山茶花
2026-03-17 14:06:05
4805文字
Public [シルデュ]バーテンパロディ
 

アペタイザー【205BAR004】

それからの話。/おまけ(バーテン⚔×若手警察官♠パロ番外掌編詰め合わせ)/総計4500字程度

*バーテンダーシルバー×若手警察官デュースのパロディ世界、通称酒場シリーズの完結後番外編です。これまでのお話を読んでないと何も意味が分かりません。
*おまけの短編集です。短い話が3話。

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【おまけ第1話:同棲初日の朝】

「シルバーさん、おはようございます。起きてくださいっ」
「ん……
 目が覚めると、デュースが家にいた。……いた、じゃないな。いる。今日からもう、いるんだ。毎日いる。
 毎日綺麗になっていくデュースが、毎日俺の家にいる。喜びを噛み締めながら身体を起こすと、デュースは俺の髪を撫でつけた。
「ほら、男前が台無しですよ。顔洗ってしゃんとしてきてください」
「ああ……
 のそのそと、洗面室へ向かう。実は今日は、休日だ。俺の部屋へ越してくることになったデュースの引っ越し作業のために、2日程度の休みをもらっている。俺の部屋に住むのは、ふたりで決めたことだ。デュースの部屋は2人暮らしには狭く、また、どうせ帰りは店に寄るのだからとそのままバーの上階に上がって家に帰れる俺の部屋にふたりで住むこととなり、マレウス様も快諾してくださった。
 それで、引っ越し作業を終えた翌朝が今だ。起き抜けの瞬間からデュースが『いる』ということ自体に感動しているが、あまり言葉にしすぎると呆れられてしまいそうなのでとりあえず表には出さずしまっておく。
 イスや食器を増やしたダイニングテーブルにつくと、デュースは苦笑いをした。
「今日はお休みなんだし、ゆっくり眠っていても良かったんですよ?」
……どうしても、一緒に朝食が食べたかった。これからお前のいる暮らしが始まるのを、早く実感したくて」
 そうですか、とデュースは笑う。じっと朝食を食べるデュースを見つめていると、見てないで食べてくださいと怒られた。
 それから、デュースは荷ほどきの続きをするようだったので、手伝うと言いつつも、段ボールの前へ座るデュースに後ろから抱き着いた。
「どうしたんですか、甘えん坊のシルバーさーん」
「デュースがいる……
「ふはっ。まだ感動してたのか。昨日から何回言うんですか、それ」
 デュースは笑って、それから俺の額を人差し指で小突いた。
「もうちょっとだけ荷解きするから、まだ我慢してください。お預け、です」
……
 少し前まで子犬だったくせに、小生意気な。と思いつつ、デュースに主導権を握らせてみるのも悪くないな、と感じた。
「あっちで大人しく待っててください。終わったらすぐシルバーさんとこ行くので」
 できますよね、僕を見てるのも好きでしょ、とデュースは言う。まったく。……そう言われては、折れるしかないな。
「分かった。だが、真面目に手伝う。……早く終わらせた方が、たくさん一緒にいられるからな」
「はは、ありがとうございます」
 そうして俺はデュースの荷解きを手伝った。俺たちのなんでもない日が始まった朝のことだった。

