ポほ
2026-03-17 23:17:56
7990文字
Public 跡取り息子、やめました!?
 

オレ、男の子?…って、そりゃそーだろ!

第6話。個人的にはTSモノで男の子に戻るイベントもエロいと思うんですが、世間はそうでもないんでしょうか
ワシはTSっ娘と同じくらい少年キャラが好きやねんで おいしいてハッピーハッピーやんケ

 毎日、カレンダーに律儀に×印をつけて。ようやく迎えた新月――といっても、正確にはその前の夜だった。宗真が眠っている間に、彼の身体は“変わっていた”。
 翌朝。目を覚ました宗真は、まず違和感に気づく。
……あ)
 枕元に垂れていたはずの髪が、肩に触れない。起き上がると、胸元にあったはずの重みもない。そして、下半身には――懐かしい、あの感覚。
「やったーーー!!男に戻ったーーーー!!」
……うるっさいわねえ。そんなに喜ぶこと?どうせ明日にはまた戻るんでしょ」
「いいだろ!どうせ呪われてない静姉には、わかんねーよ!」
「はいはい。悪かったわね、呪われてなくて」
(せっかく宗真のために、赤星流の呪いについて色々調べてあげてるのに……まあ、手がかりはまだゼロなんだけど)
 静乃はふと、宗真の格好に目を向ける。
……で、なんであんた、セーラー服なわけ?」
「あっ、やべ!いつもの癖で着ちゃった!今日は学ランの日〜♪」
「あーあ。今日は完全に“悪ガキ宗真”の日ね」
「なんだよ。静姉は、オレが女のままの方がよかった派なわけ?」
「別に。ただの私の趣味の問題」
「は?」
「でもね。最終的には、男に戻った方が筋だと思う。……私はね」
……へー?」
 宗真は気楽そうに返したが、その「最終的には」という言葉が、ほんの少しだけ胸に引っかかった。
(まあとりあえず……今日は男の日を楽しむか!)
 そう自分に言い聞かせるように、宗真は久しぶりの学ランに袖を通した。

 学校。校門をくぐった瞬間から、宗真はやたらと視線を感じていた。
……あー、これだ。この感じ)
 久しぶりの学ラン。肩も胸元もすっきりしていて、歩くたびに身体が軽い。だが、教室に入った途端――空気が止まった。
……え?」
「ちょ、月城……?」
 ひそひそとした声が、あちこちから漏れる。
……よっす」
 軽く手を挙げて挨拶すると、女子たちは一瞬、思考が追いついていない顔をした。
「あー、今日は男の日な。新月の時は呪いが解けんだ」
 説明するつもりで言ったが、その一言が余計に混乱を招いたらしい。
……男の日?」
「なにそれ……
(そんな顔されても、そうとしか説明つかねーんだよ!)
 廊下に出ると、今度は男子たちの反応が違った。
……あ」
「お、お前……月城なのか……?ほんとに、あの?」
「そうそう。あー……お前らも男のオレ見るの、初めてだもんな」
 二人はほっとしたように笑う。
「なんだ、戻れたのか」
「正直さ、前はどう接していいかわかんなかったんだよな……
「は?オレはオレだろ」
「それはそうなんだけどさ……
 言葉の続きは、曖昧に濁された。
……あー、なるほど)
 男子との間の気まずさは消えた。それなのにこの違和感はなんだ?そして、ちなつも登校してきた。
……月城?」
「おー、櫻井。今日はオレ、『こっち』な」
 宗真は自分の胸を指して言う。ちなつは一瞬、言葉に詰まり――
……そっか。戻ったんだ」
 その声は、昨日までより、ほんの少しだけ遠かった。
……あれ)
 席に着くと、後ろから女子生徒の小声が聞こえる。
「昨日まで女の子だったよね……
「なんか、急に男になるとか怖くない?」
(怖いってなんだよ……
 一方、前の席からは。
「よっ、月城。今日バスケ行く?」
……昼休み?」
「おう。今日なら思いっきりやれるだろ?」
 宗真は一瞬、言葉に詰まる。
(女の時は入れてもらえなかったのに。今日は誘われるのか)
 あれだけ一緒に遊ぼうとしていたのに。いざ男に戻った途端、掌を返されたように感じたのか――この時は、素直に頷けなかった。
……考えとくわ」
(あんなに楽しみだったのに……なんでこんな複雑なんだ?)
 自分の気持ちを、うまく言葉にできなかった。……その時。
「宗真!?」
 聞き慣れた声。振り返ると、ヨツダが立っていた。
「もしかしてと思って来てみたけど……戻ったんだな」
「おう。新月だからな」
 短いやり取り。それだけで、少し肩の力が抜けた。ヨツダは宗真の顔を見て、少し考えるようにしてから言う。
……なんか、安心した。けど」
「けど?」
「こうやって男に戻られるとさ。昨日までの宗真も、もう“いなかったこと”みたいにされるの、変だなって思って」
 宗真は、少しだけ目を見開いた。
……あ、そうだったのか)
……わかる。オレも変な感じ」
「だよな」
 それ以上、言葉は続かなかったが――宗真には、それで十分だった。
(今日は男だ。でも、昨日までの……女の月城宗真も、ちゃんとオレなんだよな)
 教室の窓に映る自分は、確かに“悪ガキ宗真”の姿をしていた。
 だが、その中身は――もう、前と全く同じではなかった。
 
