ポほ
2026-03-17 23:57:36
9487文字
Public 跡取り息子、やめました!?
 

中間テスト…稽古って罰ゲームなの?

第9話。海成君の様子が…

 ゴールデンウィーク最終日の昼下がり。宗真は居間でだらけながら、連休を振り返っていた。
「いやー、連休楽しかったな〜!ちなつやゆきと映画観たり、ヨツダと海成とゲーセンで遊びまくったりさ!」
「いいなー。めちゃくちゃ楽しそうじゃん」
 響が心底羨ましそうに返す。
「ほんとそれ。中一は気楽でいいわねぇ」
 静乃も同様だった。
「はー?なんだよその『最近の若者は……』的な反応!オレの連休が充実してることにシットしてんのか?」
「いや……嫉妬っていうより、純粋に羨ましいんだよ。あたしいま受験生だし、それに稽古もあるしさ」
「私も来年受験生だもの。勉強もしなきゃだし、夏に向けてお金貯めたいからバイトもしてたし。……あれ、そういえば宗真って、中学入ってからうちで勉強してたことあったかしら?」
「やだなぁ静姉。中学入る前から、(稽古漬けのせいで)うちで勉強なんかしたことないじゃん!」
「あ、それもそうね!……って、今は稽古してないんだから、少しは勉強したら?」
……聞いたぞ、宗真?」
 宗二まで居間に集まってきた。
「げっ、父ちゃんまで!?」
 
 宗二は壁際へ歩くと、冷蔵庫に貼ってある宗真の年間行事予定表に目を落とした。
「ん?……ちょうど再来週、中間テストがあるじゃないか」
「えー、それ誤植じゃない?」
(無理があるだろ……
 姉たちは呆れる。
……誤植なら、正誤表がついているはずだが?」
「うっ……
「お前は今、稽古もないんだ。なら学生の本分として、勉学に励むべきだろう……静乃のように」
(まあ私、第一志望の高校は落ちてるけどね)
「励むって……どのくらい?50点超えたらOK?」
「そうだな。せめて平均点は取ろう」
……なあ静姉、呪いについて調べてた時あったじゃん?」
「ええ」
「オレのクラスのやつらが、オレ以外みんなめちゃくちゃバカになる呪いとか、ない?」
 静乃の拳骨が飛んだ。
「ないわよ、そんなもの!さっさと勉強しなさい!」
「そんな殺生な……!」

 休み明けの翌日。教室の後ろの掲示板には、中間テストの範囲表が貼り出されていた。
「げー……結構、範囲広くない?」
「もっと小学校の復習が多いと思ってたのにね……
 宗真はちなつとゆきと共にテスト範囲を確認した。 
……昼休み。宗真は一組の教室まで来ていた。
……というわけでさ。次のテストで平均取れなかったら、オレ、罰として稽古再開しないといけないんだよ!父ちゃんってば酷くね!?」
「月城流って自分のとこの稽古をそんな罰ゲーム扱いにしていいのかよ……
「だからさ!オレ以外がめちゃくちゃバカになる呪いを、どうしても知りたいんだ!海成なら頭いいし、知ってるんじゃないかと思って!」
「え、えーと……。普通に宗真くんが勉強した方がいいんじゃない、かな……?」
「江沼の言う通りだろ。ていうか、頭いい江沼に勉強教えてもらえばいいじゃん」
「あっ、そうだな!じゃあ勉強会しよう、勉強会!うちならいつでもいいし、どうせならヨツダも来ないか?」
「なんで俺まで?」
「同じ場所で友情トレーニングしたら、賢さのステータスがいっぱい伸びそうだろ?」
……育成ゲームウ○娘かよ。でもまあ、確かに江沼と一緒に勉強したらはかどりそうではあるな。よし、俺も行く――って、江沼、どうした?」
「なんか……『友達と勉強会』って、憧れの響きだから……。嬉しくて、フリーズしてた」
「ははっ、海成ってば、かわい〜♡」
「か、からかわないでよぉ……

