冬牙
2026-03-17 17:10:05
7120文字
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【espilver(エスシル)】異世界スローライフ:エピソード1

※エスピオ×シルバーの二次創作になります。

※物語の都合上、原作にないオリジナルキャラクターが登場します。

※原作・ゲーム本編とは一切関係がありません。二次創作としてお楽しみください。

※新参者ですのでキャラクターの口調など誤りがありましたら申し訳ございません。

【1:最初の夜】

「うう……ここは……?」

 紫色のカメレオン……エスピオはゆっくりと起き上がる。いつの間にか気を失っていたようだ。周囲を見渡すとすぐ近くに誰かが倒れている。まだぼんやりとする目を凝らすとそこには仲間の1人……銀色のハリネズミ、シルバーが倒れいた。慌てて駆け寄り名前を呼ぶとゆっくりと目を開け、声の主がエスピオだと認識すると目を丸くする。

「エス……ピオ……?なんで__」
「ようこそ!あなたたちが新しい住民ね!」

 急に大きな声で話しかけられ、2人は声に驚いて振り向くとそこには見知らぬ女性が両手を広げて歓迎するように立っている。クリーム色の長い髪、薄ピンクの洋服を身にまとった柔らかくもどこかその仕草がおてんばな雰囲気を漂わせている女性だ。

「は……?なにがどうなっているんだ?」
「じぶんにもわからぬ……。ここがどこなのかもな」

 シルバーとエスピオは状況を飲み込めないまま顔を見合わせていると女性は小さく首を傾げた。

「まだ混乱してるのね。まあいいわ!とにかく後ろを見て!」

 女性の指さす方、自分たちが倒れていた場所の後ろを見るとそこには建物が建っていた。そこそこしっかりした造りの一階建ての家で、造りだけ見ればカオティクス探偵事務所より立派かもしれないとエスピオが思うほどだった。

「今日からそこがあなたたちの家ね。2人くらいなら住めるほどの広さはあるし、最低限の家具も準備してあるし、電気も水も……バッチリ使えるはず!なにかあったら私にいつでも……あ、私はルーシー。この島の管理人をしているの。よろしくね!」
「ま、待て。おぬしは一体何を言っている?」

 次々と話し出すルーシーと名乗る女性をエスピオが制止する。するとルーシーはきょとんとした顔でまた話し始める。

「なにって、きっとあなたたちは別の世界から飛ばされてきたんでしょ?」
「別の世界だって……!?」

 ルーシーの言葉にシルバーは目を丸くする。たしかに目の前に広がる景色も建造物も、自分たちの世界とは様式が微妙に異なって見える。知らぬ間に異世界に飛ばされてしまったというのか。シルバーが考え込んでいるとルーシーは明るい顔を見せる。

「まあ、帰る方法は追々探していけばいいわ。とにかく私はこの島がにぎやかになればそれでいいの」
……状況が呑み込めぬのだが。つまりここはじぶんたちとは別の世界で……おぬしがじぶんたちをここに呼び寄せたということか?」

 エスピオの問いにルーシーは即座に首を横に振る。

「まさか!私にそんなことできっこないわよ。この世界にはね、どういうわけかときどき外からあなたたちみたいな異世界の人がやってくるの。だから私は島の管理人として、ここにいる間は不自由なく暮らせる環境を提供してるだけ」
「ううむ……提供してくれるのはありがたいが、じぶんたちは一刻もはやく世界に帰らねばならぬ故_」
「どうせ帰る方法もわからないんでしょ?それならそれが見つかるまでここで暮らせばいいじゃない!もちろん私も協力するわ」

 ルーシーはそういうと強引にエスピオの手を取り島の地図を渡した。

「はい、これが島の地図ね。きっちり2人分。この島は自然がいっぱいだから、島の自然に感謝しながらみんな自給自足の生活をしているの。あなたたちもそうするといいわ。他に必要なものは街で買えるし……とにかく必要なことは地図に書いてあるから。それじゃ私はそろそろ行くわね!」
「ま、待て!」

 エスピオの制止も聞かずルーシーはそういうと手を振ってさっさと立ち去ってしまった。一方的に言いたいことを言われ不服そうに小言を呟くエスピオをシルバーがなだめるように状況を整理する。

「言いたいことはわかるが、とにかく今は彼女に従うしかない。そうだろ?オレには彼女が悪そうな人には見えなかったし、地図ももらったんだ。きっと元の世界に帰る方法を見つけられるさ!」

