ポほ
2026-03-17 23:46:53
4937文字
Public 跡取り息子、やめました!?
 

男三人(?)、中庭で

第8話。この頃は女の子が苦手で引っ込み思案な海成君ですが…

 ぬま海成かいせい
 宗真の隣の隣の席、1年1組――ヨツダと同じクラス。優しくて大人しく、仲のいい友達は多くない。図書委員をしている読者好きな男子生徒。
 そして、新月の時――つまり“男の時”の宗真と、少しだけ距離を縮めた少年でもある。引っ込み思案な性格で、特に女子とはうまく話すことができない。
 新月が終わってからは、宗真♀にもなかなか声をかけられずにいた。それに、宗真自身も、ちなつやゆきといった女子の友達ができ、クラスでの居場所が固まりつつあり、宗真の方から1組に来る頻度は減った。
 そんなわけで、日が経つにつれ、海成からはますます話しかけづらくなっていた。
……はあ」
「どうした?」
 ため息をついていると、ヨツダが声をかけてきた。
「吉田くんか。ありがとう、僕なんかに話しかけてくれて」
「別に。日直の仕事でこの前のプリント返してるだけだよ。お前、本読んでて気づかないだろうから声かけただけ、なんだけど……
「それでも、嬉しいよ」
「そ、そうか。俺、まだ配り終えてないから……
「ぼ……僕も手伝う!そしたら早く終わるし、その後ちょっと話があるんだけど……いいかな」
「え?あ、ああ……
 海成は、友達が少ないとはいえ、他人に関心がないわけではなかった。むしろクラスメイトの顔と名前、座席の位置まで完璧に把握している。
 ただ――知っていることと、話しかけられることは別だった。調べることはできても、声をかける勇気が、ずっと足りなかったのだ。

 そして、手分けしてプリントを配り終えると、海成がヨツダの席に話しに来た。
「吉田くんって、宗真くんと仲いいよね。どうして? ……やっぱり、付き合いが長いから?」
「んー、どうだろうな? あいつ、昔は俺以外にほとんど友達いなかったし、まあ俺もそんな感じで……それで一緒にいたせいかな。最近は女子と一緒にいるみたいだけど。そういやあいつ、あんまりこっちの教室来なくなったな。……ていうかさ、お前、なんでそんなに宗真のことで絡んでくるんだよ。そんなに仲良くなりたいなら、本人と直接話してきたらいいだろ?」
「お、女の子と話すのは……緊張しちゃうから……!」
「はいはい、わかったわかった。でもさ、なんでそこまで気になるんだ?」
「と、友達になったのに……あんまり話せてないから。僕のこと、もう忘れちゃってないか心配で……
「友達に、ねえ。……見た目だけは女のあいつと、その時は話せたのか?」
 海成は、ゆっくりと首を横に振った。
「いや……この前、宗真くんが男の子に戻ってた日があって。その時、図書委員の仕事を手伝ってもらって……その時に、初めてちゃんと話したんだ」
「あー、新月の時に男に戻るとか、前に言ってたな。そういや……。でもさ、あいつ、別に見た目が女なだけで中身は変わってないし。気にせず話してくりゃいいと思うけどな」
……そ、そうかな……?」
「そうだって。それに、あいつはお気楽なアホだけどさ、お前のこと忘れたりはしないよ。……ああ見えて、結構律儀なとこあるしな」
……いいなあ、吉田くんは。宗真くんの、そんな一面も知ってるんだもんね」
(め、めんどくせえな、こいつ……)
 ヨツダは少し声を張り上げた。
「だ、だからさ!宗真のとこに話しかけに行けば、お前もあいつのこといっぱい知れるだろ! 行ってこいって!」
 海成は、ちらりとヨツダを見上げた。
……あのさ。よかったら、吉田くんもついてきてくれない?」
「な、なんで俺がっ!」
「女の子の宗真くんと話す……お手本が見たくて。吉田くんはその道のプロでしょ?」
「プロとかねーよ!」

……昼休み。
 ヨツダは、教室の廊下側の席に座っていたゆきに声をかけた。
「藤枝さん。宗真のやつ、いる?」
「うん。今お手洗いに行ってるけど、すぐ戻ると思うよ」
……あいつ、今は普通に女子トイレ入ってんのか)
 
「あれ?今日は江沼くんも一緒なんだねっ!もしかして、修羅場ってやつ!?」
 ゆきが指摘すると、海成は、ぴしっと固まったまま動かなくなった。
「ご、誤解だからなっ!」
 ヨツダが慌てて否定するも、ちなつまでやって来た。
「あれー?吉田くんに江沼くん、久々だねー。もしかして、宗真目当て?あはは、シュラバだ〜」
(ほらな!また変に誤解されるじゃねえか!早く来いよ宗真!……ていうか江沼も、もうちょっと説明しろよ!)