 そしてその日の放課後。宗真はさっそくヨツダと海成を自宅に呼んだ。
 玄関で二人を迎えた宗真は、普段よりも少しかっちりした私服に、静乃を真似て髪を下ろし、カチューシャで前髪をまとめている。さらに静乃のスペアの眼鏡までかけた、どことなく優等生風の装いだった。
「いらっしゃい!見ろよ!この優等生かわいい宗真ちゃんをっ♪」
「お前……見事に形から入ってんな……
「でもさ、静姉の眼鏡、度がキツすぎて全然見えないし、だんだん頭も目も痛くなってくんだよな〜」
「もうその発言がバカ丸出しだから、眼鏡は素直にお姉さんに返した方がいいぞ」
「そうする……
 宗真は眼鏡を外した。
「でも、眼鏡の宗真くんもすごく可愛かったよ!こんな子がクラスにいたら、勉強に集中できないかもなあ」
「ほんとかっ!?あーあ、男でそんなこと言ってくれるの、海成だけだよ」
「どうでもいいけど、そろそろ上がってもいいか?」

 そして、勉強会が始まって30分ほどが経った。
「江沼、ここさ……これで合ってる?」
「えーっと……。うん、ここまでは合ってるよ。ここからなんだけど、僕もよく間違えるんだけどさ……
「あー、こういうこと?」
「そう!吉田くん、飲み込み早いね!」
「いや、お前の教え方が上手いんだよ。先生より分かりやすいじゃん。そういえばさ、江沼って塾とか行ってるの?」
「ううん、通信教育。Ζゼータ会っていうんだけど……
「へえ。わかりやすい?」
「うん。クラスではあんまりやってる人いないけど、僕には合ってるかな」
「俺もやってみようかなぁ」
「じゃあ、明日学校に教材持ってこようか?」
「マジで!?助かる!」
――そのやり取りを、むすっとした顔で眺めている男が一人。……いや、見た目は女の子か。
「お前らさぁ!勉強会なのに、なんでそんな真面目に勉強してんだよっ!」
「は?勉強会なんだから当たり前だろ。主催はお前だし。ていうか、一番勉強しなきゃいけないのもお前だろ……
「オレはさー!勉強会とかこつけて、かわいい宗真ちゃんの仕草に、お前らのどっちかでもドキドキしたりとか!そういう甘酸っぱいイベントを起こしてやろうとしてたの!」
「あー……もうこいつ相手にしない方がいいな。な、江沼――……おい、どうした?」
「宗真くん……勉強と稽古、どっちが好き?」
 口調はあくまで柔らかい。けれど宗真には、背後に黒いオーラのようなものをまとっているように感じられた。
「えっ……えっと……。べ、勉強……デス……
「そっか。でもさ、さっきから開いてる問題集のページ、全然進んでないよね?」
「ぎくうっ!?」
「吉田くん。ちょっとの間、宗真くんの方を見てもいい?」
「ああ。俺はしばらく大丈夫だから」
「じゃあ……一緒に勉強、しよっか?」
「は、はいぃ……!」
(海成って、怒ったらこんな感じなのか……!?顔は全然怒ってないのに、声のトーンがガチのやつ……!こういうの、かえって怖いんだけど……!!)

 そして、時刻は18時ごろ。この日の勉強会はお開きとなった。買い物をしていたのか、少し遅めに静乃が帰宅する。
 宗真はすっかり疲弊し、テーブルに頭を突っ伏してぐったりしていた。
「ただいまー……あ、コップ出てる。誰か来てたの?」
「ヨツダと海成が来て、勉強会してて……海成のやつに、めちゃくちゃ叩き込まれた……
「そ、そう……。でも、勉強会するなんて偉いじゃない?」
「明日もやるんだって。それまでに、海成から色々宿題も出されて……。どうしよ。オレ、勉強のしすぎで死んじゃうかも……
「死なないわよ。というか、あんたが言う「勉強しすぎ」って、普通の人からしたら大した量じゃなさそうだし」
「オ、オレなりの頑張りを認めてくれよぉ……!」
「テストで平均点以上取れたら認めるわ」
「過程の評価は!?」
「悪いけど、テストに関しては結果がすべてよ。どれだけ頑張ったかなんて関係ない。当日の出来がすべて」
 厳しい言葉のようでいて、静乃は自身の高校受験のことを重ねている。――つまりは、自虐だった。もっとも、その真意が宗真に伝わっているはずもなかった。

