ポほ
2026-03-17 23:14:21
8154文字
Public 跡取り息子、やめました!?
 

女ってめんどくせー

第5話。TSモノでは定番の生理回

 宗真がめでたく(?)美術部に入った翌日の昼休み。宗真の中には昨日の静乃の言葉があった。
 ――たまには自分から話しかけてみたら?
 給食を済ませたあと、宗真はどのタイミングで誰に話しかけようか思案していた。すると、教室の後ろの方で男子たちが騒いでいた。
「今日バスケ行こうぜ」
「体育館空いてるらしい」
 それを聞いた宗真が、椅子を引いて立ち上がる。
「おーい! オレも行くっ」
 一瞬、空気が止まった。
……え?」
「いや、お前……
 困ったように顔を見合わせる男子たち。
「女だし……
「なんかあったら、こっちが悪いことになるし」
「あ、そっか」
 宗真は一瞬だけ考えてから、スマホを取り出した。
「お前らはあの時の先生の話、まだ信じてないかもしれないけどさ。オレ、色々あって今は女だけど……ほんとに、春休みまでは男だったんだって」
 画面に映るのは、八重歯を見せて笑う、どう見ても“悪ガキ男子”な宗真。
「ほら」
……いや、写真見せられても」
「今は女なんだろ?」
 別の男子が、気まずそうに言った。
「でもさ、混ざりたいつってんのに仲間はずれにすんのも可哀想じゃね?」
「今日くらいは混ぜてやろうぜ」
 少しの沈黙のあと。
……わかったよ」
 そうして、体育館でバスケが始まった。
——が。
「うわ、きっつ……!ちょ、待って……しんど……
 数分も経たないうちに、宗真は膝に手をついた。
……あ、そうか。女って、体力……こんなに違うのか……
 その時だった。ボールを追っていた男子の一人が、バランスを崩し——宗真の胸元に、うっかり手が触れた。
——っ!」
「わ、悪い!! ごめん!!ほんとに、わざとじゃないから!!」
 必要以上に慌てて、何度も頭を下げる。
「いやいや、謝りすぎだろ!」
 宗真は笑ってみせた。
「ちょっとぶつかっただけじゃん」
けれど。
 男子たちは、さっきまでの空気に戻れなかった。誰も目を合わせようとしない。
 しばらくして、一人がぽつりと言う。
……ごめん」
「お前、最近まで男だったのかもしれないけどさ……
「昼休みの“男の遊び”には、ちょっと……入れてやれない」
 宗真は、言葉を失った。
……え」
 笑い飛ばそうとした表情のまま、胸の奥だけが、じわっと冷えていく。
——自分は、同じつもりで来ただけなのに。
——同じ場所に立ってるつもりだったのに。
 宗真は何も言えず、ただ一歩、体育館の端へ下がった。

……女子トイレに入るの、未だに緊張するな……
 宗真は、一人早々に教室へ戻り、女子トイレに入った。個室のドアを閉めて、ほっと息をつく。
(個室でよかった……
 その時だった。洗面台の方から話し声がする。同じクラスだが、宗真とは違う小学校から来た女子たちだ。
「月城ってさー。さっきも教室で“最近まで男だった”とか言ってたけど、本当なのかな?入学式の日に先生もそう言ってたけど、いまいち信じられないっていうか……
宗真は、思わず息を止めた。
「だよね。女子と話してるとこ、ほとんど見たことないし」
「単に男好きな女の子、ってだけだったりして」
「どうかな?」
……うう……
 胸の奥が、きゅっと縮む。
(違うっていうのに……。女子って、男子と話してるだけで……こういうこと、言われるもんなのか……
 そう思った瞬間、ふと、昔の記憶がよみがえる。
小学校の高学年の頃。気づけば、男子と女子が自然と分かれていった教室。話しかけるだけで、囃し立てられるような空気。
……そういえば女子と、学校でちゃんと話したの……いつが最後だっけ)
 宗真は、ようやく理解し始めていた。
(オレ、小学生の頃から……男子側にいただけなんだ。で、今は——女、なんだよな……
 女子とも上手くやれない。でも男子とも、もう同じ場所には立てない。
……これ、結構……詰んでないか?)
 そう思いながら、制服のスカートを持ち上げ、下着を下ろす。
——そして。
……え」
 一瞬、状況が理解できなかった。白い布地に、はっきりとした——赤。
……ぇ」
 次の瞬間。
「ぅわーーーーっ!?」
 思わず声が漏れ、慌てて口を押さえる。
(な、なにこれ……!?血!? え!? ケガ!? どこ!?)
 心臓が、どくどくと音を立てる。
——でも、頭のどこかで。
……あ、これ…………生、理……?)
 理解した瞬間、足元から、すうっと力が抜けた。
(聞いたことはあったけど……。まさかこんな、急に……
 外では、まだ女子たちの話し声がする。宗真は、個室の中で一人、ただ立ち尽くしていた。
——男だった頃には、絶対に起きなかったこと。
——女として生きるなら、避けられないこと。
 逃げ道は、もうない。

