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ことは
2026-03-18 23:03:31
4478文字
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運命の人
ホワイトデー話です。
ネタバレはありませんが、廻あざがいちゃいちゃしてます。
「あざみー、ほい」
いつものように依頼を特定・解体を終え、ジャスミンさんが運転するセンター車がセンターへ帰還する途中。信号で止まったタイミングで、手の上になにかを乗せられた。
それは水色のかわいい袋にラッピングされた手の平サイズのプレゼントだ。
「先月バレンタインくれたっしょ? お礼だよ」
「いいんですか? ありがとうごうざいますっ! なんだろう
……
」
「中身は前にあざみーが食べたがっていた芋けんぴだよ」
「えっ! 本当ですか!?」
恐る恐る袋を開けてみると、出てきたのは以前SNS調査をしている時に偶然見かけた芋けんぴのパッケージだ。
値段は少々張る上に、予約が必要だとか。そんな幻といっていい芋けんぴが目の前に!
「ジャスミンさん、ありがとうございます! 大事に食べます! あ、ちょっとだけ食べます?」
「いいの?」
「はい!」
袋を丁寧に開けて、芋けんぴを一本取り出す。
大きさも艶も香りもすべてがいい一本を、ジャスミンさんの口に運んであげる。大きな口の中に入れると、ぱきぱきっと咀嚼する音が聞こえた。
「ん、結構しっかり芋の味するんだ」
「ですね! ん~! おいしぃ~」
わたしも一本食べてみると、レビューにあった通り、上品な味がする。
自分では中々買えないので、こうしてプレゼントされるととても嬉しい。
そうこうしていると信号は青に変わり、再び車が動き出した。
「このままセンターでいいんでしょ?」
「はい。センター長さんに報告しなきゃなので」
「そういやバレンタイン、センター長にもあげたんでしょ?」
ジャスミンさんの言葉にわたしはこくりと頷き、先月のことが過った。
先月のバレンタインには、デパ地下で買ってきたマカロンをセンター長さんに渡した。本当は当日に渡したかったんだけど、前日の十三日はわたしの誕生日だ。そのタイミングでセンター長さんからプレゼントを貰っちゃったから、お返しに一日早いバレンタインを贈ったんだっけ。
そういえば、その時
――
。
思い出した瞬間、心臓がどきっと高鳴る。センター長さんに貰ったものと、されたことを思い出すとドキドキが止まらなくなってしまう。
貰ったネックレスは今も大事に首に付けている。
一度身に着けると付けた人以外外せない呪いが付与されているとか言われちゃって、外すに外せないままだ。だからセンターに行った時に外してもらって、また行った時に付けて貰っている。
今は外してもらっているので、私のバックの中に箱と一緒に入ったままだ。
「センター長はホワイトデーとか知ってるんかね」
「どうでしょう
……
ホワイトデーに関する都市伝説ってあるんでしょうか」
「あー
……
ありそう。調べたことないけど」
都市伝説に準ずるものなら知っていそうな気がする。
センター長さんは無類の都市伝説好きで、会話の端々でもその片鱗を感じ取れる。頭がものすごくいいのに、趣味が都市伝説探しという奇特な人だ。
「ちゃんとバレンタインって言って渡したんでしょ?」
「はい」
「ならお返しぐらいあるっしょ。なかったら言ってやるから」
「大丈夫ですよ。なくても、渡せただけで満足なので
……
」
すでに誕生日でお返しを貰ってしまっている。これ以上貰ったら罰が当たるんじゃないかな。
そんなことを考えていると、車は見慣れた路肩に止まった。
「着いたよ」
「ありがとうございます、ジャスミンさん」
「帰りは大丈夫そう?」
「はい。また明日、よろしくお願いします」
「ん。じゃあね」
車から降りると、ジャスミンさんは手を振って帰って行った。
背後にそびえ建つビルに向き直し、わたしはエレベーターの開閉ボタンを押した。蛇腹式の扉が開かれて、乗り込む。慣れた動作で地下四階のボタンを押すと、エレベーターは軋み音を上げながら、静かに地下へと向かった。
△
地下四階にたどり着くと、薄暗闇が出迎えてくれる。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい、あざみさん」
声をかけると、奥からセンター長さんが出てきてくれた。
春めいているとはいえ、この時期はまだまだ肌寒い。それにも関わらずセンター長さんはいつもの半そで姿で、膝にブランケットを乗せているだけだ。
「ちゃんと着てください。風邪引いちゃいますよ」
「ご心配ありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ」
なにが大丈夫なのかよくわからない。ブランケットがあるだけまだマシなのかな。
これ以上言っても聞いてくれるはずもないので、わたしは今日の依頼内容について報告することにした。
いつもの流れで報告を終えると、センター長さんは静かに目を細める。
「今回も実に興味深い案件でしたね。実は、今回の案件に似た都市伝説がありましてね」
そういって手元にある分厚い資料を開いていた。
まずい。このままではいつもの都市伝説講義が始まってしまう
……
。
「あ、あの、報告は済んだのでわたしはこれで
……
」
ジャスミンさんにホワイトデーのお返しに貰った芋けんぴ。封を切っているので、早く食べないとしけってしまう。
センター長さんの講義はまた聞こう。そう思って踵を返そうとした時、呼び止められた。
「ああ、あざみさん。少しよろしいですか?」
「なんでしょう?」
「お渡ししたいものがあります」
お渡ししたいもの?