「ふー……トイレ混んでた。女ってほんと……ん?なんだお前ら、こんなとこで」
 宗真は、二人の顔を見てにやりと笑う。
「もしかして、オレへのデートのお誘い?」
 ヨツダも海成も、揃って黙り込んだ。
「うん。二人とも宗真を待ってたんだよー。話したかったんだって」
 ゆきが説明する。
「なんだよー、お前ら照れ屋さんだな?ここじゃなんだからさ、中庭でも行くか?」
 そう言って、三人は中庭へ移動した。
 
「で?ヨツダはなんの用なんだ?」
「別に用はねえよ。俺は、こいつの付き添い」
「え、海成の!?もしかして、呪いについて何かわかったとか!?」
 海成は小さく首を横に振り、消え入りそうな声で答えた。
……ごめんね。そうじゃないんだ……
「えー、違ったのか!じゃあ、なんの話?」
 宗真は自然と海成の顔を覗き込む。その距離の近さに、海成はさらに体をこわばらせ、耳まで真っ赤になったまま、言葉を失っていた。
 見かねたヨツダが助け舟を出した。
……こいつさ、女と話すの苦手なんだって。つーか見た感じ、女どころか人間と話すのも苦手そうだけどな。とにかく、お前ともっと仲良くなりたいんだと」
「ふーん……?で、ヨツダはなんでいんだよ?」
「江沼曰く、俺は宗真と話す“プロ”だから、手本を見せてほしいんだと。だからついてこいってさ」
「ぷっ……プロ!?なんだそれ、おっかしー!で、海成は何の話する?」

 海成の中で、かつての同級生たちの心無い言葉が、何度も反響していた。
「なんで黙ってるの?」
「江沼くん、何考えてるかわかんないんだけど」
「いつも黙って本ばっか読んで。暗いよね」
 気の強いクラスのリーダー格の女子に気圧され、言いたいことは、いつも喉の奥で飲み込んできた。
――でも。
 目の前の二人は、急かすことも、遮ることもなく、ただ待ってくれているように見えた。
……なら、僕も少しだけ、思ったことを話してみようかな)
「ぼ、僕が話すと……変な空気になるから……
「は?それ言ったらさ、オレのほうがよっぽど変な空気にしてるぞ?なあ?」
「まあな……
……え?」
「中学入る前さ、“見せパン”っていうやつ買って、ヨツダの前で見せたら、姉ちゃんに思いっきりぶん殴られたりしたし!」
……あはは。なにそれ……
 思わずこぼれた笑いは、小さかったけれど、確かに本物だった。

 海成は、ゆっくりと語り始めた。
「あのね……僕、女の子がちょっと苦手なんだ。理由があって……
 一度、言葉を区切り、息を吸う。
「昔、グループで発表するみたいな授業があって。その時、リーダーの女の子に……少し、きつく言われたことがあったんだ。それ以来、その子だけじゃなくて、ほかの女子とも、うまく話せなくなって……
 視線を落としながら、それでも言葉を続ける。
「ほんとは……女の子の時の宗真くんとも、いっぱい話したいのに。どうしても緊張しちゃって……。友達だって言ってくれたの、すごく嬉しかったのに、宗真くんが女の子に戻ってからずっと話せなくて……ごめんね」
……そうだったのか」
 少し考えるように間を置いてから、宗真は照れくさそうに頭をかいた。
……オレ、女代表として謝るよ。ごめんな」
「女歴一か月のやつが代表面すんなって……
……でもね。これからは、もっと宗真くんとも仲良くできるように、頑張ろうと思ってるから……
ゆっくりと顔を上げる。
「だから……僕のこと、見ててほしい」