……な、なあなあ! ちょっと助けて……!」
 宗真は、意を決して個室のドアを開けた。声をかけた相手は、洗面台にいた——さっきまで、自分の噂話をしていた女子たちだった。
 自分を快く思っていないかもしれない相手。でも、この状況で他に頼れる人間が思いつかなかった。
「えっ……月城!?」
 女子の一人が、驚いたように目を見開く。
……ごめん。今の、聞いてた?」
 宗真は歯を食いしばる。
「悪いと思ってんなら……なんとかしてくれ……!」
 必死な声だった。女子たちは一瞬、顔を見合わせる。
……月城」
 もう一人の女子が、少しだけ声を落として言った。
「トイレでそんな焦り方してるってことは……まさか、アレ?」
 宗真は、言葉も出せず、ただ高速で頷いた。
「あー……
……はいはい、オッケー」
 女子の一人が、教室からポーチを持ってきて、ナプキンを差し出す。
「これ使って。初めてでしょ?」
……ありがとう……
 声が、少し震えた。そのまま宗真は、女子たちに挟まれるようにして保健室へ向かった。

「お友達に助けてもらえて、よかったわね〜」
 保健室で事情を聞いた養護教諭が、穏やかに笑う。
「初めてなら、びっくりするわよね。今日は無理しないで、少し休んでいきなさい」
……はい」
 宗真は、深く頭を下げた。女子たちの方を見て、少し気まずそうに言う。
……ありがとうございました」
 一拍置いて、続ける。
「正直……お前らのこと、嫌なヤツだと思ってたけど……結構、いいヤツだったんだな。ありがとな、助けてくれて」
 女子の一人が、肩をすくめる。
「まあ、こういう時はお互い様だから」
……あたしらもさ、あんたのことよく知らないのに、勝手なこと言って……ごめん」
 もう一人の女子が、宗真を見て、少し困ったように笑った。
「その慌てっぷり見たら、ほんとに“今まで男の子だった”んだなって、逆に確信したよ」
 宗真は、力の抜けたように笑った。
……そりゃ、どうも」
——完全に分かり合えたわけじゃない。
——でも、完全に拒絶されたわけでもない。
 宗真は、この日初めて「女子として生きる場所」が、ほんの少しだけ見えた気がしていた。