 翌日。登校してきた宗真は、いつもより明らかに覇気がなかった。
「宗真、なんか元気なくない?」
 見かねたちなつが声をかける。
「ああ……。昨日、海成のやつのせいでちょっと……あんまり寝られなくてさ」
「えっ!?昨日なにしてたのっ!?」
「なにって……。ヨツダと海成と、勉強会」
「えっ……!?江沼くんと、なにかあったとか……!?」
 ゆきは一気に目を輝かせ、思わず身を乗り出す。
「海成のやつ、ほんとに(指導が)激しくてさ……今でもちょっと……(頭)痛いかも」
「そ、そんなことが!?ちょっと江沼くんに文句……でも、それがそういうプレイの可能性も……!?」
「ゆきも調子悪いの?」
 ちなつが少し引き気味に言う。
「あっ!な、なんでもないの!」
(なんか、ゆきだけやたらテンション高ぇな……。オレの方は全然、頭回ってねえのに……

 数学の授業中。
「えーっと、今日は5月7日だから……出席番号19番、月城さん。この問題、解いてみてー」
「先生、それ、日付と全然関係ないじゃないですか……
 くすくすと笑いが起こる。普段なら、こうして指名されても黒板の前で固まるのがオチだった。
――だが、この日は違った。
(あれ……?なんか……わかるかも?これ、昨日海成に叩き込まれたとこだ!)
 宗真は黒板に向かい、恐る恐る答えを書き込む。
「はい、正解!月城さん、連休にしっかり復習してた?」
「そ、そんなことないですけど……!」
 教室の後ろの方で、ひそひそと声が上がる。
「月城って、可愛いし運動もできるけど、成績はちょっと残念だったからな……
「勉強までできたら、もう完璧だよな!」
(な、なんだと!?じゃあ、なってやろうじゃねーか……完璧可愛い宗真ちゃんに……!)

 十分休み。
「宗真ー、昨日の『夜ふかし』見――
 ちなつが宗真に話しかけるが……
「悪い、今勉強してるから……!」
「え……?」
 次の十分休み。
「宗真ー、テスト終わったらさあ――
 同じく、ゆきも声をかけるも。
「ごめん、今集中してる!」
「あの宗真が……?」
 給食の時間になっても、宗真は机に向かってノートを広げていた。
「なんか……別人みたいだね」
「スイッチ入ったのかな……。あ、まさか昨日の江沼くんとの『勉強会』で……?」
「勉強するのはいいけど、給食はちゃんと食べなよ。行儀悪いよ?」
「オレさ……完璧美少女になろうと思って……!」
……え?」
「放課後、ヨツダのやつが一緒に帰ろうとしてきたらさ、『一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし……』とか言って、振ってやりてえんだよ!」
「「???」」

 しかし、もともと勉強が苦手な宗真の集中力が、そう長く続くはずもなく――
 放課後。再び海成とヨツダ(ちなみにヨツダのサッカー部も、テスト期間中のため活動休止中)が月城家に集まった頃には……
「ああ、いらっしゃい……
「あれ?今日は、いつもの宗真くんなんだね」
「まあ、たまにはこういう日があってもいいだろ?」
「お前、なんか疲れてないか?」
「気のせいだよ。いいから上がれって」
――月城家の居間。
 三人がペンを走らせる音、消しゴムの音、ページをめくる音が静かに響く。優等生を目指して無理をした反動か、宗真は久々に“悪ガキモード”へ戻りつつあった。
「あー……あちいなあ……
 二人は無反応。
「脱いじゃおっかな〜……ちら」
無反応。
「ふー……
 わざとらしくTシャツの裾を持ち上げるが、二人はノートから目を離さない。業を煮やした宗真は、ついにTシャツを脱いだ。
 下着姿を見せてしまうのか――!?……と思いきや。
「残念。上にキャミ着てました〜♪」
「お前……一人で何やってんだ?」
「なんだよぉ!勉強ばっかで疲れてると思って、ちょっとしたアクセントをだなぁ!?」
「頼んでねーよ、バカ!なあ江沼、昨日みたいに何とか言ってやれ――
「そうはいくかっ!」
 そう言うなり、宗真は海成の目の前でキャミソールまで脱いだ。
 露わになったのは、派手さのないスポーツタイプの下着と、凹凸の少ないスレンダーな上半身。色気というより、ただの悪ふざけである。
「どうだ?オレのカ・ラ・ダ♡」
 