 シルバーの前向きな姿にエスピオは安心したように冷静さを取り戻す。

「そうだな。取り乱してすまなかった……。それで、どうする?」
「オレはとりあえず街に行ってみようと思う。聞き込みをしてこの島の情報を集めるんだ」
「承知した。じぶんは地図を見ながら島の外周に沿って周囲を偵察しよう」

 シルバーは決まりだなと頷いた。その時エスピオはふと建物の方に目をやる。

……先ほど彼女がこの家を自由に使ってよいと言っていたな。ではここを活動拠点として利用させていただこう。設備も確認しておかねば」
「そ、そうだな。せっかく用意してくれたのに使わないのもアレだし……

 そう言って2人はとりあえず家の中を確認する。そこには素朴ではあるがキッチン、ベッドシャワールームなど、ルーシーの言った通り、暮らすにはじゅうぶんな設備が整えられていた。

「特に怪しいものはないが、念のためじぶんが家の中もくまなく調べておこう。……設備の使い方もな」
「ああ、ありがとう。じゃあオレは行ってくる」

 エスピオを家に残し一足先にシルバーは家をあとにする。地図を確認すると街は島のちょうど中央に位置し、その周辺を自然が囲っているような地形になっていた。自分たちがいた家は、地図で見る限り島の南側にあるようだ。ルーシーがつけたのであろう印がつけられている。シルバーはその地図を注意深く眺めながら考えていた。

(タイムトラベルじゃない……全く別の世界。ここは一体どこなんだ?なぜオレたちは飛ばされた?たしかにオレは過去に来てはいたが、ここに来る直前のことが思い出せない。それに……なんでよりによってエスピオと一緒に?暮らすって、それってあの家でエスピオと二人きりで……

……~っ!なに考えてるんだオレは……!」

 シルバーは超能力の力で浮遊すると、リンゴのように赤く染まった頬の熱を誤魔化すように加速しさっさと街へ向かった。

 一方その頃、家に残っていたエスピオもまた外に出て島の様子を偵察していた。

(家の中に怪しいものは見つからなかった。設備もじゅうぶんすぎるほどだ。ボロボロの探偵事務所に比べればな。まさかこんなことになるとは……じぶんがいなくなって今頃ベクターはチャーミーにいつも以上に手を焼いていることだろう。一刻もはやく戻らねば……カオティクス探偵事務所にはじぶんが必要だ。それに、シルバーも元の世界のことが気がかりだろう)

 地図を片手に、持ち前の素早さを活かして島の外周を駆けると地図通り海に囲まれた島であることが判明した。川には透き通った水が流れ魚が泳いでいる。森は草木が生い茂り、鳥や虫の鳴き声がどこからともなく聞こえる。穏やかで自然に恵まれた土地だ。修行にうってつけの場所ともいえる。エスピオは素直に良い場所だと感じた。
 島の住民たちがよく行き来しているのか、川に架けられた橋も手作り感のある素朴さはあるものの、よく整備されており、各所に休憩できるようなテントや焚火の設置された場所も確認することができた。
 森の中で偶然にも食料を集めにきたという住民に出会い、食材の場所を教えてくれたので、採集に同行しとりあえずいくらかキノコや果実を持ち帰ることにした。その住民は釣りが趣味だと話し、釣り竿の作り方のメモをよこして自分で作ってみるといいと告げて去っていった。そうこうしているうちに日が落ちてきたのでエスピオは偵察を終え家に向かった。

 家に帰る頃には既にあたりは夕焼け色に染まっていた。いい具合にお腹が空いてきたので住民のおかげで食材も調達できて助かったとエスピオは思った。少ししてシルバーも家に戻ってくる。

「エスピオ!もう戻っていたのか」
「おかえりシルバー。情報は集まったか?」
……!そ、それなんだが……

 シルバーは一瞬なにかに動揺した素振りを見せたがすぐに戻って両手に抱えていたものをテーブルに広げた。街の住民たちからもらったものだという。皆ルーシーから話を聞いていたようで、新しい住民だと歓迎され家になかった生活に必要そうなものからエスピオが森で出会った住民に渡されたようなメモまで様々なものを渡されていた。皆いい人ばかりだったとシルバーが困ったように笑うと、エスピオは袋につまったリンゴに目をやる。

