ポほ
2026-03-17 21:43:52
3231文字
Public 跡取り息子、やめました!?
 

オレ、また女の子?

第2話です。
TSモノあるある、男の時の親友君登場。
私の書く主人公は明るい性格の割に友達があまりいませんね。
自分と程遠すぎて明るくて友達が多い人を書けないのはもちろんですが、「そう見えるけど実は孤独を抱えている子」が好きともいえます。
前橋ウィッチーズのユイナみたいな

 翌朝。目を覚ました宗真は、まず視界の違和感に気づいた。
 いつもより、ほんの少し――低い。次に胸元。布越しに、かすかな膨らみがある。そして決定的だったのは、
下半身にあるはずの“重み”が、きれいさっぱり消えていること。
……な、なんじゃこりゃああああっ!?」
 その悲鳴で、屋敷に残っていた二人が同時に飛び起きた。仕事――稽古ではない、副業という名の本業――に出ている父・宗二を除いて。
「ま、まさかっ!?」
「宗真っ!?」
 部屋に駆け込んできた二人の視線を受け、宗真は観念したように肩を落とす。
……その“まさか”だったよ……
 そこにいたのは、昨日まで確かに“戻っていた”はずの少年ではなかった。見事に――女の子の姿に、逆戻りしていた。
……っていうか! まず服着なさいよっ!」
 バシッ、と乱暴に枕が飛ぶ。
「はーい……
 素直に返事をしながら、宗真はのそっと起き上がる。
「お姉……もしかして、新月に呪いが解けるっていうの、一時的な話だったとか……?」
 静乃は唇を噛み、少し視線を伏せた。
……その可能性、あったのに。あの時は“解けた”って思い込んで、考えから外してしまってた……ごめんね、宗真」
 着替えながら、宗真はいつも通りの調子で返す。
「んー? 静姉が悪いわけじゃないでしょ。それにさ、いっぱい買った服が無駄にならなくて済んだし?」
……ほんと、呑気なヤツ……
 軽口の裏で、三人とも分かっていた。呪いは解けていない。そしてそれが、これからの月日とどう付き合っていくことになるのか――まだ、誰にも分からなかった。

「でもさ、もう跡取りの話は響姉で決着ついたんだしさ。オレが女とか男とか、正直もう割とどうでもいい話だよな?」
……まあ、確かにそう、かも……?」
 一瞬だけ言葉に詰まりつつ、響は頷いた。
……お父さんが帰ってきたら、さすがに驚くとは思うけどね」
 そう言って、静乃はカバンを肩に掛ける。
「とりあえず私は自習室に行ってくるから。じゃあね」
「行ってらっしゃーい。あたしは走ってくるかな」
「えっ。ちょ、姉ちゃん達、オレへの関心ゼロ!?」
「だって今、自分で“どうでもいい”って言ったじゃない」
「それはそうだけどさー……
 二人がそれぞれ出て行く背中を見送り、宗真は肩をすくめた。
……ま、いっか。春休みだし、やることねーし」
 窓の外をちらりと見て、気楽に呟く。
「オレも散歩でもしてこよ〜」
 そうして宗真は、“少しだけ変わった日常”の中へと、無防備に踏み出していく。

 そして、近所のイオンをぶらぶら歩いていると――
(あ、ヨツダじゃん)
 宗真が心の中でそう呼んだ相手の本名は、よし いつきという。もっとも「ヨツダ」というあだ名の方が、宗真の中ではすっかり定着していた。
 きっかけは些細なことだ。ある日、彼が自分の持ち物にカタカナで書いた「ヨシダ」の文字が、どう見ても「ヨツダ」にしか読めなかった。
 それ以来、宗真の中で吉田はヨツダになった。春からは宗真と同じ中学に通う予定で、これまでは宗真が稽古に縛られていたせいもあり、放課後に遊ぶ機会はあまりなかった。
 それでも、学校の中では一番よく一緒にいた相手だ。
――気の置けない、数少ない友達。
「おーい!」
 手を振りながら、何の気負いもなく声をかける。