 昼休み。宗真はなんとなく、図書室へと足を向けた。本を読む習慣などほとんどない。それでもここに来たのは、ただ現実から目を逸らしたかっただけなのだろう。
 ちょうど図書委員が返却された本を棚に戻しているところだった。台車の上には、今にも崩れそうなほど本が積み上がっている。
(すげーな……図書委員って、こんなことまでやるんだ)
 手持ち無沙汰で、じっとしていられなかった。気づけば宗真は、断りも入れずに本を受け取り、棚に戻す作業を手伝っていた。
「ありがとう。手伝ってくれるの?」
 声をかけてきたのは、図書委員の一人らしい一年の男子だった。平均より少し背が高く、どこか大人しそうな印象を受ける。
「いや、まあ……ヒマだから」
「君も一年生?あんまり見ない顔だなって思って」
「まあ、この顔で来るのは新年度始まって初めてではあるけど」
……?」
 男子はきょとんと、不思議そうな顔をする。
「僕、ぬま海成かいせい。一組だよ」
「えーと……オレは月城宗真。三組」
「僕、あんまり友達いなくてさ。月城くんみたいな優しい子と、友達になれたらいいなって思ったんだけど……もしよかったら、仲良くしてくれる?」
 一瞬、宗真は言葉に詰まった。
……いいけど、明日には女だぞ?」
「え?」
 海成は、完全に理解が追いついていないという顔で固まった。

