰まっている際にも彼女は私の身を案じてくれているのか、顔を覗き込んでくれていた。話を飲み込んではいけない。
「この拠点にお世話になりはじめてから今まで、毎日吸血されていますよね」
「ああ、確かにそうだな」
「このところ体調が悪くて、原因は毎日の吸血から来る貧血かと思いまして」
ハッとするジョゼ。ただし少し訝しむような声色で質問を繰り出してきた。
「しかし許婚どの、戦闘は問題なくこなせていただろう?」
「それはジョゼさんに頑張っていただいてたのと、術式で誤魔化していただけですよ」
「確かに最近は後ろから魔法術式で追撃してくれることが多かったな...。して、お願いというのは?」
「吸血の頻度を減らしてもらいたいんです、何日か日を置きませんか?」
この会話の始め方からして、お願いは吸血関連だろうと彼女も途中から考えついていたようで、二つ返事で了承された。

素直に了承されたことに安堵しているが、彼女は2週間ほど日を置こうと先制で提案してきたのだ。
いままで毎日吸血をしていたのに、2週間吸血せずに過ごすのは耐えられるのだろうか?
大見得を切っているような違和感が芽生えているが、私も了承した。彼女には窮地の最中で助けてもらった恩義がある。そして先のお願いのように、提案を信じたい気持ちがあった。
恩義、信用。今までの生き方の中では少し離れていた、いわゆる人情にあたる感情や言動と言うべきだろうか。
元来の目的を思い出しながら彼女に『許婚どの』と呼ばれる顛末や、今日までのことを思い出しながら緩やかに睡魔が訪れるのを待つ。
未だに飲み込めていないが、私は一度死んだらしい。そして吸血鬼の心臓を分け与えられて、生き長らえている。
心臓を分け与えてくれた恩人はルゥ・マグメルと名乗り、彼女と共に使命を全うするよう説明を受けた。
 封印殻の中で眠る英雄を呼び起こして殺す。
そのため時間の移動を行い英雄が生きていた時代で、封印殻を破るための鍵を探す。場所が分かっている封印殻は3人分、まずは水没都市にて安置されている英雄ジョゼの封印殻に向かうこととなった。
まずは鍵を探す。そのために現代より昔の、英雄ジョゼが生きている時代にやってきた......のはいいのだけど時計塔の最上階で逃げ場もなく、なぜかタイミングよく時計塔は襲撃されているときた。地上から喧騒が聞こえる。
脱出すべき、と休眠に入る前にルゥが言っていたが私もそう思う。賊と間違えられたとして『違う』と証明する術がない、どうしたものか。ここを脱出するため周囲を見回したが階段がひとつあるっきりだ。腹を括って降りるしかない。
階段を降りるとそこは誰かの私室のようだ、眠っている少女がいる。先ほどの喧騒の中で「上に行かせるな」とうっすら聞き取れたが、重要人物だろうか?
襲撃されていることを教え、逃げてもらったほうがいいか?そんなことを考えているうちに視界はなぜか天井を捉える。
何が起こっているかも分からないうちに首筋に鋭くも短い痛みが走る。少女は吸血鬼で、吸血されているのだ!熱が奪われる感覚を受けながら、ようやく状況を飲み込む。
馬乗りになっている彼女は流暢に飲んだ血の評価を宣っている、美味しかったらしい。その間に抵抗はしているがびくともしない。小柄な少女の見た目に反して、吸血鬼であるため人間より力が強いのだろう。
さっと見回した際に一瞬見えた、部屋の奥のエレベーターが稼働するモーター音がする。本命の賊がやってくる。どんな規模で襲撃されているか不明だがいざとなれば彼女に加勢した方が無難だろう。
バタバタと乗り込んでくる足音でようやく彼女は敵と対峙する。流暢に、というよりも余裕があるように見受けられる。
軽い立ち眩みがあるが気にしないよう頭を振り、彼女を庇うように前へ出る。少なくとも私は敵意がないと認めてもらえたようで共闘をする。
戦闘に関して彼女は大変積極的だった、小柄な体躯にそぐわない大剣を軽々振るうさまが目に焼き付く。どう鍛えてあの戦闘スタイルになったか気になる。
気になるのだが、目の前の窮地が無事に終了したせいで振り払っていた眩暈と立ち眩みが一気に襲ってくる。抗えない。目の前が暗転し、頭を打ち付ける痛みがひとつ。

