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七海ななみ
2026-03-18 12:49:52
5040文字
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依頼内容は口説く権利
ルカキリ。骨董品買おうとしたらお金が足りなくて、ファルカが支払う代わりに口説かれてほしいと依頼されるお話。
感想、マロリク募集しております。よろしければどうぞ。返信はXで行うと思います。
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…
手持ちが、足りない。
見かけた露天に、ずっと探し求めていた古銭が置かれていた。慌てて購入しようとしたが、手持ちが足りない。
せめて給料日まで待ってほしかったが、店主は明日にもナドクライから離れるという。お金を借りる、という選択もあるが、極力避けたい。なんせここは無法地帯だ。どんな利子がつけられるかわからない。
諦めるしかないのか。深くため息を吐く。
「フリンズ、どうしたんだため息ついて」
「
………
ファルカさん」
事情を説明すると、ファルカさんは深く考え込む。
店主に諦める事を伝えようとした時、ファルカさんに止められた。
「フリンズ、いい案がある」
「
…
お金を貸していただけるのは、大変申し訳ないので、お断りします」
「違う、そうじゃない。俺はこれからフリンズに依頼を出す。前払い報酬として古銭を渡す。これでどうだ?」
「
………
依頼、ですか?」
かなり破格の提案を出してくれた。有難い話だが、即答するのは良くない。相手は不利な提案をしてこないと思うが、どんな無茶振りなものを要求されるかわからない。
「なに、そこまで難しいことじゃない。俺に口説かれてほしいだけさ」
「
………
は?」
「そうだな、五回、口説かれてくれたら依頼完了。俺が口説いてるだけで、その後どうするかはフリンズの自由だ」
頭がおかしくなったのだろうか。
冷静に突っ込みを入れてしまうが、ファルカさんは冗談で言っている顔ではない。
五回、口説かれるだけ、それだけで、古銭が手に入る。
「
………
非番の日でよければ」
「もちろん、日程は互いに空きがある時にやろう。交渉成立だな!」
嬉しそうにファルカさんが古銭を購入し、そのまま僕に手渡した。
…
口説かれるだけだし、彼は誠実だから僕の貞操は守られるだろう。なのに、なんでこんなにも嬉しそうなんだ
…
。
疑問が尽きないが、今晩は互いに空きがあったため、フラグシップで一回目の口説きが行われることになった。
──────────
「新しい関係に乾杯!」
「
………
新しい、関係に、乾杯」
………
付き合っている訳ではないのだが。いや、でもこれは依頼だ。引き受けた以上、ちゃんと口説かなければ。
まて、それ以前に口説かれてほしいということは、だ。
「
…
ファルカさんは、僕に恋慕を抱いているのですか」
「ああ」
「いつから、でしょうか」
「自覚したのは昨夜だな」
「ずいぶん、行動が早いのですね」
「フリンズはいい男だからな、奪われる前に口説きたかった」
ずいぶんと直球で話すなこの男。別の意味で興味が沸いてきた。
「例えば、どういう所がでしょうか」
「全部」
「
………
真面目に答えてください」
「ふざけたつもりはないぞ。どこから聞きたい?」
真剣な瞳で言われる。まるで、獲物を見据えた獲物だ。
…
これは、聞いたら罠に掛かる予感がする。
「
………
次回までにまとめておいてください」
「まさか、この年になって宿題を出されるとは思わなかった」
僕が流したのに気づいたのだろう。その後は特に追及されずに、普通の楽しい飲み会になった。そろそろ解散、というタイミングで声をかけられる。