 本をすべて棚に戻し終え、作業はひと段落ついた。
「ふう……終わったな」
「月城くん、手伝ってくれてありがとう。これ、僕からのお礼……ってわけでもないけど、どうぞ」
 そう言って海成は、司書から差し入れにもらったらしいパックジュースを一つ、宗真に差し出した。
「あ、ありがと……
 受け取りながら、宗真はふと考える。
(そういえば……誰かにちゃんとお礼言われるの、あんまないかも。怒られてばっかりだもんな、オレ……
 少し間を置いて、海成がぽつりと言った。
……ようやくわかったよ。今朝、クラスで少し噂になってたのって……君だったんだな」
「噂?」
「うん。入学してからずっと女の子だったのに、今日いきなり男の子になってた、って」
……それ、完全にオレのことじゃんか。まあ、隠すつもりもないし、いいけど)
「ああ……江沼にも知られてたんだな。そうだよ。昨日までのオレが、これ」
 宗真はそう言って、スマホを取り出し、保存してあった写真を画面に表示して見せた。海成は、その画面を見た瞬間、言葉を失う。
(か、可愛い……すごく……。こんな子が、さっきまで僕を手伝ってくれてたのか……!)
 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
(可愛いだけじゃなくて……性格までいいなんて……
 海成は、しばらく視線を外すことができなかった。
(もし……月城くんが女の子の姿で、今日みたいなことが起きてたら。きっと僕、まともに話しかけることすらできなかっただろうな……。そういう意味では、今日はラッキーだったのかもしれない)
「でもさ、『明日には女』ってことは……今日だけってこと?」
「そうなんだよ。新月の時だけ男に戻って、終わったらまた女。変な身体だろ。ほんとめんどくせーの。どっちかにしろってんだ」
「はは……。そういうのって、昔の小説とか漫画でよくあるよね。男の子と女の子が入れ替わったり、薬を飲まされたり……水をかぶったら女の子になっちゃう、とかさ。宗真くんは、月の周期と連動するタイプなんだ」
「え、そういう話って、よくあるのか?」
「創作の題材としては、まあまあ使われるかな。こうして実際に目の当たりにするのは、初めてだけど……
「海成って、図書委員だけあって本に詳しいよな?」
「え? まあ、読書は好きだけど……
(下の名前で呼ばれた……!)
「なあ、呪いとかも詳しい?」
「いや、詳しいってほどじゃないけど……調べたり、勉強したりするのは得意だと思う」
 宗真は、少し間を置いてから、にっと笑った。
「オレたち……仲良くなれそうだな!」
 その言葉に、海成の胸が小さく跳ねた。
(オレ……友達、少ないもんな。放課後はずっと父ちゃんに稽古させられてたせいで。特に男の友達なんて、中学に入ってからほとんどできてねーし……。それにこいつ、頭良さそうだし。勉強とか、呪いのこととかも教えてくれそうだしな。仲良くしといて損はない……
 少し打算的な考えが混じっていたのは事実だった。けれど、海成と友達になりたいという気持ち自体は、決して嘘ではなかった。
 一方の海成もまた、大人しい性格ゆえに友人は多くない。だからこそ、目の前の宗真に対して、見返りを求めることなく「何かしてあげたい」と、純粋に思っていた。
 それぞれに少しずつ事情を抱えながら――。不穏な予感をはらみつつも、どこか眩しい友情が、今まさに芽吹こうとしていた。

 そして昼休みが終わり、宗真は教室へ戻った。
「お前、結局バスケ来なかったな」
「あ、ごめん。行こうとは思ってたんだけど、忘れてた」
……でも、来なくて正解だったかもな」
「なんでだよ?」
 宗真が問い返すと、男子は少し言い淀んでから続けた。
「だってさ。もし俺たちと全力で遊んで、ケガでもしたら……今のお前ならまだしも、明日からのお前にも傷、残るだろ?」
「おいおい。そんなこと言い出したら、何もできねーじゃん」
 笑って返したものの、胸の奥に小さな棘が刺さる。
……でも、こいつらの言う通りなんだよな。明日からは、女のオレなんだ)
 その事実が、急に重みを持ってのしかかってきた。

……月城」
 背後から、控えめに名前を呼ばれた。
「櫻井、どうした?」
「明日は……女の子だよね?」
「そうだと思うけど」
 少し間を置いて、ちなつは視線を落としながら続ける。
「そしたらさ……一緒にご飯、食べようね。ごめん。今日はちょっと、びっくりして……避けちゃってたかも」
「いや……お前の気持ちも、わかるよ」
 無理に笑うことも、取り繕うこともしなかった。ただ、静かにそう返す。
「また明日、だな」
「うん……また明日」
 ちなつはほっとしたように微笑み、席へ戻っていった。宗真は、その背中を見送りながら、胸の奥に残る小さな温度を確かめていた。