「これも住民からもらったのか?」
「いや、これは自分でとってきたんだ。住民が街の外れにリンゴの果樹園があるって教えてくれてさ」
「たしかおぬしの好物だったな。腹が減っただろう、続きは食事にしながらにしよう」
……!」

 思わず反応して針の隙間から覗く耳がピンとするシルバーにエスピオが首を傾げると、慌てて散らかったテーブルを片付けはじめる。

「あ、あぁ……!調味料も分けてもらったんだ。これを使おうぜ!」
……?うむ、そうだな。ありがたく使わせていただこう」

(エスピオ……オレの好物を覚えていてくれたんだな)

 シルバーは胸の中の熱をじんわりと感じながらエスピオと食事の準備に取り掛かった。エスピオが森や草原で採集したキノコやベリーから、シルバーが住民から分けてもらった野菜やリンゴ、自給自足生活初日にしては十分すぎる食材のラインナップだ。食材を洗って包丁を手に取り野菜を切り分け、コンロに火をつける。安全に火がつくこともエスピオが確認済みだ。そうやって黙々と調理しているとあっという間に食事が完成した。テーブルの上に料理を運び、向かい合って席につく。椅子に座って料理の前で静かに手を合わせるエスピオと目が合ったシルバーは親の仕草を真似する子供のように同じ仕草をとった。

……なんかさ、こんなふうに2人で食事するのは初めてだよな」
「そうだな。じぶんは共同生活というものには慣れているが、おぬしはどうなのだ?」
「こんなの初めてで、正直戸惑ってるけど……。一緒にいてくれるのがエスピオでよかった」

 シルバーの言葉にエスピオは満足げに微笑む。そして2人は食事をしながら互いに集めた情報を共有する。この島の環境、地形、街や住民の雰囲気、店の情報まで些細なことや気づいたことを共有しあった。シルバーは街でもう一度ルーシーに会ったといい、今いるこの島の住民たちは、異世界からやってきてそのまま定住している人たちだと話した。皆この島の環境に満足し、平和に暮らしているようだ。

「結局、元の世界に帰る方法に関する情報は見つからず、か……
「明日はエスピオも街へ行ってみないか?みんなもエスピオに会いたがっていたし、新しい手掛かりが掴めるかもしれない」
「うむ。そうしよう。じぶんなら透明化して住民たちの話を密かに聞くこともできる」
「おいおい、みんなのことを疑ってるのか?本当にいい人たちだったんだぞ?そんなことしなくても、直接聞けば教えてくれるさ」
「シルバー、念には念を入れたほうがいい。彼らは自らこの島に残る選択をしたのだろう?じぶんたちがここに残るようにルーシーに命じられ、じぶんたちに情報をあたえないようにしていたらどうするのだ?」

 シルバーは反論に困った。エスピオの疑いは探偵事務所の一員だからこその警戒心なのだろう。実際にその可能性がないとは言い切れない。それにシルバーは感じていた。いつもベクターが探偵事務所を引っ張っているように、自分と2人でいる時はいつもエスピオが代わりにリードしようとしてくれていることを。シルバーはその気持ちが嬉しかった。

「わかった。エスピオのやりたいようにしてくれて構わない」

 シルバーの言葉にエスピオは「感謝する」と礼をする。こういう変に真面目なところがエスピオらしくて、ブレイズとは少し違うけれど居心地がいいとシルバーは思った。
 明日の方針も決まって食事が終わった頃、外はすっかり暗闇に包まれていた。街から少し離れたこの家は、周辺が静かで風に揺れる木々のざわめきと虫の鳴き声がよく聞こえる。

「シルバー、今日は疲れただろう。先にシャワーを浴びてくるといい」
「エスピオはいいのか?」
「じぶんは他にやることがある。おぬしの後でよい」
「わかった。ありがとう」

 シルバーは言われた通りシャワールームに向かい体の疲れを癒した。シルバーにとって過去に行くことと同じように、なにかが始まる時はいつも唐突で、今回もこともまたその中のひとつだった。どうしてこうなったのか、未だにここにくる前のことを思い出せずにいる。エスピオもまた同じだと食事の時に語った。自分たちがなぜここにいるのか、その理由を探す必要があると。課題は山積みだが、とにかく進むしかない。いつだってそうしてきたはずだとシルバーは自分に言い聞かせた。
 以前エスピオはシルバーに告げた。「自分と仲間を信じろ」と。未来への不安や恐怖に呑まれそうになった時、その言葉にシルバーは救われた。エスピオとならきっとできる。シルバーは静かに拳を握りしめた。いつだってエスピオは仲間を気にかけてくれる。その中に自分がいることをシルバーは誇りに思った。