 放課後、宗真はドラッグストアに立ち寄り、生理用品とサニタリーショーツを買ってから帰宅した。他に寄り道をする気力は、もう残っていなかった。
……だる……
 ソファに身体を沈め、そのまま動かずにいると、玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー」
……おかえり」
 顔を上げると、響と静乃が一緒に帰ってきたところだった。
「あれ?」
 宗真は目を瞬かせる。
「姉ちゃん達、一緒だったのか」
「まあね」
 静乃は靴を脱ぎながら宗真を見る。
「ソファで大人しくしてるなんて珍しいじゃない。体調でも悪いの?」
 宗真は一瞬、言うか迷ってから、視線を逸らした。
「あー……その……オレさ……セイリ、来ちゃって」
 その言葉に、二人の動きが止まる。
「お、お姉……
 響が思わず静乃を見る。
……確かに」
 静乃は少し考えるように息をついた。
「このくらいの年頃の女の子なら、当たり前のことなのに……宗真のこととなると、その線を外して考えちゃってたわね」
「またそれ?」
 響が呆れたように言う。宗真はソファに沈んだまま、ぼそっと言った。
「だから今日は赤飯炊くんだろ?昔はそうしてたって、さっき保健の先生が言ってた」
「いや、もう夕飯の買い出しは済ませてるから」
 静乃は即答した。
「今どき赤飯はやらないわよ。ていうか、あんた赤飯そんな好きじゃないじゃない」
「そっかー」
 宗真は特に残念そうでもなく返す。
「ていうかさ」
 響が腕を組む。
「学校で、いきなり始まっちゃって……大丈夫だったわけ?」
「まあオレ、要領いいからな?」
 宗真は軽く親指を立てた。
「なんとかなったんだわ」
「ウソね」
 静乃が即座に切り捨てる。
「少なくとも、保健の先生にはお世話になったでしょ」
「げっ!?」
 宗真が勢いよく顔を上げる。
「なんでそれをっ!?」
……今自分から言ってたでしょ」
 響が淡々と指摘する。
……
 宗真は再びソファに沈み込み、天井を見上げた。
……今日、疲れたわ」
 姉二人は顔を見合わせる。この日ばかりは、呑気な宗真も、さすがに“女の身体”の現実を噛みしめていた。

 そして、宗二が仕事から帰ってきた。
「宗真!大丈夫か?」
「ああ、父ちゃんか。別に……ちょっと頭いてーけど、平気だよ」
 宗二はほっと息をつき、手に持っていたビニール袋を差し出した。
「静乃から聞いてな。いいもん買ってきたぞ」
「はは、まさか赤飯ってんじゃ――……は?」
 袋の中から出てきたのは、飲むヨーグルトだった。ラベルには大きく「プルーン」「鉄分」の文字。
「飲むヨーグルト……?鉄分?」
「じゃ、俺はシャワー浴びてくるからな」
 そう言って、宗二はそのまま脱衣所へ向かった。
「宗真。生理の時って貧血になりがちだから、鉄分摂ると少し楽になるわよ。頭とか、どこか痛かったら、棚にある薬も飲んでいいからね」
「静姉……なんか、優しいな」
 静乃は少しだけ呆れたように肩をすくめる。
「言っとくけど、私も響も基本的には優しいからね?そうじゃない時があったとしたら、それはあんたの日頃の行いが原因だから」
「はあい」
 宗真は素直に返事をすると飲むヨーグルトのパックにストローを刺し、一口飲んだ。甘酸っぱい味が、じんわりと身体にしみていく気がした。

 夜。宗真は布団に入ったものの、なかなか寝付けずにいた。
(生理の時って、眠りが浅くなるって……保健の先生も言ってたけど。ほんとに、全然眠れないもんだな。よく考えたら昨日眠れなかったのも、バスケの時やたらと疲れたのもそのせいか)
 天井をぼんやり見つめたまま、思考が勝手に巡る。
(オレ……女になって、次期当主でもなくなって、その時は幸せだって思ってたけど。ほんとに、そうだったのか……?)
 男子とも女子とも、今までみたいに自然に話せなくなって。身体は女だから、体力もないし、おまけに生理もあって。
(正直、めんどくさいことばっかじゃん……
 ふと、先日のヨツダの言葉が蘇る。
――お前のこと女だと思って話そうとすると、気持ち悪い感じする。だから今まで通りで行くわ
 あの時は、女扱いされなかったことが、なんとなく気に入らなかった。
 けれど今となっては――そのスタンスこそが、一番ありがたいような気がしていた。
……ヨツダは、オレをオレのまま見てくれた。変わっちまったのは、身体だけなのに)
 宗真は小さく寝返りを打つ。
……明日、ヨツダと話そうかな)
 そう思ったところで、少しだけ、胸の奥のざわつきが落ち着いた。