 放課後。宗真は、いつもの稽古場――響のもとを訪れていた。身体はまだ男のままだ。
「あ……宗真。なんか、その悪ガキ顔も久々だね。最近はすっかり可愛くなっちゃってたから」
「悪かったな、男で」
「ふふ。あれだけ新月を楽しみにしてたのに、あんまり嬉しそうじゃないね?」
「そうなんだよ。なんかさ……性別が変わった途端に、周りの扱いまで変わる感じがしてさ。みんなが悪いわけじゃないけど、変な気分っていうか、落ち着かなかった」
 宗真は、少し考えてから言葉を続ける。
「オレ……女でいるのに、慣れちゃってたのかも」
……
 響は何も言わず、宗真を見つめる。
(もし……私が“跡継ぎになりたい”って願ったせいで、宗真がこんなことになっていたとしたら……?)
「まあ……たまたま男だった間に、友達ができたりはしたんだけどさ。そいつも、明日オレが女に戻ったらどうなるか……正直わかんないし」
「それは、むしろ良かったんじゃない?」
「え?」
「宗真が“男の時”に仲良くなったってことはさ。見た目じゃなくて、ちゃんと中身を見てくれたってことでしょ」
「へ?」
「気づいてないの?あんた、女の子の時……めちゃくちゃ可愛いんだよ」
「え〜〜?オレって可愛かったのか!戻ったら鏡とか見てみよ!早く戻んないかなっ!」
 一気に表情を明るくする宗真を見て、響は小さく息を吐いた。
(このバカ……
 その声音には、呆れと、それ以上にほんの少しの安堵が混じっていた。

 そして翌朝。宗真がなかなか起きてこないので、静乃は遠慮なく布団を引き剥がした。
「いつまで寝てんのー!」
「ん……ふぁ……
 宗真は小さく欠伸をする。
「って……宗真“ちゃん”の日だったか……
 やはり、身体は女の子に戻っていた。
(う……可愛いって思っちゃった……。しっかりしないと。中身はあいつ、中身はあいつ……
……静姉、今オレのこと可愛いって思っただろ?」
 いたずらっぽく笑って、宗真が言う。
「うるさいっ!早く学校行きな!もう七時半だからね!」
「はいはーい」
 宗真はベッドを抜け出し、ふと部屋の姿見に映る自分の顔を見つめた。すると、昨日の響の言葉が脳裏によみがえる。
――あんた、女の子の時……めちゃくちゃ可愛いんだよ
(そっか……オレ、可愛いのかぁ……!)
 じわじわと実感が湧いてきて、口元が緩む。
「ねえ静姉、メイクとか教えて」
「あんたにはまだ早いっ!」
 静乃の即答に、宗真はくすっと笑った。
 新月の時に取り戻したかつての日常……けれど、その日常は、もう以前までとは少しだけ違っていた。そしてまた新月は過ぎ、女の子としての日々が再開した。

 教室では、いつも通りの声が飛んできた。
「月城、おはよー」
「おはよー。よかった、ちゃんと女の子に戻ってたー」
「おはよ。……ほんとだよな」
(女の子に戻ってたのが“よかった”、か……。まあ、女のオレを見慣れてる藤枝たちは、そういうリアクションになるよな)
「ていうか月城……今日、ちょっと気合い入れてない?」
「ほんとだー!編み込みなんて可愛い!お姉さんにやってもらったんでしょ〜」
「ぎくっ……。オレもやってみようと思ったんだけど、まだ上手くいかなくてさ」
(さすが女子……目ざとい……! オレなら、こんなすぐ気づかないのに)
「簡単なやり方あるから、あとで教えるね〜」
「ていうか月城、オシャレ意識するとか、もう完全に女子じゃない?昨日の反動?」
「まあ……そんなとこ、かな……
 宗真は曖昧に笑いながら、指先でそっと編み込みに触れた。男だった昨日と、女である今日。
 その境目は、もう自分の中では、少しずつ曖昧になり始めていた。

 昼休み。教室の扉の方から、控えめな声がかかった。
「月城……さん、いる?」
「おーい、月城!一組の男子が呼んでるよ〜」
「え!? ……あ、海成か」
(名前呼び!?まさか月城、この男の子と……?)
「わざわざ悪いな。どうした?呪いについて、なんかわかったとか?」
 海成の前に立っていたのは、昨日まで一緒に本を棚に戻していた、小柄な少年――ではなかった。
 髪を綺麗に編み込んだ、どこからどう見ても美少女……と言っていい存在だった。
(し、写真では見てたけど……これは……ちょっと、直視できない……!)
 海成はみるみる顔を赤くする。
「ご……ごめん……。なんか……緊張、しちゃって……
「えぇ……。あ、女のオレ見て、びっくりした? 中身は同じなんだから、そんな気にしなくても――って、海成!?」
 言い終わる前に、海成はくるりと踵を返し、そのまま教室へ戻ってしまった。
「なんだよ……海成のやつ……
「見たよ、月城?」
「月城、結構罪作りだね? 詳しく聞かせて?」
「いや、そんな大したことないって……!」
 宗真は二人から一斉に浴びせられる“ガールズトークの圧”に、思わずたじろぐのだった。
 