「そっか……でもさ、別に“頑張る”必要、なくね?」
「ど、どうして……?今だって、声、震えてて……
「だってさ、もうこうやって話せてるじゃん。まあ、オレを“女子”としてカウントしていいのかは、諸説あるけどさ!」
「そこで自信なくすのかよ……
「だってヨツダ、お前いつも言ってんじゃん。『宗真のこと、男のままにしか見えない』って!こんなに可愛いのにさっ」
 そう言って、宗真は可愛らしく頬を膨らませ、拗ねたような顔をする。
……ああ」
(今みたいに、たまにいいこと言うとこ。……そういうの、昔のまんまだ。でもそんなこと言ったらまた調子に乗るから、口が裂けても言わないけど)
「だからさ、もっと自信持てよ。海成って、オレの知らない難しいこと、いっぱい知ってそうだしさ。少なくとも、オレは……お前のことも、もっと知りたいな」
「そ、宗真……くん……!」
「ん?今、『お前のこと“も”』って言ったか?」
「い、いや!海成、読書家だからさ。仲良くなったよしみで、呪いのこと調べてもらってて……その進捗とか……
「や、そこは他力本願じゃなくて自分でやれよ!仲良くするための交換条件みたいなことすんな!……ごめんな、コイツのその約束は無視していいから」
「ううん」
 海成は、小さく首を振って、はっきりと言った。
「今日、改めて宗真くんと友達になったから。だから……『友達のために』、調べることにするよ」

「マジか!?ありがと、海成!……実を言うとさ。今日、お前らと話せて……オレちょっと嬉しかったんだよな」
「え……宗真くんのほうが?」
「うん。贅沢な悩みかもしれないけどさ、最近は女子と一緒にいることが多くて。それももちろん楽しいんだけど……そういえば、ヨツダとか海成とかと、あんまり話せてなかったなって」
 少し照れたように、視線を逸らす。
「女子トークも案外楽しいけど。あいつらの前だと、あんまりできない話もあるし」
……猥談、とか?」
「お、お前っ!?そんな冗談言うやつだったのかよ!」
 海成の斜め上の発言に、ヨツダの声が裏返った。
「思春期の男子は、そういう話で距離を縮めるって聞いたことあるけど……違うの?」
「いや、まあ……そういう側面もあるとは思うけどさ。お前のキャラでそれ言われると、ちょっとびっくりするっていうか……なあ?」
「そ、そうだよっ!オレが言いたかったのは、女子があんまり興味ないゲームとか、野球とか、そういう話のつもりだったんだけど!?ていうか、女の子の前でそんな話振るなよな……!」
「ご、ごめん……!勉強不足で……!」
「まあまあ。こいつも悪気があったわけじゃねえし、許してやれよ、宗真。……ていうかお前、何ちょっと女みたいなこと言ってんだよ」
「あれ……?なんか姉ちゃんに怒られまくったせいで、そういう話、受け付けなくなったんかな……?」
 宗真は自分でも不思議だった。まさか、見た目だけではなく感性も女子に寄ってきているのだろうか?
「へ、変な空気にしちゃって悪いけどさ……。これからも、こうしてたまに三人で集まらないか?」
「まあ、俺は別にいいけど」
「う、うん……!僕でよければ」
「ありがと。うまく言えないんだけどさ、たまに男とつるまないと、なんか“男筋”が鈍ってく感じがしてさ。それはそれで、あんま良くない気がするんだよなー。万が一、ちゃんと男に戻れた時に生きていけなくなったら大変だし」
「なんだよ、その男筋って……まあ、お前のお姉さんからも、お前のこと頼まれてたしな。たまには顔合わせといたほうがいいか」
「へえ……宗真くんって、お姉さんがいるんだね」
「そうなんだよ!厳しい姉ちゃんと、メチャメチャ厳しい姉ちゃんの二人な!海成にも、そのうち会わせたいな。そのうち、うち来るか?」
「え……宗真くんの、お家に……?た、楽しみだな……!」
「あ、そしたら部屋の掃除しなきゃか、めんど……。じゃ、イオンで遊ぶ?」
「いや、そこまで言ったら普通に遊びに行かせろよ!」