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ニイナ
2026-03-16 22:56:16
3716文字
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何もかも、あなたに塗り替えられて染まる
右腕ロドフ。
捏造過多で、ロシナンテ好きにはおすすめしない、ローが炎を忌避していたらの話。
若様がローの中心ですべて、になっていく過程の一部です。
炎が苦手だった。それは恐怖にも繋がっているもので、燃え盛る炎で皮膚や脂肪が燃える臭いがどうしようもなく蘇るのだ。火が街を舐め、病院や教会が炎に呑まれていくのが、脳裏にこびり付いている。そのせいで、ローは炎が苦手だった。というよりも忌避しているといっても良かった。けれどもそれを口にしたことはなく、胸に閉じ込めていた。
ドンキホーテ・ドフラミンゴに認められてドンキホーテ海賊団に入ってから、戦闘というものはつきものだった。海賊というだけで追われることが当たり前で、その強さは賞金稼ぎにとっても格好の餌でもあった。ただそんな追手も、船長であるドフラミンゴを筆頭にして圧倒的な強さで蹴散らされていた。
火が上がり、炎が、燃える。街は焼かれて火の海になっていく。その様を、ローは固く口を閉ざして目を逸らしていた。ごうごうと吹き上げる炎と煙が立ちこめるそこは、誰から見ても地獄に等しかった。距離を取っていても燃える街の熱は頬に届き、目の前がぐらぐらと揺れる。蘇る真新しい惨い記憶は、ローの心を容易く抉っていく。はっ、と息が乱れて視界が暗くなるのに足元がふらつき、身体が傾いたのを、やわらかいぬくもりに支えられた。
「ロー?」
「
……
なんでも、ない」
ドフラミンゴの手がローの背中を受け止め、穏やかな声が落ちて来る。気遣う色をしたドフラミンゴの声にゆるく首を振り、ローは炎に包まれる街から目を逸らし続けた。ドンキホーテ海賊団にケンカを売ったところに巻き添えになった街には仕方のない犠牲だとわかっていても、赤々と染まるのを見ると喉を吐き気が押し出そうとする。
「そうか」
「
……
ッ」
短くそれだけをこぼしたドフラミンゴが、膝を折って身体を屈め、ローの視界をそっと手のひらで閉ざした。ローの顔ほどもありそうな大きな手は燃える熱をやわらげ、瞼の裏に浮かぶ赤さを遠ざけた。炎が苦手だと、ドフラミンゴにも言ってはいない。それは弱みで、枷にもなりそうなことだったからだ。けれどもそれを、ドフラミンゴはいとも容易く見抜いてしまう。ローの態度がわかりやすい、と言われればそれまでだろう。たとえそうだとしても、何も言わずに遮ることができるのは、ドフラミンゴだけのような気がした。
ローの頬が熱いのだから、ドフラミンゴの手も同じく熱いはずだというのに、ドフラミンゴが気にした様子はなく、無感情に焼き尽くされる街並みを見つめている。炎をぼんやりと映すサングラスの向こう側は、下から見ると存外あかるく見えた。
感情の削ぎ落とされていたドフラミンゴの顔が、不意に緩んだ。満足そうに細められる眸はどこか甘く、恍惚すら感じた。やわらかに弧を描く口元も色に満ちていて、ローはぞわり、と肌が粟立った。それは火に沈む街を笑いながら見つめるドフラミンゴの残酷さを恐れたのではなく、その笑みのあまりの美しさに胸を貫かれたからだった。色香をこぼして甘く笑むドフラミンゴの表情から、目が離せなくなる。こんなにも艶やかに笑みを浮かべるドフラミンゴに、じわりと欲が湧いて気が昂ぶった。
この男がこうして笑うなら、その瞬間をいつだって見たいとローは思ってしまった。そうして、ローの記憶が緩やかに書き換えられていく。炎への忌避が、ドフラミンゴの甘やかな笑みを想起させるのだ。炎の近くで、悠然と圧倒的な美しさでいるドフラミンゴが、脳裏に焼き付く。燃え落ちる街の一片でさえ、この男を飾る要素のようで、ローは呆然とドフラミンゴに見惚れるしかなかった。恐れよりも耽美に塗り潰される感覚に目眩がして、ローは思わずドフラミンゴの手を掴んでいた。
けれども塗り替えられた感情も、コラソンによって引き離せれて強制的にもとに戻された。火を放たれた病院からは薬品のにおいと、皮膚と脂肪が焼ける臭いがした。崩壊する壁や窓や柱が、人を何とも思わずに埋没させる。何かが燃えるということはこういうことなのだとまざまざと見せつられ、ローの心はまた砕かれていた。このままいけばコラソンに理不尽に殺されるかも知れない、という恐怖が芽生え、ローの精神はどこか歪になってしまった。