(殴ってでも止めたいけど……こいつ、身体だけは女だから、本能的に殴れねぇ……
――その瞬間。
 戸が開き、ちょうど帰宅した響が光の速さで状況を理解した。
「何やってんのーっ!!」
 次の瞬間、宗真は竹刀で容赦なく叩き斬られた。

「いでで……。なんだよ、響姉かよ」
「友達との勉強会ですることじゃないでしょ。ほら、お友達にちゃんと謝りなさい」
「わ……悪かったよ、邪魔して」
「あ、驚かせてごめんね。宗真の下の姉の響です。ゆっくりしてってね」
「どうも。宗真くんの友達の、吉田 いつきです。……初めまして、ですよね?」
「同じく、江沼 海成といいます」
「2人とも初めまして!いつも宗真と仲良くしてくれてありがとね。――じゃ、今から道場行くけど」
 響は宗真をきっと睨む。
「宗真。今みたいな変なことしたら承知しないからね。もししたら……お姉にもお父さんにも言いつけるし、今の一撃じゃ済まないから」
「か、勘弁してよ!もうしないよ!」
……姉ちゃん達の前では)
 そう言い残して、響は家を出ていった。
「あはは。宗真くんって、お姉さん達には頭が上がらないんだね」
「ああ。オレってば、いつもあの姉ちゃんズにいじめられてるんだよ。シンデレラみたいで可哀想だろ?」
「自分で言うな」
(姉ちゃんズって、ハムちゃんずみたいな響きだな……)
「あーあ。オレもこんな勉強やめて、かぼちゃの馬車でぶどう会に行きたいな〜」
とうかいな。ぶどう会って……天下一?ていうか、舞踏会行って何すんだよ」
「ケータリングの飯食う。なんか冷めてそうだけど、腹には溜まりそうだし」
「嫌なシンデレラだな……
……あれ?でも宗真くん、今日は昨日よりテキスト進んでるね?」
「実はさ。今日、授業中に先生に指されて……こういう時に限って、初めてすらすら答えられたんだ。そしたらクラスのやつがさ、『月城はかわいいし運動も得意だから、勉強さえできたら完璧なのに』とか言ってて。じゃあなってやろうじゃんかって、ちょっと燃えてはいたんだけど……。」
「あー……。それで、あっという間に燃え尽きて、俺らがここ来る頃にはもう疲れ果ててたってわけか」
「そ……そうだよ。わりいかよ」
……今の宗真くんの話。勉強のモチベーションを上げるのに、使えるかも!」
「え?」
「まずね。『完璧になりたい』って思えたのは、すごくいいことだと思うよ」
「ほ、ほんとか……?」
「うん。だから、それを“毎回思い出せる形”にしよう」
「毎回……?」
 ヨツダも口を挟む。
「例えば――テスト範囲の最初のページに、こう書くの。『月城宗真は、かわいくて運動ができて、勉強もできる完璧な人です』って」
「はぁ!?」
「待て待て待て。それ、だいぶ恥ずかしくねえか?」
「恥ずかしいからいいんだよ。そしたら見るたびに思い出すでしょ?『完璧になりたい』って気持ち」
「いや、オレ毎回赤面してノート閉じる未来しか見えねえんだけど!?」
「じゃあ……これは僕もやってることなんだけど。今日みたいに問題が解けたところ、全部チェックつけよう。
『ここはできた』って分かるように」
「チェック……
「そう。できなかったところより、できたところを見るの。『自分は伸びてる』って実感できるから」
「江沼のやつ、なんか普通に良いこと言ってないか?」
「それから――勉強時間は短くていい。長くやろうとすると、宗真くん飽きちゃうでしょ?」
……うん」
「だから、『今日はこの科目だけ』『この問題だけ』って決めてやろう。終わったら、ちゃんと休憩して、教科変えるとか」
……それなら、できるかも」
「最後に一番大事なこと」
「ま、まだあんの……?」
「完璧じゃなくてもいいから、『昨日の自分よりちょっとマシ』なら合格」
……
「宗真くんは、もう一回『できた』を経験してる。
だったら、次もできるよ」
「海成、お前……ほんとにオレの先生みてえだな……
「というかもはや先生だろ。江沼先生」
「えへへ……じゃあ、今日は数学はここまでにしよっか。明日も続けられるようにね」
……うん」
 宗真は小さくうなずき、さっきよりも少しだけ素直に、ペンを持ち直した。
 海成は自分のノートの隅に書いた、「宗真くんや江沼くんと勉強して、もっと仲良くなる」という目標に……そっと線を引いた。