 だからこそ、密かにエスピオに寄せた想いをシルバーは言い出せずにいた。

 シルバーがシャワールームを出ると、エスピオが荷物を整理していた。テーブルには今日集めた情報をまとめたメモや住民からもらったメモがまとめられている。職業病というやつなのか、手際の良さが窺えてシルバーは素直に感心した。
 シルバーが声をかけるとエスピオは静かに頷いて作業に区切りをつけ、シャワールームに向かった。テーブルに残されたメモを確認したシルバーはこれなら明日からすぐにでも調査にでられそうだと満足気な顔をする。改めて共に異世界に飛ばされたのがエスピオでよかったと思うのだった。

 シルバーがメモを片手に明日の計画を立てているとシャワールームからエスピオが戻ってきた。

「シルバー。ベッドルームは確認したか」
「いいや、まだだけど。なにか問題か?」
「ううむ……大したことではないのだが」

 シルバーは言われるがままにエスピオとベッドのある部屋に向かうと、エスピオが伝えようとしたことがすぐにわかった。

……ベッドが1つしかないな」
「おそらく本来は1人用に用意した家なのだろう。おぬしが住民から渡された品々がなければ、食器やコップの数も足りなかった」
「だからみんな生活品を渡してきたのか……。そういえば、住民からもらった設計図の中にベッドの作り方が書かれたものがあったな。作業スペースもあるし、オレたちでも作れるかもしれない」
「今から木材を集めて作る気か?じぶんはどこでもよい。そのベッドはおぬしが使うのだ」
「けど……ここには寝るのに良さそうなソファもないんだぜ?それじゃ疲れが取れないだろ。オレだけ贅沢はできない」
「シルバー。じぶんは修行で慣れている。気にせずとも_」
「ダメだ!だったらオレもベッドは使わない!」
「シルバー……今はじぶんに従え」
「嫌だ!」

 些細なことで気が付けば口論に発展していた。お互いに頑固で譲らない性格であることを2人は自覚していなかった。そうこうしているうちに無駄な時間だけが過ぎていく。このままでは拉致があかないと判断したエスピオは諦めたように提案を口にした。

……ならば、2人ともベッドを使うのどうだ」
「へっ……?」

 エスピオの言葉を理解できずにシルバーは思わず拍子抜けした声を出す。

「幸いにもじぶんたちの世界のものよりも大きめのものなのだ。2人寝られないこともないだろう」
「え……それって、その、えっと……
「時にじぶんはベクターやチャーミーと雑魚寝を強いられたことあるのだ。あの2人と寝るのは色々と最悪の心地だがな……修行だと思えばどうということはない」

 これも共同生活経験者ゆえの柔軟さなのか、思わぬ提案にシルバーの思考は完全に停止した。シルバーにとっては意中の相手から「同じベッドで一緒に寝よう」という提案をされているのと変わらなかった。

「え、あ、その……い、いい、のか……?」
「提案を受け入れぬというのなら、互いに床で寝ることになるだけだ」

 これがエスピオにとって最大限の譲歩と仲間としての信頼の提示であることはシルバーも理解していた。それでもシルバーは動揺を隠せず言葉につまり、しばらく沈黙が流れる。幸いにも灯りが最小限のベッドルームでは先まで赤く染まったシルバーの頬や耳がエスピオにはよく見えていなかった。

「どうした。提案を受け入れるのか、それとも否か」
「わ、わかった……!あんたに従う!それでいいだろ!?」

 エスピオに急かされて慌てて提案を受け入れるとエスピオは頷いてさっさとベッドに入った。シルバーも恐る恐るベッドに入り、互いに背を向ける形でベッドに横たわる。

「おやすみ。シルバー」
「お、おやすみ……

 静かに目を閉じるエスピオに反してシルバーは逸る胸の鼓動の高鳴りを抑えることに精一杯だった。大きめのベッドとはいえ、今にも触れてしまいそうな距離。あたりはすっかり静寂と暗闇に包まれ、エスピオの微かな息遣いと共有したシーツの擦れる音だけが聞こえる。シルバーは心臓の音がエスピオに聞こえていないように祈ることしかできなかった。これじゃあ満足に寝ることもできない。やはりベッドはもう1つ必要だとシルバーは思うのだった。

【エピソード2へ続く】