 宗真は、そのままヨツダのもとへ駆け寄った。
「ヨツダ! 卒業式以来だな!」
……?」
 首を傾げるヨツダに、宗真は気にせず続ける。
「これからさ、稽古しなくてよくなったんだ。だから部活も入れるし、放課後とか、普通に遊びに行けるようになったんだぜ」
……いや、ごめん。誰?」
「あっ……やば……
 一瞬で嫌な予感が走る。
「オ、オレだよ! お前の友達の宗真だって!」
……宗真って、月城宗真?」
 まじまじと宗真の顔を見て、ヨツダは困ったように眉を寄せる。
「でもさ……キミ、女の子じゃん。春って変な人が出るって言うし……えっと……
 視線を泳がせながら、真剣に考え込む。
「インフォメーションとか……行く?それか交番……?」
「ち、違うって!!」
 必死に否定しながら、宗真は内心で叫んでいた。
(くっそ……完全に迷子か不審者扱いじゃん……!)

 宗真は、少しだけ声を落として言った。
……おまえ、まだあのパンツ履いてるの?」
「!!」
 目に見えて肩が跳ねる。
「オレとおまえだけの秘密、だもんな?」
 一瞬の沈黙。
……は?」
 数秒遅れて、顔が真っ赤になる。
「な、なんでそれを――!?」
「ほらな。宗真だっての」
 得意げにニッと笑う宗真に、ヨツダは言葉を失ったまま固まっていた。
……ちょ、ちょっと待て……え、じゃあ……え? 本当に……?」
「本人以外が知ってるわけないだろ」
……マジかよ……
 頭を抱え、深く息を吐く。
「いや……情報量が多すぎて処理できねえんだけど……
「だよなー」
 どこまでも呑気に頷く宗真を前に、ヨツダは改めて“目の前の女の子”を見つめ――そして、視線を逸らした。

 そして、なんとなく二人はフードコートに落ち着いた。ヨツダは新学期に向けて文房具を買いに来ただけらしく、特に急ぎの用事はなかったようだ。優等生というほどではないが、少なくとも宗真よりは勉強熱心であるらしい。
……で。なんで、こんなことになってんだ?」
 向かいの席でポテトをつつきながら、ヨツダが改めて問いかける。
「オレにもよく分かんねーんだけどさ……呪われた」
……の、呪い? 今どき?」
「まあまあ、聞けって」
 軽く手を振り、宗真は話し始めた。
「オレんちって月城流って変な道場だろ。で、ライバルっぽい一門があってさ。跡継ぎさせないために、オレを変な地下に閉じ込めて……なんか、儀式?みたいなのやられて」
 少し間を置いて、自分の身体を見る。
「それで……こうなった」
「意味わかんねーよ……
 思わず突っ込みつつも、ヨツダの顔は真剣だ。
「じゃあお前、 一生そのままなのか?」
「どうなんだろうな。昨日の新月の時は一回戻ったんだけどさ、その日が終わったらまたこう」
……変な身体だな」
「ほんっとそれな!」
 笑い飛ばすように言う宗真に、ヨツダはじっと視線を向ける。
「でも……あんまり嫌そうじゃないな、お前」
 その一言に、宗真は一瞬だけ言葉を失うも――
「だってさー。女だったら、後継ぎやんなくていいだろ?」
……おまえんち、そういう感じだったのか……
「今どき古いよな。でもさ、オレの上に姉ちゃん二人いるから。父ちゃんにとっては“待望の男の子”だったのは、マジっぽいんだよな」
 ヨツダは少し言葉を探すようにしてから、遠慮がちに口を開く。
「そういえば……お前、母さんの話、あんましないよな。あ、聞いちゃダメだったら言わなくていいけど」
「別に話してもいいけど?」
 あっさりとした調子で、宗真は続ける。
「母ちゃんは、今は離れて暮らしてる。父ちゃんについていけなかったっぽいんだよな。今なにしてるかも、正直よく分かんない。姉ちゃん達も、もう会ってないみたいだし」
……あんまり家族の話しなかったけど、思ってたより複雑なんだな)
「ま、とにかく女最高ってわけ。中学の制服もセーラーでカワイイしな」
……まあ、それはいいとして」
 少し真剣な顔になって、ヨツダは問いかける。
「新学期からは……女の子として過ごすつもりなのか?」
「そう思ってたけど。なんか問題あんの?」
「いや……いろいろ大変なこともあるだろって話。多分さ、お前……お姉さん達に頭下げて、世話になる場面、増えると思うぞ」
「え〜? ヨツダ、気にしすぎだろー」
……お前が、気にしなさすぎなんだよ」
 その一言が、妙に重く残った。