 翌朝。目を覚ました宗真は、カバン掛けに吊るされたセーラー服に腕を通した。最初の頃は新鮮で、少し楽しくもあったこの制服姿も──もう二週間が過ぎれば、さすがに物珍しさは消えていた。
 それどころか、女の身体になってしまった現実を突きつけられるようで、生理中の重たい気分も相まって、ただ気が滅入るだけだ。
 宗二はすでに仕事へ。稽古で汗を流してから登校する響も、とっくに家を出ている。
 食卓には、食後のコーヒーを啜る静乃の姿だけがあった。
……おはよ、静姉」
「おは…………?」
 昨日のことを引きずっているせいか、宗真の表情にはどこか憂いが滲んでいる。本人は自覚していないが、その様子は静乃の目には妙に可愛らしく映った。
(な、中身はあの悪ガキ宗真なのに……あやうく騙されるところだったわ……!でも、こんな顔してたら……男の子が放っておかないかもしれないわね……

 朝。
 宗真は、一組にいるヨツダを呼び出した。
「あのさ……今からオレ、ちょっと恥ずかしいこと言うから」
……下ネタ?」
「このノンデリ」
 そう言ってチョップを入れかけるが、途中で思いとどまる。
「こないださ……『宗真は宗真だ』って言ってくれただろ。あれ、ありがたかった。それで……今は、なんか……そう言ってくれたヨツダの声が聞きたくて呼び出した。……それだけ」
 言うだけ言って、宗真は踵を返した。振り返りもせず、そのまま立ち去っていく。
「お、おい、宗真?」
(なんだったんだ、あいつ……でも)
 確かにあの時、自分はそう言った。“宗真は宗真だ”と。
 けれど、今目の前にいた宗真は──その言葉を拠り所にして、わざわざ自分を呼び出した姿は。
 自分を頼ってきたか弱い女の子にしか見えなかった。

 そのままホームルームが始まった。
(なんか、ヨツダと話してたら……女がどうとか、めんどいこととか、一旦どうでもよくなった気がするな。
まあ、オレはオレってことか)
 ほんの少しだけ、前向きになれた気がした。一時間目は体育だった。体調にも特に問題はなく、最初の校庭二周のランニングから普通に参加する。
「おーい、月城。一緒にストレッチやらない?」
 声をかけてきたのは、昨日トイレで助けられた女子だった。
「あ、昨日はありがとな。えっと……オレの悪口言ってた人」
……さくらちなつだよ。その件は悪かったって言ったでしょ」
「でもいいのか? あいつ――えっと、もう一人の子と組まなくて。なんか仲間外れとかになるんだろ? 女子ってそういうのあるらしいじゃん」
「あー……まあ、なくはないけどさ」
 ちなつは少し苦笑して続ける。
「ちなみに、あんたが言ってるあの子はふじえだゆき。今日は休みだから」
「じゃあ、いつもの友達がいないからオレはそいつの代わり、みたいな?」
「ちょっ、それもあるけど!」
……あるんかい)
「でもさ、昨日のあれをきっかけに、普通に仲良くしようって思ったのも本当だから」
「まー、オレも仲いい女子いないし。いいよ」
 ストレッチをしながら、宗真はぼんやりと思う。
(女ってインシツだと思ってたけど……それだけじゃないのかもな)

 背中合わせになり、一人が反って体重をかけ、もう一人が前屈みになるストレッチ。
「お、オレ……重くないかな?」
 宗真が遠慮がちに聞くと、ちなつは即答した。
「いや、むしろ軽いから。クラスで一番小さいあんたがそんなこと言うと、逆にイヤミにしか聞こえないって」
「そ、そうか……
 少し安心しつつ、宗真は話題を変える。
「そういえば櫻井って、運動得意なのか?」
「まーね。あたしはバスケ部。ゆきは帰宅部だけどね」
 ちなつは一瞬だけ宗真を見て、評価するみたいに続けた。
「月城は……足は速いし、体力はまあまあある感じっぽいかな」
(体力……
 昨日、男子に混ざってバスケをしたときのことが、鮮明によみがえる。開始早々に息が上がり、脚が重くなり、置いていかれた感覚。
……まあ、男に比べたら全然ないけどな」
 ぽつりと漏れた言葉にちなつは首をかしげた。