――ねえねえ、今の子……海成くん? とは、どういう関係なのっ?」
「ごめんね。ゆきって恋バナ好きだからさ〜。あたしも嫌いじゃないけど」
「別に……。昨日、男の時にさ。あいつの図書委員の仕事手伝って、ちょっと仲良くなっただけだよ」
「そっか。じゃあ、必ずしも月城を“女の子として好き”ってわけでもないのか」
「いやいや、それだけじゃないでしょ!?昨日仲良くなった子と話そうとしてたら、こんな可愛い女の子になってたんだよ?そりゃ誰だってビビるって。たぶん、どっちもある!」
「でもさ……もし月城のことを、“女の子として好き”って言ってくる男子が現れたら、月城はどうするの?」
……はあ!?」
 宗真は思わず声を荒げてから、頭をかいた。
「そんなこと言われてもさ……オレ、男の時から好きな女の子がいたこともねえし。そもそも恋バナなんて、分かんねえよ……
 二人の視線が、一斉に宗真に集まる。自分でも整理しきれていない気持ちを突きつけられて、宗真は居心地の悪さをごまかすように視線を逸らした。

「オレの話はいいよ。お前らは、好きな人とかいないの?」
「えー……あたしは〜……まあ……
 ちなつは視線を泳がせてから、照れたように笑う。
「恋に恋してる、って感じ?あはは」
「私も……言うわけない、し……
「じゃあさ。そんなオレのことばっか聞くのって、不公平じゃん。ひどいな、オレ……お前らのこと、友達だと思ってたのに」
 宗真の言葉に、二人ははっと息を呑んだ。
「ごめん……
 ちなつは一拍置いてから、観念したように口を開く。
「私、好きな人は……いるよ。部活の、先輩……
……
 その瞬間、ゆきの表情がわずかにこわばった。けれど、その小さな変化に、ちなつも宗真も気づかなかった。教室には、さっきまでの賑やかさとは違う、微妙な沈黙が落ちていた。
「ふ……藤枝はどうなんだよ?」
「ん?あー……
 ゆきは一瞬だけ視線を泳がせてから、曖昧に笑う。
「最近、失恋した……かな」
「えっ!?」
 隣で聞いていたちなつが、思わず声を上げた。
「ちょっと待って、それ私聞いてないんだけど……!」
「うん。隠してて……ごめんね」
 申し訳なさそうに笑うゆきに、ちなつの表情が一気に険しくなる。
「はぁ!?どこの誰よ、その人!ゆきを泣かすとか許せないんだけど!?ねぇ月城!」
 突然話を振られて、宗真はびくっと肩を揺らした。
「え!?あ、ああ……そ、そうだよな!同じ男として、そんな奴がいるなんて許せない……!」
 勢いだけでそう言い切った宗真を見て、ゆきは少しだけ目を伏せる。
……違うよ、ちなっちゃん。月城も、怒ってくれるのはうれしいけど――
 胸の奥で、言葉にならない想いが静かに揺れた。
(「男」じゃないんだ……

「ちなっちゃん、月城……ううん、宗真。ありがと。励ましてくれて」
「え〜、なんか照れるね?」
(初めてかも……姉ちゃん以外の女の子に、名前で呼ばれたの)
「じゃあさ、あたしも“宗真”って呼ぼうかな。ガールズトークした仲、ってことで!いいでしょ、宗真?」
「あぁ……うん、いいよ」
「あれ?宗真、照れてない?」
「そりゃ照れるだろ。昨日まで男だったんだからさ……
「昨日まで、っていうか、あたしたちにとっては“昨日だけ”だけどね!」
「はは、なんだよそれ〜」
 ゆきも、つられるように小さく笑った。