次に目を覚ましたときには自警団と思しき面々に襲撃犯と間違われ(しかし『違う』と証明するすべもないまま)、断罪が始まろうとする。
それを「待て」の一声で静止させてみせたのは、先ほどの少女だった。
そして彼女は朗々と宣言した。「私は、この者を許婚として迎え入れる」
拠点で暮らす住人に信用してもらうが為に私を許婚とするだなんて啖呵を切った際は、方便であると分かっていても胸の底を焼くような感覚を覚えた。
その後2人きりで認識の擦り合わせを行った際、啖呵を切った意図と彼女の名をようやく聞けたのであった。
方便やジョゼからの依頼に伴う働きの数々は多くの住人に善き方向に捉えてもらったようで、住人からの拠点の外に自生するような素材や食材の入手に関する依頼も最近増えている。私も食材は生きていく上で必要だと感じているので率先して依頼を受領している。
ただ、料理を返礼として頂いてしまうため、「自分のことは気にせず食べて元気いっぱいにしてくれたらいいし、返礼も不要なんだけどな」と、独り言を言っていたのを一度ジョゼに聞かれてしまったことがある。
その時は「相手も恩義に感じているのだろう?ありがたく受け取っておけばいい」なんて、少し困ったような笑顔で言われたことを思い出す。
彼女に窮地を助けてもらった恩義以上に、日々の言葉や身を案じ気にかけてくれる眼差し、差し伸べられた小さな手、思慮に満ちた所作が、暖かくて忘れがたくて手放せない。それと一緒なんだろうか?
彼女をこの手にかけなければいけないのに、彼女に差し伸べてもらったすべてが手放せない。それらをこぼさないようにうずくまって目を閉じる。

提案を飲んでから10日経った。私たちは探索の範囲を広げ、線路を辿り大きなトンネルを眺めたり、大破し分断された高速道路を横目に温泉を発見するなどしていた。
吸血の頻度を減らしてもらったはずなのだが、体調は一向に戻らなかった。むしろ拠点に着くなり気が抜けて強い眩暈や吐き気に襲われ彼女に介抱される始末だ。
気を張っていたり疲労が溜まっている?とは考えたが、それが原因ではないだろう。数日ごとに首筋がピリピリと痛む、しかもジョゼに吸血される箇所と寸分違わぬ位置だ。大見得を切っている違和感は片時も離れていかないし、むしろ少しずつ育っているまである。
他人を疑うのは何時だって嫌だな、とは思うが介抱されるほどの事態が起こっている以上、疑わざるを得ない。寝かされていたベッドから身体を起こす。
気が付いたんだな、と声をかけてくれる彼女に頷いてから口を開く。
「ジョゼさん。こんなこと聞きたくはなかったんだけど、ひとつ答えてもらえないかな」
相手からの答えを促すような言葉選びながら話を続ける。
「貴方が、私を倒れるほど働かせるはずはない。なのに介抱が必要な程体調が悪化しているのって、本当は2週間も待たずに吸血しているからではないかな。」
目を見開いて見当違いな場所を見る彼女、私は回答を待つ。
ボソ、と「バレた...!」と聞こえた。
「いや、その...が、我慢ならなかったんだ!」
「それなら控えられないって断ってくれたらよかったんですけど」
「本当は控えられる、あまり長く摂取していないと渇望の月に精神を焼かれるのはそうなんだが。少なくとも今までは1ヶ月程度は飲まずとも過ごせていたんだ」
「じゃあ逆にどうして約束を破ってまで...」
ぐっ、と顔のパーツが中央に寄った。痛いところを突かれたのだろう。
「その、お前の血がな。どうしても忘れられないというか、そんな感じで数日置きに...」
「美味しくて数日置きに」
「そうだ!」きっぱり言い放った彼女は、間をおいて少し口籠もりながら言葉を続ける。
「それにまあ...その、なんだ。お前もなんだか気持ち良さそうな顔をしていたしな?」
カッと顔が熱くなるのを感じる。
「その反応からして流石に自覚はなかったか」
ふふ、と笑われる。いたずらっ子がいたずらを成功させたような、無邪気そうな笑顔が愛らしい。けど見惚れていては事が進まない。
「一回話を戻させてください、吸血する頻度を2週間置くという約束を破って数日置きに吸血していたと」
「そうだな」
「弁解は、美味しかったからつい、と」
「そうだな...」彼女の都合ではあるが、きちんと理由があってよかった。
「ただですね、これ以上血を吸われてしまうと貧血どころではなく失血死とかもあると思うんです。」
それに、と続ける言葉を選ぶ。
「日頃の戦闘で貴方の足を引っ張りたくないんです。なるべく力になりたい、なれるよう頑張りたい。だからこそ、貧血でパフォーマンスを発揮できていない現状は個人的に悔しくて。
少なくとも今の体調が正常に戻るまで、吸血を控えてもらえませんか?」
目を丸くした彼女は深く頷いた。
「そこまで言われてしまったら了承せざるを得ないな、分かった。」
それと、と言葉を繋ぎにんまりと笑いだす。
「お前、力になりたいって思ってくれていたんだな~?!とっても嬉しいよ!」
勢いよく抱き付かれたまま押し倒された。症状を鑑みるとほぼ病人にやっていいことではない、と即座に気付き離れる彼女。
「はは、嬉しくてつい、な。すまない、今日はそのまま眠ってくれて構わないよ。大事にな。
おやすみ、アルテア」
そうっと頭を2、3往復撫でて彼女はエレベータへ向かう。ようやく日が落ちた頃合いだから夕食を摂りに行くのだろう。
名前を呼ばれ動悸がすることを覚えながら、そのまま瞼を閉じる。

今度は約束が違わないといいのだけど。今はそれだけを気にしながら、また新しく増えた思い出を抱いて眠った。