【おまけ第2話:お客さま方が俺の先生】
 誰かがシャカシャカとシェイカーを鳴らす音が響く中、カウンターにはふたりの常連客が座る。
 このふたりはデュースよりも少し前、そうだな、半年ほど前に常連になったふたりだ。
 ぱっと見では女性ふたりのように見えるが、片方が元男性だと知ったときには俺も驚いたものだ。
 あのときはまだ未熟で、さすがに驚きを顔に出してしまったが。
「そんなに驚いた顔をするものじゃないわよ」と言われて、それもそうだと納得し、そして、詫びの後、俺から教えを請うたのだ。
『実は好きな人がいて、その人のために大人の男になりたい。良ければ、俺に似合う振る舞いなどを教えてほしい』と。
 ふたりは『推しバーテンをメロい男に育てられる機会!』と喜んで俺の申し出を受け入れてくれた。
 だからこのふたりは、俺に想う相手がいることを元々知って、それでいて他の客には隠してくれていたのだ。
「バーテンくん、恋人さんはまだ来てないみたいね。注文していい?」
「ええ、どうぞ。何か注文したければいつでも、遠慮なさることはありませんよ」
 どうしようかなと迷う常連客ふたりに、俺は告げる。
「『アレキサンダー』なんてどうです? 甘いチョコレートのカクテルですよ」
「じゃあそれ!」
「アタシも!」
「ええ、すぐにご用意いたしますね」
 俺もシェイカーを振り、ふたり分のアレキサンダーを作り上げる。どうぞ、とそれぞれの前に差し出すと、しみじみと言われた。
「良い男に育ったよね~……
「ね。育てた甲斐があったよね! あのときとかまだ可愛かったのにね、天然ってカンジで!」
「あのとき、ですか?」
「そう! オーナーさんがいらっしゃってる時の! チェリーのやつ!」
「ああ……
 その言葉で、俺は思い当たる。そういえば、このふたりの提案で、チェリーを食べさせる練習をしたことがあったな。
『フルーツとか食べさせるの色っぽいよ!』と言われ、そういうものなのかとその辺にいたセベクの口に放り込んだら、「こういうことじゃないだろう貴様」と普通にモグモグ咀嚼して飲み込んだ後に言われた。
 そんな俺たちを見ていたマレウス様が、『シルバー。食わせるというのは、こうやるのだ。見ていろ』と、セベクの口にチェリーを乗せ、『さあ口を開けてみろ』と、とん、とセベクの口の中にチェリーを放り込み。
 その直後『良く出来たな、良い子だ』と褒めてセベクを骨抜きにしているのを見て、なるほどあれが大人の魅力、と頷いたものだ。
「確かに、あの経験は役に立ちました。おふたりとも、これからもこっそりご指導頂けると助かります」
 見つかると妬かれてしまいますので、と人差し指を口元に添え、ウィンクすると、「それもアタシたちの教えたやつでしょ、ウィンク上手くなったわね」と笑われてしまった。これはこれは、敵いませんねと俺は苦笑する。
 ……本当に、俺は良いお客様を持った。お客様はみな、良い先生たちだ。
 面倒な客やマナーのなっていない客はマレウス様かセベクがすぐに退店させるか出禁にさせるため、ある意味で客層が保たれているのかもしれないな。
 談笑していると、やがてカランとドアベルの音が鳴り、営業中のバーにまたひとりの客が訪れる。
 前ふたりに一礼をして失礼し、玄関先まで出迎えに行くと、そこには身なりの上品な妙齢の女性が立っていた。……今宵もいらっしゃったか。俺は内心、少し気合を入れ直す。この方の接客は、特に手を抜けない。
「こんばんは、マダム。本日もお会いできて嬉しいです」
「ええ、こんばんは。ご挨拶がスマートになったわね、坊や。『こんばんは』で済ませていた頃が昨日のようだわ」
「はは、これはまた手厳しい。マダムもご機嫌麗しそうで何よりです」
 常連のマダムを席に通し、俺は注文などを伺う。
「そういえば、リリアから聞いたわよ。あの子と一緒に住み始めたんですってね、おめでとう」
 またプリンセス・メアリーで乾杯してあげましょうか? とマダムは笑う。
 そうか、親父殿が先にお伝えしていたのか。
 ……このマダムは、開店当時からの常連客でもある、のだが。同時に、俺の師匠的な人でもあった。
 元々は親父殿がよく接客していた方だったのだが、俺が大人の男になりたいと告げると、親父殿が「お嬢ちゃん、ひとつ頼んでも良いか?」と、この方に俺の指導を頼んでくださったのだ。そのとき親父殿も、『お嬢ちゃん扱いされて喜ぶほど子どもに見えたかしら?』と、やり込められて「こりゃ敵わんわい」と呟いていたのをよく覚えている。
 そういうわけで開店したばかりの頃、接客にも不慣れで笑顔も硬かった俺にバーテンダーとしてのイロハを叩きこんでくれたのはこの方だ。
『接客はあくまでもスマートで優雅に、常に相手を観察して、先回りを。隙を見せたら危ないわよ、貴方みたいな人は』
『自分の容姿が武器になることを少しは自覚なさい。それ、貴方の剣になるのよ。大切な人を守るための』
『笑顔は盾よ。相手にどこまで踏み込ませていいものかを、笑顔の下で測りなさい。常に頭を回すことね』
『師匠? そんな堅苦しい言葉でレディを呼ぶものではないわ。そうね、マダムとでも呼んではいかが? きっと似合うわよ』
 どれも、手厳しい言葉であったが。今の俺を構成するのに役立つ助言だったことは間違いない。
 だが……この方自体は、どこでそんなことを覚えたのだろう? 注文を受けたカクテルをお出ししつつ、俺は尋ねる。
「ところで、マダム。貴女は結局、どのような方なのですか? ……そろそろ合格点を頂いても良いのでは?」
「あら。こういう場所にいる人間には、秘密がある方がそそるのではなかったかしら?」
……分かりました、参りました。俺の負けです、マダム」
 潔い男は好きよ、とマダムは笑ってみせる。それからひとり言のように呟いた。
「懐かしいわ。……バーの仕事が終わっても、結局酒場が好きなのよ」
 久々に貴方みたいな子を育てられて楽しかったわ、とマダムはぼやく。
「同業でいらっしゃったんですね。大先輩に教えを乞えていたこと、有難く受け止めます」
「良して頂戴。私はただの常連客よ。さ、そろそろ彼が来る頃ではなくて? 行っていいわよ、お弟子さん」
 本当に敵わないな、と俺は一礼をしてマダムの元から去る。
 そうして今日も素知らぬ顔で、修行中にも関わらず『完成した男』のフリをして。ひとり、お巡りさんを待つのだった。
 