「フリンズ」
「なんですか、ファルカ
………
さ、ん」
僕の髪を一房、摘まんでキスをした。
「髪へのキスは、思慕だったか。今日はありがとう。とても楽しかった」
そういって去っていた。僕は何故か、しばらく動けなかった。
───────
あの出来事を思い出す度に髪に触れてしまう自分が、女々しい。
あと四回、これがあるのか。気をしっかり持て。ただ、口説かれているだけだ。
そんなこんなで一人で悶々としていると、二回目の話が来た。今度はナシャタウンの本屋の前だ。
…
確か、祈月の夜に、ファルカさんと飲んでいた場所だ。
そういえば、宿題を出していた。気を引き締めた方がよさそうだ。人間はこういう時に深呼吸をするので、真似してみたが、落ち着かなかった。
「フリンズ、来てくれてありがとうな!」
「
………
依頼、ですから」
ファルカさんは酒を両手に持っていた。片方を渡され、受けとり、乾杯をする。まるで祈月の夜と同じ光景だ。あの時はすぐにトラブルが起きたから、ゆっくり飲めなかったが。
「さて、宿題だったな」
「別に、無理して褒めていただかなくても大丈夫ですよ」
「何を言う。俺は口説きに来たんだぞ。これは依頼内容に含まれる」
「
………
」
そう言われたら反論もしようがない。僕が黙ったのを良いことに、ファルカさんは良いところを話し始めた。
外見、内面、所作と始まり、僕の良いところがそんなにあるのかと思わんばかりに称賛してくる。ここは人通りのある場所だとわかっているのだろうか。あまりの熱心な口説きに、通行人が僕の方をチラチラ見ている。慌てて止めても、効果がない。
「もうわかりましたから!!」
珍しく大声を上げたので、さらに周りの注目を集めてしまった。顔が赤い僕を見て、楽しそうに笑っている。
酒もなくなったし、今日はこのくらいにするか。その言葉に安堵の息を吐く。油断していたところ、手を取られてキスをされる。
「手の甲へのキスは求愛だったか。俺の求愛は伝わったようでよかった。次は三回目だな。楽しみにしている」
「
………
次は、もっと静かな場所でお願いします」
ぐったりとした様子で言う僕に、楽しそうにするファルカさんが憎たらしい。殴りたい衝動を頑張って押さえた。
──────
周りの視線がない分、貞操の危機があるのかもしれない。
そう気づいたのは、三回目の依頼がアームスヴァルトニル湖にある遺跡と指定された後だった。
静かで、人が来ることのない場所。何かあっても、逃げるのは厳しい。
…
大丈夫だ。彼は騎士道精神に乗っ取った紳士であり、僕もいざというときはランプに引きこもればいい。それに、古銭を受け取った以上、依頼を投げ出す訳にはいかない。
「フリンズ、来てくれてありがとうな!」
「
………
どうも」
「なんだ、警戒しているのか? 大丈夫だ、お前は口説かれるだけなんだからもっと肩の力を抜け」
心を見抜かれているようだが、不快はない。
隣に腰かけると、じっと見つめられる。
「
………
ファルカさん?」
「
………
」
何も、喋らない。
得意の口舌を活用するべきなのに、真剣な瞳から、目が離せない。視線に射貫かれている。
まるで、肉食獣を目の前に置かれた、餌の気分だ。
顔が近づいてくる。思わず、固く目を閉じた。
耳元で柔らかい感触とリップ音が鳴り響いた。
「耳へのキスは、誘惑
…
だったか。少しは心を乱してくれると嬉しいな」
「
………
っ」
「顔が赤いな。期待してもいいか?」
「
………
帰ります!」
顔が、熱い。早く逃げないと、食べられる!
逃げる僕に、楽しそうな声が聞こえる。
目を閉じたのは失敗だった。キスをされるかと思った僕が馬鹿だった!
………
いや、それだと、キスをしてほしいようではないか!!
口説かれているだけだ! 付き合っている訳ではない!