 ストレッチが終わり、二人は体をほぐしながら並んで立つ。ちなつは宗真の横顔をちらりと見て、何気ない調子で言った。
「でもさ」
「?」
「月城って、女子の中だと運動できる方だと思うよ」
 宗真は一瞬、言葉を失った。
「え……?」
「ほら、背も小さいし、華奢じゃん。普通その体格であれだけ走れたら十分じゃない?」
 ちなつは本気で感心しているようだった。悪意も、からかいも、一切ない声音。
「しかもさ、昨日あんなことあったのに、ちゃんと体育出てくるの偉くない?」
……そう、か?」
「そうそう。あたしなら休んでたかも」
 ちなつは軽く笑う。
「月城、女子としてはかなり頑張ってると思う」
 その言葉が、胸の奥に静かに沈んだ。
……女子として)
 否定したいわけでも、怒りたいわけでもない。ただ、その評価の枠組みが――もう自分を「男」としては見ていない、という事実だけが、はっきり突きつけられた。
……ありがと」
 宗真はそう返すしかなかった。ちなつは満足そうに頷く。
「でしょ? だから無理しなくていいって。女子なんだし」
(無理、してないつもりなんだけどな……
 そう思いながら、宗真は視線を足元に落とした。

 放課後。宗真は、道場で稽古をしている響のもとを訪れた。
……ちょっといい?休憩がてらでいいから」
「ん?いいよ」
 稽古を切り上げた響と並び、二人は道場の縁側に腰を下ろした。夕方の風が、汗の残る空気を少しだけ冷ましていく。
「あのさ……もしオレが男に戻ったとしてもさ。やっぱり、跡継ぎは響姉なんだよな?」
「うん。ちゃんと話もつけたし」
……だよな。じゃあさ、オレが女かどうかって、もう跡継ぎの話とは関係ないよな」
「そういうことになるかな――あ、でも今の話、赤星のやつらには絶対知られたらダメだからね!」
「うん、わかってる」
 少し間を置いてから、宗真は視線を落としたまま続けた。
……だったらさ。オレ、やっぱり男に戻った方がいい気がしてきてて」
「えー?あれだけ浮かれてたのに」
……
「あ、生理の時ってさ、何もかもめんどくさくなったりしない?あたしもそういう時、あるよ」
「え、響姉も?……いや、たぶんそれだけじゃないんだ」
 響は何も言わず、宗真の言葉を待った。
「今まで普通にできてたことが、できなくなったりさ。人間関係も……前とちょっと勝手が違うっていうか。オレさ、女になったら全部楽になると思ってた。でも、なんか……別のめんどくささが増えただけでさ」
 風が、二人の間を通り抜ける。
……あの呪いって、どうしたら解けるんだろうな?」
 響はすぐには答えず、夕暮れの道場を見つめたまま、静かに息をついた。

「何の解決にもならないけどさ……とりあえず、新月になったら一旦は確実に男に戻るんでしょ?」
……まあ、恐らくは」
「だったら、その時にどう思うか、じゃない?本当に今の身体に未練がないのかはっきりするじゃん。もし私だったら……その時を待つかな」
「新月か……そもそも呪いの解き方も、まだ全然わかってないしな。そっか。その時に、やっぱ男の方がいいって思ったら……その時に考える、か」
 響は小さく頷いた。
「響姉、ありがとな。とりあえずそれまでは、今みたいに普通に過ごすことにするよ」
……宗真」
「ん?」
 響は一瞬だけ言葉を探してから、ぽつりと零した。
「あたしのために……ごめんね」
「え?」
「だってさ。跡継ぎのこと、あっさり譲ってくれたり。赤星流の呪い受けたり……あんたって何も考えてないように見えて、そういうところあるじゃん」
 宗真は一瞬きょとんとした顔をした。
――実際のところ、本気で深く考えていたわけではない。
 だが、褒められた(ように聞こえた)ことで、あっさりその気になる。
「まーな!オレって、気が利く男だからな!」
……はいはい」
(この調子こいた感じも含めて、そういうとこなんだよな……
 夕暮れの道場に、姉弟の軽い笑い声が溶けていった。