【第3話:ぼく、くらげ】
 ぼく、くらげ。少し前まで、『スイゾクカン』にいて、今は『でゅーす』のお家に連れてかれた。
 『でゅーす』のお家、『スイゾクカン』より、ヒトがいなくて、ちいさかった。
 でも、それから少ししたら、『でゅーす』は少しおおきな家に引っ越した。
 家を次々引っ越すってことは、『でゅーす』はヒトじゃなくて、ヤドカリなのかもしれないぞ。
 少しおおきな家には『しるばー』とかいうあたらしいサカナがいた。
 ヒトに似てるから、最初はヒトかと思ったけど、『でゅーす』は『しるばー』のことを、『あの人、お前の仲間かもしれないぞ』ってぼくに言った。つまり、『しるばー』はぼくとおなじ、くらげらしい。なら、仲良くしてやろうかなと思った。
 ぼくのすみかは、この家のおおきいふかふかのイスのはじっこだ。いつもここにいる。
 でも、たまにうしろを向かせられたり、別のところに出かけさせられたりする。
 それは『しるばー』と『でゅーす』が、くちをくっつけたり、触手をからめあったりしてるときだ。
 ヤドカリとクラゲはコイビトになれるらしい。ぼくもコイビト、欲しいな。
 ぼくのコイビトもつれてきてと念じていたら、『でゅーす』が言った。
『シルバーさん、今度のお休み、またあの水族館に行きませんか?』
『かまわないが、何か見たいものでもあるのか?』
『見たいものっていうか……。このクラゲにも、友達とか欲しいかなって。もう1匹連れ帰りたくなりました!』
『ふっ、そうか。確かに、1匹じゃ淋しいかもしれないな。それじゃ今度の休日、連れてくるとしようか』
『はい!』
 どうやら、『しるばー』と『でゅーす』は、ぼくの『コイビト』になるやつを連れてきてくれるらしい。
 どんな『コイビト』が来るのか、楽しみだ。

……とか思ってるかもしれないので!! こいつの相方、探してやりましょう!!」
「分かった、分かった。どんな奴を連れてきてやるか、考えておいてくれ」
 クラゲのぬいぐるみがそんなことを思っていると考えるなんて、デュースはやはり見ていて飽きないな、と俺は思うのだった。

*おしまい