含みのある言い方だな、と思っているとセンター長さんはソファのほうへ向かった。そのまま慣れた手つきで移動すると、ぽんぽんっと隣を叩いている。
にこやかな笑みを浮かべており、わたしはおずおずと近づいた。
隣に座ると重みでソファが深く沈む。
「こちら、先月のお礼です」
そういって取り出したのは、可愛らしくラッピングされた手の平サイズの箱だ。ジャスミンさんに貰った物よりも小さく、黄色いリボンが施されている。
「え? お、お礼って
……
」
「バレンタイン。くれたでしょ?」
「い、いいんですか? わたし、ペンダントを貰ったのに
……
」
思わずバックのほうを見てしまった。
中には誕生日プレゼントと言われて渡されたペンダントが入っている。前回来た時に外してもらったから、今日は付けてもらうために持ってきている。
「あれは誕生日プレゼントですので。こちらはバレンタインデーのお礼です」
「ありがとう、ございます
……
」
意外にもセンター長さんは律義なようだ。
ちょっとびっくりしたけど、嬉しい。
ドキドキしながら箱を受け取り、リボンを解く。現れたのはカラフルな飴が詰め込まれた小瓶だ。
「わあ! かわいい! 飴ですか?」
「ええ。色々と考えましたが、そちらがよろしいかと思いましてね」
「ありがとうございます! 食べてもいいですか?」
「どうぞ」
瓶の蓋をぱかっと開けて、飴玉をひとつ手に取る。綺麗な赤をしており、思わず見惚れてしまいそう。
口の中に放り込むと、甘酸っぱい味がした。イチゴかと思ったけど、これはリンゴ味だ。
ころころと舌の上で転がすだけで、調査で疲れた体に染み込んでいく。
「ん~おいしいです!」
「それはよかった。何味でしょうか」
「え? えっと、リンゴ味です」
なんで味を聞いたんだろう。
首を傾げていると、センター長さんはくすくすと笑いだす。
「ホワイトデーに飴玉を贈る意味、ご存知ですか?」
「え? 飴、ですか?」
「ええ」
思い当たるのはカラフルで、味の種類も豊富だから、かな。たくさん入っているし、口の中で溶けて癒されるから、とか。
色々と理由は思いつくけど、でもきっと、違うよね。
「あの、わからないので調べてもいいですか?」
「どうぞ」
許可を得て、わたしはポケットに入れておいたスマホを取り出す。
SNS画面を開き、ホワイトデーに返されるお菓子について調べることにした。検索をかけると、一気に情報で溢れかえる。
ひとつずつ読んでいくと、あるリンクに辿り着いた。それは「ホワイトデーに返すお菓子の種類」というもの。何気なく開いてみると、お返しする物の意味が綴られていた。
「
……
『飴玉は、あなたが好きです』」
声に出した瞬間、一気に熱が全身を駆け廻る。思わずセンター長さんを見ると、彼は変わらぬ笑みを浮かべていた。その笑顔に、今呟いた言葉は本当なのだと、確信する。
「ふ、ふぇっ!?」
「ふふ、あざみさん」
すぐそばにセンター長さんがいる。いつの間にか距離が縮まっており、わたしはソファの端っこに追いやられていた。
細くて、しなやかな指がわたしの髪を撫でつける。
口の中にいれた飴を反射的にがりっと噛んでしまい、そのままもぐもぐと咀嚼する。咀嚼し終えると、センター長さんは小瓶からまた飴を抜き取った。
「あざみさん、お口を開けてください」
「な、なんれ、れすか、」
「
――
開けて?」
聞き心地のいい声に、思わず従ってしまった。
小さく口を開けると、ころんっとまた違う飴が転がる。それはちょっと酸っぱくて、わたしにとって苦手な味だった。
「お味はなんでしょう?」
「えっと
……
れ、レモン、でしゅ
……
」
「おや、あざみさんの苦手な味ですね」
その瞬間、視界が翳った。同時に柔らかいなにかが唇に触れ、ねっとりとしたものに突っつかれる。驚きのあまり口を開くと、そぞろに入ってきたなにかに絡めとられた。優しく、舌の上を転がっていた飴玉で遊ぶ。
ちゅっと軽めのリップ音が流れると、わたしの口にあったはずの飴玉が消えている。
「これは私がいただきましょうね」
「
……
あ、あにょ、今の
……
」
「ふふ、飴玉の味にも意味があります。リンゴ味なら運命の相手、レモン味は
――
」
再び視界が翳ると、今度はちょっと長かった。
塞がった唇から息が漏れて、いつの間にかセンター長さんと手を繋いでいる。膝に抱えた小瓶を落とさないようにしながら、与えられるキスを受け止めた。
さっき持っていかれたレモンの味がする。酸っぱいはずなのに、ちょっとだけ甘かった。
「
――
センター長さん
……
」
「真実の愛、というそうですよ。
――
あざみさん、好きです」
視界に広がる、黄水晶。そこに映っているのはわたしの蒼の瞳。
繋いだ手を握り締めながら、センター長さんは優しく問いかけた。
「お返事、聞かせていただけますか?」
晴れやかな笑顔だ。
答えなんて、とっくに知っているくせに。
「
……
ず、ずるいです
……
知っていますよね? わたしの、気持ち
……
」
「ええ。ですが、あなたの口から聞きたいので」
「うぅ
……
すき、です
……
」
観念して返事をすると、センター長さんの口角がわずかに上がった。
心の底から嬉しそうな、そんな笑顔に思わず心拍が上がる。
「私もですよ、あざみさん」
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