そう自分に言い聞かせる。
それに、あと二回だ。それさえ、終われば
…
。
気を持ち直すように、頬を叩く。顔は火が灯っているかのように熱かった。
───────
今回はナシャタウンだった。人気のない高所だが、いざというときは逃げやすいだろう。
あと、二回だ。それでこの依頼は終わる。気をしっかり持て。
待ち合わせ場所に移動していると、遠目にファルカさんの姿を見つけた。西風騎士団の人と話しているようだ。少し言い争いをしているのだろうか。声が聞こえてくる。
「大団長!! また抜け出して、今日こそは逃がしませんよ!」
「待ってくれアンセム! この後、約束があるんだ!!」
「そんな約束よりも、書類の方が大事です!!」
そんな、約束。
…
彼に悪気がないのはわかっている。だが、胸に引っ掛かってしまった。
まあ、書類仕事をサボりたくなる気持ちは痛いほどわかるが。
アンセムさんがナシャタウンでファルカさんを探す程とは、そうとうな事があったのだろう。
近づくと、ファルカさんが気まずそうな顔をしている。
「どうやら、忙しいようですね。依頼はまたの機会にしましょう」
「
………
フリンズ」
「相手はフリンズさんでしたか。申し訳ございませんが、そう言って頂けると助かります」
「フリンズ、これは
………
。いや、何を言っても言い訳だな。今回は俺の不手際だから、四回目はこれで終いにさせてくれ」
「
…
わかりました」
ファルカさんとアンセムさんが去っていた。
あっさりと、四回目が終わってしまった。暇になってしまった。一人で飲みに行くか、骨董品を探しに行くか
…
。
そんな風に考えていたのに、足は待ち合わせ場所に向かっていた。
ナシャタウンを見下ろしながら、空を見上げる。
四回目、終わってしまったな。あと、一回か。
………
あと一回で、終わってしまうのか。
何故、こんなにも寂しさを感じてしまうのだろうか。ただの依頼なのに。
────────
書類は本来であれば昨日で終わる予定だったが、トラブルが発生してそれどころではなかった。ギリギリまでやっていたが、間に合わなかった。どれもこれも言い訳にしかならない。
書類が終わる頃には夜になっていた。急いでナシャタウンに向かう。
…
まあ、いないかもしれないが。
俺の、ただの独りよがりだ。もしかして、待ち合わせ場所に待っててくれたら、申し訳が無さすぎる。
待ち合わせ場所にたどり着く。フリンズの姿はない。
…
帰ったか。そうだよな、待ってる訳、ないよな。
ふと、手紙が目にはいる。風で飛ばぬよう、石も置かれていた。封筒の宛名を見ると、俺宛だ。
手紙を開けると、所作の綺麗なあいつらしい、綺麗な文字が綴られていた。
『巡回の時間が来たので、仕事に戻ります。五回目は夜明かしの墓にお越しください』
待ってて、くれたのか。
…
これは、期待しても、いいのだろうか。手紙を懐にしまう。これは宝物にしよう。
それはそうと、お詫びの品を探さなければ。
───────
花
………
は、喜ぶのだろうか。宿影花を潰れないように持ち直す。
フリンズが好きなものは知っているが、それはそれで友人のような関係になるような感じがしたのだ。
俺は真剣に口説いているのだ。お詫びの品にせよ、王道の花がいいと感じた。
夜明かしの墓は静かだ。生き物の音が聞こえず、風がフロストランプを揺らす音しかしない。
フリンズは、灯台の下に佇んでいた。
………
綺麗、だな。
ただ、佇んでいるだけなのに、美しさに酔いしれそうになる。
俺が酔しれるのはいいが、フリンズも俺に酔いしれてほしい。
フリンズは、俺の姿を見つけ、優しく微笑んだ。
「フリンズ、この間はすまなかった。お詫びの品を受け取ってくれ」
「
…
綺麗な花ですね。ありがとうございます」
いい香りですね。そう言いながら花を受け取ってくれた。
うん、似合う。それに喜んでくれている。我ながらいい仕事をした。
「僕も用意してきたんです。こちらをどうぞ、お受け取りください」
「
………
フリンズ、これは」
「あの古銭、依頼とはいえタダで貰うわけにはいきません」
冷水を浴びたような気分になる。浮かれていたのは俺だけだったのだ。押し付けるかのようにモラを渡される。
金額を確認してください。そう言われ、大人しく確認する。
…
これは、脈なしか。落胆しながら数えていると、モラが多い。
「フリンズ、モラが多いぞ。そこまで払っていない」
「
………
それは、ファルカさんへの依頼料です」
「
………
俺の?」
「
………………
その、モラで、
………
僕を、口説いてください」
今まで地獄のような気持ちだったのに、いきなり天に昇るような心地になる。
フリンズは、俯いていた。でも、耳が赤い。なんて愛らしいんだ!
フリンズの手を取り、手首にキスをする。ビクッ、とフリンズの身体が震えた。
「
………
その様子だと、手首のキスも知っているみたいだな。そろそろ、唇にしてもいいか?」
「
………
いい、ですよ」
「言っとくが、これは依頼じゃないからな」
「
………
わかってます」
ならいいんだ。可愛らしくキス待ちをしている恋人に、キスをした。
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