 そして宗真は、英語の勉強を始めた。
「「“テーブルの下にボールがあります”……は、
There is a ball under the table、か。なんで“there”なんだよ。どっから出てきたんだ、この“ゼアー”。気持ちわりいな……
 ぶつぶつと英文法に文句を言いながら、宗真はテキストを睨んでいる。
(under……underwear……
「under」という単語を聞いた瞬間、海成の脳裏に、先ほど目にした――特別色気があるわけでもない、あの宗真の下着姿がふっとよみがえった。
(ぼ、僕は最低だ……!頼ってくれてる友達の前で、何を考えてるんだ……
「江沼ー?」
「ひっ!?」
(「ひっ」?)
「学校で見せてくれた、Zゼータ会のあの参考書って今持ってる?あれ分かりやすかったから、また見せてほしいんだけど」
……あ、ああ。あれだね、持ってるよ。ちょっと待って!」
 慌てて鞄を漁ろうと立ち上がった瞬間、足がもつれ――次の瞬間、派手に転んだ。
「いててて……
「おい江沼、大丈夫か?」
「う、うん……
 顔を上げると、目の前には宗真がしゃがみ込み、心配そうにこちらを覗き込んでいた。海成の足元を、真剣な表情で観察している。
「そ、宗真くんっ!?」
 思わず飛び退こうとするが――
「いや、ふざけて変なことしてるわけじゃねーって。ケガしてないか見てただけだよ」
 宗真はそう言って、少し得意げに続ける。
「オレ、稽古させられてた時はささ。ケガしないかとか、ケガした時の処置とか、父ちゃんに結構叩き込まれてたんだ。……うん、大丈夫そうだな。これなら、ちょっとアザになるくらいだと思う」
「あ……ありがとう……
 そう答えながらも、海成の意識は別のところに引きずられていた。スポーツドクターのような振る舞いをする宗真自身よりも――下校してすぐに見せパンを脱いでしまったであろう、しゃがんだときの宗真の無防備な姿(つまり真っ白のパンツ)――が、目に焼き付いて離れなかったのである。

 そして、勉強会と自分なりの猛勉強の末、宗真は中間テスト当日を迎えていた。昨日は数学・英語・社会。今日は理科と国語で、今は国語のテストの最中だ。
 これまでの科目は、彼なりに順調に解いてきた。――はず、だったのだが。
(げっ、お腹痛い……!)
 よりにもよって、こんな時に。宗真はそっと手を挙げた。
「すみません、トイレ行っていいですか……
 許可をもらい、急いで教室を出る。だが、用を足して戻ってきても、腹痛は完全には治まらなかった。席に着いてからも、じわじわとした痛みが続き、問題文に集中できない。
(くそ……静姉が言ってた「テストは当日の出来がすべて」って、こういうことかよ……!あんなに頑張ったのに……
 焦れば焦るほど、時間だけが過ぎていく。結局、納得のいかないままテスト終了の合図が鳴り、答案は回収された。
 
