310no8931
2026-03-19 00:36:39
4269文字
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グ&ピの芸人if小説

時代の流れで仕事が来なくなってしまった悪役役者のピートがドジのせいで就職したりクビになったりを繰り返すフリーターのグーフィーを誘って芸人コンビを組むヤツ

⚠️ディズニーキャラはスターシステムなのであくまでもそういうストーリーの設定くん。
グーフィーには息子(マックス)がいるけど、このピートは独り身の設定。
基本的にはパパはグーフィーの設定(高校からの幼なじみ)が軸になっています。

コンビニの夜勤バイトのサボり中。路地裏で一人、ピートはタバコを吸っていた。
壁に取り付けられた小さい豆電球が、しばらく整備されていないのか何回も点滅を繰り返している。あまりにもその光を照らす気の無さにピートは一人苦笑していた。
既にここでもう10分が経過している。手に収まるサイズの小さなメモ帳を片手に。
「あ〜クソッ……一箱分買ってくりゃ良かった」
タバコの吸殻だけがこの場所に残る。
一人ため息をつき、空のタバコの箱を握り潰す。ピートは売れない役者だった。
いつかは誰もが知り、憧れるスターになることを夢見て大きな事務所に十数年前、所属した。
当時は体型や重低音の声を売りにし、何年もの間、悪役役者として色んな『悪い奴』を演じてきた。
あまりにも自分の夢とは掛け離れた物ではあったが、なんだかんだ食ってはいけた。
───いけていた。時代の流れは早い。
今では色んなコンプライアンスやらなんやらにより、自分のお得意の『悪役』は求められることは減った。事務所の方向性も大きく変わった。余計自分の演じる舞台は減っていき、挙句の果てにはこんな様だ。
いまや夜勤バイトでなんとか生活を食いつないでいく日々。
いやいや、『夜勤バイトで食いつないでいく日々』だと?
笑わせてくれるじゃねえか。
メモ帳の1ページ目を読み直す。
何度も何度もその文章を頭の中で復唱する。
ピートは今日、一か八かの賭けに出る事にしていた。
ただ今は腕時計の秒針をジッと見つめる。

「来る」

針がカチッと60秒の終わりを知らせると、ガタガタ!と大きな音が響いた。
路地裏の奥から、ヤケにうるさい音を立てて誰かが近付いてくる。

「アッヒョ!やぁピート!」

頭には酷く濡れた雑巾が覆い、右手にはボロボロのデッキブラシ。足には水がまだ入っているであろう青いバケツ。胴体にはもう使い物にはならないであろうトイレットペーパーが何個も巻き付けられ、オロオロとバランスをなんとか保ちながら彼が近付いてきた。
「グーフィー……ったく相変わらずだな」
ピートはすかさず彼の頭に乗った雑巾を手に取った。
「ごめんよピート!どこだい?ここなんだか暗くてってあれ?あぁ、ここに居たんだね!」
顔をビショ濡れに濡らしながら、相反する様ににこやかに彼は笑う。
『時間に間に合ったかな?』とポツポツ言葉をこぼしながらなんとかトイレットペーパーからの脱出を測ろうとしているが、逆に悪化している。
「おわぁ!?」
バランスを崩した勢いでバケツが思いっきり散らかり、溢れた水で足元を滑らせたグーフィーがそのままフル回転しながら奥の方へと流されて行った。
グーフィーの慌てる声はもう何も届かない。
そんな光景を無言で雑巾を絞りながら、ピートは確信していた。

「おいグーフィー?大丈夫か?」
「アッヒョ!大丈夫だよピート!」
頭からゴミ箱に突っ込んだグーフィーがなんとか腕を出して手を振っている。
その腕を思いっきり引っ張ってみせると、帽子のようにバナナの皮を乗っけたグーフィーが顔を見せた。
「ありがとうピート!それで……えーと……何の用だい?」
グーフィーが間抜け面で笑っている。
夜勤バイトの真中、ゴミだらけで。
ピートはグーフィーを全身見てから答えた。

