推しがフリンズさんなのでゲームしてた時の話

※現実干渉の表現があります、ご注意を。

「あーすり抜けたぁ……けど、次で完凸確定だ!」

 ソファに寝そべりながら、今一番遊んでるスマホゲーム『原神』をプレイをしているところだ。ゲーム内で推しキャラ――フリンズがガチャピックアップ中なので、今はとっても忙しい。マップ探索やイベントで貰えるアイテムを集めているけれど、期間中に完凸するためにはリアルマネーも注ぐしかない。だって、頑張って強くした推しキャラを色んなマップに連れ歩けるのは、とっても楽しいからね。
 
「フリンズ完凸分まで、また探索進めてみるかぁ」
 せっかく貯めたガチャ石が先程消えてしまったので、若干しょんぼりした。うーん、気分転換に夜明かしの墓に行こう、とマップ画面を開く。
 今日は報告書のフリンズだったみたい。ついつい推しのいるマップに押しかけては話し掛けてしまう。そろそろセリフも覚えてしまいそうだ。
「へへ、フリンズは報告書頑張ってねぇ。……あ、せっかくだしおやつでも食べながら遊ぼうかな」
 一旦スマホをテーブルに置いて立ち上がり、おやつと飲み物を準備するためにキッチンへと向かう。

 その時――操作してないスマホの画面が、鮮やかに光る。

……ん?」
 スマホ画面を見てたわけじゃ無いけど、視界の隅に光を捉えた気がした。先日買っておいた少し高価なチョコレートを片手に、一度テーブルまで戻る。画面を覗き込むが、いつも通りベンチに座っているフリンズが見えただけ。
……気のせいかな?」
 もう一度キッチンに戻り、コップにお茶を注いでテーブルに戻ってくる。スマホ画面を覗き込むと、先ほどと変わらずベンチに座るフリンズがいる。そりゃそうだよね。

 ソファに戻り、今日のホワイトデー用に――と言っても自分用に買っておいたチョコレートの紙箱を開ける。青と黒主体で月と炎が箔押しされた、推しのイメージチョコレートだ。見つけた瞬間パケ買いした。
 フリンズって、食べ物が好きじゃ無い設定なんだよね。飲料水も苦手だし。チョコレートは食べたりしないのかなぁ、などと考えつつ可愛くデコレーションされたチョコレートを眺める。トリュフチョコが宝石型となっていて、とっても素敵。彼にも似合いそう。
「そういえば、先月は回復アイテムをお菓子系にしてたんだよね。被弾の度にたくさん食べてもらいました、よっ!」
 画面内のフリンズを、ツンっと突く。当たり前だが反応はなく、カメラ位置が少し変わった程度だ。
「今日はせっかくホワイトデーだし、ガチャで何度も天井叩かされてたし、その時のお礼をフリンズから貰えたらなぁ〜〜……なんちゃって」
 何を言ってるんだか……と自問自答の独り言を続けながら、用意していたお茶のコップに手を伸ばしたところで、

『おや、そんなことを考えていたのですか?』

…………んん?」
 聞き覚えのないフリンズの声が聞こえた、気がする。いやいや、報告書フリンズはそんなセリフないし、……今スマホ触ってなかったし。
 コップから手を離してスマホを手に取る。……うん、ベンチに座ってるフリンズがいる。――あれ?
 そんな設定した覚えはないのだが、フリンズの拡大した正面顔で画面が停止している。けれど、そんなカメラ操作をした記憶は、ない。いや、なにこれ……。なんだか冷や汗が出て来た。

『貴女に、話しかけてるんですよ』

 ――また、聞こえた? え……、な、どういうこと?何かの新規イベント⁈
 手にしたスマホ画面に目線を落とすと、フリンズが、こちらを見ている。そして、彼は正面――つまりカメラ視点へと手を伸ばして来ている。どうしてだろう、そんな彼から目が離せない。

 スマホの画面から、とても見覚えのある黒い手袋の、質量を持ったフリンズの手が伸びてくる。

…………は?」
 その手は、動揺して一言呟いた私の口元にそっと触れ、口の中に何か入れられる。反射的に口を閉じると、チョコレートの味がした。
『どうぞ、ご希望いただいたお返し――ですよ』
 彼の手はそのまま私の頬をスルリと撫で、画面の中へ戻って行った。

 
 震える私の手から滑り落ちたスマホが、カタンと音を立てて床に落ちる。あっ――とは思ったが、動揺と恐怖によりスマホへ再度触れる勇気が出ない。自然と止めてしまっていた息を深く吐き出す。
「ゆ、夢…………白昼夢とか、かな?」
 そう思いたいのに、先ほど飲み込んだ――口の中に確かに存在するチョコレートと残り香が、それは現実だったのだと断定してくる。
 勇気を振り絞ってスマホを床から拾い、薄目で画面を覗く。ベンチに座るいつものフリンズが居る。……どういうこと?と、疑問は尽きないけれど、ひとまず夢だったと思い込むことにした。じゃないと流石に怖いし。
 とはいえ、推しから直接の供給……が?ゲーム内から?そんな訳……あはは……。頭が混乱しすぎて乾いた笑いも出てくる。
「よし……今日は報酬貰って、ゲームは終わりにしよう」
 少しわざとらしく独り言を言う。それからもう一度薄目で画面を見ると、彼はいつものベンチに座りながらも、カメラの角度的にこちらを見ているように見えなくも、ない。
 
 ――ふと思い立ち、ガチャ画面を開く。フリンズガチャの画面に移動して、おもむろに単発一回分だけ回す。なんとなく予想はしていたのだが、流れる星が金色に輝いて、現れたのは――もちろんフリンズだった。これで完凸分、確保できてしまった。
「なんで……、もう少し早めに出てきてくれないんですかね?」
 目の錯覚だとは思うけれど、ガチャ画面にいる彼が、少しだけ笑ったように見えた。



『その方が、貴女は僕の所に通ってくださるのでしょう?』