――そして、数日後。答案返却の日。
 宗真は祈るような気持ちで点数を確認し……顔を引きつらせた。国語だけ、平均点を下回っていた。
「やべえ……このままじゃ稽古再開じゃん……!」

 帰宅後、宗真は、返却されたテストをまとめて差し出した。
……はい、これ。返ってきたテスト。……国語だけダメだった」
 宗二は一枚一枚を静かに確認し、短く息を吐いた。
……そうか。約束は約束だ。今日から稽古を再開するぞ」
 その言葉に、響が思わず前に出る。
「ね、ねえお父さん!宗真にしては、ここ二週間くらいは本当に集中して勉強してたんだよ?それに、次期当主はあたしなんだから、宗真に稽古なんてさせなくたって——
 なお、響の中では、宗真が海成やヨツダに向けて下着を見せつけていた件は、きれいさっぱり記憶から抹消されている。
「響。……結果は、結果よ」
「でも!お姉だって、この子がいっぱい勉強してるところ見てたでしょ?それに受験じゃないんだし、たった一回で決めなくたって……!」
……そうね。確かに、これは受験とは違う。でも、「頑張ってたから」って理由だけでペナルティを取り下げるのも、どうかと思うわ?ねえ、お父さん?」
……そうだな」
 重たい沈黙の中、宗真がむすっと口を開く。
……で。この可愛いオレに、何させようっていうんだよ……?」
 そして、協議の結果。
「一週間、夕飯作りと掃除当番かよ!でも、ジャージメイドのオレが可愛いから、まあいっか☆」
 しかし宗真には、料理のレパートリーというものがほとんどなかった。その為家庭科で作ったことのあるカレーが、一週間も続いた。
……一週間ずっとカレーって……もう当分、カレーは食べたくないわ」
……お刺身が食べたい……
……やっぱり、稽古にしておけばよかったかもしれんな」
「えっ、ちょっ——今から変更とかナシだからな!?」
 こうして月城家には、しばらくの間、カレーの香りが立ち込めることになったのだった。

「いやー、テスト終わったし、週末どっか行きたいね〜!」
「あれ、宗真は?」
「彼氏軍団のとこじゃない?」
……一組のこと?」
(彼氏……なのかな……?ていうか、軍団……?)
 
 その頃、一組では。
「海成〜!ありがとな!お前のおかげで、国語以外は平均点取れたぞっ!」
「それはよかった……!え、でも……国語は……?」
「それがさー、テスト中にお腹痛くなって、全然集中できなくてさ。ついてなかったわー」
「そっか……。でも、本当に頑張ってたよ、宗真くん。稽古はどうなったの?」
「一週間、家のことやるってことで許してもらえたぞ!ていうかさ、この格好可愛くね?」
 そう言って、宗真はスマホの画面を差し出す。※ちなみに、ジャージメイド服は静乃のチョイス。
(この写真、欲しい……
「う、うん……!ちゃんとこっちの方も頑張ったんだね。すごく可愛いよ!カレーも美味しそうだし!」
「えへー♪」
 宗真は満足そうに笑ってから、もう一人に視線を向けた。
「あ、ヨツダ。お前はテストどうだったんだ?」
「すごいんだよ、吉田くん」
 ヨツダはなぜか、気取ったように指でピースを作ってみせる。
「は?何そのポーズ。なんかムカつくんだけど」
「クラスで二番目。つまり、江沼の次に良かったんだよ。察しろ……あ。お前、こういう察する系、一番苦手だったな?」
「すげーじゃん!……でも、なんかイラッとするな……
「うるせえな!こんな良い成績、人生で初めてなんだよ!そりゃオレだって、ちょっと動揺するだろ!」
「ふふ……二人とも、お疲れさま」
 こうして三人は、それぞれ違う形で終わった中間テストを、少し誇らしげに振り返るのだった。