「グーフィー。オレと漫才コンビ組まないか?」
「え?」

自分が言い出しっぺにも関わらず、何だか異様に顔が真っ赤に熱くなってきた。咳払いを何回もして誤魔化す。
グーフィーのその異様に真ん丸なその目に、ピートは達者に捲し立てた。
「あー!!いや、なんというか割と真面目な話なんだがほら、お前ってドジだろ?やっぱそれはお前にしかない才能だと思うんだ。やっぱ芸人ってのは運を味方にしてるだろ?それに加えてお前はドジってなもんだ!要するにだな、お前は芸人に向いてんだよ!もしも芸人になったらお前のそのドジは唯一無二だしめちゃくちゃ売れると思うんだ!テレビ番組のレギュラーなんて夢じゃねぇ!お前のその才能があればMCも出来るんじゃねぇか!?まぁお前がMCに向いてなければその時はオレが担当するぜ?いや、勿論ネタはオレが書くし、本当にただただお前は自然と振る舞えばいい!だってお前はそのまんまが面白いか」
「ごめんだけどお断りするよ!ピート!」
「ハァ!?!?!!??!!?!!」
真夜中にピートの声が断末魔の様に響き渡る。
「何言ってるんだお前!?何で!?」
ピートの穴という穴から汗が出てきた。
基本的に何でも寛容に引き受けるグーフィーという男に、初めて自分の要求を断られたからだ。
バイトのシフトも二つ返事で変わってくれたし、ピートが二日酔いで動けない時も代わりにバイトに出てくれた。ピートがタバコを吸いたいのにライターを無くした時は頑張って一から手の摩擦だけで火をつけようとしてくれたし、ピートが嫌いな客の対応もグーフィーが引き受けて余計厄介な事になったりしてくれたし、ピートが品出し中に揚げ物の調理を頼んだら火事になりかけたりもしてくれた。
……嫌な記憶も蘇るが、それでもグーフィーが自分の要求を断る事は顔を合わせて以来一度もなかった。
「おい!!!理由を言え!!理由を!!!」
「ピピピピトトトトちょちょちょちょととととおおおおちちちちつつつついいいい」
ひたすらグーフィーの両肩をつかみ、前後に揺らす。グーフィーを前後に揺らしたって彼の意見が変わるかは分からないのに。
揺れた勢いで、グーフィーの頭がピートの顔面と衝突した。そこでようやくピートは我に返った。
「痛ーーー!!!」
「おっと、大丈夫?」
「大丈夫じゃない!!色々とな!!」
「まぁまぁ、落ち着いてピート!急に漫才コンビなんてどうしたんだい?」
ハッとする。オレ自身も説明が無かった。
ピートは頭を掻きながら言葉をこぼした。
……役者を辞めようと思ったんだ」
「え?!なんでだい!?」
「あまりにも仕事がないからだよ!!」
グーフィーの問いにピートは反射的に声を荒らげた。
「オレの仕事も来なくなっちまった。ヴィランの在り方も時代の流れで変わっちまった。オレはどうやら時代に取り残されちまったみたいだ」
乾いた笑いをしながら口にした瞬間、物悲しい気持ちが拭えなかった。
グーフィーもまた、ピートの言葉にショックを隠せない様だった。『そうなんだ』と言葉を呟くと丁寧に謝罪の言葉を返した。
「ごめんねピート。君の演技好きだったから……残念だな」
「いや……良い。オレの実力不足だ」
頭を抱えながらピートは返す。ウジウジしていたって仕方ない。さっきまでの感情を飲み込むと、ピートはグーフィーの目を見て続けた。
「──だから、芸人として挽回したいと思ってる。お前と組んで」
グーフィーはその言葉に何かピクりと反応を示した。
「オレは人生で生きてきてお前が一番面白いと思った。だから、お前と組みたいんだ」
メモ帳の1ページ目に書き記した言葉だった。何回も頭の中で復唱して、ようやくここで発する事が出来た。断られる覚悟は充分に出来ている。けれども、言うと決めた言葉をここで言わないとこの先、生きていて大事な何かを失う様な気がした。
「アッヒョ!ピートはボクのことそんな風に思ってくれてたんだね」
クスクスと嬉しそうにグーフィーが笑う。それにまた顔が熱くなってきた。文句を言おうとした瞬間、グーフィーは言葉を続けた。
「ボクには息子が居るから、安定した職業につかないとって思ってたんだ。マックスには大学に行かせたいから」
さっきまでの表情とは違う、一人の父親の表情をしていた。グーフィーには息子が居ることをすっかり忘れていた。一人の人生を一人で背負う彼の事を、何にも考えていなかった。
「グ、グーフィー……悪かった。オレ……」「でも」
グーフィーはピートの言葉を遮ると、またさっきのような間抜け面で笑った。
「キミがそんな風に真剣に言ってくれるならやってみようかな!」
「え?」
「今まで玩具工場や清掃仕事、色んな仕事をしてきたけど全部失敗しちゃったから……君がそういってくれるなら、ボクもやってみたい!」
「え!?でも、でもでも、でもでもでも!?」
「一か八かの世界なのは伝わってるよ!でもキミが傍に居るなら心強いんだ!それにマックスの事をずっと支えられるかもしれないし!」
「えぇ〜〜〜〜!?!?」
またキッパリ断られると思っていた。キッパリ断られると思っていたので、ピートはあまりにもまた動揺してよろけてしまった。
「あ!ピート危ない!」
「ちょっ掴んだら──」
グーフィーがあまりにも強く引っ張った勢いでそのまま二人同時にゴミ箱へ頭から突っ込んでしまった。
「ペッ!ペッ!ちょっとだけなんか口に入った!!」
「アッヒョ!見て!お弁当があったよ!」
「賞味期限切れだろうが!食うなそんなもん!」
ゴミ箱から頭を出しながら二人して変なやり取りをやっている。
グーフィーは昔からの知り合いだった。
大学から、高校から───そんな幼なじみの様な存在だった。
グーフィーのドジを横目に馬鹿にしていた日もあれば、巻き込まれて散々な目に遭う事もしばしあった。今はもう彼のドジにはすっかり慣れているが、グーフィーは昔から今も変わらない。
彼は就職してはクビになり、バイトに受かればまたクビになりをドジのせいで何度も何度も繰り返してきた。
どんなに厄介がられても理不尽な目にあっても嫌われても彼はピュアなヤツだったし、自分よりも周りが幸せならそれで良い男だった。
例えどんなに運が自分に回ってきても家族や他人に使うような男だった。
そんな生活の中、ようやく手に入れたなけなしの金でオレの舞台を絶対観に来てくれたし、テレビ放送も映画だって観てくれた。
見終わると毎回電話で感想を伝えてきた。電気代の支払いが出来ていなくて公衆電話からかけてきた日もあった。

それがなんだか、とてもしんどかった。

……グーフィー」
ポツリと呟く。
オレがお前をどんな舞台にでも連れて行く。
大きなお笑い賞レースだって。劇場だって。テレビだって。どんな場所でも。
「絶対に売れような」
「え?お弁当のこと?」
「こんの馬鹿!芸人の話に決まってんだろ!」
グーフィーの休憩時間が終わりそうな頃、二人はさっさと足早に職場へ戻って行った。
豆電球の点滅はいつの間にか直っていたが、誰も気付く事はなかった。