コラソンがローに危害を加えはしない、と判断できるようになっても、恐怖というのはすぐに打ち消されるものではなかった。表面上はそうと見えなくとも、その下ではまだ怯えと恐れが隠れていた。ローに同情して泣いてくれたのだとしても、コラソンの激情がローに降りかからないとは限らない。コラソンが意図しない不運にローが巻き込まれないとも断言はできなかった。だからこそ、ローの心の片隅には、拭い去れない恐怖があったのだ。
そうして、コラソンがドフラミンゴと対峙した時、ローはようやく目の前が晴れて救われた気がした。あのあたたかくやさしい男のもとへ、戻れる期待が、ローをひたすら動かしていた。むやみやたらと宝箱を叩いて自分の存在を示して認識させ、ローは命からがらドフラミンゴの傍まで帰ることができた。ドフラミンゴに名前を呼ばれ、その腕に抱えられ、ローは心の底から安堵した。ドフラミンゴのために死ぬ教育が必要なのだと言われて、まだ自分にその価値があるのかと胸が震えた。コラソンに引き離されていた間のことを不問にしてローを抱くドフラミンゴに、高揚して息が詰まった。
「ロー」
「っ、ドフラミンゴ」
「
…………
おかえり、俺の右腕」
やわらかく慈しみ深く、ドフラミンゴがローへと言葉を投げる。ドフラミンゴの右腕であることを、許されるのだという悦びは、歓喜でもあった。もう一度、ドフラミンゴの右腕として隣に立てる、という事実はローの胸を幸福で満たしていく。この時から、ローのドフラミンゴへの傾倒は目も当てられないほどになっていた。
バチ、と火の粉が爆ぜる。頬を撫でる熱い空気も、ローは今では甘受することができていた。今回は妹であるベビー5に付け込んだ屑への報復で、街が焼かれている。気の毒だという気持ちもなく、ただ向かう相手を間違えたな、と思うほかない。炎に抱いていた恐れはもう欠片も見せず、どこかに忘れてきてしまっているらしかった。ローは街に近い海岸で、燃え落ちる街をドフラミンゴとともに眺めていた。ベビー5を蔑ろにしたとあって、街ひとつが吹き飛んでいるようなものだったがこれもいつものことである。ファミリーに楯突いたやつは容赦なく潰す、というのがドフラミンゴの信条だからだ。
バチ、バチと炎の名残が宙をたゆたい、すぅっと消えていく。肌を撫でる熱を込めた空気や、炎を映す視界を遮る手は、もうない。いつしかそんなものは必要なくなり、そのかわりにローはドフラミンゴの手を取りたくなった。街の残骸を見つめるドフラミンゴの顔には、やはり満足げな笑みがのせられていた。うっとりと細くなる眸も、弧を描く口元も、やわらかく蕩けるほどだった。そんな甘く恍惚な笑みは、ローの劣情を正しく刺激する。空色の眸を囲う睫毛に舌を這わせて、ほどける唇に喰らいつきたくなった。
「なァ、満足したか?」
「フフフッ、一応はな」
「それなら、今度はおれの相手だろ」
「は?」
熱を抑え込んでドフラミンゴに声をかければ、こちらに目も向けず返され、ローは眉を寄せてドフラミンゴの腕を引いた。外れていた視線がローへと向けられ、ドフラミンゴが目を丸める。何を言っているのか、と怪訝そうな顔をするドフラミンゴの太腿に熱を帯びる股間を押し付ければ、ドフラミンゴがかるく目を見開いた。
「アンタを見てたら、勃った」
「フフ、フッフッフッ!とんだ悪癖持ちになったもんだなァ、ロー」
「アンタだから仕方ねェよ」
ごく真面目に事実を言い放てば、ぱっと破顔して笑い声を転がしたドフラミンゴがからかいを含んで返してくる。それにも表情を特に変えずにローは答え、ドフラミンゴが不服そうに眉を寄せた。
「人のせいにするな」
「べつにアンタのせいにはしてねェだろ。アンタだから、おかしくなるだけだ」
ただそれだけだ、と言い募ってドフラミンゴのシャツを掴んで距離を詰める。ローの引く力に抵抗せずにいるところが、ドフラミンゴの甘さでやさしさだと、ローは誰よりも理解していた。腰を曲げてローとの近さを許したドフラミンゴが、ちいさく笑みをこぼす。
「そりゃあ、仕方ねェ」
「だから、黙って抱かれろ」
「好きにしろ」
やわらかくローのことを受け入れたドフラミンゴにいっそう熱が上がり、ローはよりドフラミンゴの太腿へと欲を擦り付ける。どんどん剥がれていく余裕も気にすることなくドフラミンゴを強請れば、ドフラミンゴがおかしそうに顔を緩めてローの額にキスを落とした。瞬間、理性が振り切れた感覚がして、ローは能力を使ってドフラミンゴの部屋へと飛んだ。
ベッドに投げられるように落ちて、ドフラミンゴを組み敷き、その身体へ乗り上げる。獣のように荒くなる呼吸を感じつつ、余裕綽々で楽しげなドフラミンゴへと口付けた。あの街の処理は、他の幹部が良いようにするだろう。そう決め付けてローは溺れるように唇を貪り、舌を絡めた。
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